第531話口下手とコミュ障




「………………」


 ヒラ、ヒラ、


『………………』


 ガガガ、キキキンッ!



「………………」


 ヒラ、ヒラ、ヒラ、


『………………』


 ガガガガ、キキキキ――――ンッ!



「…………はぁ~」


 幾度も弾かれては、何度も放たれる、ジェムの魔物のカマイタチを前に、思わず溜息が漏れ出る。



 現在、囮役の私は、ジェムの魔物に向かって、生足と大人パンツを披露している。

 スカートをヒラヒラさせて、これでもかとチラ見せを繰り返している。


 冷静に考えるとかなり恥ずかしい。

 空中で、しかも魔物に対して、女の色気を振り撒いているなんて。


 こんな姿知り合いに見られたら、間違いなく引き籠る自信がある。

 それこそ立ち直るまでに、優に5年はかかるだろう。


 だからと言って、止めることはできない。

 囮役を承諾した以上、最後までやり遂げるのが、私の役割だから。



『…………そうは言っても、正直、ね?』 


 派手に見せないように、マヤメの言いつけ通りにスカートを捲っていたが、それも途中から些か飽きて、今は作業のようにヒラヒラしているだけだ。


 最初は羞恥心が頭の片隅にあったが、そんな感情はもう霧散した。

 かれこれ10分以上も続けていれば、誰しも慣れるだろう。


 ただそれでもわかったことが二つある。

 ジェムの魔物が私に対して、執拗に攻撃を繰り返している理由が。



「コイツ、絶対に私の事キライだって」


 同族嫌悪なのか、対抗心なのか、ヒラヒラさせるたびに、攻撃が激しくなる。

 マヤメは求愛行動とか言ってたが、どう見ても殺意しか感じない。



「まあ、マヤメはわかってたぽいよね? この行為が挑発だってことは」  


 ヒラ、ヒラ、ヒラ――――


 戦う意思も、素振りもないこの行動が、ジェムの魔物にとっては、煽られているように映るのだろう。

 私だって、敵がそんな行動をしてたら、同じ反応になるはずだ。

 


 それとわかったことがもう一つ。


 それは――――



「ふえっ!? わ、わたしがでしゅかっ!」

「ん、違う。マヤが先に行く」

「じゃ、じゃ、その後であれを放てば――――」

「ん? それじゃ逃げられる」

「だったら、マヤメさんが先に逃げて……」

「ん、でもそうなると、ジーアが――――」

「え?」

「ん?」


 会話が自然と途切れ、お互いの顔を見て、首を傾げるマヤメとジーア。

 


「はぁ~、いつまで続くんだろう、あの作戦会議……」


 眼下にいる、そんな二人の様子を眺めて、また溜息が出る。

 もうかれこれ10分近くも、二人の話し合いが続いていたからだ。


 どうやらマヤメとジーアは、相性があまりよくないらしい。

 いや、相性っていうか、意思の疎通が上手くできていない。

 

 そもそもマヤメは、コミュニケーションが得意な方ではないし、言葉足らずで説明がわかりにくい。ジーアはジーアで、戦闘に関すると知識と経験が浅く、自己主張もあまりしない。

 

 だからか、お互いに言いたいことが伝わらないし、伝えられない。

 口下手とコミュ障じゃ、細かい話し合いは難しい。


 もっと根本的な事を言えば、お互いの事を知らなさすぎる。

 相手の性格や能力を把握していなければ、いい作戦など立てられない。



『まあ、それでもマヤメはやる気だし、ジーアも今までで一番気合が入っているのはわかる。だからもう少しだけ我慢してみようか』


 口出しするのは簡単。

 だけど、それでは二人の想いや覚悟がないがしろになる。


 特にマヤメは自分の為ではなく、私を想って行動している節がある。

 私が感じていた不安を察し、代わりに戦おうとしている。



「お、やっと終わったかな? どんな作戦を立てたかわからないけど、あまり無茶はしないでよね」


 だからもう少しだけ、見守ることに決めた。


 二人の関係が、今だけではなく、今後ももっと続くことに期待して。




――――――



 ※マヤメ視点



『ん』


 シュンッ――


「しゅ、しゅごいですっ! わ、わたしもっ…………」


 ナイフをジェムの魔物に向かって投擲し、その影に潜ったマヤメ。 

 ジーアはそれを驚きの顔で見送った後で、目を閉じ、慌てて何かを呟き始めた。



『ん? 呪文を唱えてる? やっぱりナジメとは違う?』


 ジーアの魔法を皮切りに、自分が仕掛ける作戦だったが、手ほどきを受けていたナジメと違って、詠唱を始めたジーアの行動にちょっと戸惑う。



『ん、あれはナジメが凄いだけ。なら――――』


 比べても意味はない。だから思考をすぐに切り替える。

 そもそもジーアはナジメほど鍛錬してないし、戦闘に対する経験値も低い。


 それでもジーアの優秀さは知っている。

 さっきのおびただしい数の火球もそうだが、初対面で見た魔法も凄かった。



『――――なら、ジーアの準備が終わるまで、マヤが時間稼ぐ』


 だから今は一先ず、単独で挑むことにした。





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