第31話ボクっ娘少女と屋台を周ります
私たち二人は仲の良い姉妹の様に手を繋ぎ、人混みが増えてきた露店や、屋台が立ち並ぶ繁華街を歩いていく。
お昼時なので、列を作っている屋台が多く見られ、パンに野菜や肉を挟んだハンバーガー的な物や、サンドイッチ、香辛料で味付けをした串焼き、野菜が溶け込んでいる具沢山のスープ。
また海の幸を使った、焼き魚や、貝の壺焼き、煮魚や魚介類のスープ、果実水のようなドリンク、など多くの屋台がひしめいていた。
「んー、ユーア、屋台で食べたいんだけど、まだ混んでるから、先に肉以外の食材を買おうよ」
調理していない生肉はアイテムボックスに大量にある。
私は
「はい、わかりましたスミカお姉ちゃん……」
今度は、
そんなユーアの頭にポンっと手を置いて、
「食材を買ったら、たくさん食べていいから先に露店をみよう」
「はい!」
まだ後ろ髪引かれるユーアの手を引いて、露店に向かう。
「まずは、
「もう! スミカお姉ちゃんっ!」
「あれ、違ったっけ?」
「嫌いじゃないけど、ボクが
「おおっ!」
お、とうとう大声でカミングアウトしちゃった。
しかも
そんな大声でお肉大好き宣言をしたユーアを、皆んなが温かい目で見ている。
若干私も含めて注目されている。
「も、もう、スミカお姉ちゃん! 早く行こうっ!!」
注目された事に気付いて、顔を赤くし、私の背中をグイグイ押してくる。
「わ、わかったから押さないで、他の人にぶつかっちゃうでしょ」
そうしてユーアとじゃれ合いながら沢山のお店を回っていった。
※
「よし、これで当分は食糧に困ることはないよね?」
果物と野菜類を
あまりにも大量に買い込んだため、その都度、店の人に驚かれ、その全てをアイテムボックスに収納したら、更に驚かれた。
「さて、これであらかたは買い込んだね? それじゃ約束まであまり時間ないけど、何か食べようか。何処かお勧めある?」
「はいっ! スミカお姉ちゃん、あそこの串焼きがおいしいよぉ!」
ユーアは、昼時が過ぎても、結構な人数が並んでいる屋台に並んでいく。
肉ソムリエのユーアが言うんだから人気なんだろう。
私も一緒に列に入る。
「??」
列に並びながら、ふと、目立つ一角を見つけた。
昼時を過ぎても、そこそこの列を作っている屋台と露店だけど、何故かその一角だけは異様に目立った。何故なら、
殆ど人が並んでいなかったからだ。
一度並んだ人も、店番らしい小さな女の子と少し話をして離れてしまう。
それでも数人に一人は何かを購入しているようだ。
少し気になったので、ぴょんぴょん跳ねているユーアに聞いてみる。
「ねえ、ユーア。あそこは何のお店なの?」
「え?…… あ、あそこは最近来たお店だよ。なんか腐ったお豆を売ってるって聞いたことがあります」
「ふーん、そうなんだ。ユーアは食べた事あるの?」
「食べた事ないです。ボクは冒険者になってからあまりここに来てないので」
ああ、そうだった、自分の食い扶持と孤児院でギリギリだったんだっけ。
「そうなんだ、串焼き買ったら行ってみようか?」
「う、うん、スミカお姉ちゃんが、そう言うなら……」
ユーアの反応を見る限り、あまり良い印象はないみたいだった。
でも、腐った豆って、多分あれだよね?
※
二人で並んだお勧めのお店は、またユーアの働いた事があるお店だった。
このボクッ娘、毎回肉関係のお店でばっかり働いてない?
肉が最優先で仕事選んでない?
もぐもぐと頬張るユーアを見て、そう思った。
そうして、串焼き屋や、他の屋台も数件はしごして、売ってもらえるだけ購入しアイテムボックスに収納していく。どのお店にもびっくりされたが、同時に感謝もされた。
※
露店や屋台で、食料を大量に買い込んだ後。
さっきユーアに聞いた、気になるお店の前にやって来る。
『大豆工房◎出張所』
そう看板には書いてある。
やっぱり大豆の専門店みたいだ。
この世界にもあるんだ大豆。
でもあまり人気がない感じだ。
『う~ん、出張所って事は、加工する建屋は別にあるのかな?』
なんて、看板を見ながら中に入っていく。
「こんにちはー、ちょっと売り物見せてもらっていい?」
「え、あ、はいなのっ! 自由に見てなのっ!」
店番の女の子が、ちょっと意外そうに私たちを見て慌てて返事をする。
エプロンをして、少し茶色が掛かった髪を、ギリギリお下げに結っていて、クリっとした大きな目は非常に愛らしい。身長は、ユーアと同じくらい?だったら年齢はユーアより下かも。ユーア小さいし。
「それじゃ、見せてもらうよ」
私はユーアと一緒に見て周る。
枝豆に、もやし、煮豆、それと豆腐っと。あ、厚揚げもある。
大豆食品のオンパレードだ。
「ねえ、味噌とか、醤油はないの?」
私がここに来た一番の目的が、この調味料たちだ。
せっかく食材を買いこんだのだから、塩や胡椒以外でも味付けしたい。
「あ、ありますの……、こっちですの。あれ? お姉さんは味噌を知っているの?」
店番の女の子は、案内の途中で振り返って聞いてきた。
「うん、知ってるよ。食べたことあるし」
私の場合、一人になってからは殆どレトルトの味噌スープだったけど。
「そうなの? ここの街の人は、しらない人が多くて人気がないの。買ってくれるのは枝豆や、もやしばっかりなの、味噌も醤油もおいしいのに……」
そう言って下を向きながら、
「みんな、味噌も醤油も不思議がって、作り方を聞いてくるの。作り方を説明すると『腐らせてある食べ物なのか!』『はっこう?なんだそれは!』って言って大丈夫だって言っても聞いてくれないの…」
「………………」
はぁ、やっぱりね、お決まりのパターンだよ。
ってかパンだってワインだってビールだって、みんなそうでしょう。
なんで受け入れられないのかな。
単純にこの辺りでは一般的ではないのかな?
「えーと、あなたは、ここ最近この街に来たんだよね?」
「はいなの、あ、あたしは『メルウ』っていうの。西の方のシラユーア大陸の、シコツ国から来たの」
「ユーア、知ってる?」
「うーん、聞いたことはあるけど、どこにあるかボクはわからないです」
「………………」
結構遠い国なんだろうか?
なら簡単に大陸間を行き来できないこの世界では、他の大陸の食品までは入りづらいのだろう。
ん、あれ?
「ねえ、メルウちゃん、味噌とかの材料はどうしてるの?」
他の大陸の特有のものだったら、売れ切れたらどうするんだろう?
そう思いメルウちゃんに聞いてみる。
「この街のギルドに依頼を出してるの」
え、普通に流通してるの?
「ユーアは、その依頼を受けた事あるの?」
「はい、何回かお仕事したことあります。森まで行かなくても生えてる所が多いんです。それといっぱい取れるし」
「へぇ」
普通に生えてるらしい……。
しかも大豆の食品が広まってないから、ある意味一人勝ちだろう。
私とユーアは、小さめの壺が十数個置いてあるところに案内される。
「こっちが、味噌でこっちが醤油なの」
「ちょっと味見してもいい?」
「はいなの」
メルウはそう返事して、味噌と醤油を小皿に分けてくれた。
「どれどれ……」
私はスプーンで掬って味見してみる。
うん、充分に味噌と醤油だ。
「あ、そうだっ! 大豆の食品なら納豆はないの?」
「え、ありますの、でも…………」
なんかメルウは自信なさげに返事をする。
多分この店の一番の人気なんだろう。悪い意味で。
「メルウ、私は納豆も知っているから、出してくれる?」
「はいなの…… これが納豆なの」
メルウは木箱から、藁に包まれた納豆をだしてくれた。
ムワっと納豆特有のニオイが充満する。
「ズ、ズミカお姉ちゃん、ごれ何?」
ユーアは我慢できなかったのか、鼻をつまみながら聞いてきた。
「これが納豆よ。こうやって藁に入れて納豆菌を発酵させて作るの」
うろ覚えの知識でユーアに説明する。
「はっこう、ってなんでずか? もしかじで、それが腐っでるって意味でずか?」
ユーアは、メルウの話にも出ていた腐っているのワードに反応したのだろう。
「さあ、私も詳しくは知らないけど、大まかにそうなんじゃない?」
メルウを見てみる。
「大体はそうなの。詳しくはお父さんがしっているの」
メルウもあまり知らなかった。
それでよく店番していたね。
「それじゃ、今日は味噌と醤油と納豆を売ってくれる?」
「は、はいなのっ! どれくらいですの!」
まさか買ってもらえると思わなかったのだろうか?
ちょっと驚いて見える。
「とりあえず、そうね。ここにある分は全部売ってちょうだい」
「え、全部なのっ? え、えっ!?」
メルウは、訳が分からないって様子でオロオロしている。
「スミカお姉ちゃん、またですか…………」
傍らのユーアは呟いている。
全部っと言っても元々この出張所には、あまり数は置いていなかった。
売れない商品を置くなら、少しでも売れる発酵食品
「お、お姉さん、本当に、あの……」
「私は、スミカっていうの。この可愛い子はユーア。もちろん買うよ。あ、豆腐もお願い」
「ス、スミカお姉ちゃんっ! ボクは可愛くなんてないですよっ。き、気にしないでね、メルウちゃん」
「は、はい、なのスミカお姉さんと、ユーアお姉さん………… ありがとなの…グス……うぅぅ…」
「ど、どうしたのっ!? メルウちゃんっ!!」
ユーアが泣き始めたメルウに驚いて声を掛ける。
「……最初の頃はね、お金もあったの、大豆の採取に依頼をだしてたの。でも商品がなかなか売れなくて、お父さんが、街の外に取りに行ったの、そしたら、大けがして帰ってきたの、でもお薬買えなくて、お父さんもよくならないし、わたし一人でお店やってたの、不安だったの、だから……嬉しくて……」
メルウは、ポロポロと大粒の涙を流しながらそう言った。
「大丈夫っ! 大丈夫だよっ! メルウちゃっん! お薬あれば、お父さんもよくなるよっ!」
ユーアが泣いているメルウを励まし、慰めている。
「それに、ここの食べ物が、売れるようにボクもお店手伝うよっ! だからお願い、スミカお姉ちゃんっ!!」
そう言ってユーアは私に確認をしてくる。
本当にこの世界の
私はもちろん。
「ユーアとメルウちゃん、スミカお姉ちゃんに任せなさい」
私は、無い胸を張ってそう言った。
ユーアのお願いだし。それにメルウちゃんも頑張っている子供だしねっ!
この自慢の私の妹のユーアみたいに。
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