第473話災害幼女のコンプレックス?




「――――パンプ〇・ピン〇ル・ト〇ポップンッに、ペ〇ッコ・ラブ〇ン・クル〇ル・〇ンクルッ! おとなにな~れっ!!」


 どこかで耳にしたような謎の詠唱を終え、眩い光の中から現れたのは、大人になったフーナ、もとい――――



「この世全ての幼女は私のものっ! いじめる子は折檻しちゃうぞーっ!」 


 特殊な趣味を恥ずかしげもなく前面に出した、ただの変態だった。 


「………………はぁ」


 しかも決めポーズなのか、持っていた杖をライフルに見立てて『ドヒューンッ! これであなたもロックオーンッ!』とかノリノリで言ってるし。

 なんかひと昔前のアニメの登場台詞みたいだ。

 


「さぁ、私が本来の姿になったからには―― ぶぎゃっ!」


 まだ続く前口上を聞く必要もないので、背後に回り込み思いっきり蹴り飛ばす。

 そんなフーナは水面と平行に数十メートル飛ばされる。



「痛たた~、ちょっとまだ私のセリフの途中なのにって、消えたっ!?」


 体勢を難なく立て直し、今度は私の姿が見えない事に驚いている。


「こっちだよ」


 ドガッ!


「え? ぼぎゃっ!」


 キョロキョロしているフーナのお腹に、更に追撃として回し蹴りを打ち込む。

 それでもダメージはないようで、数十メートル飛ばされたところで宙に留まり、険しい表情でキッと睨みつけてくる。



「もうっ! さっきから卑怯だよっ! 背中蹴ったり消えたりして攻撃してくるなんて、悪者にやることだよっ!」


 プンプンと擬音が似合いそうなほど、両手を挙げて激おこのご様子。


「なんの魔法か知らないけど、体は大きくなっても中身は変わらないんだね?」


 手足がスラリと伸び、顔つきも凛々しくなったフーナを見下ろす。


 そんなフーナはダボダボだったローブをキチンと着こなす程に成長していた。

 プランプランとしていた袖も、引きずっていた裾もジャストフィットしていた。



『もしかしてこれが本来の姿? 魔法で制限解除したって事?』


 ちんまい幼女からスレンダーな高身長美少女に変貌したフーナ。

 ただおつむが残念なのは変わっていないようだった。



「ねぇ、その姿って元々のなの?」


 マヤメの説明によると、フーナは20年以上前から冒険者を続けている。

 なら今の姿が本来の姿なのかと尋ねてみる。



「うん、そうだよ。なんで?」


「いや、随分と大人な姿になったなって感心しちゃってさ。しかも美人だし」


「そ、そうかな? でも蝶のお姉さんも素敵だよ? ロリカッコ可愛いし…… ポッ」


 褒められたのが嬉しいのか、クネクネとしながら上目遣いで答える。

 そして社交辞令なのか、私の事もお返しとばかりに褒めてくれる。


『何なの? ロリカッコ可愛いって、色々盛りすぎな気もするけど。それにしても……』


 その涎と潤んだ瞳はなんなの?

 まるで大好きなお肉を前に手を合わせるユーアみたいなんだけど。


 

「でも大人になり切れてない部分もあるね? 特にその平原はそのままなんだ」


 身長が伸びたことにより、更に強調された平らな胸部装甲。

 体型と同じでスラリとしている。


「う、うるさいなっ! ここは気に入ってるからいいんだもんっ! ひんぬーは至高で、ちっぱいは最高なんだからっ! 私の自慢なんだから~っ! むんっ!」


 何故か自信ありげに胸を逸らし、その平坦な胸を強調する。


「はぁ~?」


 いやいや、それは自慢するところでもないだろう。

 胸を張る意味も良くわからないし。



「あ、それともう一つ気付いたことあるんだけど」


「え? こ、今度はなにっ!」


 体を両腕でさっと隠し、怯えたような目でこっちを見てくる。

 なんだかんだで気になってるじゃん。



「フーナってさ、自分の身長にコンプレックスあるでしょう?」


「………………えっ!?」


「だから小さい子に憧れるんでしょう? 変身前の姿も小さかったし、連れているメドって子も小さいし。幼女がどうとか言ってるのもそのせいだよね?」


「うえっ!?」


 本来の姿? になったらしいフーナは元の世界の私よりも高身長だ。

 ロンドウィッチーズのリーダのリブも背が高かったがそれ以上だ。


 アバター前の元の私が160センチ後半。

 リブは恐らく170を超えていた。


「え? べ、別に、コンプレックスなんかないよ?」


 そしてそんなフーナは更に大きく『180センチ』を超えていた。

 


「そう? 私も小さいから大きいのに憧れるんだよね」


 どこが? とかは敢えて言わない。

 今の私はあれだけど、元の私は憧れの対象だったし。富士の山だったし。



「う、ううう~、そ、そうだよっ! 私は女性くせに背が大きくって、子供のころから馬鹿にされてたんだよっ! 電柱女とか女性版ガリバーとか関東平野とかっ!」


 ブンブンと腕を振りながら、その悲惨な過去を涙目で絶叫する。


「そ、そう。それは可哀そうだったね?」


 そこまで聞きたい訳じゃなかったけど、一応慰めを入れる。


 でも電柱とかガリバーはわかるけど、最後のは身長に関係ないよね?

 それと気になる単語も出てきたし。


『まぁ、そっちは大方予想してたけど、今の状況じゃ聞く耳持たないよね? 散々煽っておいていうのもあれなんだけど』


 今のフーナは自分がどこにいるのかさえも、把握できないほど取り乱している。

 そもそも敵だと認識して襲ってきたのだから、今の時点で話し合いは難しいだろう。



「そ、そうなんだよぉ…… 背が他の人より高いってだけで、女性に見られなかったりからかわれたりしたんだよ。だから小さい子に憧れて、それで魔法少女に興味を―――― はっ!? って、いまはそんな話している場合じゃなかったっ!」 


 同情した事により、ツラツラと黒歴史を語り始めたが、ふと慌てて我に返るフーナ。 


「そうだね。確かにそんな話をしている場合じゃなかったね。でもそのおかげで場所も変えられたし、向こうの様子も把握できたから、こっちとしては大成功だよ」


「え? 場所って…… ああっ! いつの間にか水がないっ!?」


 湿原より離れた、草原の上にいることに驚く。


「ああ、変身した直後から隙だらけだったから、こっちに誘導しながら攻撃してたからね。さすがにみんなキューちゃんたちが逃げたとはいっても、あなたの魔法は脅威だからね」


 災害の異名を持つフーナの魔法は、その名の通りに痛烈無比な威力だ。

 透明壁スキルで防げるといっても、範囲を超えたら保護できない。



「そ、そうなんだっ! まぁ、私もワザと誘導されてあげたんだけどね~っ! あの湿原を蒸発させちゃったらさすがに大目玉だしね~っ! あはは~っ!」


 チラりとシクロ湿原を見やり、引き攣った笑いで答える。

 誰が見てもその笑顔の方がワザとに見えるけど。



「まぁ、どっちでもいいけど、その隙だらけのせいで助かった事もあるから、こっちとしてはありがたいよ。あなたの不注意が功を奏したって感じでね。だからありがとう」


 視界の遥か先に、薄っすらと確認できる影を見て頭を下げる。


「ありがとうって言っても、それって褒めてないよねっ!」


「うん? よくわかったね。姿と一緒で少し大人になった?」


「むっき~っ! 元々大人だもんっ! もう本当に頭にきたっ! ここからはさっきのようにいかないかんねっ! 魔法少女フーナちゃんが成敗しちゃうからねっ! あなたの魔法だってもうしっ!」


 私の軽口に分かり易い反応で答える大人版フーナ。 

 やっぱり何もわかってないじゃん。


 ここまでに仕掛けた幾つもの罠(トラップ)に嵌まっていることも。

 分身体の私といつの間にか入れ替わってたことも。


 そして、ここを離れて何処かに行っていたことにも。



『こっちは何とかするから、そっちも頑張りなよ。その覚悟は私にじゃなくて、大切な人の為にとっておくものだからね』


 ここから離れている、マヤメたちがいる方向を見て一人呟いた。

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