第31話ボクっ娘少女と屋台を周ります




 私たち二人は仲の良い姉妹の様に手を繋ぎ、人混みが増えてきた露店や、屋台が立ち並ぶ繁華街を歩いていく。


 お昼時なので、列を作っている屋台が多く見られ、パンに野菜や肉を挟んだハンバーガー的な物や、サンドイッチ、香辛料で味付けをした串焼き、野菜が溶け込んでいる具沢山のスープ。


 また海の幸を使った、焼き魚や、貝の壺焼き、煮魚や魚介類のスープ、果実水のようなドリンク、など多くの屋台がひしめいていた。



「んー、ユーア、屋台で食べたいんだけど、まだ混んでるから、先に肉以外の食材を買おうよ」


 調理していない生肉はアイテムボックスに大量にある。


 私はを眺めているユーアに声を掛ける。


「はい、わかりましたスミカお姉ちゃん……」


 今度は、を食べながら歩いている人たちを見ながら返事を返してくる。

  

 そんなユーアの頭にポンっと手を置いて、


「食材を買ったら、たくさん食べていいから先に露店をみよう」

「はい!」


 まだ後ろ髪引かれるユーアの手を引いて、露店に向かう。


「まずは、ね」

「もう! スミカお姉ちゃんっ!」

「あれ、違ったっけ?」

「嫌いじゃないけど、ボクが好きなのは『お肉』ですっ!!」

「おおっ!」


 お、とうとう大声でカミングアウトしちゃった。

 しかもまで付いた。


 そんな大声でお肉大好き宣言をしたユーアを、皆んなが温かい目で見ている。

 若干私も含めて注目されている。


「も、もう、スミカお姉ちゃん! 早く行こうっ!!」


 注目された事に気付いて、顔を赤くし、私の背中をグイグイ押してくる。


「わ、わかったから押さないで、他の人にぶつかっちゃうでしょ」


 そうしてユーアとじゃれ合いながら沢山のお店を回っていった。






「よし、これで当分は食糧に困ることはないよね?」



 果物と野菜類を、大量に買い込んだ。

 

 あまりにも大量に買い込んだため、その都度、店の人に驚かれ、その全てをアイテムボックスに収納したら、更に驚かれた。


「さて、これであらかたは買い込んだね? それじゃ約束まであまり時間ないけど、何か食べようか。何処かお勧めある?」


「はいっ! スミカお姉ちゃん、あそこの串焼きがおいしいよぉ!」


 ユーアは、昼時が過ぎても、結構な人数が並んでいる屋台に並んでいく。

 肉ソムリエのユーアが言うんだから人気なんだろう。

 私も一緒に列に入る。


「??」


 列に並びながら、ふと、目立つ一角を見つけた。


 昼時を過ぎても、そこそこの列を作っている屋台と露店だけど、何故かその一角だけは異様に目立った。何故なら、


 殆ど人が並んでいなかったからだ。



 一度並んだ人も、店番らしい小さな女の子と少し話をして離れてしまう。

 それでも数人に一人は何かを購入しているようだ。


 少し気になったので、ぴょんぴょん跳ねているユーアに聞いてみる。


「ねえ、ユーア。あそこは何のお店なの?」

「え?…… あ、あそこは最近来たお店だよ。なんか腐ったお豆を売ってるって聞いたことがあります」

「ふーん、そうなんだ。ユーアは食べた事あるの?」

「食べた事ないです。ボクは冒険者になってからあまりここに来てないので」


 ああ、そうだった、自分の食い扶持と孤児院でギリギリだったんだっけ。


「そうなんだ、串焼き買ったら行ってみようか?」

「う、うん、スミカお姉ちゃんが、そう言うなら……」


 ユーアの反応を見る限り、あまり良い印象はないみたいだった。



 でも、腐った豆って、多分あれだよね?





 二人で並んだお勧めのお店は、またユーアの働いた事があるお店だった。



 このボクッ娘、毎回肉関係のお店でばっかり働いてない?

 肉が最優先で仕事選んでない?


 もぐもぐと頬張るユーアを見て、そう思った。



 そうして、串焼き屋や、他の屋台も数件はしごして、売ってもらえるだけ購入しアイテムボックスに収納していく。どのお店にもびっくりされたが、同時に感謝もされた。





 露店や屋台で、食料を大量に買い込んだ後。

 さっきユーアに聞いた、気になるお店の前にやって来る。



『大豆工房◎出張所』



 そう看板には書いてある。 

 やっぱり大豆の専門店みたいだ。


 この世界にもあるんだ大豆。

 でもあまり人気がない感じだ。



『う~ん、出張所って事は、加工する建屋は別にあるのかな?』



 なんて、看板を見ながら中に入っていく。



「こんにちはー、ちょっと売り物見せてもらっていい?」



「え、あ、はいなのっ! 自由に見てなのっ!」


 店番の女の子が、ちょっと意外そうに私たちを見て慌てて返事をする。



 エプロンをして、少し茶色が掛かった髪を、ギリギリお下げに結っていて、クリっとした大きな目は非常に愛らしい。身長は、ユーアと同じくらい?だったら年齢はユーアより下かも。ユーア小さいし。


「それじゃ、見せてもらうよ」


 私はユーアと一緒に見て周る。


 枝豆に、もやし、煮豆、それと豆腐っと。あ、厚揚げもある。

 大豆食品のオンパレードだ。


「ねえ、味噌とか、醤油はないの?」


 私がここに来た一番の目的が、この調味料たちだ。

 せっかく食材を買いこんだのだから、塩や胡椒以外でも味付けしたい。



「あ、ありますの……、こっちですの。あれ? お姉さんは味噌を知っているの?」


 店番の女の子は、案内の途中で振り返って聞いてきた。


「うん、知ってるよ。食べたことあるし」


 私の場合、一人になってからは殆どレトルトの味噌スープだったけど。


「そうなの? ここの街の人は、しらない人が多くて人気がないの。買ってくれるのは枝豆や、もやしばっかりなの、味噌も醤油もおいしいのに……」


 そう言って下を向きながら、


「みんな、味噌も醤油も不思議がって、作り方を聞いてくるの。作り方を説明すると『腐らせてある食べ物なのか!』『はっこう?なんだそれは!』って言って大丈夫だって言っても聞いてくれないの…」


「………………」


 はぁ、やっぱりね、お決まりのパターンだよ。


 ってかパンだってワインだってビールだって、みんなそうでしょう。

 なんで受け入れられないのかな。

 単純にこの辺りでは一般的ではないのかな?



「えーと、あなたは、ここ最近この街に来たんだよね?」


「はいなの、あ、あたしは『メルウ』っていうの。西の方のシラユーア大陸の、シコツ国から来たの」


「ユーア、知ってる?」

「うーん、聞いたことはあるけど、どこにあるかボクはわからないです」


「………………」



 結構遠い国なんだろうか?


 なら簡単に大陸間を行き来できないこの世界では、他の大陸の食品までは入りづらいのだろう。


 ん、あれ?


「ねえ、メルウちゃん、味噌とかの材料はどうしてるの?」


 他の大陸の特有のものだったら、売れ切れたらどうするんだろう?

 そう思いメルウちゃんに聞いてみる。



「この街のギルドに依頼を出してるの」


 え、普通に流通してるの?


「ユーアは、その依頼を受けた事あるの?」

「はい、何回かお仕事したことあります。森まで行かなくても生えてる所が多いんです。それといっぱい取れるし」

「へぇ」


 普通に生えてるらしい……。

 しかも大豆の食品が広まってないから、ある意味一人勝ちだろう。



 私とユーアは、小さめの壺が十数個置いてあるところに案内される。


「こっちが、味噌でこっちが醤油なの」

「ちょっと味見してもいい?」

「はいなの」


 メルウはそう返事して、味噌と醤油を小皿に分けてくれた。


「どれどれ……」


 私はスプーンで掬って味見してみる。



 うん、充分に味噌と醤油だ。



「あ、そうだっ! 大豆の食品なら納豆はないの?」

「え、ありますの、でも…………」


 なんかメルウは自信なさげに返事をする。


 多分この店の一番の人気なんだろう。悪い意味で。


「メルウ、私は納豆も知っているから、出してくれる?」

「はいなの…… これが納豆なの」


 メルウは木箱から、藁に包まれた納豆をだしてくれた。

 ムワっと納豆特有のニオイが充満する。



「ズ、ズミカお姉ちゃん、ごれ何?」


 ユーアは我慢できなかったのか、鼻をつまみながら聞いてきた。


「これが納豆よ。こうやって藁に入れて納豆菌を発酵させて作るの」


 うろ覚えの知識でユーアに説明する。


「はっこう、ってなんでずか? もしかじで、それが腐っでるって意味でずか?」


 ユーアは、メルウの話にも出ていた腐っているのワードに反応したのだろう。


「さあ、私も詳しくは知らないけど、大まかにそうなんじゃない?」


 メルウを見てみる。


「大体はそうなの。詳しくはお父さんがしっているの」


 メルウもあまり知らなかった。

 それでよく店番していたね。


「それじゃ、今日は味噌と醤油と納豆を売ってくれる?」

「は、はいなのっ! どれくらいですの!」


 まさか買ってもらえると思わなかったのだろうか?

 ちょっと驚いて見える。


「とりあえず、そうね。ここにある分は全部売ってちょうだい」

「え、全部なのっ? え、えっ!?」


 メルウは、訳が分からないって様子でオロオロしている。


「スミカお姉ちゃん、またですか…………」


 傍らのユーアは呟いている。



 全部っと言っても元々この出張所には、あまり数は置いていなかった。

 売れない商品を置くなら、少しでも売れる発酵食品が多く置いてあったからだ。



「お、お姉さん、本当に、あの……」

「私は、スミカっていうの。この可愛い子はユーア。もちろん買うよ。あ、豆腐もお願い」

「ス、スミカお姉ちゃんっ! ボクは可愛くなんてないですよっ。き、気にしないでね、メルウちゃん」


「は、はい、なのスミカお姉さんと、ユーアお姉さん………… ありがとなの…グス……うぅぅ…」


「ど、どうしたのっ!? メルウちゃんっ!!」


 ユーアが泣き始めたメルウに驚いて声を掛ける。


「……最初の頃はね、お金もあったの、大豆の採取に依頼をだしてたの。でも商品がなかなか売れなくて、お父さんが、街の外に取りに行ったの、そしたら、大けがして帰ってきたの、でもお薬買えなくて、お父さんもよくならないし、わたし一人でお店やってたの、不安だったの、だから……嬉しくて……」


 メルウは、ポロポロと大粒の涙を流しながらそう言った。


「大丈夫っ! 大丈夫だよっ! メルウちゃっん! お薬あれば、お父さんもよくなるよっ!」


 ユーアが泣いているメルウを励まし、慰めている。


「それに、ここの食べ物が、売れるようにボクもお店手伝うよっ! だからお願い、スミカお姉ちゃんっ!!」


 そう言ってユーアは私に確認をしてくる。



 本当にこの世界のは、一体どれだけ苦労すればいいんだろう。


 私はもちろん。


「ユーアとメルウちゃん、スミカお姉ちゃんに任せなさい」


 私は、無い胸を張ってそう言った。



 ユーアのお願いだし。それにメルウちゃんも頑張っている子供だしねっ!

 この自慢の私の妹のユーアみたいに。



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