第173話便乗商法再び!




「ログマさんいる? オークとトロールを解体して欲しいんですけど」


 私は『トロノ精肉店』に入り店内を見渡し声を上げる。


 ここはユーアが冒険者になる前にお世話になっていたお肉屋さん。


 ここの店主のログマさんと奥さんのカジカさんは、夫のログマさんが商品の肉の仕入れと販売を。奥さんのカジカさんは、ここの2階で食堂を経営している。


 手すきの時は、お互いを手伝ってお店を切り盛りしている。

 今は午後1時を過ぎた辺りだから、もしかしたら2階の食堂だろうか?


「知らない名前の魔物や動物の肉も部位も、かなりの種類があるんだねっ」


 私は店内を見渡し、色々な肉の種類を扱っている事に感嘆の声を上げる。


『そりゃぁ、ユーアがこの店の虜になるわけだよ。私が見てもどれも新鮮そうで美味しそうに見えるもん』


 ガララッ


 私がそんな事を考えているうちに、店内奥の扉が開かれた。

 ログマさんは食堂ではなく、奥で解体なんかをしていたんだろう。



「い、いらっしゃいっスミ姉ぇっ!きょ、今日は何しに来たのよぉっ!」

(※野太い裏声)


「へ? この呼び方はラブ  ナ?――――ぎゃあぁぁぁっっっ!!!!」



 私は扉から出てきた人物を見て絶叫を上げる。


 声を掛けてきた人物は、前を開けた真っ赤なロングコートにツインテール。


 中は白いシャツにスカートは黒のタイトな膝上のもの。そして体や顔に点々と返り血を浴びたかのような血痕が。


 服装と態度と言葉使いはまんまラブナだ。

 足を開き指を突き出し私を睨んでいる。


 ただ背格好はルーギルとあまり変わらない。


 ラブナはこんなに背が高くもないし、腕や足もゴツゴツしていない。

 そもそも声変わりしてないし、薄っすらと髭も生えてない。

 引き締まってはいたけど、こんなに胸元が平らな訳もない。


「も、もしかして、ログマさん?」


 私は恐る恐る苦笑いを浮かべる人物に声を掛ける。


「あ、ああそうだ。――じゃなくて、 そ、そうよっ文句あるのっ!」

(※野太い声&裏声)


「………………」

「………………」


 し――――――――ん


「い、いや、そのなんだ、スマン。カジカの奴が人気に便乗しろとだな……」

「う、うん。何となくもうわかってたから別に謝らなくてもいいですよ」

「そ、そうか。そう言って貰えると助かる。別にオレの趣味とかではないからな」


「………………」


 し――――――――ん


「は、ははは」 

「ははは」


 二人の乾いた笑いが余計にこの場を気まずくさせていた。


 もう帰りたい。



◇◇◇◇◇◇



 まぁ、もうわかっているけど、ログマさんは奥さんのカジカさんに言われてニスマジと同じように、コスプレをしていた。今が旬の私たちの人気にあやかって。


 ログマさん夫妻は、この世界で会った一番の常識人だと思っていた。

 ユーアの件も含めて、私はこの夫妻には何故か頭が上がらない。

 苦手とか性格的に合わないとか、そんな感じじゃなくて、


『きっと、立派な大人って認めているんだと思う。行動も考え方も、ユーアみたいな子供を守りたいという想いも。うん、理想の大人って感じなんだと思う。私が憧れてた両親と同じように。それが――――』


 女装だよ? しかもご丁寧にカツラまで用意してるし。



「そ、そう言えば、私と最初会った時も魔物の着ぐるみ来てましたもんね!」


 私はおかしな空気を誤魔化すように話題を振る。


 そう。確かログマさんは狼の魔物で、カジカさんは鳥の魔物だった。

 店内に魔物がいて驚いた記憶が蘇る。



「あ、ああ、そうだったな。あれも宣伝だったからな、カジカに言われて――――カ、カジカに言われて仕方なくやってたんだからねっ!そこっ勘違いしないでよねっ!」(※野太い小声&裏声)


「………………」

「………………」


 し――――――ん


「………………それじゃ私は帰ります」


 私は居た堪れなくなり、クルっと後ろを向いて扉に手を掛ける。

 こんなログマさんは見たくなかった。


「ス、スミカっ、そんな帰り方されると誤解されたままで嫌なんだが……それにここには何か用事があって来たんだろっ?ユーアの欲しい肉なら別に用意してるぞっ」


 と、扉に手を掛けた私に、何故かボソボソと小声で話す。


「ログマさん何で小声?」


 私は振り返り、ログマさん話し方を不思議に思って聞いてみる。

 ここには私しかいないのに。



「あ、ああ。中でカジカが休んでいるんだ。少し上も落ち着いたからな」


 店内の奥に目を向けながらログマさんが答える。

 そこに奥さんのカジカさんがいるんだろうと分かる。


「そうなんですか…… でも何で?」

「それはな、あいつにバレないようになんだ。真似をしてないのをな」

「…………なるほど。何となくわかりました」

「察しが良くて助かる。スミカ」


 ログマさんはカジカさんの言いつけ通り、ラブナの真似をしているのであろう。

 しかもかなり厳しく言われてる。


 それで素に戻った所を見られたら叱られるだろうとも予想できる。

 ログマさんの態度からして。


「それで結局今日は何しに来たんだ?」


 後ろの扉を見ながら、コソコソと話し始める。


「は、はい。今日は討伐してきたオークとトロールの残りの解体をお願いしたいのと、それとお裾分けにも来たんです。二人にはお世話になっているので」


 と、小声のログマさんに釣られて、私も小さな声で話す。


「そう言えば一昨日もそんな事を言ってたな。でも解体料はもういらないぞ?新鮮なオークを譲って貰ったからな」


「いえ、今回はある程度纏めてお願いするので、オークもトロールも貰ってください。ユーアにも言われてるので。それと余った分はギルドに持って行っちゃいますから」


「そうか?前に貰った分だけでも充分なんだがな……それでどの位置いて行くんだ?数体なら今日中に何とかなると思うぞ。トロールは数日は掛かってしまうが」


「うーん、オークは40体。トロールは4体程なんですが……」


 私は頭の中で計算してそう答える。


 残りはオークが50体程。トロールが5体程だ。

 後はナゴタとゴナタとギルド分をどう分けるかだけど。



「…………それはさすがに無理だ。その数だと保管が出来ない。だから――――」


 ガララッ


「ッ!?」

「カジカさん?」


 と、奥の扉が開かれる。


 きっと奥さんのカジカさんだろう。

 他に店の従業員はいない筈だから。


「――――だ、だからっその都度持って来てよっ!何なら処理が終わった順にスミカ姉ぇの家に運ばせるわよっ!それでいいでしょっ?」


 カジカさんの気配を感じ取ったログマさんが、即座に仁王立ちスタイルで私に指を突きつける。一瞬でラブナになり切っていた。って言うか素の姿を見られたら怒られるからだろうけど。


「うん、スミカちゃんが来てるの?ログマ」


 扉に手を掛け現れたのは、確かにログマさんの奥さんのカジカさんだった。


 だけど――――


「な、何ですかっ!カジカさんその格好はっ!?」


 私はまたもや絶叫を上げる。



 それはシスターズ全員( 偽物 )が出揃った瞬間だった。


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