第30話SSギルド長のルーギルに楽しみができたようです
今回は、ギルド長のルーギルの話です。
「オイッ! 面白れぇ奴ら、見つけたぞ!!」
俺は朝からせこせこと、事務処理をしている副ギルド長の『クレハン』に開口一番そう話しかけた。
そんな当のクレハンは迷惑そうに、
「それはいいですが、何故、こんなに決裁の書類が殆ど手付かずなんですか? 私がコムケを離れている間、何をしていたのですか? もしかしてまた冒険者たちと一緒だったんですか? あなたはもう冒険者じゃないでしょう? あなたが冒険者たちを大事にするのはわかりますが、ご自分の立場を考えてください。やるべき事をやってから、ご自身の好きなことをしてください。それなら私も何も言いませんから」
クレハンは書類に見ながら、くどくどと矢継ぎ早にそう告げる。
「オ、オゥ、そうだな、悪かったなぁ、お前ぇの言うとおりだ……」
クレハンの呪文のような小言に圧倒されながらも、全て的を得ているので、俺は素直に頭を下げておく。
「それで」
「ん?」
「その、面白い奴って、どんな冒険者なんですか?」
書類から目を離し、こちらに向けた顔は笑顔だった。
「お、珍しくこんな話に興味があるのかぁ?」
俺はちょっと小馬鹿にした様に聞いてみる。
「そうですね、あなたが特定の冒険者を、そんな風に話す事に興味がありますね。冒険者を褒めたり、認めたりする言動はあっても、面白いと言った事は聞いた事ないですからね」
俺は正直、この副ギルド長のクレハンには頭が上がらない。
なぜ、俺がギルド長などをやっているんだ?
よっぽどクレハンの方が向いている。
こいつは一見、エリート思考の奴にありがちな四角四面の様に見えて、色んな角度から物事を判断する柔軟な考えも持っている。
自分の仕事を放棄して冒険ばっかりやってる、こんな俺の話も興味があれば、こうやって話をきいてくれる。
そんなクレハンだからこそ安心して、
俺は冒険者の続きをしているのかもしれなかった。
「面白ぇ奴、じゃなくて『面白ぇ奴ら』だ!」
俺は強調して言う。
「ほう、パーティーですか? コムケの冒険者ですか? 今まで聞いた事なかったですが」
「オゥ! それがな一人は新人になって半年ほどの冒険者だ。名前はユーア。しかもFランクだッ!」
「Fランクですか? 尚更耳には入ってこないですね」
クレハンはちょっと考える素振りをした後、
「私がいない間に、そのFランク冒険者が討伐レベルの高い魔物を狩ったとかですかね?」
「いいやァ、そいつ自体はかなり弱い冒険者だァ! なんせ12歳の女のガキだかんなァ!」
「……尚更、想像がつきませんね、討伐系じゃないんですものね……」
俺は、悩むクレハンに更にもったいぶって、
「そいつは、討伐は一体もしていねェ。てか俺も対峙したが、下手したらフォレストラビットにも勝てねえかもしんねぇ」
「はい、もうお手上げです。聞けば聞くほど分からなくなりました」
クレハンは言葉の通りに両手を挙げて降参する。
「まァ、そりゃそうだろうよ、俺も気になってそいつの記録を調べてみたんだよォ、それで――」
「それで?」
「そいつは、採取系の依頼しか受けてねえんだ、この半年間よォ」
「それは別に珍しくもないですね、討伐もしないとランクは上がりませんから。その子は討伐出来なく採取の依頼ばっかり受けていたのでしょう」
クレハンがちゃちゃを入れてくる。
「そりゃ、そうだがよォ、だがそいつは
「…………たしかに、絶対にありえないとは言えないですが、その年齢でって考えるとありえないですね」
流石のクレハンも下を見ながら考えこむ。
「そんで、これは、正直こじ付けになっちまうかもだがよォ――」
「え、まだ何かあるんですか?」
クレハンは顔を上げて俺を見てくる。
「――なんで、アイツは今までの半年間
そう。
殆ど戦闘力というものを持たないあの
なぜ独りで無事だったんだ?
俺は、あの
だがスミカは冒険者でもなく、コムケ出身でもなかった。
それを不思議に思いユーアを調べたら誰ともパーティーを組んでいなかった。
話を聞いたクレハンもその違和感に気付いたのだろう。
「それは、一番ありえないですね、いくらこの辺りは魔物が少ないと言っても、居ない訳じゃない。半年間ほぼ毎日街の外にでて、襲われないなんて事は絶対にありえない。では本当は実力者? いや、ギルド長の話だとそれもない。魔物に襲われないルートが存在するとか? いや、広い平原でそれはない。では、魔物に遭遇しても逃げられる何か――――」
流石に考えが纏まらないのか、ブツブツと独り言を言っている。
「オイッ! クレハンッ! いいかげんに戻って来いッ! 話はまだ終わっちゃいねぇぞ!」
そう、最後の爆弾が残っている。
「えっ!? もうお腹一杯ですよ、正直これ以上は…………」
そんなクレハンはユーアの話だけで食傷気味の様子だった。
「いや、こっちの話がメーンなんだァ!
「本当ですか? ああ、そういえば奴らって言ってましたね」
クレハンはそう言って背筋を伸ばす。
「それで、もう一人はどんな感じなんですか?」
「そうだなァ、あれは『蝶』だな」
「…………はぁ?」
「ン――、背中に蝶の羽根が生えてて、やたらヒラヒラした黒と白のドレス? みてェなの着てたッ」
「そ、それは確かに面白い奴ですね……」
「だろう? しかもよォ、最初に言ったユーアと背格好はさほど変わらねェくらいの女だ」
俺は一緒に並んで歩いてる姿を思い出してそう言った。
あ、もっとでかかったかァ?
「で、その人物が何を?」
「俺が一騎打ちで半殺しにされた」
「はぁ!?」
「しかも、ものの数秒だァ。その前にスバたち9人も一瞬で半殺しにされた」
それを聞いてたクレハンは目を見開き、
「だ、だって、ギルド長はランクは更新できませんけど、Cランク以上の強さですよね!? それに、スバさんたちだってランクで言えばDに近い実力のはず、それが全員一瞬でですかっ!?」
「そうだ、ほぼ全員が一瞬で、だ。しかもそいつは強力な光魔法みてぇなのや、風魔法か障壁魔法のようなものを使うくせして、冒険者じゃねえって言うんだぜぇ!」
俺はスミカの戦いを思い出して、そう答えた。
「…………かなり、強力な魔法使いだったって事でしょうか? それほどの実力者が今まで出て来なかったのは何故なんでしょう?」
「あ――、それはあいつが、おっと、名前はスミカな。本人が門兵に言ってたんだがよォ、どうもフリアカ辺りの出身らしいんだァ」
そうだ、しかもかなりの山奥って言ってたっけ。
「それとよォ、スミカは年の割に場慣れしてるっていうか、戦いでの立ち回りが歴戦のそれっていうかよォ、かなり見た目とはチグハグなんだよなァ。言動にしても、立ち振る舞いにしてもだッ」
あいつは、明らかに見た目子供なのに、俺をギルド長と知っても言動も態度も変わらなかった。
相棒のユーアは、土下座までする勢いだったのに。
「……なんか面白いを通り越して、得体がしれない存在なんですが?」
「いや、それがよォ、まだ続きがあんだよォ」
「あ、私はそろそろ決裁書類をやらなければなので、お話はまた今度聞きましょう!」
クレハンは逃げるように、書類に目を落とす。
「いいから、聞けぇ! ここから、もしかしたらコムケの冒険者ギルドの進退に関わる話かもしれねぇんだァ!」
そこから、俺はランクC5人の冒険者の内、4人がスミカに半殺しにされた話をした。
「わかったか? アイツはユーアを大事にしている。そのユーアが馬鹿にされただけで、アイツはランクC上位の冒険者4人同時に相手にして、しかも素手でやりやがったんだァ!」
「……それは、仮にこのギルドでユーア嬢に何か失礼があった場合、スミカ嬢が前に出てくるって事でしょうか?」
「そうだッ! スミカにとって、ユーアが竜の逆鱗だと思った方がいいッ! 軽々しく触れねぇ事だァ」
「わ、わかりました、早急に冒険者と職員共々通達しておきます」
早速クレハンは書類作りに入ろうとする。
その重要性に気付いたのだろう。
「クレハン、冒険者たちは多分大丈夫だ。昨日の戦いと、一緒にいるユーアを見ているからなァ。あとは人伝で回っていくさ」
「なるほど。わかりました」
書類を作成しながらそう答える。
「あッ! 一番面白れぇ事伝えるの忘れてたぜッ!」
「まだ何かあるんですか!? さすがにこれ以上は吐き気がしますよっ!」
「アイツ、今日ここの冒険者になるからよォ!」
「!?っ そ、それは………… 非常に興味がありますねっ!」
「だろ? スミカが本格的な冒険者になってみろっ! 何をしてくるか楽しみだろうォ!」
「はいっ! 確かにそれは楽しみですねっ! 多分そういった人種は問題も多く持ってくるとは思いますが、それ以上に何をするのか何をもってくるのか楽しみですねっ!」
「おうよっ! だからアイツらに何かあっても、出来る範囲で協力してやりてぇっ! アイツらの先が見てみてぇ!」
俺もできれば一緒に見てみてえッ!
「あ、ギルド長。職権乱用はダメですよ? 一応私にも相談してくださいね」
変なところで似た者同士の二人だった。
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