第33話ギルド長たちをターゲットと定めました?
「あっ! え~と…… ギルド長?」
突然現れた男の名前を思い出せずに、とりあえずそう呼んでみる。
「『ルーギル』だッ! 昨日は覚えていただろォ。ってかなんで、午後に来るって言って飯食ってんだァ?」
「街で色々あって、お昼食べられなかったんだよ。ユーアも私も育ちざかりなんだから食べないとダメだよ」
「ねぇ~」っと、隣のユーアを見る。
「こ、こんにちは、ルーギルさん」
そんなユーアはルーギルに恐る恐る挨拶をする。
「ハァ、全くホントお前らなァ…………」
ルーギルはそれを聞いて、呆れたようにポリポリと頭の後ろを掻く。
「遅せぇと思って、降りてくりゃァ、ギョウソたち冒険者に囲まれてるし、冒険者がいなくなってみりゃ、のんびり飯食ってるしで…… まぁいい、とりあえず上にいくぞォ」
「え、最初から上に行けば良かったの?」
そうならそうと昨日のうちに言って欲しい。
「違げぇよ、受付の奴に言ってあったから、スミカ嬢たちが来たら上に案内させるつもりだったんだよォ、おらぁ、上行くぞ?」
「えっ! だけど私たち、ご飯食べ終わってないよ?」
「ねっ!」とユーアに声を掛ける。
「ス、スミカお姉ちゃん、ボクはもう、だ、大丈夫だよっ!」
ユーアはちょっと慌てている。
強面のルーギルが苦手なのだろうか。
「…………はぁ、なら上に簡単なの用意させっから、上に来てくれッ。俺もこの時間は忙しいんだよォ」
「ならいいけど。それじゃ行こっか、ユーア」
出したものをアイテムボックスに仕舞いながら、ユーアにも声を掛ける。
「は、はいスミカお姉ちゃんっ!」
※※※※※
ルーギルの後に続いて、カウンター奥の階段で二階に上がっていく。
二階は結構長い廊下があって、集合住宅のアパートの様に扉が片側に並んでいた。
その廊下の突き当りの部屋に、私とユーアは案内された。
部屋に入ると、木製の事務机と、大きな書棚が両側にあり、奥の窓際には高級そうな机とソファーイスがあった。いかにも社長のデスクって感じだ。
その一番奥の高そうなデスクセットが、ルーギルが座るところだろうか?
でも正直、あそこに座るルーギルを想像できない。
粗野で野蛮なルーギルには、絶対似合わない程の高級感だ。
「なんだ?」
そんな私の思考を読んだかのように、ルーギルが訝しげな視線で振り返る。
「何でもないよ~」
「そうかァ? まあいい。こっちの部屋だ」
ルーギルは右の扉を開けて中に入っていく。
そこは応接間になっていた。
「まァ、そこに座ってくれやァ」
6人掛け位の応接間セットのソファに案内される。
「おや? いらっしゃったのですね」
開けた扉の後ろから突然声が聞こえてきた。
「きゃっ!」
ユーアは突然影から現れた、もう一人の男に驚いて小さく悲鳴を上げる。
「あ、驚かせてすいません。こちらでお茶の用意をさせていただいたもので」
その開けた扉の脇には、お茶のセットが置いてあった。
「初めまして、わたしは、このコムケの冒険者ギルドの副ギルド長をさせて頂いております『クレハン』と申します。以後お見知りおきを」
クレハンと名乗った、眼鏡をかけた、なんとなくインテリそうな男は、そう言って柔らかな物腰でゆっくりと頭を下げた。
「おや? スミカさんは驚かなかったようですね」
「うん、気配でわかっていたから」
「…………流石ですね、わたしはこれでも元冒険者でシーフだったんですが。ギルド長がお話していた通りですね」
そんなクレハンは感心したように、私を見てそう言った。
まぁ、私の場合は気配っていうより、索敵モードで部屋の人数を目視で把握していただけなんだけどね。
「おォ、クレハン悪りぃ軽く食べられるもの用意してくれるかァ? コイツら下で飯の途中だったんだとよォ」
紅茶の準備が終わったクレハンに、ルーギルが頼んでくれる。
「ああ、そうだったのですね、わかりました。下の職員に伝えてサンドイッチでも用意させましょう」
4人分の紅茶を応接セットのテーブルに置いて部屋を出て行く。
「クレハンはすぐに戻るからよォ。先に座れや」
私とユーアは、6人掛け位のソファを勧められる。
「うん、わかったよ」
「はい」
私の隣にはユーアが座って、対面にルーギルが腰を下ろす。
結構柔らかくて、座り心地がいい。
「んじゃ、スミカ嬢は本登録をするから、この書類に記入してくれやァ」
「うん」
一枚の用紙を渡される。
「ん」
ステータス画面を見ながら、当てはまる所を記入していく。
その中に、
『ん、職業? 冒険者じゃないの?』
なぜかそこに職業を記入する欄があって、思わず手が止まる。
「ねえ、ユーアは職業なんて書いたの?」
熱そうに紅茶をすすっているユーアに聞いてみる。
「ボクは冒険者ですよ?」
「やっぱりそうだよね」
「ああ、それはなぁ――――」
「わたしがお話ししましょうか? ギルド長」
お盆にサンドイッチを持って戻ってきたクレハンはそう言ってルーギルに確認する。
「おう、そうだな。クレハン頼まァ」
ルーギルは少し横に詰めて、クレハンを促す。
クレハンはルーギルの隣に座り話を続ける。
「別に強制はしていないのですが、冒険者同士でパーティーを募集するときや、ギルドでも個別に依頼をする時に、冒険者以外の職業がわかると色々便利なんですよ」
「ああ、なるほどね。そういう職業って意味だったのか」
「そうですね」
「なら、ただの冒険者でもいいんだね」
クレハンに確認する。
「まあ、それでもいいんですが、スミカさんの場合はその見た目で舐められるというか、騒ぎ立てる輩もいるっていうか、魔法使いとも記されておけば、ある程度そういった事が回避できるかもと思うのですが…… 特に実践レベルの魔法使いは希少なので」
「う~ん、わかったよ。じゃあ『魔法使い』にするよ」
クレハンの説明に納得して記入する。
よし、終わった。
「スミカ嬢の場合、武闘家とか拳闘士とかの方がいいんじゃねえかァ」
「………………」
なんてルーギルが冷やかしてくるが、それを無視する。
「素手でも俺より強ぇしよォー」とも呟いている。
「はいよ、できたよ。確認お願いね」
記入し終わった用紙をクレハンに渡す。
「ってか、なんでクレハンに渡すんだァ」
「だって、クレハンの方がギルド長っぽいんだもん」
「お前えなァ――、まあ結局、俺からクレハンに任すんだけどよォ」
「なら、手間が省けていいじゃないの?」
「いや、それもそうなんだが、なんかあるだろォ。ギルド長としての立場とかよォ」
「そんなのあるの? ルーギルはギルド長の仕事ほったらかして、冒険ばっかりしてるイメージなんだけど」
「うぐっ、まあいい。この話はこれで終わりだ」
どうやら、図星だったらしい。
無理やり話を中断された。
「んふふ、スミカお姉ちゃんと、ルーギルさんは仲がいいねっ!」
そんなやり取りを聞いていたユーアが、笑顔で見当違いな事を言っていた。
曲がり間違っても、そんな事は絶対にあり得ないのに。
私が大好きなのはユーアだけだからね。
※※
「え、スミカさんは、15歳なんですか!?」
私の冒険者の書類をチェックしていたクレハンが驚いて顔を上げる。
「はぁッ! 15歳ィッ!?」
それを聞いていたルーギルも、同じように驚き書類を覗き込む。
「ちょっと待て、ユーアが10歳で、嬢ちゃんが12歳くらいだろォ?」
対面に座る私とユーアをジッと見ながらそう叫ぶ。
『………………?』
一体何が言いたいんだろう?
微妙に嫌な予感がする。
「い、いえ、ギルド長、冒険者は12歳からしか登録できませんので、ユーアさんは12歳ですっ!」
すかさず、ルーギルの間違いをクレハンが訂正する。
「ってことは、何かァッ! 嬢ちゃんは
ルーギルは「マジかッ!」とジロジロと私を見てくる。
「そ、そのようですね…… 書類の内容に虚偽がなければですが……」
クレハンもチラチラとこちらを見てくる。
「な、何よっ! 嘘なんて書いてないからっ! それに私のいた所は20歳で成人だからっ!」
ジロジロ見てくる二人の視線から逃れるように、両手で体を隠す。
「え、そうなのですかっ! 少なくともこの辺りの国では15歳で成人と決まっていますよっ! 小さな村や集落までは分かりかねますが――――」
クレハンは今度は私とユーアを見比べている。
「くっ! もうなんだっていいじゃない、見た目の事なんてっ! なんなら私も12歳でいいでしょっ!!」
半ばやけくそで、おかしな事を口走ってしまう。
一体何だって女性の年齢や体の事を執拗に聞いてくるの。
もうこれはセクハラだよっ!
「い、いえ、それだと、ユーアさんと比べてみた時に、ユーアさんが12歳で虚偽の疑いがでてきてしまうのですが……」
「あ」
そうか。
私が12歳基準だと、それよりも小さいユーアがさらに幼い事に。
「ス、スミカお姉ちゃん、ボクは本当に12歳だよ~っ!」
隣のユーアがちょっと涙目にそう訴えている。
「ほんとだよっ!」て。
恐らく年齢詐称で冒険者を辞めさせられると思ったんだろう。
それにしても――――
『ううむ~』
この世界に、私の出生を証明できるものなんてあるわけない。
なら、どう説明したら信じてくれるの。
ステータス画面は見せられないし。
「ああんッ? マジでスミカ嬢が15歳で成人だったらよォ、その戦闘技術とか魔法とか不躾な態度とかよォ、説明できるとこがあんだよなァ―― 色々とよォ」
やり取りを聞いていたルーギルが思い出したように口を開く。
「だから最初から言ってるじゃない? 15歳だって」
本当はアバターの設定は、だけど。
「でもよォ――」
「だから何?」
「仮に、15歳なのは認めるがよォ、まぁタッパは仕方ないとして、成人としては残念だよなァ」
そう言ってルーギルは、私の上半身に視線を移す。
『っ!! こ、このっ!』
ルーギルが、何を言っているか理解した私は、怒りと恥辱のあまり、以前に
現代だったら確実にセクハラものだっ!
私の頭上には、黒に視覚化した2機の巨大な円柱。
両手には、槍のように鋭くした2機の円錐を構え、残る1機は、ルーギルとクレハンを後ろからコの字に囲むように天井の高さまで展開。
これでもう逃げられまい――――
「…………サア、カクゴハデキテルナッ!!」
黒に染まった私は、ターゲットに狙いを定める。
「ッッッッ!!!!!!」
「っっっっ!!!!!!」
ターゲット二人が何か叫んでいるが、何も聞こえないし、耳も貸さない。
だって、本当の私の胸部は座る時に――――
『ああ~、これで少し楽になったなぁっ!』
て、テーブルにお胸さんを乗せちゃうくらいに大きいんだから。
「えっ? 『本当の私』ってなに、スミカお姉ちゃん?」
サンドイッチをモグモグさせて、目を丸くして私に尋ねてくるユーア。
「はっ!?」
ってか、また口に出して叫んじゃったの?
ユーアはさらに続けて、
「昨日一緒にお風呂入ったけど、小さくてキレイだったよ?」
「っ!?」
そんな悪気の全くない、暴露発言で私は正気を取り戻していく。
ああ、また私は自分自身に嘘をついてしまった…………
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