第32話大豆売り幼女を応援する事に決めました




「ユーアとメルウちゃん、スミカお姉ちゃんに任せなさい」



 私はヒシと座り込んで抱き合う二人にそう告げた。



「スミカお姉ちゃんっ!!」

「スミカお姉さん…………」


 ユーアは期待の眼差しで、メルウは不安そうな眼で私を見上げてくる。



「っと言っても、私ひとりじゃ無理だから、二人にも手伝ってもらうよ」


「はいっ!」

「スミカお姉さん……」


「それなんだけど、今だとタイミングが悪いのと、準備があるから、今日からじゃなくて明日の午前中から始めよう。それでいい?」


「はい、わかりました!」

「……でも、どうするの?」


「それは、明日になってからのお楽しみって事で。別に二人にさせる訳じゃないから、心配しないでいいよ」


 内心で、ニヤリっと笑みを浮かべる。


「それと、メルウは今日帰ったら、お父さんにこれを使って」


 アイテムボックスから、『リカバリーポーション【S】』を出してメルウに渡す。



「スミカお姉さん、これって……」


「ケガを治す薬なんだけど、メルウのお父さんに、どれくらい効果あるかわからないから、一応、普通のお薬? も買っていって」



 この世界の住人には試して問題はなかった。

 けど、メルウのお父さんの状態がわからないから念のためにね。



「なんで、お姉さんたちは、今日会ったばかりなのに、そこまでしてくれるの?」


 メルウは、リカバリーポーションの瓶を両手で握りしめながら、私の目を見てそう聞いてきた。


「簡単なことだよ」

「簡単なことなのっ?」


 メルウは小首を傾げる。


「そう、もの凄く簡単な理由だよ」


 私は、ユーアのほわほわした頭を撫でながら、


「ユーアがメルウを助けたいと私にお願いしてきた。それを私が助けたいと思った。ね、全然簡単なことでしょう?」


 そう、私はユーアを守ると決めている。

 ユーアの想いも守ると決めている。


「それに――――」

「そ、それに、なんですの?」


「私が食べたいからだよっ! これから定期的に購入したいのに、無くなったら困るからっ! 閉店されたら余計困るからっ!」


 胸の前で拳を握り、心からそう告げた。



「……ふ、ふふふっ」

「スミカお姉ちゃん……」


 えっ私、間違ったこと言ってないよね?

 無くなったら困るのは本当だし。



 それを聞いた、メルウは目尻に残る涙を拭いながら、


「スミカお姉さん、ユーアお姉さん、よろしくお願いしますの」



 メルウは深々と頭を下げてそう言った。



「ユーアと一緒に、明日ここにくるから、お店の開店準備は、それまでに済ませておいて。それじゃ」

「メルウちゃん、また明日ねっ!」


「はい、わかったの。明日待っているの」




―――――――――――――――――――




 メルウと別れて、隣に歩いているユーアを見ながら考える。



 ……ユーアとメルウには、安心させる為にああ言ったけど、

正直、後一押し、何かが物足りない。



 メルウはもちろん、ユーアも手伝ってくれる。

 でも、それだけじゃインパクトがまだ足りない……



 そう何か『インパクト』が――――



 あ、そうだっ!!



 ポンっと私は手を叩く。



「スミカお姉ちゃん、どうしたの?」


 そんな私を不思議に思ったのか、ユーアが覗き込んで私を見てきた。


「んん、何でもないよ。ユーア、明日は頑張ろうねっ!」

「はい、スミカお姉ちゃん!ボクも、メルウちゃんの為に頑張ります!」


 そして「ボクもお店手伝った事もあるんだよ!」

 っとグット握りこぶしを作って、そんな自信ある返事が返ってきた。



 そんなユーアが微笑ましくて、わしゃわしゃと頭を撫でてしまう。


「ちょっと、スミカお姉ちゃんクシャクシャになっちゃうよぉっ!」

「あ、ごめんごめん。何かドヤ顔のユーアが可愛かったから、ついね」


 アイテムボックスより、ブラシを出してユーアの髪を梳きながら謝る。


「そういえば、メルウのお店に行ってて、私たちお昼食べてないね。あ、でもギルドに行かなくちゃならないのか」


 メルウの件で色々考えてたら忘れてた。


「ユーア、ごめん、ギルドに顔出そう。混んでなければいいんだけど」

「そうですね、わかりました」



 私とユーアは冒険者ギルドに向かうことにした。



※※※※



「ちょっと、遅かったかな?」



 冒険者ギルドに着いた私は、どの受付も列ができているのを見てそう言う。



「そうみたいですね、でも少し待てば大丈夫だよ?」

「ん――でもユーアもお腹空いたでしょう? 先に食べちゃおうよ。あそこのテーブルも空いてるみたいだし」



 ユーアの手を引いて、奥のテーブルに座る。



 ユーアも座るのを確認して、アイテムボックスから屋台で買った、串焼きや、野菜スープなどを広げていく。それらはまだ、湯気が出ていて温かいままだ。それと冷たい果実水もだしておく。


 どういう原理かは知らないけれど、これはこれで非常に便利だ。


 この世界のマジックバックや、ユーアの持っているポーチはどうかわからないけど、私のアイテムボックスは収納すると時間経過が止まる。



「ユーア、おしぼりもあるから、先に手を拭いてから食べてね」

「はい、ありがとうスミカお姉ちゃん」


 ユーアは丁寧に指の先から間まで拭って、串焼きを頬張る。


「おいしいねっ!」

「そうだね、おいしいね」


 うん、確かにユーアの言う通りに美味しい。


 何の肉かわからないけど、歯ごたえがあるのに、一口噛み切るとホロっとほどけて中から肉汁が溢れてくる。脂っこさで舌を飽きさせないためか、大葉が巻かれているのもある。異世界肉おいしい。


「ユーア、お肉もいいけどスープもあるんだからね」


 串焼きの感想を考えてたら、ユーアが串焼きを両手に持って食べていた。


「この、野菜のスープも暖かくておいしいです」

「串焼きも、スープも、パンもたくさんあるから言ってね」


 ニコニコしながら、ちょこちょこと小さい口で頬張るユーアを眺めて言った。



 うんっ!?



 気が付くと、私たちが座っているテーブルの周りに人だかりができていた。



 私は一応身構えながら、一番前にいる40過ぎ位の眼帯の冒険者に声を掛ける。



「何? なにか用?」


「突然すまんな。俺はランクDの『ギョウソ』っていうんだ。一応、ここの冒険者たちを纏めている」


 声を掛けた冒険者は、そう名乗った後、


「いや、昨日の事を聞いてな。顔が見たかったのと、礼を言いたくてな」

「昨日?」


 ん? 何かあったっけ?



 私は思い出そうと、自然に首を傾げる。



「おいおい、あんなことがあったのに忘れてんのか?」


 それを見て、ギョウソが呆れたように私の顔を見る。


「うん?」

「俺たちの為に、よそのランクC冒険者をノシてくれたそうじゃないか」

「ああっ!」


 ポンっと手を叩き思い出す。


「マジで、忘れてたんだな……ある意味大物だな」


「ああ、あれはね、ここの冒険者の事もそうだけど、ユーアを馬鹿にしたのが一番の理由だから」

「わかっている。それでも、そのユーアもここの冒険者だ。感謝するのは当たり前だろう」


「それと――――」


 ギョウソは後ろを振り返って、


「――昨日は依頼で立ち会えなかった、他の冒険者も礼を言いたいらしくて連れてきた」



 そう言うと、ギョウソの脇にぞろぞろと、冒険者たちが出てくる。



「昨日いた奴に話は聞いた。凄かったらしいな、素手で圧倒したんだろう!」

「そうなんだよ、この細腕で、掴んだ槍ごと持ち上げて叩きつけたんだよ!」

「いや、俺は、上段から振り下ろされた大剣を、殴って軌道を変えたってきいたぜ?」

「いやいや、飛んできたナイフを掴んで投げ返したらしいよ?」


「おいおい、お前ら落ち着けって、嬢ちゃんも、ユーアもびっくりしてんだろう!」


 騒ぎ出す冒険者たちを、ギョウソは諫めてくれる。


「あ、ユーアちゃん、ゴメンね、怖かったよね?」

「おい、お前の顔見たら、余計ユーアちゃんが怖がるだろうっ!」

「ユーアちゃん、おじちゃんの家に来るかい? お肉あげるよ」

「スミカさんとはどうして知り合ったの?」



 と、今度はユーアに矛先が向いてしまった。

 おい、何か一人危ない奴いただろうっ!

 肉で釣ろうとしたやつっ!


 そんなユーアは、大人たちに囲まれてテンパってるかと思いきや、



「うんとね、ボクね、スミカお姉ちゃんとね――」

「そうです――――よ?」

「恥ずかしいから、聞かないでくださいっ――」

「明日なの」

「――――うん、ありがとう!おじちゃんっ! お願いねっ!」



 ニコニコと串焼きから手を離して話し込んでいた。



 誰だっ! 今度はなんかユーアに変な事聞いた奴いるだろっ!

 おじちゃんかっ! おじちゃんが危ない奴かっ!!



「おいっ! お前らいい加減にしろっ! 礼を言いに来たんだろうがぁっ!」


 ギョウソが若干キレながら、そう叫んでいた。


「すまんな、スミカの嬢ちゃんとユーア。皆んな悪い奴ではないんだが、悪ふざけが過ぎる時があってな」


 ポリポリと頭を掻きながら謝ってくる。


「別にいいよ。ユーアも怖がってないから」


 ユーアを撫でながらそう答える。



「そうか、なら良かった。それじゃ、俺たちは行くからよ。今回の事は本当にありがとな。なんか協力して欲しいことがあったら俺に言いな。できる範囲でだが手を貸すぜ」


 そう言って、ぞろぞろと冒険者たちを引き連れて出ていく。


「うん、ありがと。その時はよろしくね」

「おじちゃんたち、また明日ねっ!」



 ふう、やっと食事の続きができるよ。


 しかし、ここの冒険者は結束力が強いのか、ギルド長のルーギルたちの影響か、本当に仲間意識が高いと思う。



「それじゃ、ユーア少し冷めちゃったけど食べようか」

「はい、スミカお姉ちゃん!」



『――――――たんだがよォ』



 ん!? 何か聞こえる?



「ユーア、何か言った?」

「んんんっ!」


 私はユーアにそう聞いてみるが、

串焼きを頬張ってるから、何も話せない筈。



 うん、だったら空耳だね。



「――午後から、待ってたんだがよォ! なんでこんなとこで飯食ってんだァ!!」


 お怒りの様子のギルド長が、テーブルを叩いて現れた。


 私の空耳ではなかったらしい。



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