第470話ドラゴン族vs蝶の妹たち その2
ユーア達がエンド相手に善戦している最中、コムケの街から、10数キロ離れたサロマの村では、
「がうっ! 当たったぞっ! こっちがおっぱいの姉ちゃんだっ! あれ? もう一人はどこだ?」
エンドの連れのアドが、冒険者たちの出張訓練の場に姿を現した。
そんなアドは、冒険者たちが追い込んだゴブリンを、建物ごと破壊し、空から地面に降りて、一人の少女を指差しニカと微笑んでいた。
「あ、あなたが、どうしてここに?」
予期せぬ人物の来訪に、反射的に武器を持つ手に力を入れるナゴタ。
それでも戸惑いを隠せないようで、上擦った声で質問する。
「がう? 何だっけかな? ちょっと待ってくれよ。う~ん……」
それに対し、直ぐには質問には答えられずに、何故か悩み始める。
「あ、あのぉ、ナゴタさんのお知り合いですか?」
ここまでナゴタを連れてきた冒険者が、アドと見比べておずおずと口を開く。
「いいえ。違います。ただ一度だけ会っただけです。ギルドの訓練場に顔を出した、二人の子供の内の一人です」
冒険者にはそう答えながら、視線はアドだけを捉えている。
「そうでしたか、それにしても何者ですか? あの威力は普通ではないですよね?」
原型のない建物の瓦礫を見渡して、ナゴタに耳打ちする。
「はい。私はあまり魔法に詳しくはないですが、恐らく氷の魔法で破壊したものと思われます。しかも初級魔法で、数十匹のゴブリンごと破壊しています。かなりの威力です」
「魔法ですか…… だとしても、どうしてあんな子供? いや、成人?」
未だに悩んでいるアドの
「え? もしかしてあの子供が何かわかるんですか?」
「………………え?」
「確かに見た目に不釣り合いな(実力)物を持っていますね」
僅かに頷き、冒険者の話に同意するナゴタ。
「で、ですねっ! 見た目子供なのに相当な物(胸)を持っていますよねっ!」
「はい。見た目は幼いですが、かなりの物(力)を隠していると思われます」
ナゴタは神妙な顔つきになり、冒険者に頷く。
姿形に騙されてはいけないと。
「はい? あ、あれで隠しているんですか? わ、わたしには寧ろ、主張しているように見えるのですが…… 自信の持つ物(胸)をこれでもかと強調しているように」
胸の前で腕を組み、まだ熟考しているアドを見て答える。
その腕からはムニュと巨大な膨らみがはみ出ていた。
「はっ? あなたはあの子供の正体がわかるのですかっ! 私はまだ推測の域を出ないと言うのに」
冒険者の返答を聞き、驚きの声を上げるナゴタ。
今まで培ってきたBランクとしての勘よりも明確な答えに。
「は、はいっ? しょ、正体も何も、そんな物(胸)一目見れば――――」
チラとナゴタの巨大な物を盗み見て、僅かに顔を赤くする。
誰でも気付かない訳が無い程の、たわわに育った巨大な物を。
「あ、あなたは一目であの子供が何者かを――――」
「え? 何者?」
二人の話が嚙み合わない、そんな矢先に、
「ナゴ姉ちゃ――――んっ! あの魔法は何だいっ!」
妹のゴナタが手を振り走って来る。
その後ろにはいなくなったルーギルも着いてきていた。
「うわっ! また現れたっ!」
そして先頭を走る、ゴナタの揺れる物を見て、また顔を赤らめる冒険者。
「はい? またって、一体どういう事ですか? 他にはそれといった気配は感じませんが」
「い、いえ、わたしの勘違いでした。なので気にしないで下さいっ!」
「? そうですか。また何かあれば直ぐに知らせて下さい」
「は、はい」
「で、さっきのは一体何だったんだい? あれ? なんであの子供がここにっ!」
ナゴタたちと合流したゴナタは、立ち竦むアドを見て目を見張る。
「理由はわからない。けど、私たち姉妹に用事があるのは確かよ」
「ん? どうしてだい?」
「私を見た時に、もう一人がどうとか口にしていたから」
「ならその一人はワタシって事か。ふ~ん、どうしてだろうな」
腕を頭の後ろで組み、どこか楽し気にアドに視線を移すゴナタ。
疑問に思いながらも、何かを期待しているようだった。
「がうっ? これで二人来たなっ!」
合流したゴナタに気付き、組んでいた腕を下げるアド。
「その言い方ですと、私たち姉妹が揃うのを待っていたようですが?」
ようやく口を開いたアドに疑問を投げかける。
「がう? ああ、違うぞ。デカい物(匂い)がきたから気付いたんだぞ」
どこか得意げに胸を張り、そう主張するアド。
その際にブルンと巨大な物まで、その存在を主張する。
「ナ、ナゴタさん、やはりあの子供は只者ではないですよっ! あの幼さで、ゴナタさんたちと引けを取らないなんてっ!」
そして見当違いの方向に驚愕する冒険者。
アドと姉妹の凸の部分に目を奪われている。
「それはわかっています。いや、それ以上だと私は感じています。なのであなたたちは一旦訓練を止めて、街に戻ってもらえますか?」
「え? それは一体どういう事ですか?」
「恐らくひと騒動ありそうです。なのでルーギルと一緒に他の冒険者たちを連れて帰って下さい。それでいいですよね?」
ここまで大人しく聞いているだけのルーギルにも同意を求める。
「んあッ? そうだな――――」
「がう? なんだルーギルもいたのかっ!」
「あんッ? 何を今更」
ここでようやくルーギルの存在に気付いたアド。
あっと小さく口を開けて指を差す。
「がう。誰かがいるのはわかってたんだ。だけど小さくてわからなかっただけだぞ。名前を聞いて気付いたんだからな」
「はぁ~、相変わらずだな、お前はよぉッ」
やれやれと言った様相で、肩をすくめるルーギル。
「がうっ! だって仕方ないだろっ! そのおっぱいの姉ちゃんたち以外は、みんな小さいんだからなっ! 直ぐには気付かないんだぞっ!」
ルーギルの態度に馬鹿にされたと思ったのか、頬を膨らませ怒り出す。
「それであなたはここに何しに来たんですか?」
「そうだぞ。それともう一人の子供はどうしたんだい?」
憤慨するアドに見かねて、話題を変えるナゴタとゴナタ。
「がう? 同時に聞かれても答えられないぞ?」
「なら先に、もう一人の連れは今日はいないのですか?」
「黒いドレスを着た子供はどうしたんだい?」
「がう。エンド姉ちゃんはここには来てないぞ。コムケの街にいるぞ。それよりも聞きたい事があるんだ。俺も答えたから良いだろ?」
交換条件とばかりに、ナゴタとゴナタに問い掛ける。
「はい。答えられる範囲でなら構わないですよ」
「うん、何が聞きたいんだい?」
「がう。ルーギルはまだマシとして、なんでお前らはあんな雑魚とつるんでいるんだ。そこそこの物を持ってそうなのに」
ここから少し離れて様子を伺っている、冒険者たちを見ながら話す。
その目はナゴタたちを見る目とは違い、どこか蔑む様に目を細めていた。
「………………何が言いたいんですか? 意図が分かりませんが」」
「がう? なんでわからないんだ」
「何を基準にして、雑魚と呼ぶかです」
「そんなの弱いからだぞ。なんで弱いのと一緒にいるんだ」
さも当然と言った様子で、集まっている冒険者たちを指差す。
「「っ!………………」」
その台詞に、にわかにいきり立つ冒険者たち。
ハッキリと、しかも子供に言われて剣呑な空気に変わる。
「なんであなたはそんな言い方――――」
「あのさ、誰だって最初は弱いだろ? だからワタシとナゴ姉ちゃんはみんなと訓練に来たんだ。なのに弱いって言うのはおかしいぞ?」
ナゴタの話を遮り、妹のゴナタが面と向かってアドに話す。
温厚なゴナタにしては珍しく、声に力が籠っていた。
それに対し、アドは、
「訓練? それだって無駄だぞ。人族なんていくら訓練したって弱いって昔から決まってるんだからな。短い寿命で頑張ったってどうにもならない差があるんだぞ」
心底それが真理だと言うように、事もなくそう返す。
「はっ! お前は人族とか差があるとか何を基準に言ってるんだっ! ワタシたちはこうやって強くなってきたんだっ! 追いつこうと願って、追いかけると決めて、ガムシャラに頑張ってきたんだっ! なのに――――」
ポン
「ゴナちゃん、落ち着いて」
アドの返答に激昂するゴナタに、肩に手を掛けて宥めるナゴタ。
「で、でもさ、ナゴ姉ちゃんっ! あの子供が――――」
「わかっているわ。私の気持ちも同じだから。でもまだ何も聞き出せてないのよ。目的もその正体についてもね。ゴナちゃんもお姉さまや私を目指すなら、感情に流されて短絡的に動くのではなく、少しでも情報を聞き出す冷静さが大事よ」
「う、うん、そうだなっ! ごめんな、ワタシったら……」
「ううん、別に全てを責めている訳ではないわ。それだってゴナちゃんのらしさだし、お姉さまもきっとそう思っているはず。だから無理に変える事はないわ。ただ、今がその状況じゃないって事を分かって欲しいの」
「うんっ! ならここからはワタシに任せてくれっ! お姉ぇやナゴ姉ちゃんみたいになりたいからなっ!」
ナゴタの諭され笑顔になり、アドに向き合うゴナタ。
いつもの調子に戻りながらも、目だけは真剣なものに変わっていた。
「アイツはアドだッ。この国のAランク冒険者のフーナの家族のなッ」
唐突に話に割って入り、アドの事を説明しだすルーギル。
「いきなりなんだよルーギルっ! 今はワタシが子供と――――」
「はっ!? この子供が?」
「そうだッ! さっきも俺の事言ってただろうッ? 俺は昔に会ってるんだよッ。フーナとパーティーを組んだ事もあるしよぉッ」
「あ、あなたが、あの『災害の魔法使い幼女』と呼ばれた、冒険者と?」
「まじかっ! あのルーギルがAランクとパーティーなんて」
ルーギルの突然の暴露話に、驚くナゴタとゴナタ。
「まぁ、もう10年前以上前の話だッ。ってか、あのルーギルってなんだよッ。ゴナタ」
「あはは――っ! ごめんなっ!」
「それはもういいぜッ。お前らからしたら俺なんてそんなもんだろッ。イチイチ気にしちゃいねぇよッ。でだ、アイツの目的はハッキリしてるぜッ」
ギラついた、とでも言うか、口角を上げながらアドをひと睨みする。
その視線は他の冒険者のように、憤りを含んだものに見えた。
「がう? 何だよ。俺の目的ってルーギル」
会話が聞こえたのだろう。
アドが口を挟んでくる。
そもそもわざと聞こえるように話していたとも見える。
「ケッ! そんなの誰でも知ってるぜッ? ギルド長クラスの者ならなッ!」
「がう? そうなのか?」
「ああ、お前は狩りに来たんだろうッ? この街の冒険者をよぉ」
「がう?」
「お前とエンドの噂は俺の耳にも入って来てんだよッ。街一番の冒険者を狩って、主人であるフーナをもっと世間に認めさせたい事ぐらいはよぉッ」
「ルーギルっ! それは一体どういう事ですかっ!?」
「うん、うんっ!」
冒険者を狩る。
その単語に敏感に反応する姉妹。
「そんなの単純明快だッ。実力のある冒険者に勝ったアドが、そのフーナに負けたって事は、フーナが一番強いって事を証明したいんだろッ、幸い重傷者はいねえらしいけどよッ」
「はぁ? そんな間違ったやり方で証明されたって、フーナさんは」
「うん、うん」
「それもそうだがッ。アイツらはそこら辺の感覚が普通じゃねぇんだッ。強いものが全ての種族だかんなッ。これも一種の本能みたいなもんだろうよッ。強者には従う。それが主人の意志とは違くてもよッ」
アドに視線を向け、吐き捨てるように言い切る。
「がうっ! ちょっとだけ当たりだぞルーギルっ!」
それとは対照的に、少し悩んだ仕草の後、あっけらかんと答えるアド。
「だから俺も参戦するぜッ! この街の冒険者をコケにした事が許せねえからなッ!」
こうして『元・冒険者狩り』と『現・冒険者狩り』との戦いの火蓋が上がった。
若干場違いなルーギルが含まれる形で。
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