第170話ムカつく便乗商法!?




「『黒蝶姉妹商店』てどういう事ぉっ!?」


 私は看板を見て驚きの声を上げる。



 だって2日前くらいはそんな名前じゃなかったよっ!

 いつものノコアシ商店だったはずだよっ!?

 何でいきなり名前変わってんのぉ!


『そ、それに――――』


 私はいつもの三人のガチムキ男たちを探す。


 確か入り口に2人、2階の看板に1人いたはず。


『い、いないんだけど……もしかして店長変わった?』



 それは充分にあり得る。



 だってこの店はある一部の変態が好むお店だったから。

 そもそもガチムキ半裸男共を、看板男にするのがおかしいし。


 いくら他の店との差別をしたいからといっても、あれはやり過ぎだったんだろう。


『……この世界にも法律がある筈だから、あんな怪しい店があっていい筈がないよ。それでニスマジのお店は摘発されたんだねきっと。うん。多分そうだよ』


 私は一人納得して、そして店の出入り口に目を向ける。


『あれ??』 


 こちらは相変わらず暗幕で中が見えないままだった。


『まぁ商品が日焼けしないようにとかそういった理由なんだよ。きっと』


 私は特に深く考えることなく暗幕より目を離す。



「そ、それじゃ名前が気になるけど中に入ろうか? もしかしたら店長が変わっちゃったから品揃えも変更になってるかもだけど」


「は、はい、お姉さま」

「う、うん、お姉ぇ」


 姉妹の二人に声を掛け暗幕を潜り、私を先頭に店の中に入る。



「いらっしゃいませ~~んっ!!」 ×3



「うわっ!」

「きゃぁっ!?」

「な、なんだっ!!」


 店の中に入った私たちを出迎えたのは、あのガチムキ3人組。


 その出迎えに揃って悲鳴を上げる私たち。


 だってそれぞれが何処かで見たような格好&衣装。



 ヒラヒラヒラ


 一人目のガチムキ男は、スカートの端を摘まんでひらひら仰いでいる。

そしてその衣装は黒を基調とした白のフリル付き。


 しかも背中の部分に何処かで見たような羽が生えている。


「………………」



 二人目の男は、胸元が開いた青白いドレスに身を包み、


「んふっ♪」


 と四つん這いになって片手を上げウインクしている。


「………………」



 三人目の男は、両膝立ちで肘を曲げて両手を前に伸ばしている。

 その服装はピチTに似たものと、赤いホットパンツ。


「わふ~っ!」


 前に伸ばされた腕を上下に振っている。


「………………」


 そんな三人組がいきなり出てきたのだから驚かないわけがない。

 更に三人とも蝶の形のアイマスクを着用している。


「はぁっ? こいつらの格好ってまさか――――」

「あ、あの、お姉さまっ、これって――――」

「う、うん、何処かで見た事あるよなっ、お姉ぇ――」


 そりゃそうだ。


 だってどう見ても私たち三人のコスプレなんだもんっ!


 しかもコムケの街の街門でシスターズをお披露目した時の、あの戦隊風のポーズまで決めてるんだもん。何だってガチムキ三人組がそんな真似をっ!?



「あ、あのさっ、その格好やめてくんない? な、何か不愉快を通り越して殺意が湧いてくるんだけどっ!」


「…………」

「…………」

「…………」


 私はナゴタとゴナタの後ろに隠れて、チラチラと見つつ三人組にそう告げる。


『な、なんでそんなピチピチしてんのよっ!』


 そう。この三人組はどう見ても体形に合わないサイズを無理やり着ている。


 したがって固く野太い足や腕。厚い胸板や割れた腹筋などが、見たくもないのに視界に入ってくる。正直目のやり場に困るし、何故か暑苦しい。


 しかも私たちを真似た格好だから余計に腹立たしい。

 私たちはそんなムキムキしてないし、テカテカしていない。



「ね、ねえっ、ちょっと聞いてんのぉっ!アンタたちっ!!」

「ちょ、お姉さまっ!あまり押されては……」

「お、お姉ぇっ!これ以上は止めてくれっ!」


 とビクビクしながら無反応の三人に再度声を掛ける。



「あんらぁ、いらっしゃいませぇ。スミカお姉ちゃあぁんっ!」



「へっ? ぎゃあぁぁぁっっっ!!!!」

「はっ!? ひゃあぁぁぁっっっ!!!!」

「う、うわぁぁ出たぁぁっっっ!!!!」


 私たち三人は突然後ろから聞こえた声に振り返り絶叫を上げる。


「あらら、随分なご挨拶ね三人とも。ちょっとわたし傷付いちゃったわぁ~。あっ、じゃなくて、ボク少し傷付いちゃったわぁんスミカお姉ちゃあんっ」


 と、そこに現れたのは元ノコアシ商店の店主のニスマジだった。


 しかもあろうことかユーアのコスプレをしての登場だった。



※※※※




「と、いう訳なのなのよぉ。中々良いアイディアじゃなぁい?」


 相変わらずクネクネとしながらニスマジが話し終える。


「………………」

「………………」

「………………」


 それに対し、無言で答える私たち三人。


 ニスマジの話を纏めると、


 私たちバタフライシスターズはこの街で老若男女問わず、人々の話題&注目&憧れの存在らしい。確かに昨日あんな事があった後なので、そこは誰しも納得する事だろう。


 その人気にあやかってニスマジは、自分の店にも使えないかと思い、すぐ実行に移したのがコスプレでの売り込み。そしていずれは関連商品を売り出す事。


 そしていつも店頭にいるガチムキの3人は、売り込みの練習中で外にいなかったらしい。ニスマジからの教育を受けてた最中との話だった。


『まぁ、いわゆる便乗商法みたいなものか……』


 私はニスマジの話を聞いてそう思ったが、余りにも……


「それにしては、似せる気全く無いよね?」


 と上から下まで見渡しジト目でニスマジに声を掛ける。


「あらん、そうかしらぁ?」

『わうっ!』


 白々しく答えるニスマジに。


『ムカッ』


 としながらニスマジを観察してみる。


 ニスマジの格好は、初期バージョンのユーアの貫頭衣に素足ではなく、最近お気に入りの白のワンピで、胸元に小さなリボンがあしらっている物だった。


 それは私がユーアにプレゼントしたデザインと同じ物だった。


『………………イラッ』


 それをこのガチムキテカテカの色黒ニスマジが着ている。

しかも2メートルを超える大男がだ。腕には小さな子犬まで抱いている。


 もしかして、シルバーウルフのハラミのつもりなのだろうか?


『グググッ』


 そんな細かいとこ真似るんだったら、他にもっと似せるところがあるだろう。

店の名前も微妙にパクってるのも細かいし『黒蝶姉妹商店』て。


 これじゃ私たちのイメージが逆におかしなことになる。



『うぐぐっ。正直殺意を通り越して、存在そのものを消滅させたいんだけど。私の記憶から確実に消去したいんだけど。別にそうしてもいいよね? それだけユーアを侮辱したことになるんだから許されるよね?私が正義だよね?』



 私はコッソリと円錐の透明壁スキルを展開した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る