第23話ボクっ娘少女とお風呂に入りました
ユーアは着替えとタオルを抱えて後をついてくる。
チラ
「~~~~~っ」
『う~ん』
なんか表情が固いけど緊張してる?
「あっ」
そういえば、私はこの防具以外の装備を持っていない。
ましてやゲーム内に下着なんかなかったし。
そうこうしているうちに脱衣所に着いた。
まぁ家の中だからすぐなんだけど。
『いきなりスッポンポンにならないよね?』
脱ぐ前に、恐る恐る胸元を捲ってみる。
『ふぅ、良かったぁ~』
いきなり素っ裸にはならないようだ。
私は安心して前ボタンを外し上着を脱ぐ。
上着の下にはアバターのキャミソールを着ていた。
女性アバターは、肩ひもタイプとタンクトップタイプ
そして丈の長さとカラーを選べた。
私はタンクトップタイプの丈の長さはおへそまで。
カラーはブラックにしていた。
下は同じ色でローレグタイプのぴっちりしたものだ。
安心して全裸になって脱いだ衣装は脱衣かごに入れる。
「~~~~~っ」
「?」
ユーアはなんか私を見てぼ~っとしている。
どうしたんだろう? その服一人で脱げないのかな?
私はしゃがみ込んで、ユーアの貫頭衣の腰ひもを解く。
そして頭から「スポン」と脱がしてこれもかごに入れる。
「きゃっ!」
ユーアは突然でびっくりしたのか可愛らしい悲鳴を上げる。
「脱がないとお風呂入れないよ? どうしたのボーっとして」
そんなユーアに私は声を掛ける。
「そのぉ、スミカお姉ちゃんがきれいなんだもん、ボクなんか……」
「う~ん、…………」
まぁ、確かにユーアは全身汚れている。
髪も体も着ていた衣服も埃まみれで、あちこちに土も跳ねている。
採取で山の中にいたのだから当然だろう。
因みに私は防具の特殊効果で汚れることがない。いつでも
「大丈夫。ユーアもきれいになるから。いやお姉ちゃんがきれいにしてあげるから、だからお風呂できれいにしよう?」
「は、はいっ!」
ユーアと二人裸になってお風呂場に入る。
中はそれ程広くはない。
何人もで入る大きさにはなっていない。
浴槽も洗い場もギリギリ大人二人分だ。
それでも私とユーアだけなら余裕がある大きさだ。
「ユーア、ここに座ってくれる? 軽く濡らすから」
「は、はいっ!」
オドオドしながらも、チョコンと椅子に座るユーア。
その小さな背中にシャワーを出して掛ける。
シャ―
「きゃっ!」
また可愛い声をあげる。
「あ、ごめんね。でもユーアもこれから一人で入る事もあるんだから、私を見て使い方覚えていってね?」
「は、はいっ!!」
次に備え付けのシャンプーとボディーソープを指してユーアに説明する。
「こっちはシャンプーで頭を洗うやつ、こっちは体を洗うボディーソープ。まずは頭を洗ってあげるから、目に入らないように気を付けてね」
「は、はいっ!」
シャワーを出して今度はユーアの頭を濡らしていく。
「きゃっ!」
ユーアはまたまた可愛い声をあげる。
お風呂にきてから「はいっ!」と「きゃっ!」しか言ってない。
ここにきて語彙力が残念な事になっている。
まぁ、そんなユーアも可愛いからいいけどね。
私はシャンプーを手に取って灰色の髪の毛を洗っていく。
ゴシゴシ
すぐに泡が立たなくなっていく。
ゴシゴシ
洗い流してもう一度洗っていく。
ゴシゴシ ゴシゴシ――――
「おおっ――!」
三度目にしてやっときれいになった。
ユーアの髪は予想以上に汚れていた。
会った当初は汚れを落としてきれいになったら「白い髪になるかなぁ?」
なんて拾ってきた子犬みたいに思っていたけど違ったようだ。
汚れの落ちたユーアの髪は灰色ではなく、どっちかというと銀色に近い髪の色だった。ツヤツヤになったからか光沢を浴びているように見える。
『へ~、きれいな色だね。まるでプラチナみたいだね』
そんなツヤツヤになったユーアの髪を撫でる。
『う~ん、でもこんな髪の色は街中でも見なかったなぁ。珍しいの?』
ユーアの髪を眺めながら、ふとそんな事を考える。
この街ではこんなきれいな髪色の人はいなかったなぁ、なんて。
―
次はユーアの全身をスポンジにボディーソープを付けて磨いていく。
「おおっ!」
磨いている泡がみるみる汚れていく。
肌に傷をつけないように優しく丁寧に洗っていく。
『う~、やっぱりこう見ると、全体的に体は小さいし細いよね――――』
それは健康的な細身ではなく、単純に栄養が足りていない細さだ。
ただ日焼けしずらい肌なのか色は白い。
「よし、終わったよっ!」
蕩けるような表情で固まったままのユーアを撫でる。
洗い出した時からずっと無言のままだったし。
「終わったよ?」
「は、はいっ!」
「それじゃ湯舟にもお湯が張ってあるから、ユーア先に入ってて」
「は、はいっ!」
ユーアは恐々と片足からゆっくり入っていく。
「肩まできちんと浸かってね、疲れが取れるから」
私も頭と体を洗っていく。
『それにしても、本当に不思議だよね? まぁ、便利だからいいんだけど』
洗いながら、周囲を見渡し一人感心する。
その色々とおかしな状況に。
ユーアを洗うのに結構の量を使った洗剤が、全く目減りしていない。
もしかして無限に使えたりするんだろうか?
湯船に張ったお湯も、実は冷めなかったりするとか?
『まぁ、そもそも水にしても電気にしてもどこから来てるのか調べようもないんだから、これ以上は悩んでも仕方ないよね』
なので考えるのを止めることにした。
もうこういうものだなって納得する方が心にも優しいし。
逆に出所がわかった方が、寧ろおっかないし。
「じ~~~~」
「?」
私がそんなことを考えて体を洗っていると、
蕩ける表情から覚めたユーアが私を見ていた。
「大丈夫? お湯は熱くない?」
「大丈夫! ちょうどいい・きもちいい・あったかいですっ!」
「そ、そう、良かったね」
なんか理由はわからないけど、片言になっていた。
そのあとポツリと、
「スミカお姉ちゃんは、やっぱりきれいです……」
「ああ、私の服はそういう機能もあるからね」
「違うのっ! そうじゃなくて。スミカお姉ちゃんのお顔も、白くて細い身体も、長くて黒い髪も、みんなきれいだなってっ!」
「そ、そう、普通じゃない?」
ちょっとだけユーアの剣幕に押される。
でも今のこの体は、ゲーム内アバターで作成したもの。
ある程度は現実に似せては作ってあるが元々は普通の日本人。
それにそんな評価をしてくれた人もいなかった。
これは人付き合いが少なかった弊害だろう。
きっとユーアは単純に、年上のお姉さんに憧れてそんな事を言ったのだろう。
「そう言ったらユーアもシルバーの髪だって、真っ白な白い肌だって、大きな緑の目だって充分きれいで魅力的だよ?」
そう、
「え、ボ、ボクなんか全然きれいじゃないですっ!」
「私がきれいって言ってるんだから、もうちょっと自信持ってもいいよ」
「それに……」
「それに?」
「お胸も小さくて、きれいですっ!」
「~~~~~~っ!!」
私はスっと立ち上がって足元を見てみる。
あれ? おかしいな、つま先までよく見える。
なんの障害もなくよく見える。絶景かな。
現実の私は胸部が邪魔でよく見えなかったよね!?
お腹じゃないよっ! そこぉっ!
『じ~~~~』
私はそっと、ユーアと見比べてみる。
「??」
大丈夫。
まだ姉の威厳を失うことにはなっていない。
ユーアの方が全然ツルペタだ。
『よしっ!』
見えないところで、グッと拳を握る。
でも――――
『そもそも私って成長するの? これアバターだよ? もしかしたらこのまま何年後かにはユーアに追い越される? そんなオチがあるの?』
私は初めて異世界チートを呪った。
そしてまた自分に嘘をついてしまった。
ユーアと湯舟に浸かりながら私は切なくなった。
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