第36話二人のギルド重役は秘密の話に花を咲かせています




 今回の話は、

 前半が、『副ギルドのクレハン』視点のお話です。

 後半は、スミカ視点のお話に戻ります。






「で、どうだったァ、クレハン?」


 スミカさんとユーアさんが退出した部屋で、なにやら含みのある笑みで、そうわたしに尋ねてくるギルド長。


「ある意味興奮しましたね。色んな意味でも」 


 わたしもギルド長のように、きっと口元が緩んでいる事だろう。



「だろォ! スミカ譲だけじゃなく、ユーアもある意味得体のしれない奴だろォ!」


「そうですね。どうやって今まで生還できてきたのか? なぜスミカさんと一緒になれたのか? それも彼女に何かの能力があるのか? 正直興味がつきませんね」


 わたしは今日初めてあった二人に、こんなにも自分がある意味、になってしまうとは思いもよらなかった。



「ユーアもやっぱりあれだがァ、スミカ譲は更に底がみえねェ。まだまだ何か隠してやがるぜ、あれは」


「そうですね。あの年で冒険者でもなく、マジックバッグのような高額の物まで所持されて、見たこともないアイテムまで持ってましたね。あの服装も只の服ではないでしょうね、きっと」


「ああ、あと、今朝言った事だがァ、ユーアの身がある意味、スミカ譲にとって逆鱗になるってぇ話だか、もう一個追加だァ」


 ギルド長は、何かを思い出したのか微妙にひきつった笑みで告げる。



「…………わかります。スミカさんの、の事ですね。わたしは、あの瞬間に死を覚悟しましたよ」


 今のわたしも、ギルド長のようにひきつった笑みになってる事だろう。


「アイツよォ、しかも俺たちが逃げられねぇように、一瞬で訳わかんねぇ壁で囲みやがるしよォ! なんなんだあの魔法はよォ!」


「わたしも、あまり魔法には明るくないのでわかりませんが、魔法壁だとしても、色や形をあそこまで自由自在に操れるものなのでしょうか?」


 ギルド長の疑問に、何故かわたしも疑問で返してしまう。


「いいやァ、俺も冒険者時代に見た事があるが、せいぜい、自分の全面2、3メートルくらいだったぜぇ。色や形をあそこまでは変えられねぇ。まぁ魔法のレベルにもよるかもだけどよォ」


「……もしかして『レジェンドスキル』とかですかね?」


「ウハハハッ! それこそ無ぇよォ! アイツが英雄とか勇者の柄かァ!?」


 わたしの言ったことが流石に突拍子のないものだったのか、ギルド長は大笑いで返す。




『レジェンドスキル』


 詳しい詳細は、未だ不明のままで、かつて大陸の殆どを魔物が闊歩していた時代があった。

その時代に時代に、必ず勇者、若しくは、英雄と呼ばれる存在が出現し、その強大なスキルで、大陸を魔物から取り戻すべく戦った。



「そうですよね。あれは子供向けの絵本のお話ですからね。そのようなスキルは聞いたことも、文献にも残っていませんしね」


 ギルド長も、英雄とか勇者の単語がすぐに出てきた事から、きっと幼少のころに読んでいたのだろう。


「さて、思ったより時間が掛かってしまいましたが、無事に登録は終わりましたね。それと、ギルド長。二つ確認したいことがありまして」


 席を立とうとしているギルド長に話しかける。


「オウッ、スミカ嬢が持っていたアイテムの売却のことだろォ? クレハンも知ってると思うがアイツなら大丈夫だァ。変な使い方はしねぇ。ま、一応確認はするがなァ。で、後一つは?」


「スミカさんの、の件です。通達は致しますか?」


「あーー、そうだなァ、ここの職員には通達してくれぇ、冒険者の方は止めといた方がいい。アイツらは逆に意識し過ぎて凝視しそうだかんなァ」


「なるほど」


「それにいちいちスミカ嬢も、、言われるたびに、半殺しにはしねぇ筈だァ。ランクの件では、嬢ちゃんも世話になってると感じているはずだかんなァ!」


「確かにそうかもしれませんね。では、もし逆鱗に触れた方は自業自得と言うことで」


「まァ、そこら辺も大丈夫じゃねぇかァ? 嬢ちゃんの強さはある程度広まるだろうし、わざわざ触れる奴はァいねえだろう」


「わかりました。職員だけには出しておきますね。では失礼します」


 そう言って、わたしは退出する為に部屋の扉に向かう。


「オウ、ご苦労だったァ。クレハン、明日から楽しみだなァ!」


 ギルド長は無邪気な笑顔で、そうわたしに声を掛ける。


「はい、非常に楽しみですっ!!」


 私も満面の笑みでそう返事をした。



 ああ、本当に楽しみだ。


 冒険者の駆け出しの頃もそんなワクワクが止まらなかった事を思い出した。




※※



「くちゅんっ!」


「スミカお姉ちゃん風邪ですか?」


 くしゃみが出た私にユーアが心配そうに見てくる。


「ああ、大丈夫。なんかムズムズしただけだから」


 そう言えばこの姿はアバターだけど

 ケガとか病気にはどうなっているのだろう?


 ふと考えてしまう。


 味覚、触覚、聴覚、嗅覚、視覚の

 五感は全てこの世界で、経験済みだ。


 だけど、病気は分からない。

 なってみなくちゃわからなくても病気になんてなりたくない。


 それと、この世界での私の『死』についてもそうだ。


 流石にゲームの様に、所持金半分取得したアイテム経験値はなしで復活。

 なんて簡単にはいかないだろう。



『………………』


 まぁ、いいか。どのみち私はユーアの為には死なないし。



「スミカお姉ちゃん! ボクびっくりしちゃったっ! 最初からCランクだなんてっ!!」


 ユーアは自分の事の様に喜んでいる。


「そうだね。そこはルーギル達に感謝だよね?」


 うん? 感謝なのか? ちょっとまてよ?


 私は昨日の半殺しにした、ランクC冒険者の事を思い出す。



 【それじゃぁ、お前たちもそれでいいんだな、お前たちでこの嬢ちゃんと戦って、勝ったら約束通り無罪放免だァ!】



 そうそう、これこれ。


 私が挑発した後に、ルーギルがランクC冒険者に確認で言ってた事。



 最初私はこの男たちが、わたしに勝っても負けても逃げ道を塞ぐために、ルーギルが言ってたと思っていたんだ。4人を強調してたから。


 『私が勝つ』 


 小さい少女にランクCが4人がかりで、素手でボコボコにされる。

 情けない。お外を歩けない。


 『私が負ける』 


 丸腰の小さい少女に、ランクCが4人がかりでボコボコにする。

 カッコ悪い。穴があったら入りたい。


 そう図式になると予想しているルーギルを、私は予想していた。



 それが、今日のルーギルの話を考えると、私が圧勝をする事を見越して、に利用されたんだと思う。


 まあ、結果的にはその通りになったから、文句は言えない。


 でもなんか悔しい。

 ルーギルのくせにっ!



「でも、ユーアの事もあの二人は絶賛してたよね」


 意識を戻し、ユーアの事に話を振る。


「え、そんな、ボクなんか…………」


 やっぱりまだ自信がないようだ。


「ルーギルも言ってたでしょう? 今まで生還できたのはユーアの実力だって。仮にそこに、運とか、偶然とか、何か知らない力が働いたとかがあったとしても、全部含めてユーアの実力なんだからね」


 「だから自信もっていいと思うよ」

 そう付け加えて。ユーアの頭を軽く撫でる。



「うん、わかったよ? スミカお姉ちゃん……」


「それに、これからは私も一緒なんだから、そんな自信の無いのはダメだからね? 私と冒険者をするんでしょう」


「は、はいスミカお姉ちゃんっ!ボボボ、ボク頑張りますっ!」


 う~ん。

 まだまだ時間が掛かりそうだ。



「…………ねえ、ユーア。そういえば冒険者って何するの?」


 何となくの知識は、元の世界の小説とかで知ってはいたけど、この世界の冒険者は何をするのか知らなかった。


「スミカお姉ちゃん…………」


 ユーアがちょっとダメな子を見るような目で見ている。



 私のランクはユーアより上だけど。



 私の知識はFランクよりも低かったようだ。






 〇4章〇初めての街探索編 『完』




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