第471話蝶の少女vs災害幼女




『マヤメ…… は、かなり頑張っているみたい。まともに受ければヤバそうなのに、よくあれだけの攻撃と重圧に耐えているよ』


 遠目に映るマヤメとメドの戦い。

 黒い影が白い影を何度も襲い、すぐさま離れる。


 何も知らない者が見たら、マヤメ黒い影メド白い影を相手に善戦しているように映る。

 

 けれど実際は、ほぼ全力に近い動きで抑え込んでいるだけ。

 反撃の隙を与えずに、手数で誤魔化しているに過ぎなかった。


 マヤメの動きは鋭く、時折意表のつく攻撃も仕掛けている。

 特異な能力と特殊なアイテムを使い、相手を翻弄しているようにも見える。


 だがその攻撃が届くことはあっても、全くダメージにはなっていない。

 メドの白い肌には、一切の切り傷さえも残ってはいない。


 まるで分厚く強固な『竜』の鱗のように、全ての攻撃が弾かれていた。



『このままだとマヤメが持ちそうにない。メンタルもそうだけど、先に体力が尽きちゃう。なのに、私の相手が想像してたよりも――――』


 単純に強かった。

 メドよりもくみしやすい相手と、フーナを侮っていた。


 超規格外の怪力と、異常なほどの打たれ強さと無尽蔵の体力。


 そして、


 当たれば地形が変わりそうな威力の『災害級クラス』の魔法を使える事までは予想していなかった。


 ただ単に、強いだけなら何ら恐れることはなかった。

 単純で単調な攻撃なら、それだけ御しやすいものだと思っていた。


 ただしその単純な強さが、度を過ぎたものなら話は変わってくる。




「これでも喰らえっ! 『ふぁいあーぼーる』」


 何度か杖での攻撃を避けている矢先、初めてフーナが魔法を唱える。

 宙に浮き、両手を掲げた頭上に、火の魔法が形成されていく。


 『ファイアーボール』


 恐らくそう叫びたかったようだが、発音が怪しく、可愛らしく聞こえた。


 だが、その可愛さとは裏腹に、フーナが放った火の魔法は、直径が20メートルを超える隕石のような炎の塊だった。



「なっ!? あ、あんなの直撃しなくたって余波だけでダメージ受けるってっ! この装備でも防げないってっ!」


 有り得ない規模の魔法を目にし、思わず声を張り上げる。

 非常識な大きさの、炎の塊を前に背筋が凍り付く。



「これなら逃げられないもんねっ! いっけ――――っ!」


 両手をブンと振り下ろし、眼下にいる私にファイアーボールを放つ。


「しょ、正気なのこの子っ! そんなのこんなところで撃ったら、この湿原もただじゃ済まないってのにっ! なら――――」


 迫ってくる巨大な炎球を、黒に視覚化した透明壁スキルに閉じ込める。


「よっ!」

「えっ! わたしの魔法を魔法の壁でっ!?」


 ただし、このままでは魔法の効果は消えない。

 術者の魔力が続く限り、効果はしばらく残り続けるだろう。


 見たところフーナ自身に疲労の色は見えない。

 大規模な魔法を放っても、今まで通りケロッとしている。 


 恐らくこの先も魔力切れは期待できない。


 なら単純に魔法そのものを消滅させることが今は最善。


 何故なら、


「更に縮小っ! そして解除っとっ!」


 透明壁で防ぐよりも、術者への精神的ダメージが大きいだろうから。

 魔法をスキルで覆い、そのまま縮小して消滅させた。



「え? えええええ――っ!? わ、わたしの魔法が消えちゃったぁっ!」


 消滅した魔法を目の当たりにし、作戦通りに唖然とするフーナ。

 空中で立ち竦み、悲鳴に近い甲高い声で叫ぶ。


 因みにこの方法は以前に、リブたちとナゴタとゴナタが戦った時にも使ったやり方だ。あの時の暴走したリブの魔法『大炎蛇』を消し去った時の方法だ。



 ヒュンッ


魔法を破られただけなのに、随分と隙だらけだねっ!」

「え?」


 消滅した魔法に呆然としている間に、皮肉を言いながらフーナの背後を取る。

 20tまで重さをプラスした、なんちゃってトンファーをそのまま叩きつける。


「えっ!? さっきよりも早い、わぎゃッ!」


 隙だらけの背中に攻撃を受け、高速で水面に叩きつけられるフーナ。


 だけど、そんな攻撃さえも意に介さずに、


 ザバァッ!


「ぶっはぁ~っ! わたし泳げないんだから水の中は反則だよっ!」


 水面から顔を出し、頬を膨らませたまま宙に浮くフーナ。

 両手を挙げてプンプンと怒っているだけで、ダメージを受けた様子はない。



「そんなの知らないよ。元々仕掛けてきたのはそっちなんだから。あんたがカナヅチだろうがなんだろうが、何度でも沈めてあげるよ」


「むっき――――っ! もう起こったぞっ!」


 ブンブンと両手を振り回し、怒り心頭のフーナ。

 金切り声を上げ、口を尖らし、睨みつけてくる。



『はぁ、これでもダメージないか。一体どんな体の構造しているんだか。こっちは一撃でも喰らえば、そのままゲームオーバーになりそうなのに』


 恐らくフーナも異なる世界から来た住人。

 なのに同じ異世界人として、この差は大きすぎる。


 攻撃力と耐久力と俊敏性、そのどれもが今の私より遥か上だ。

 魔力に関しては比べる必要もない。そもそも私は魔法を使えないんだから。


 単純な戦力では圧倒的に負けている。

 なのに、そんな相手に絡まれるなんて、厄介を通り越して理不尽だ。



「だからと言って、勝てない理由にはならないんだけどね。そろそろ動きも実力もわかってきたし。それに急がないとマヤメが心配だし。どこかで隙を見て――――」


「ねぇっ! 何か言った―っ! もしかして降参する?」 


 思わず声に出た独り言に、敏感に反応するフーナ。


「何でもないよ。ちょっと心配になっただけだから気にしないでいいよ」


「ほら、やっぱり自分の心配してるじゃんっ! だったら降参するなら今の内だよ? ただし条件があるけどね」


 スキルを足場にしている私の高さまで上昇してきて、そんな提案をしてくる。


「降参はしないけど。その内容によっては少し考えるよ」


 問答無用で仕掛けてきておいて、条件も何もないだろうと思いながらも、何か情報が得られる可能性も考えてみる。


「それでその条件ってなに?」


 それと何かと好都合だとも考えて、内心ではほくそ笑みながら聞き返す。



「あ、あのね、メドには内緒なんだけど……」

「うん」


 何故か周囲を気にしながら小声になる、フーナの話に耳を傾けた。


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