第34話コムケ街の冒険者になったようです
「すまねぇっ! さっき嬢ちゃんにからかわれたから、ちょとした仕返しのつもりだったんだァ!」
「も、申し訳ございませんっ! スミカさんの容姿の事は今後決っして言いませんっ!!」
コムケ街の冒険者ギルドの重鎮二人が、必死の形相でソファーの上で平伏していた。見た目変な格好の小娘の私に。
「はぁ、まあ、もういいよ。私は気にしないけど、ただ年頃の女の子のユーアもいるんだから、もうそういうのやめてよね? 私はぜ~んぜん気にしないけど」
先ほどのユーアの一言で、ある意味ガス抜きされた私は
冷静になって二人に告げる。
「い、いや、凄げぇ気にしてただろうよォ……」
頭を下げたままのルーギルから「ボソッ」と何か聞こえる。
「ああんっ!! 何か言ったっ!?」
私は再度、視覚化した巨大な円錐を、驚き顔を上げたルーギルの眼球ギリギリの距離に出現させる。
「ギ、ギルド長っ!! 早くスミカさんに謝罪して下さいっ!!」
驚愕に固まったかのように動けないルーギルにクレハンが必死に催促する。
「ス、スミカお姉ちゃんっ! ボクは気にしていないから大丈夫だよっ!!」
ユーアはルーギルの危機を感じ取りあわあわしている。
「そう? 別にユーアが気にしていないなら私はいいよ。私も最初から大して気にしていなかったからね」
傍らのユーアを撫でながらそう話し、スキルを消す。
「い、いや、ユーアじゃなく嬢ちゃんの方が―― っておわぁッ!」
「し、失礼しましたっ! スミカさんっ!」
また何かを言い掛けたルーギルの頭をクレハンが無理やり頭を下げさせる。
更に続けて――
「ス、スミカさんにユーアさんっ! ギルド長もこの様に謝罪されてますから、どうか矛を収めてくれませんかっ! わたしからもキツく言い聞かせたおきますからっ! どうか恩赦をっ!」
懇願するような目でもう一度頭を下げる。
もうどっちが上司かわからなくなる。
「スミカお姉ちゃん、もうルーギルさんたちを許してあげてっ?」
ユーアも私の腕にくっついてお願いしてくる。
『えええっ!』
うぐぐっ! なんか私が悪者になってないっ!
私は被害者だよね? そうだよね!?
※※※※
「さて、それじゃ登録も済んだ事だから私たちは帰るよ」
なんか余計な騒動があったけど、用事がないならここにいる必要もない。
「少し待ってくれッ。今クレハンが嬢ちゃんのカードを持って来るからよォ」
背中を見せ扉に向かう私とユーアに、ルーギルが引き留めるように声を掛けてくる。カードって事はもちろん冒険者のカードの事だろう。
確かにさっきクレハンは、私の書類を持って部屋を出て行った。
その際にユーアの冒険者カードも預かって持って行ったみたいだったけど、何かあるんだろうか?
「そうなの? 別に下で受け取っても良かったんだけど」
「まァ、なんだァ、下でしずらい話もあんだよォ。だからわざわざクレハンに行かせたんだァ」
「ふーん、そうなんだ。わかった。待ってるよ」
クレハンを待つために、ユーアとソファに座りなおす。
紅茶も飲み終わってしまったので、アイテムボックスからドリンクレーションを出して、ユーアには練乳味を渡す。私はレモン味だ。
「はい、ユーア。これでも飲んで待ってようか」
「あ、ありがとうスミカお姉ちゃんっ!」
「うん」
「今日のは甘くておいしいですっ!」
「そうだね、私のは酸っぱい奴だよ」
「あ、本当だっ! でもこれもおいしいですっ!」
「ん、これは私には甘すぎるかな?」
二人で飲み比べながら、キャッキャしていると、
「なんだァ、それ。見たことない飲み物だな」
ルーギルが不思議そうな顔で見ていた。
「あ、ルーギルも飲む? なんならあげるけど」
もう一つドリンクレーションを出して渡す。
「そうか、悪りィな。もらうぜぇ」
ルーギルはしげしげと容器を眺めてから、封を切って口に付ける。
『ニヤリッ』
「ブフォ――ッ! マジイッ!! なんだこの味はッ!?」
そしてルーギルは口に含んですぐ盛大に噴出した。
実はルーギルに渡したのはグロ味シリーズの『塩辛味』だ。
さっき私たちを小さい大きい言ってた仕返しだ。
「あ、それ塩辛の味だから」
「シオカラァ? なんだァこの味はッ! でもこれはァ!? 体が?」
「あとそれ、少しだけ体力回復する飲み物だから」
私はシレっと味と一緒に種明かしをする。
「…………少しッ? これがかァ!?」
マジマジとした顔で私に聞いてくる。
「一応、少しのはずだよ。それと同じもの今日買い取ってもらったから」
「皆さん、お待たせしました」
クレハンが扉を開けて部屋に入ってくる。
登録は無事済んだのだろう。
「なんか廊下までギルド長の叫び声が聞こえてきたんですが、まさかまたスミカさんの事を……」
「違げぇよ。嬢ちゃんに変わった飲み物を貰ったんだよォ。それを嬢ちゃんが何処かで買い取ってもらったらしいんだァ、嬢ちゃん悪りィけど、まだあるかァ?」
「あるよ。一つでいい?」
「ああ、すまねぇ」
クレハンにもドリンクレーションを渡す。
今度はスイカ味だ。
「どうもありがとうございます」
クレハンは受け取って、やはり外側を眺めてから口に含む。
「ああッ! クレハン気を付けろッ! 恐ろしく不味ィぞ!!」
慌ててクレハンに注意をするルーギル。
「え、もの凄く美味しいですよ?」
それを聞いたクレハンは目をぱちくりさせて感想を言う。
「えっ!? でもこれは………… 回復薬っ!?」
クレハンも驚いて私を見てくる。
「ってか、なんで俺だけ不味ィの渡したんだよォ」
「ああ、さっきの仕返しだから。
「お前なァ――――」
ルーギルは私をジト目で睨みつけてくる。
「それほどの事をしたんだよ。私は我慢できるけど、ユーアの事はね」
「い、いやっ、我慢できてねぇのは成人のお前ッ――――」
「これ、何処に買い取ってもらったんですか?」
飲み終わったクレハンが神妙な顔で聞いてくる
「だよなァ、やはりそこが気になんだろォ」
そんなルーギルも、真剣な表情になっている。
「ノコアシ商店ってとこだけど?」
「ノコアシ? ああッ『ニスマジ』のとこかァ!」
「え、あの変なお店の店長知ってるの?」
色々特殊過ぎて、悪目立ちし過ぎているのだろうか?
「ああ、アイツは俺のパーティーのメンバーだったんだよォ」
「ええっ! ニスマジさんは冒険者だったの?」
ユーアが驚いたようで会話に入ってくる。
「昔な。アイツはあれでも当時Cランク冒険者だったんだぜぇ」
「そ、そうだったんだっ! 凄かったんですねニスマジさんっ!」
それを聞いてキラキラした目になるユーア。
「そうだなァ。あと店やってるといやァ。肉屋と食堂を経営している夫婦の『ログマ』と『カジカ』もだなァ」
「え?」
あの常識人の二人も冒険者だったの。
「それと外の集落の『スバ』も元メンバーだ。あいつは斥候役と盗賊だったなァ」
「へぇ~」
そういえば昔世話になったとかスバが言っていたっけ。
「ええと、それじゃ『ルーギル』と『ニスマジ』と『ログマさん』と『カジカさん』と『スバ』の5人のパーティーだったんだ」
私は顔を思い出しながら聞いてみる。
「あんッ? 敬称付ける奴と付けない奴の差がわからねぇがァ」
苦笑しながら私を見ている。
「だがなァ、もう一人いるんだよォこの街に。現役のそいつは今じゃ『Aランク』の冒険者だァ」
何やらドヤ顔で話すルーギル。
「Aランクの人がこの街にいるなんて、ボク知らなかったっ!」
ユーアはそれを聞いてかなり慌てている。
「そりゃ、そうだろうよォ。アイツの拠点は、一応この街になってはいるが、Aランクといやァ、もう国の持ち物だァ。あちこち国の依頼で飛び回っているだろうよォ」
「ふーん、そのAランクって強いの?」
初めて耳にした「Aランク」の事を聞いてみる。
もしもユーアに敵意を向ける様な可能性があるなら情報は欲しい。
そう考えルーギルに尋ねた。
「ああ、強えぇ、なんせアイツは『ドラゴンキラー』の称号持ちだかんなァ」
「…………ふぅん」
それを聞いて私は適当に相槌を打つ。
そう言う二つ名みたいなの好きだよね? 異世界って。
「スミカ嬢の強さを全部見た訳じゃねぇからわからねが、もし戦ったらいくらスミカ嬢でもよォッ――――」
ニヤニヤしながら私を試すような口調でそう話す。
「そのドラゴンキラーのAランクが、どのくらいの強さかはわからないけど、私は誰にも負けない絶対の自信があるから」
「ギン」とルーギルを睨み返答する。
私には単純な強さではない、この世界の住人には到底経験できない、何万、何十万の戦闘の経験があるのだ。おいそれと負けるはずが無い。
それにスキルも「LV.3」だからまだまだ伸びしろがある。
「そうだよっ! ボクだってスミカお姉ちゃんが強いの知ってるもんっ! 絶対に勝てるもんっ!!」
ユーアが私の味方になってそう叫んでくれた。
そんな私とユーアの話を聞いたルーギルは――
「ハハッ」
「??」
「ワハハハッ! Aランク相手に勝てるってかァ!? ワハハッ!」
突然ルーギルが大声で笑い飛ばす。
私とユーアが言った事を。
「何? 喧嘩売ってんの? 買って欲しいなら買うけど速攻潰すよ」
そう冷たく言い放ち、更に殺気を込めてルーギルを睨みつける。
私だけならまだしも、ユーアを乏しめる事は許せない。
「!!ッ いいや違げぇよォ! さすが俺が面白れぇっと思った奴だァ! って事を言いたくてだなァ――――」
両手を上げながら意味が分からない事を言う。
「なんだ。結局私だけじゃなく、私を擁護したユーアまで馬鹿にするんだ」
鋭く細い円錐を5機をルーギルの周りに展開させる。
私がその気なら、速攻で串刺しにできる。
「ああああ―― ち、違いますよっ! スミカさんっ! ギルド長の言い方が少しだけ悪かったんですよっ!!」
クレハンがその様子を見て割って入ってきた。
「ギルド長は、あなただけじゃなくユーアさんの事も含めて認めているんですっ! それがその証拠ですっ! 確認してくださいっ!」
慌てて2枚のカードをそれぞれ私とユーアに手渡す。
「なに?」
「な、なんですか?」
私とユーアは受け取ったカードを見てみる。
「……………」
「えっ!?」
『冒険者ランクC』
渡された、私のカードにはそう記載してあった。
FとDは何処に行ったの?
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