第35話いきなりのランクアップ
「これが、あなたたちを認めているとわかる証拠です。確認して下さい」
そう言われ、クレハンより手渡されたカード。
そこには――
『冒険者ランクC』
と記載されていた。
『――――――』
「~~~~っ!」
ユーアは声にならないようで目を見開き固まっている。
私も若干驚いている。
ただ喜びよりも疑問の方が先だってしまう。
「……どういうことなの?」
二人に疑惑の目を向ける。
ルーギルは、ガシガシと後頭部を掻きながら話し出す。
「あ~~、それが下ではしずらい話だったってわけだぁッ」
「………………」
それはそうだろう。
昨日冒険者になったばかりの少女。
しかも成人にも見られない幼い容姿の少女が、次の日には『冒険者ランクC』になっていたら、今まで命に関わる依頼をこなしてきた冒険者たちは絶対に納得しないだろう。
「それって、絶対に面倒なことになるだけだよね?」
そう。きっとそう。
そういった輩の嫉妬や逆恨みなどで、要らぬ厄介を事を引き込むだけだ。
「ああさすがだなァ? 嬢ちゃん。嬢ちゃんのそんな高待遇に不満のある奴らが、これから黙っちゃいねぇって事だろうッ?」
「それは、そうでしょう。私だったら納得できない」
端的に告げる。
正直私にはメリットが浮かばない。
普通にユーアと冒険者活動をしてた方が、波風立たずやっかみ事に巻き込み込まれる可能性も少ない。それにユーアに危険が及ぶ可能性も減る。
「それに関しちゃァ、殆ど問題は無ぇ。そうだろクレハン?」
「そうですね。その件については私がお話しましょう」
そう切り出しクレハン佇まいを正す。
「スミカさんは、先日初めてこの大陸とこの街に来たのでしたね?」
「まあ、そうだね」
クレハンは続けて、
「でしたら、スミカさんを知っている者は、この大陸でも極々僅かです。その僅かな人達が納得すれば、要は
「だから、それが一番の面倒なんだよ」
そんな事は誰でもわかる。
「いえ、実はそこが一番簡単なんですよ。あなたは自分自身で、大半の冒険者の方々に納得される事をしているんですよ。つい先日にね」
「そうですね?」と私を見ている。
「…………先日に、納得? 私なにかした? う~ん」
私は人差し指を顎に当て考える。
『え~と、今日は街をみて色々買い物して周っただけだし、昨日はユーアと会って一緒にお風呂して一緒に寝たんだっけ?』
なんとなく昨日の事を思い出す。
「うわっはははッ――! だから言ったろ面白れぇ奴だってぇっ! 昨日の俺とスバの件、それにCランクの奴らを半殺しにしたことを軽く忘れてんだぜぇ! まるで大した事ねぇみてぇによッォ!!」
ルーギルは私を指さして声高々に笑い出す。
目尻には涙が薄っすら見える。
「これはこれは、確かに面白い方ですねっ!」
ルーギルに続いてクレハンも、ニタニタしながら私を見ている。
「……なんかイラっとするんだけどっ」
そんな二人を睨みつける。
「スミカお姉ちゃんは、面白いだけじゃなくて、優しいしキレイなんだよっ!」
私が馬鹿な子みたいな扱いされたのを怒って
微妙なフォローを入れてくるユーア。
「で、結局どういう事なの?」
私の為にフォロー入れてくれたユーアを足の間に座らせて先を促す。
鼻にかかるユーアの髪の毛が、ほわほわしてくすぐったい。
「冒険者はよォ、極端に実力主義の世界なんだッ。嬢ちゃんは昨日の一件でこの街の冒険者に認めさせっちまった。てぇ事だぁッ!」
ルーギルが私の疑問にすぐ答える。
「そう、それでもこの街全ての冒険者ではないですが、それはスミカさんも先ほど会った『ギョウソ』さんに任せてあるので、時間の問題でしょうね」
クレハンが続いて話を始める。
「ギョウソ?」
下で食事している時にぞろぞろと冒険者を引き連れてきた人か。
そういえば、この街の冒険者を仕切ってるって言ってたっけか?
「ああ、わかったよ誰か。それと少し納得した」
何となく思い出して頷く。
二人が言いたいのは、そのギョウソから噂が広まる。
そう言いたいのだろう。
Cランクの冒険者を返り討ちにしたって事を。
「後は問題があるとすれば、今この街にいないAランク冒険者の『フーナ』とBランク冒険者の『ナゴタ』『ゴナタ』の双子くらいですかね?」
「うん?」
Aランクはさっき聞いた『ドラゴンキラー』だろう。
「Bランク? そんなのもこの街にいるんだ」
「ええ。Aランクのフーナさんと同じように、Bランクのナゴタとゴナタさんは、この街以外の依頼で街を出ています」
「フーナは帰ってきたら、俺が説明してやるから問題無ぇとしても……」
「そうか、元パーティーメンバーなんだっけ? それで何かあるの?」
私は言葉尻を濁したルーギルに聞き返す。
「そうですね。ナゴタとゴナタさんたちは少し難しいですかね?」
「ああ、アイツらはなぁッ――」
代わりに答えたのはクレハンだった。
続けてルーギルが頷いている。
その表情は二人とも少し固く感じられる。
「その『ナゴナタ』てそんなに強いの?」
二人が懸念するほどの人物が気になったので聞いてみる。
「嬢ちゃんいきなり『ナゴナタ』て、まあいい。そりゃァBランクだから実力は申し分ねぇ。ただその性質がなァ――――」
「実力主義なのはもちろんなんですが――――」
ルーギルの話をクレハンが引き継ぐ。
「余りにも
「まぁ、逆に言えば実力を示せば納得するだけって簡単な話だッ!」
またも私を挑発するような目で見てくる。
「やだよ。面倒だし」
私は「フイ」と横に首を振る。
「いや、そこだけが簡単な話じゃねぇんだァ。言ったろォ? 極端な実力主義だってぇ」
更に続けて、
「アイツらは、自分より下の冒険者にはある意味容赦が無ぇんだッ。ユーアには悪りぃが記録を調べさせてもらったァ。ユーアは冒険者になって討伐は
そんなルーギルの言葉に、私はすぐさま反論する。
「そんな冒険者野放しにしているあなたたちの怠慢なだけでしょう? それに討伐していない冒険者なんて他にもいるでしょうっ!!」
「あー、嬢ちゃんの言っていることはもっともだァ。だが奴らはその実力で、ある程度は国家にも信を置かれている。そんな奴をこのギルドだけで縛ることは出来ねぇんだよォ、力がなさ過ぎてなッ――」
「…………ふん」
ルーギルにも思うところがあるのだろう。
悔しそうにしているのは、表情を見ればわかる。
ギルド長の立場でも、それを認知しているだろう事実に。
「まァなんだァ、つまり嬢ちゃんがCランクを受け入れるに関わらず、ユーアには何かのとばっちりが来る可能性があるってぇ事だッ」
「そんなぁ、ボクなんか…………」
ユーアはそれを聞いて、若干震えながら自分の体を抱きしめる。
「それにですね、万が一そんな事になった場合は、ランクが近いもの同士ならギルドも立ち合いの決闘で決着をつけることもできます。その決闘にはお互いに
クレハンが補足として付け加える。
「ふ~ん………………」
なるほどね。
要はユーアを守るために決闘をしろって事だ。
賭ける物にユーアの身の安全を賭けて。
正直、思惑通りに動かされているのは気に入らない。
けど私はそれに乗るしかないのだ。
ユーアの身に危険が及ぶ恐れがあるならば。
「わかったよ。なるよCランクに」
「ス、スミカお姉ちゃん……」
ユーアを慰めるようにギュッと抱きしめて答えた。
「でも、結局なんで私をわざわざ高ランクにしたかったの?」
そう。
ユーアの件は、冷たく言い方を変えれば「冒険者同士の勝手ないざこざ」なのだ。私のランクを上げなくても、ルーギルたちには関係のない話なのだ。
「ああ、それはなァ――――」
ルーギルは、何か言いずらそうに顔を背ける。珍しい。
「え~と、ギルド長は単純にあなた達を好きなだけなんですよぉ」
「ってぇッ! お前ぇ、その言い方おかしいだろうッ!!」
「っ!?」
私はクレハンから答えを聞いて視覚化した透明壁を展開する。
このロリ○ンめ!私が成敗してくれるっ!!
「か、勘違いされる言い方をしてしまってすいませんっ! ど、どうやらわたしは舞い上がってるみたいですっ! ギルド長と同じでっ!」
そんな私にクレハンは慌てながらも、表情は崩れている。
そして更に話を続ける。
「すいません、簡単に説明しますね。ギルド長もわたしも、あなた達になぜか色々期待しているんです。迷惑だとは思いますが」
「おうよそれよッ! 嬢ちゃんたち二人は俺たちが想像もしなかった事をやってくれるんじゃねえかって、期待感があるんだよォ! 何か面白れぇもん見せてくれるんじゃねぇかって楽しみなんだよォッ!」
「全部俺の
「はぁ、それはわかったけど、私たちに色々期待されても困るんだけど。私はユーアを一番に置いているから」
「それは構わねぇ。というか、勝手に期待してんのは俺たちだかんなッ! でも何もするのにも嬢ちゃんのランクはあった方が何かと便利だぜッ!」
「そうですよ。スミカさんとユーアさんのお二人は、好きなようにして下さって構いません。わたしたちは、ただお二人が出来る事の幅を広げて差し上げただけですので」
ルーギルに続いてクレハンも似たような事を語っていた。
きっと二人とも思いの丈を語っていたんだと思う。
「そう………… ありがとうわかったよ。でもこっちはこっちで好きなようにする。それと話は大体済んだよね?」
私はユーアを膝の上から降ろして言う。
「いんや、最後の話がまだ残っているんだァ。おいッ! クレハン」
名前を呼ばれたクレハンは冒険者カードをユーアに渡す。
最初に預けたカードだ。
ユーアは受け取ったカードを見てみる。
そこには――
「えっ!?」
「あっ」
『冒険者ランクE』 と記載してあった。
「う、あ、え? ――――」
それを見て固まっているユーア。
そんなユーアに見かねた様子でルーギルとクレハンが声を掛ける。
「すまねぇな。ユーアは今はそれが限界なんだァ。採取の実績だけならば『Dランク』でもおかしくねぇ内容なんだがなッ!」
「そうなんですよ、ユーアさん。そこに『討伐』の実績があれば、誰も文句は言えない程だったんですが…… なので今はそれが精一杯です」
「そ、そんな、ボクなんかがEランクでいいの?」
ユーアはカードを握りしめて震えながら聞き返す。
「ユーアも自分が何をしてきたかわからねぇみたいだなァ? やっぱり」
「みたいですね。 ではユーアさんに話します」
クレハンはユーアを見ながら一呼吸置く。
「あなたも、スミカさんの様な派手さはないですが、あなたの今までの実績も目を見張るものがあります。採取の依頼とはいえ、半年間で数百回こなして達成率が100%。しかも依頼人より全て高評価頂いております」
「だから自信持って下さい」と最後に付け加える。
「え?」
「そうだぜッ! しかもユーア。お前はその全ての依頼で無事に帰還できてんだァ。それもお前の実力なんだぜッ! それにスミカ嬢といれば嫌でもランクは上がっていくぜぇ!!」
次いで「ガシガシ」とユーアの頭を撫でるルーギル。
「う、うん、でも……」
「そうだよユーア。私はユーアの仕事は見ていないけど、ルーギルとクレハン二人の話を聞いてて凄い事をしたのはわかる。だから――」
若干震えているユーアの正面に立つ。
「――だから今までの自分に誇りを持ちなさい」
小さい体を優しく抱きしめてユーアに告げた。
「ぐすっ、うん、ボクは独りで、ぐすっ、辛かった時もあったんだっ。辞めたい時もあった、んだぁ、でもね、ボクね―――――」
「うん。ユーアゆっくりでいいからね」
ユーアは下を向き、体を震わせてそう私に伝える。
それはこみ上げる強い感情を堪えてるように見える。
大切な何かを伝えるために。
「でもね、ボクは今まで頑張ってきて良かったよぉ~っ! スミカお姉ちゃんに会えてボク本当に良かったよぉっ!!」
そう顔を上げ、全てを言い終えたユーア。
その顔は向日葵が咲いたような満面の笑顔だった。
大粒の涙に濡れてはいたが、眩しい笑顔だった。
「うん、うん、良く言えたね。ユーア」
私は「ぎゅっ」とユーアを抱きしめる。
でもそれは私の方だよ。
ユーアに会って救われたのは私なんだよ。
ありがとうねっ!
ユーアっ!
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