第252話感謝の気持ちと戦う誰か




 ロアジムの屋敷のお手伝いさんに案内されて、個室に入る。


 お手伝いさんは頭を下げてすぐに出て行った。

 恐らくは部屋の外で待機しているんだろう。


「……はぁ、貴族って人間が思ったほど偉そうでも、傲慢でもないのは少しわかったけど、やっぱり自分勝手なのは一緒だなぁ~」


 着替えながらなんとなしに愚痴を吐く。


「それとナジメもだけど、ルーギルたちもお仕置きしたい気分だよ。ここの冒険者が頼りないって噂だし。ナゴタとゴナタにも頑張ってもらわないとダメだね、これは」


 さらに愚痴を続けながらも着替える。


 上司が冒険ばっかりしてるから、変な噂が先立つんだろうって。


 確かにこの街の付近には強力な魔物もダンジョンもない。

 その影響で、強い冒険者が集まってこないのは何となくわかる。


『ルーギルも守ってばかりじゃなくて、もっと新人募集するとか、もう少し在籍してる冒険者を鍛えろって話。ナゴタたちだけじゃ手が回らないし』


 今日も二人はギルドからの要請っていうか、依頼で、ギルドに行っている。

 なよなよした冒険者たちを鍛えるために。


 そんな事を一人考えて、着替えも終わり部屋を出る。

 何だかんだでこの装備を纏うと落ち着くなんて思いながら。



 そして部屋を出ると、さっきのお手伝いさんが待っていたので、再度案内してもらい、今度は玄関を出てぐるっと屋敷を迂回して裏の方に案内される。


 玄関正面に誰もいなかったから、みんなそこに移動したのだろう。



「お待たせ、って何やってんの?」


 私は腕を組んで、真剣に前を見ているアマジに声を掛ける。

 その先は人だかりができて、何やらガヤガヤと盛り上がっている。


「着替えてきたのか? 何だかんだでそれが似合っているな、お前は」


 声を掛けた私に気付いて、開口一番そう言ってくる。


「何それ? 今度は口説いてるの? さりげなく褒めちぎって」

「な、違うっ! ただお前はそれが勝負の服だろう? だからだ」

「うぇっ! 勝負服って、私そんな軽い女じゃないんだけど」


 じろりとアマジを睨んで凄みを効かせる。


「はぁっ!? お前はいつもそうやって俺を――――」

「で、結局は何してんの? ユーアたちもいるみたいだけど」


 チラチラと人混みの隙間からユーアの姿が見える。

 何やらハラミに乗って動き回ってるみたいだけど。


「あれ? ラブナも乗ってる?」


 ユーアの背の後ろに、青いドレスが見え隠れしていた。

 しかも立ち上がっていて、何やら口元が動いている。


 何だろう? 曲芸か何かかな?


 ハラミの背中の上は変な力で、非常に安定する。

 それが魔法なのかとか、ハラミの能力なのかはわからない。

 それでいて風も感じず、振り落とされることもない。



「ああ、お前の妹と赤髪の子供はバサを相手に模擬戦をしているんだ」

「はぁっ!? なんでっ!」


 アマジの言う通りに、ラブナから光るものが一瞬だけ見える。

 恐らく口元が動いていたのは魔法を唱えていたようだ。



「別に心配する必要はない。バサは避けるだけで、仕掛けないからな」

「い、いや、そうじゃなくて、いや、そ、それは安心したけど、なんで?」


 少しだけ言葉に詰まりながら聞き返す。


「お前が家に入ってすぐに、親父が妹に何やら頼んでたぞ? そうしたら赤髪の子供がやる気を出してな。で、バサが加わったという話だ。何やらバサはあの魔物が気になるらしいからな」


「………………わかったよ。ありがとう」


 これはラブナもお仕置き決定だな。

 

 危険はないにしろ、勝手に戦うなんて。

 色々と秘密にしたい事もあったのに。



「それにしても、お前のところは変わったのが多いのだな。あの赤髪の……」

「ラブナだよ。相変わらず名前で呼ばないね、アマジは」


 二人が見える人混みの隙間を探しながらそう話す。


「あ、ああ、そのラブナだが、見たところ4属性の魔法を使っている。あんな魔法使いは他の大陸でも見た事はなかった。せいぜい多くても2属性までだった」


 私と違い長身のアマジには二人が見えているんだろう。

 そんな感想を漏らしていた。


「やっぱり凄いんだ。私魔法はあまり詳しくないから」


 何とか隙間を見つけて二人を視界に映す。


「何? お前は魔法戦士じゃなかったのか? 確か」

「え? そ、そうだけど、ほら、私は戦士系だからっ」


 アマジの疑問に少し慌てて答える。

 そんな設定なんて忘れてたから。


「……まぁいい。お前の事を詮索すると、何が出てくるか恐ろしいからな。」


 しみじみと遠い目をしながらそんな事を言う。


「………………」


 それはそれで助かるんだけど、なんか引っ掛かる。


「ああ、それとついでだけど、ユーアの予定を話しておくよ」

「それは助かる。ゴマチも遠慮して声を掛けづらかったらしいからな」


 私は簡単にこれからの予定を話して、ユーアの様子を見に行く。

 孤児院の件は無言だったけど、大会には興味を示していた。


 アマジたちも参加を視野に入れてた様子だった。





「どれ、ユーアたちは頑張ってるかな?」



 ラブナが貴重な魔法使いだとしても、バサを捉える事は出来ない。

 それはハラミに乗ってたとしても、困難なものだろう。


 それ程の差があると、二人の戦いを見た私が思うところだ。

 なんて考えながらおじ様たちに近づいていく。



「おお、スミカちゃん着替えてきたんだねっ!」

「うん、部屋貸してもらってありがとね」


 近づいた私に気付きロアジムが声を掛けてくる。


「やはり、それがスミカちゃんは似合ってるなっ!」

「そ、そう。あまりジロジロ見られるの嫌なんだけど」


 ちょっとだけ体を振って気持ちを表す。

 透明化すれば良かったなんて、頭の片隅で思いながら。


「うん、さっきの衣装も凄く似合ってたが、やはりワシが見たその姿がスミカちゃんだったからな。それが正装に見えてくるんじゃよ」


「う、うんありがとう。あ、それと色々と孤児院の件で手伝ってくれて、そっちもありがとうね。ユーアもラブナも喜んでたし、私も感謝してるんだよ」


 本心からそう思い、ロアジムに頭を下げる。


 実際本当に助かったと思う。

 私だけでは正直何もできなかった。


 もし出来たとしたら、今以上の他の力を手に入れなければならなかった。

 それは私にとって一番苦手な事だし、敬遠したかったところ。

 しかも一朝一夕で出来る事でもないから、非常に時間もかかるだろうし。


 なのでナジメを通じてロアジムにも協力してもらい

 それで解決に向かってる事を嬉しく思った。


 ユーアに会って、最初の懸念事項が孤児院の事だったから。



「い、いやぁっ! 憧れの英雄にそこまで言われると、おじちゃんも照れちゃうなぁっ! ユーアちゃんもそうだけど、ワシは冒険者に助けられてばかりだなっ! アマジの件もあるしな」


 少しだけはにかみながら、ロアジムはそう答えてくれた。


「あ、それとお礼も含めて手土産持ってきたんだけど」


 笑顔のロアジムに言いながら、アイテムボックスを覗く。


 うん。

 ちょっともったいないけど、これだったら喜んでくれそう。

 ちょうど人数も多いしね。


「お礼なんて、ワシたち家族がお礼したいというのにかい?」

「うん、そうだよ。私がそうしたいんだから受け取ってよ」

 

 有無を言わさず「それ」をアイテムボックスから取り出す。

 それ程の感謝をしてるんだとわかってもらえる為に。


「はい。これだったら分けられるし、あっても困るものでもないでしょ?」


 そう言って私はあるものを出した。

 それも見栄えよく、スキルで固定させ直立させた状態で


「う、うわぁっ! こ、これはっ!!」

「えっ?」


 それを目の当たりにした瞬間、ロアジムは腰が抜けたように座り込み、口をあんぐり開けて、腕だけの力で後ずさりしている。


 それ程驚いたんだろうか?


 私もその行動に少しだけ焦る。

 なので声を掛ける為にロアジムに近寄る。


「あわわ……ト、トロ、――」 

「あの、ごめんね、いきなりこんなの出したから……えっ!?」


 突然、私が出したそれ感謝の気持ちに黒い影が襲い掛かる。


「誰なのっ! せっかくの手土産取られてたまるかってのっ!!」


 すぐさま透明壁スキルを展開して、襲い掛かる何者かを叩き落とす。


 ブンッ!

 ガンッ


「ぎゃんっ!」


 飛び掛かったところをハエ叩きのように、地面にも叩きつけられた何者かは気を失ってしまった。緊急時の為に、あまり手加減が出来なかった。


「あれ? 何でこの男が手土産を奪おうとしたの?」


 そこにはラブナたちと試合をしているはずのバサが目を回していた。


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