第472話更に激怒する災害幼女




「あ、あのね、あのね、蝶のお姉さんって、可愛い子たちを、か、囲ってるんだよね? 孤児院ってとこに」


 フーナの提案はそんな質問から始まった。

 小声で、妙にそわそわしている理由はわからないけど。


「? 可愛い子たちを……」


 囲ってる?

 ああ、確かに柵の中に囲っているね。

 

 孤児院に20匹ほど飼っているよ。

 ナジメが敷地内に大きな池を作ってくれて、その中に可愛い子たちがいるね。



「うん、孤児院で飼っているよ。20匹」


 スイスイと池で泳いでいる、可愛いキューちゃんたちを思い浮かべて答える。


「飼っているっ!? しかも匹ってっ! 何人じゃなくてっ!?」


「うん、この前、ウトヤの森から連れてきたんだ。1匹はここに連れてきたから孤児院にいるのは19匹だけどね」


「も、森から連れて来たって、それって誘拐じゃ…… しかもここに連れて来たのは、あのメドに似た美少女だよね……」


 マヤメたちのいるだろう方向を見て呟いたが、最後が小声で聞き取り辛い。

 でも冒頭の話で勘違いしているのは確かだ。誘拐って言ってるし。



「ううん、違うよ。ちゃんと然るところで許可取ったから。でも食べるのはさすがに可哀そうに思う時もあるよ」


 なので訂正と同時に、一応本音も伝えてみる。


「た、食べるっ!? やっぱりあの美少女も食べちゃったんだ…… ゴクリ」


「そりゃ食べるよ。せっかくのご馳走なんだから。昨日も食べたし」


 あしばり帰る亭で食べたフルコースを思い浮かべる。


「や、やっぱりあの宿で、二人が一つに…… ジュル」


「まぁ、いくら愛玩動物でも、食用なんだから割り切るしかないよ」


 そうじゃないと、情を持った生物なんて食べれないし。

 そもそも生物自体は、何かを捕食して生きているんだし。



「えええっ!? みんなを動物扱いっ! しかも食用ってっ!?」


 意味の不明なところで仰天するフーナ。

 心なしか肩がフルフルと震えているように見える。



「だって仕方ないでしょ? 本人たちにそのつもりがなくても、実際は飼われて(湿原で)食用として生まれてきたんだから」


 ここから離れた、一部の養殖地を眺めてハッキリと告げる。

 フーナの気持ちもわかるけど、産業として既に成り立っている訳だし。

 

 なんて、間違ったことは言ってないはずだけど……


 

「や、やっぱり、さっきの話は無しにするよっ! 可愛い子たちを誘拐してきたり、食用だなんて食い物にする奴は絶対に許さないもんっ! みんなが可哀そうだよっ!」


 突然両手を挙げて、唐突に怒り狂うピンクの幼女。

 目も血走り、歯を剥き出し激昂する。


 なんだけど、


「いや、いや、あんただって遊び半分でみんなを狩ってたでしょっ!」


 矛盾した答えに、すぐさま突っ込む。


 私がここに来た理由がそもそもそれだ。

 狩り禁止の区域で、ゲーム感覚でキューちゃんたちを狩っていた。



「はぁっ!? わたしは飼ってないもんっ! どっちかって言うと飼われてるもんっ! ずっとお小遣い制だし、お風呂だって別々だもんっ!」


「いや、余計なに言ってるか分からないからっ! 実際に狩ってるの見てるしっ! そもそも狩われてるってなんなの? お小遣いも意味不明だからっ!」


 支離滅裂な内容に、フーナに釣られて大声で捲し立ててしまう。


 

「うるさ―――――いっ!! もう本当に頭きたからねっ! これからは本気で行くからねっ! パンプ〇・ピン〇ル・ト〇ポップンッ!――――」


「え? もしかして魔法の詠唱なの?」 


 ここにきて、魔法を唱え始めたフーナの行動に戸惑う。

 今までは詠唱など無しで、大規模な魔法を放っていたのに何故と。



『どうするこの隙に仕掛ける? でも迂闊に手を出しにくいのも事実。この状況で時間のかかる魔法を使うってことは、何に影響が出るかわからないし』


 フーナって子を例えるならば、びっくり箱みたいなもの。

 行動も言動も魔法も、予測不能で何が出るかわからない。


 それとサイズの合わないダボダボなローブと身長の2倍以上ある杖。

 これも何の意味があって装備しているのかもわからない。

 さっきの提案も、結局その意図はわからずじまいだった。


 だから用心するに越したことはない。

 不思議を通り越して、もはや得体の知れない存在だからだ。


 そもそも私の戦い方が、相手を分析し、予測を立てて、後の先を取る戦い方。

 敵の能力や癖を解析し、そこに活路を見出す戦略が主だ。


 だからここで手を出すのは得策ではないと判断した。


『なんてのは建前で、フーナの本気が見たいってのが本音だよね。今まででも充分、驚異的な実力だったけど、更に上があるなら見たいのは、ゲーマーとしてのサガだよね』


 詠唱とともに、キラキラした、何かに包まれ始めたフーナ。

 自身の頭上に現れた魔法陣から降り注ぐ、淡い光を浴びている。 



「さぁ、何が出る? ただの攻撃魔法なら透明壁スキルで相殺するんだけど…… でも違うっぽいね。自分に魔法をかけてるってことは、ステータス上昇系かな?」


 鬼が出るか蛇が出るか。

 胸躍る期待感と、相反する危機感が脳内を占める。


「――――ペ〇ッコ・ラブ〇ン・クル〇ル・〇ンクルッ! 〇〇になあれっ!」


 そして、詠唱が終わると同時に、眩い光が弾け飛び、姿を現したのは――――



「ジャジャジャジャーンっ! この世全ての幼女は私の嫁っ! その嫁たちをいじめる奴らは許さないっ! 魔法少女フーナちゃん参上っ!」


 それは、ダボダボだったローブを着こなしたフーナだった。

 変身する前に比べて手足が伸び、見た目は10年ぐらい成長した姿だった。


「あ~」


 ただし、胸だけは大人にならなかったようで、しぼんだままだったけど。



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