第529話ジェムの魔物の謎行動




『………………』


 グイッ


「い、痛いっ!」


 私の目の前まで降下し、ジーアを持ち上げるジェムの魔物。

 そんなジーアは右の手首を掴まれ、その痛みで悲鳴を上げる。

 


「なに? また獲物自慢したいの?」


 魔物の動きとジーアを見ながら、慎重に声を掛ける。

 言葉が通じるかは不明だが、今までとは何かが違う。

 


『さっきのマヤメの時も思ったけど、一度姿を消しておいて、わざわざ近くに来る意味が分からない。あの動きなら、ここから離れて、マヤメもジーアもどうにかできたはずなのに、なぜ?』


 余裕を見せているのか、力の差を見せつけたいのかは不明だが、この行動が読めない。

 今までは現れたと同時に、問答無用で仕掛けてきた。


 ただ現段階で幸いなのは、ジーアはマヤメのようにエナジーを奪われていないようだった。魔力が枯渇し、衰弱したあの状態で、吸収されたら命に係わる。

 かなり不本意だが、その謎の行動によって、二人とも無事なのは確かだった。



「で、結局何がしたいの? 何もしないならジーアを放しなよ」


 無機質な二つの複眼に向かって声を掛ける。

 返答は期待していないが、何かしら反応すれば、その隙を突ける。


 

『………………』 


 ファサッ


 話しかけた途端に、黒い羽根を広げつつ、握っていたジーアの手も放す。


「ひゃっ!?」


 唐突に空中に放り出され、バタバタと暴れるジーア。



「って、なんでっ!?」


 すぐさま落下を始めるジーアをスキルで覆う。


 ドスンッ


「ぎゃぴっ!」

「あっ!」


 スキルの中に落ちたはいいが、すぐさま悲鳴を上げる。

 どうやらお尻から落ちたようで、涙目でお尻を擦っていた。


 咄嗟の事で『Gホッパー』が間に合わなかったのだから仕方ない。

 地面に叩き付けられるよりかはマシだったけど、心の中でゴメンと謝る。



「どういうつもりかわからないけど、これで――――」


 タンッ


 マヤメのいるスキルから飛び出し、ジェムの魔物に向かって跳躍する。

 両手にはなんちゃって短剣を装備し、一気に間合いを詰める。



『…………』


 キュ ン――――



「それは予測済だってっ!」


 ヒュッ!


 攻撃が当たる直前で、姿が消えたのを確認し『spinal脊髄 reflex反射(改)』の派生形で、避けた方向に短剣を放つが、



 キュ ン――――


  

「はぁっ!? また消えたっ!」

「んっ! 澄香っ!」

「え? マヤメ? 目が覚め――――」

「んっ! そんなのいいっ! アイツは上っ!」


 目を覚ましたマヤメの声で、即座に上空に目を向けると、



 ヒュヒュンッ

 ガガガガ、キキキキンッ! 



「くっ! またっ!」


 再び襲い掛かってくるカマイタチを、何とかスキルで防ぐ。

 羽根を小刻みに揺らしながら、息つく間もなく連続で放ってくる。

 


「そんなそよ風みたいな攻撃、いくら撃ったって、こっちは傷一つ付かないってっ! 次はこっちの番っ!」 


 ジェムの魔物の背後に、電柱の大きさのスキルを展開し、射出するが、



 キュ ン――――



「もちろん、それもわかってるってっ!」


 ギュンッ! ×10


 『分割』を使い、避けられたスキルを10機に増やす。

 そして後ろ斜め上空に向かって、一気に射出するが、これも、



 キュ ン―――― 


 ガガガガ、キキキキンッ! 


「ちっ!」


 難なく避けられ、再度上空から、カマイタチの攻撃を受ける。



『ったく、読みは当たってたのに、本当にあの機動力は厄介だよ』  


 動きを追うことは適わない。

 だから先読みして、攻撃を仕掛けたがそれも躱された。


『癖なのか習性なのかわからないけど、必ず私の上から仕掛けてくる。だからそれにカウンターを合わせて撃ってるんだけど、並みの速さでは簡単に見切られる。これじゃまるで――――』


 ふと脳裏に、あのピンクの魔法幼女の姿が浮かぶ。 

 あの幼女も見えないはずの攻撃を、何度も避けていた。


 ただあの方法は、フーナみたいな膨大な魔力を持った者しかできない。

 何せ、魔力を大気中に放出し続けて、その流れを感じ取って避けていたからだ。


 


「ん、澄香っ! こっち来て」

「マヤメ?」


 私よりも低い位置にいるマヤメに呼ばれる。

 そんなマヤメは肩を抑えながら、ジェムの魔物を神妙な顔つきで見ていた。



「なに? どうしたの」


 スキルで攻撃を防ぎながら、マヤメの元に着いたところで『連結』する。


「ん、ちょっとわかったことがある」

「わかったこと? それよりもケガは?」

 

 右手で押さえている、マヤメの左肩に視線を移す。 


「ん、これ澄香が?」

「そうだよ。まだ完治してないと思うけど」


 手の下から覗く、リペアパッドを見ながら答える。


「ん、もう治った」

「いや、そのアイテムが残ってるうちは治ってないから」

「ん?」

「そのアイテムは、修復が終わったら自然と消えるものなんだよ」


 驚いた様子でリペアパッドを眺めるマヤメに説明する。

 効き目とその効果とその後について。



「ん、でも痛みは殆どない。それに澄香だけに戦わせたくない」  

「その言葉は嬉しいけど、あまり無理させたくないんだよ」

「ん、でもマヤはもう大丈夫」


 押さえていた手を放し、肩をぐるりと回すマヤメだったが、


「んっ!」

「ほら、まだ治ってないじゃん。だから――――」


 すぐさま痛みで顔をしかめて、左肩を押さえる。


「ん、でもマヤは戦える。それとわかったことある」

「わかったこと? ああ、さっきもそう言ってたね」


 だからマヤメに呼ばれて合流したんだっけ。


「ん、あのジェムの魔物は、澄香の事が好き」

「………………はい?」


 唐突に予想外な事を言われ、マヤメの顔を見たまま固まる。


「ん? あのジェムの魔物は、澄香の――――」 

「いや、聞き直したわけじゃないってっ! ちょっと面食らっただけだよっ!」

「ん? 澄香は面食い?」

「違うよっ! 驚いたって言ってんのっ! で、その根拠は何なの?」


 聞いても意味ないと思いながら、一応確認する。

 ただそんな私の心中とは反対に、マヤメの目は真剣だった。



「ん、あの魔物は、獲物を澄香に見せにきた」

「獲物? ああ、マヤメとジーアの事?」

「ん、そう。マヤたちに止めを刺すこともできた。なのに」

「そう、だね。それで?」


 確かにその行動には違和感を感じていた。

 なのでここは否定せずに、敢えて話の先を促す。



「ん、あの行動は、好きな相手に自分は強いってアピールしてたか、それか贈り物として、マヤたちを澄香に持って来たんだと思う」


「………………うん」


「それと、あの空気の刃を飛ばす攻撃。あれは求愛行動」


「うん、ん? あ、あれがっ!?」


 マヤメの発言に驚愕し、上空に視線を向ける。

 そんなジェムの魔物は、飽きもせずに、ひたすら攻撃を繰り返している。


 

『あれが求愛行動って、どういう事? それとこんな話をする意図が読めないんだけど…… ま、それが逆に重要な事もあるかもだけど』


 いつものジト目ながら、どこか真剣な眼差しのマヤメ。

 だからこそ、意味があるものだと思い、話を聞こうと思った。


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