第171話激おこプンプンな蝶の英雄



『――グヌヌッ、ニスマジめっ! 私やナゴタたちはいいとして――――い、いや、あんまり良くもないけどっ。よりによってユーアのコスプレなんかしやがって……これのせいでユーアが街で変な目で見られたらどうすんのっ? もうこれはお仕置き…………ううん。いっそ息の根を――――』



 私はこっそりニスマジの頭上に円錐(ニードル状)の透明スキルを展開する。


 グフフッ 覚悟しろよぉっ! そしてあの世で後悔するんだなっ!


 『私の可愛いユーアを侮辱した事を――――』



「あ、あのお姉さま……」


 ビクッ!

「っ!? な、何ナゴタっ」


 いきなりナゴタに声を掛けられて、咄嗟にスキルを解除する。


 べ、別に見えてるわけがないんだから、そのままでもいいんだけどねっ。

 悪い事する訳でもないしっ!寧ろ正義の鉄槌を――



「あのぅ、さすがにそんな物騒な事をするのは……それに街の人たちも私たちをこの店の方達と間違えるとは、到底思えないんですが……」


「そ、そうだぞお姉ぇっ!いくらニスマジさんたちの格好が酷いからって、何も息の根を止めるってのは、ちょっとやり過ぎだと思うなっ!」


「へっ?」


 ナゴタたち姉妹に呆られながらも、微妙に注意される私。


『も、もしかして姉妹たちにも、私のスキルが視えるの? いつの間に二人はそんな能力を――――』


 私は二人を呆然と見つめる。


 もし、そんな能力を持つ者が増えれば、私のスキルのアイデンティティがっ!

じゃなくて、有用性が――――



「あ、あのお姉さま。非常に言いづらいのですが、普通にお話してましたよ?」

「う、うん、お姉ぇぶつぶつ何か物騒な事を言うのはちょっと……」


 『はっ!?もしかしてまた……』


「じょ、冗談だよっ! やだなぁ二人ともっ私がそんなことする訳ないでしょ」


 あははっと頭の後ろに手を回して笑って答える。


 『口に出してたのっ?』


「そ、そうですよねっ? ユーアちゃんがいくら大事でもさすがにそこまでは…………ですよね?」

「そ、そっかぁっ!冗談なら良かったよっ! お姉ぇの目が怖かったからちょっと本気かと思っちゃったっ!んだよなっ?」


「――――――――うん。もちろん冗談だよ?」


「………………」

「………………」


「あ、あらぁっ! ボク恐いわぁっ!」


 ムカッ!


 クッ、ニスマジめぇっ!!



※※※※



「それじゃナゴタたちは、食器類と寝具関係を選ぶんだよね? それとラブナのマジックポーチだっけ?」


「はい、そうですお姉さま」

「うんっ!」


 私は二人と一緒に所狭しと商品が並んでいる店内を歩きながら、周りを見渡し聞いてみる。ここは相変わらず異様な程商品の種類が多い。


 まるでホームセンターと服飾屋と雑貨屋が混ざった感じだ。

 それに武器防具はなくとも、魔法関係のアイテムも置いてあるし。



「――――にしても、お客さんがいつも少ないよね?」



 私は二人を案内した後でポツリと何となく呟く。

 二人は今は食器を手に取って眺めている。



「あ、それはねぇスミカお姉ちゃんっ――――」

「うわっ!?」


 私は後ろからの気味悪い言葉に、即座に身構えスキルを両手に装備する。


「なっ!? ニ、ニスマジいたのぉっ! いちいち驚かせないでよっ!三人組といいニスマジといい、いい加減にしてよねっ!もう来なくなるよっ!!」


 腕に子犬を抱いたユーアコスプレのニスマジを睨みながら叫んだ。


「そ、それは困るわねぇ。別に驚かせるつもりはないのよぉ。ただわたしは奥の事務所に用事があって来ただけなのよぉ?」


「あ、そうなんだ。それにしてもその格好何とかならないの? 風評被害を受けるのは私たちなんだけど」


 と、ギロリと睨んでニスマジに文句を言う。


 ナゴタは大丈夫だと言ってたけど、何かしらユーアに被害が被ることを考えると黙っているわけにはいかない。


 私みたいに街を歩くと、色々小声で囁かれる様になっちゃうかもだし。

 まぁ、私はもう慣れたから耳に入らないけど……。



「う~ん、実はもう大量に発注しちゃってんのよぉ。あ、それとこのお店は卸しが主だから、時間によってお客さまはまちまちなのよぉ」


 と、今の私の文句と先程の呟きに答えるニスマジ。


「お客さんの数が少ないのはわかったけど、発注って何を?」

「決まってるじゃない、バタフライシスターズの衣装よ」

「衣装?」

「そうよぉ、このワンピースとか、姉妹のドレスとかホットパンツとか」

「ま、まさか、ナジメが着ていたスク水衣装までぇっ!?」


 私は動揺しながらニスマジに問いかける。


 あの素材はないだろうが見た目だけなら真似できる。

 それを売り込むために、あの三人組やニスマジが着るかと思うと……


『うううっ、ダ、ダメだ私っ!想像するなっ!!』



「え、ナジメ領主さまは関係ないでしょぉ?シスターズとは。それにそんな事をしたら失礼かもだしぃ。まぁ興味はあるんだけどねぇ」


「そ、そうだよねっ!それが正しい判断だよっ!」


 私は内心でホッと胸を撫で下ろす。


『って言うか失礼ってわかってるなら、私たちのは一体どうなってるの!』


 ま、まぁ、スク水が無いなら、これはこれでこの店が救われた。

 そんな事になったら孤児院のようになるとこだった。


「そんな訳でぇ、今更やめられないのよぉ。結構な損害になっちゃうし。あ、それとスミカちゃんには特別に見せてあげるわ本人だしね。はいこれが試作品のグッズよぉ」


「?」


 とニスマジに何かを渡された。


「何これ?」


 私は渡されたものを広げてみる。

 

 2枚の繋がっている楕円形の固い布切れ。


 これって?


「それは蝶の2枚の羽根よぉ」

「うん、それは見てわかる」


 確かにニスマジの言う通り、蝶のというか私の黒い羽根の形に似ている。

 それとリュックのように両肩に掛けられるようになっている。


「そうじゃなくて、これは何なの?」

 

 私はその羽根から伸びている細い4本のひもを伸ばしてみる。2本の先には引っ掛かる突起みたいなのが付いていた。


「ああ、それはねぇ。この商品の売りなのよぉ!」


 ニスマジがその羽根のパーツを装着し、2本の羽根が白ワンピの背中に生える。

 白のワンピと黒の羽根のコントラストが意外とあっている。


「こう背負って、この伸びているひもの2本をスカートの両脇の裾に挟むのよぉ。そしてこのひもを引くとねぇ――――」


 クイクイッと数度その細いひもを引くニスマジ。


 すると――――


「お、おおおっ!」


 ヒラヒラ。ヒラヒラ。


 と背中の2枚の羽根が動くと同時に、


 ヒラヒラ。ヒラヒラ。


 とニスマジのワンピのスカートも捲れる。

そしてニスマジのゴツイ足が、局部ギリギリまで見え隠れする。


『――――――――――』


 ブチッ!


「ねぇ、中々の出来でしょぉっ!」


 と、得意げに満面の笑みを浮かべるニスマジ。


 ブチチッ!


「うがぁっ――――!!」


 『Safety安全 device装置 release解除


 私はニスマジを力任せに引き千切った。


「ふんっ!」


 ベリリッ!


「ぎゃあっ!?」

「………………」



 じゃなくて、ニスマジが自慢する試作品。

 をだ。

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