第172話布地の多い姉妹の?
「あらぁ、何か悪いわねぇ、グッズの件も許してくれて、しかもこんな高級な回復薬まで貰っちゃってぇ……」
「う、ううん、別にいいよ。こっちもちょっと大人げなかったし……」
「その代わり、グッズの売り上げの一部は、スミカちゃんたちバタフライシスターズにも入ってくるようにするからね」
「そ、そう。あ、ありがとねっ」
そう言ってニスマジはニコニコと事務所に入っていった。
その手にはリカバリーポーションを数本握って。
『ふぅ~、さっきはちょっとやり過ぎた。ニスマジも呆然としてたしね……』
私の羽根を真似た試作の商品を八つ裂きにしたことを思い出す。
『まさか、あそこまでニスマジが落ち込むとは……正直私も焦ったよ』
試作品を破壊された時のニスマジは、誰が見てもわかる程、肩を落として落ち込んでいた。2メートルを超える巨漢のガチムキ男がだ。
ボロボロな試作品を手に持って呆然と見つめるニスマジに、
「あ、ご、ごめんニスマジっ!わ、悪気はあったんだけど、ちょっと自分を止められなかったっていうか、あまりにもショックだったっていうかっ!それに気持ち悪いニスマジのゴツゴツの素足が……」
「悪気はあったんだ……でももういいわよまた作ればいいだけだし。ただあれは一個しかなかったから暫く商品化が遅れるだけで……。ただこんなにも反対されちゃうとも思ってなくてねぇ……」
「べ、別に好き勝手にある程度ならやってくれてもいいよっ。そこはニスマジに任せるよっ!じゃこれ上げるから、そんなにねっ、落ち込まないでねっ?」
「っ!? あら、悪いわねぇ、そんなつもりじゃなかったのに。それじゃこれはせっかくだから頂くわぁっ!グッズもわたしに任せて頂戴なっ!」
「う、うん、宜しくね。ニスマジ……」
てな感じでニスマジとのやり取りが終わった。
何か一杯食わされた気がしないわけではないけど。
「それじゃ、私も何か買って行こうかな?」
私はニスマジを見送って店内をぶらぶら歩く。
ユーアに何か買って行きたいと思って。
それに私も装備以外の服も着てみようかなとも思いながら、色とりどりの洋服が飾られているコーナーの前に来る。
『うん。ユーアとお揃いのでもいいかも。別に装備外しても街中なら大丈夫だろうしね?スキルが使えないだけで。 あれ?』
ナゴタとゴナタは食器類を選び終えたのか、1コーナー先の肌着コーナーで二人キャッキャと話している。その手には女性ものの肌着らしい物を持っていた。
『ふーん、今度はアンダーでも買うのかな?――うんっ?それもしかしてっ!?』
私はこっそり二人を覗き見してみる。
二人はちょっと飾りのついた肌着を持っていた。
その大きさからアンダーシャツだと思っていたが……
二人はその肌着と思っていたものを胸に当てて確かめている。
『は、はぁっ!?そ、それって下着なのぉっ!?そんな面積が多いのがブラジャーなのぉ!!』
私はその大きさに驚愕する。
それは着[き]るではなく着[つ]けるものだったという事実に。
『そ、そんなの私やユーアの顔なんか見えなくなるほどの大きさだよぉ!』
マジかっ!
私はその大きさに恐怖する。
あまりにも布地が多すぎるブラジャーに。
『~~~~~~っっ』
ユーアの小さい体なんて腰まで隠れそうなサイズだった。
もちろんナジメが着ければブラジャーが歩いて見える事だろう。
「こ、これ何てどうだいっ?ナゴ姉ちゃんっ!」
「そうね、それも似合ってるわよ?ゴナちゃん」
「ナゴ姉ちゃんっ、それもいいなっ!」
「ふふっ、下はお姉さまとお揃いのストライプでもいいかしらね?」
「私もそっちにするよっ!色違いで」
『…………』
二人とも楽しそうに、お互いの体に合わせながら談笑している。
そんな二人に私は見付からないように、そっとその場を離れた。
何故かって?
私のサイズは大人コーナーには置いてないからだよ。
『………………』
それから私は、ユーアとお揃いの服と下着何着か選び店を後にする。
姉妹の二人は、まだ色々買い込みたいというのでここで別れた。
そしてその後は冒険者ギルドに顔を出すとの事だった。
昨日ルーギルたちに、冒険者の育成をして欲しいとか言われてた件だろう。
「あ、雨?」
私は店を出て空を見上げて、地面が濡れているのに気付く。
ポツポツとだが、徐々に降り始めている。
空はわずかながらも曇っており、薄黒い雲で太陽が隠れていた。
「さて、この後はどうしようかな?」
私は透明壁スキルを傘代わりに、頭上に展開して独り呟く。
「あ、ログマさんの所にオークとトロールの肉を置きに行こう。それとついでに解体して貰おう。うん、そうしよう」
次の目的地を決めて、ログマさん夫妻のお店『トロノ精肉店』を目指し歩いて行く。
『…………そう言えば一人で歩くのも久し振りかも』
あちこちから、私の名前や容姿を囁く声が聞こえるが気にせず進む。
いちいち相手していたら大変だし、下手に話して幻滅されても、変な噂が立っても嫌だし。ならこちらから接触せずに無視するに限る。
『まぁ、話し掛けられた時は仕方ないから、その時はネコ被ろう』
さすがに声をかけられたら無視はできない。
『その時はナゴタの真似をして、丁寧な物腰と話し方で対応しよう』
そんな事を考えてるうちに『トロノ精肉店』についた。
雨はさっきより少し強くなってきたが、スキルのお陰で濡れずに済んだ。
ガララッ
「こんにちは~。ログマさんいる? お肉捌いて欲しいんですけど」
私は入り口の扉を開け店内に入る。
奥さんのカジカさんはこの時間だときっと2階の食堂だろう。
今はお昼を1時間ほど過ぎたところだし。
「ス、スミ姉ぇっいらっしゃいっ!今日は何しにきたのよっ!」
「へっ?ラブ ナ? って、ぎゃあぁぁぁっっっ!!!!」
私はニスマジの店の黒蝶姉妹店に続いて、再び絶叫を上げるのだった。
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