第530話作戦会議と子供パ〇ツ
「あれのどこが求愛行動? もの凄くやる気満々なんだけど」
ガガガガ、キキキキンッ!
上空から絶え間なく、真空の刃を飛ばし、その全てがスキルに弾かれるが、それでも攻撃の手を緩めない、蝶型のジェムの魔物。
誰が見ても敵意を剝き出しにしてるとしか見えない。
あんなアプローチを受け入れたら、八つ裂きにされてしまう。
だがそんな行動を、マヤメ曰く、
「ん、メスの前で羽根をはばたかせるのは、蝶の求愛行動の一種」
私とジェムの魔物を見比べて、そう断言した。
「いや、あれ魔物だよっ!? 姿は蝶っぽいけど、本物の昆虫じゃないよっ!」
「ん、でもあの魔物たちは、この山の頂上に集まってた」
「はあっ!? それが一体何と関係あんのっ!?」
次から次へと出てくる、突拍子もない話に、思わず声が大きくなる。
「高いところに集まるのは蝶の習性。だから頂上に集まった。きっと蝶を元に創られたその名残がある。それと澄香に求愛する、最もな理由もある」
「習性? まぁ、そっちはいいや。どうせ聞いても確認のしようがないし…… で、その私にだけアピールしてくる理由ってなに?」
そう、ここが気になる。
なんで魔物なんかに気に入られなきゃならないのか。
「ん、そんなの簡単明瞭。澄香が美人だから」
「え? そんな面と向かって言われると、ちょっと照れ――――」
る、よね?
美人な私から見ても、マヤメは不愛想だけど、かなりの美少女だし。
そんな同性にハッキリと言われるとね。
「蝶のメスとして」
「………………はい?」
「ん? だから蝶のメス――――」
「いや、もうその流れはいいよっ! ってか、それ理由になってないってっ!」
褒められた途端に落とされる。
なんだよメスって。
捉え様によっては生々しい単語だけど。
「ん、理由? だって澄香の格好が蝶だから」
「いや、それブーメランだって、マヤメだって羽根あるじゃんっ!」
リュックから生えている、黒蝶の羽根を指さして反論する。
それが理由なら、私だけってのはおかしい。
「ん、でもあのジェムの魔物はマヤを攻撃した」
「はい? なに突然?」
「きっとお気に召さなかった。ジェムの魔物の好みと違うから」
「好み? そんなのあるの?」
「ん、ある。きっと澄香みたいな子供が好み。もっと詳しく言えば、その平たい――――」
「好みって、それはマヤメの勝手な憶測だよね?」
ある部分を凝視しながら、説明を続けるマヤメに割って入る。
このまま続けても、不毛な争いになるだけだ。
「はぁ~ で、結局、なにが言いたいの? なにかあるんでしょう?」
この状況下で、こんな話をしたのには何か意味がある。
なのでさっさと話しの先を促す。
「ん、だから澄香には囮になってもらう。その美貌で引き付けて」
「美貌って、なんか皮肉に聞こえるんだけど、それじゃ、誰が戦うの?」
「ん、それは、マヤ――――」
「わたしでしゅっ!」
「え? あっ!」
眼下から、聞きなれた声がこっちにまで届いた。
その甲高い声の持ち主は、もちろん、
「ジーアっ! だってもう魔力がっ?」
「もう大丈夫でしゅっ! これで回復したでしゅっ!」
ブンブンと手を振る、ジーアの手には『バイタリティポーション』【S】が握られていた。
それは、村に帰るクロの村のみんなにと、ジーアに渡したものだ。
その中の一本を確保しておき、たった今回復したって事だろう。
『ふふ、なんだかここにきて、二人には驚かされてばっかだよ。なら任せてもいいかなって思うぐらいに、変に期待しちゃうよね? 何かあれば私も加わればいいし……』
二人が無茶なことを言っているのはわかる。
けど、色々と予想外な二人だからこそ、その成り行きを見たくなる。
『これも仲間がいる醍醐味なんだろうな。ガムシャラにプレイしてた、あの頃を思い出しちゃうよ。それにちょっとした縛りプレイみたいだし』
私が万全な状況で、私抜きの戦闘など、今まで経験した事などない。
だからこそ挑戦したくもなるし、クリアした時の喜びも大きいものになるだろう。
『なら私は立派に役割をこなしてみせるよ。それでも気を抜くことはしないし、何かあれば割って入って、私が何とかする。それにしても囮ってどうするの?』
今まで囮なんて経験ない。
向かってくる敵を、有無も言わせず排除してきただけだから。
「あのさ、私は何すればいいの?」
なので素直に聞いてみる。
立案者はマヤメだし、そのやり方も考えているだろうし。
「ん、澄香もアピールする」
「アピール? ああ、これか」
パタパタと、ジェムの魔物の真似をして、小刻みに羽根を動かす。
「ん、違う。それはオスのやり方。メスは――――」
シュル
「えっ!? あっ!」
バサッ!
私の足元に目を向けるマヤメ。
そしてテンタクルマフラーを操作し、一気にスカートを捲り上げる。
そうなると必然的に、肉感的な脚線美と、セクシーな下着が露わになってしまう。
「ちょっとっ! いきなりなにするのっ!」
バッとスカートを押さえ、そんなマヤメに抗議する。
「ん、これがメスのやり方。中身をアピールする。今日はウサギ」
「いやいやいや、絶対に嘘だよねっ! そんなのわかるわけないよねっ!」
人族ならまだしも、いくら私の色気が限界突破しているからって、さすがに魔物にまで通用するとは思えない。
「うわぁ~、スミカさん、意外と子供のおパン――――」
「そこうるさいっ!」
余計な感想を口に出しそうな、眼下のジーアを睨みつける。
私たちよりも下にいたからか、モロに見られたらしい。
「ん、でも今のでも効果あった。興奮して魔物の攻撃が激しくなった」
「え? 本当?」
マヤメに言われて、ジェムの魔物を見上げる。
ガガガガガガガ、キキキキキキキン――――
「…………あ、確かにさっきと違うかも」
飽きもせず、ひたすらカマイタチを飛ばしているが、マヤメの言うとおりに、攻撃の回数が増えた気がする。
「ん、マヤにはわかる。だから澄香は囮をする」
私の呟きが聞こえたマヤメが、更に断言するが、どこか違和感を感じる。
『う~ん、なんか――――』
意固地になってるような気がする。
何かしらの理由をつけて、私抜きで戦う意思が強過ぎる。
なのでここは一度折れ、詳しく聞くことにした。
「…………わかった。なら私は何をすればいい? それよりもマヤメはどうやって戦うの? 相手は空だし、左肩だってケガしてるでしょ?」
「ケガなら問題ない。ん」
シュッ
心配する私の前で、マヤメはククリナイフを一振りする。
ただし左腕ではなく、テンタクルマフラーで武器を持っていた。
「ほぉ、また随分と器用だね。でもそれじゃ飛べないでしょ?」
「ん、それも問題ない。このナイフ(影式壱)は分身できて、ある程度操作できる。だからその影に潜って移動可能」
いらぬ心配するなとばかりに、右手とマフラーでナイフを構える。
若干、左肩を庇う仕草を見せるが、表情にはおくびにも出していない。
「そこまで言うなら二人に任せるよ。でもヤバいと思ったら、直ぐに加勢するから。 まぁ、そんな事態にならない方がいいんだけど」
「ひゃっ!?」
ジーアの乗ったスキルを、私たちの近くに移動しながら返事を返す。
「ん、それでいい。澄香は強いけど、全部の魔物と戦う必要なんてない。英雄も消耗するし、チカラを
「そう、だね。ならお願いするよ。ジーアは魔法壁の中から攻撃してもらうから」
「は、はいでしゅっ!」
マヤメとコンビを組む、ジーアに視線を向けると、上擦った声で返事が返ってきた。
ご褒美の為とはいえ、かなり緊張しているみたいだ。
「じゃ、私はジェムの魔物を相手に囮役を引き受けるよ。で、結局私はどうするんだっけ?」
肝心な事を聞いてないことを思い出した。
マヤメのケガの話から逸れたままだった。
「ん、さっきマヤが教えた通りにやる」
「さ、さっきって?」
「ん? 知ってて聞いてる?」
シュルとスカートめがけて、またマフラーが伸びてくる。
「っと、危なっ! って、本当にそれやるのっ!」
咄嗟にスキルでスカートを守りながら、もう一度確認する。
「ん、澄香はスカートをヒラヒラさせ、中身を見せる。そうすれば魔物は釘付け」
「ふ~ん…………」
「んっ! でもモロはダメ。ちょっと見えるぐらいが興奮する」
「………………」
「あ、あと、ちょっとポーズを変えるっ!」
「………………」
無言を貫く私に、どこか焦ったように説明を続けるマヤメ。
段々と声が大きくなり、ジト目がいつもよりも開いていた。
本音を言うと、かなり嘘くさいとは思ってはいるが、マヤメはマヤメで、何か思うところがあるのは間違いない。だから――――
「はあ、もうわかったよ。マヤメの言うとおりにするよ。別に、魔物に見られても恥ずかしいってわけでもないし、それとここにいるのは女性ばかりだしね」
スカートをヒラヒラさせながら、マヤメの作戦に乗ることにした。
不謹慎ながらも、二人がどう戦うか、ちょっと興味があるのはここだけの話だ。
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