第570話攻守逆転の逆転
「どう? 格下だと舐めてかかった相手に、逆にボコボコにされる気分は?」
膝を付き、ようやく息が切れ始めたメーサ。
そんなメーサを見下ろし、皮肉を込めて問い掛ける。
「ぐ、この化け物女めっ! なんでアタイの攻撃が当たらないじゃんよっ!」
それに対し、ダンと拳を地面に叩き付け、私を睨みつける。
余程悔しいのか、怒りで体が震えている。
「化け物? それを言うなら、あなたの方がよっぽど化け物でしょ? 一体、何発撃ち込めば、その減らず口を閉じられるの?」
「うるさいじゃんっ! お前の方が絶対化け物じゃんよっ! ゲラークと戦っているみたいじゃんよっ!」
「ゲラーク?」
「そうじゃんっ! アイツにも攻撃が当たらないじゃんよっ! まるでアタイの動きを先読みしてるみたいに、先に動いても打ち負けるじゃんよっ!」
四つん這いのまま、私を見上げて悔しげに語る。
敵側のシスターズの話だと思われるが、それよりも気になる事があった。
『先読み? だとしたら――――』
そのゲラークって奴は、『未来視』。若しくは、『読心』の能力を持っている可能性が高い。
『ま、どれぐらいのレベルの使い手は知らないけど、厄介な相手がいるって事がわかった。だとしたら、私の練度をもっと上げる必要があるって事か……』
私は、未来視はもちろん、読心も使えない。
それでもある程度は相手の動きを読める。
そもそも、私の戦い方は『後の先の、
動作の起こりや重心、はたまた視線や気配から情報を読み取り、更に相手の感情を利用することで、予知に近い『行動予測』を立てる事が出来る。
そこへ更に『spinal reflex 改』(脊髄反射)を併用すれば、相手にはまるで動きを先読みされたと錯覚するだろう。
ただし、この『行動予測』も万全ではない。
無機物の生命体や魔物、デタラメな強さの者には効果が薄い。
実際、あの白い人型や、災害幼女フーナには効果が薄かった。
予測が困難という事もあるが、予測を立てる事に意味がないと言ってもいい。
自身の理解や常識を超える存在、それと、自身を超えた強大な力を持つ存在に対しては、非常に相性が悪かった。
その点、今のメーサのような、
それは――――
「今度はアタイの番じゃんよっ!」
バッと顔を上げ、地面に付いていた腕を、砂の中に押し込むメーサ。
戦意を失くしたかに思えたが、その目には強い光を残していた。
「んっ!? トテラっ!」
「なっ!?」
すると、マヤメの足元から何かが飛び出し、意識のないトテラを東に連れ去っていった。
その正体は、メーサの袖にあったはずの、2体の小型のサメだった。
恐らく、拳を叩き付けたのは演技で、その際に仕込んだのだろう。
しかも、私の意識を逸らすために、わざと敵の情報を話した可能性もある。
『ちっ!』
如何に『行動予測』が強力だとしても、所詮は予想に過ぎない。
把握していない能力には、何の予測も推測も出来なかった。
『このサメ女――――』
これが『行動予測』の弱点でもあり、大きな欠点でもあった。
未来が視える未来視や、心を見透かす読心に劣る理由でもあった。
タンッ
「――――この期に及んでやってくれるねっ!」
「澄香っ!」
スキルを足場に、急いでトテラを追いかける。
空に逃げた以上、マヤメでは到底追いつけない。
直接、あの小型のサメを狙ってもいいが、それは危険だ。
見た目で治っているとはいえ、トテラのケガは、元々重症と言える程のケガだ。
だから私自身で追いかける。
余計な揺れや振動が、今後にどう影響するかわからないからだ。
ガシッ ×2
「なっ!?」
ところが、飛び出した矢先に、足首を掴まれ、動きを止められる。
まるで地面から生え出たかのような、メーサの伸びた2本の腕に。
「にっ、しっしっ! 上手くいったじゃんよっ! シャ――――ッ!」
動きを封じたとみるや否や、好機とばかりに飛び掛かってくる。
捕らえた獲物を丸飲みしようと、底の見えない大顎を開けて。
「邪魔っ!」
ドガンッ
「ぐえっ!?」
が、捕食する直前で、真下からの一撃を受け、手を放す。
ガラ空きだった下腹部に、私がスキルを見舞ったからだ。
そしてそのままスキルを操作し、メーサを上空に突き上げる。
『トテラは…… あっち、なら、今は――――』
連れ去った方角を確認し、私はすぐさま能力を使う。
トテラの救出、そして、メーサの撃破に、今最も最適な能力を。
==============
【実態分身2.5(7大罪ver)】
自身の能力を分けた分身体を発現することが出来る。
能力値及び、スキルの割り振りは任意。
制限時間は5分間。
分身体の性質はその状況に左右され、白黒verに振り分ける。
==============
「…………よし」
トンッ
そして、二人に分かれた黒の私は、トテラを連れ去った、メーサの腕を追いかけ、
タンッ
「きゃはっ!」
一方、白の私は、スキルで空に突き上げた、メーサの本体を追いかける。
どちらも荒々しい気配と、凄まじい殺気を帯び、
「……あのサメ、原形がわからぬよう、細切れにしてやる」
「きゃははっ! アイツは簡単に殺してやーらなーいっ!」
それと、身を焦がす程の『憤怒』の感情に身を委ねながら。
――――――――
※白スミカ視点
バサバサバサ――――
「な、なんでアタイは浮いてるじゃんよっ! それとお前は何者じゃんっ!? 一体何がどうなってるじゃんよっ!」
自分の置かれた状況と、白の私に驚くメーサ。
四つん這いのまま、目を見開き、矢継ぎ早に質問してくる。
「私? 私は分身したもう一人の私だよ。それと浮いてるのは、私が作った魔法壁の上にいるからだって」
なびく髪を手で抑えながら、簡単に経緯と状況を説明する。
「ぶ、ぶぶ、分身っ!? それとこれが…… 魔法っ!?」
私と自分の足元を見て、メーサは上擦った声で答える。
そんなメーサが混乱するのも無理もない。
今は地上から約100メートル上空の、透明スキルの上にいるからだ。
「そう、これが私の魔法。で、ここにあなたを連れてきちゃった。きゃはは」
「きゃはは、じゃないじゃんっ! な、なんで連れてきたじゃんよっ!」
足元を恐々と見下ろした後で、白の私と目を合わす。
その表情は強張ったように見え、僅かに声も震えていた。
「そんなの決まってるじゃん? あなたに教える為じゃんよ」
「ま、真似するなじゃんっ! って、教える?…… 一体何をじゃんよっ!」
「ん~、そうだね? マヤメやトテラがあなたによって味わった、絶体絶命とか? 死の恐怖とか? 絶望的とか? 逃れられない死とか? 九死に一生を得る…… は違うよね? ま、簡単に言うと、意趣返しって事かな?」
前屈みになって、人差し指を立てながら答える。
「意趣返し? 要は復讐って事じゃんか?」
「そうだよ。やられたらやり返すってのは、何処の世界でも常識でしょ? 私の場合は10倍返しだけどね? きゃはは」
「はあっ!? そんなの当たり前じゃんっ! そもそも弱い奴らが悪いじゃんよっ! 復讐とか仕返しとか、こっちは知ったこっちゃないじゃんよっ!」
話しているうちに、色々と納得できなかったのだろう。
怯えた表情から一転、メーサの目に敵意と殺意が戻り始める。
「ま、そう言うと思ったけどね? だったら弱いのはこの場合あなたなんだけど~? 実際、私に仕返しされてるしー。きゃはははは――――」
「こ、このアタイが弱いだって、さっきからふざけるなじゃんよっ!」
ブンッ! ×2
高笑いを遮るように、メーサは勢いよく腕を振り下ろす。
そしてその2本の腕は、ジグザグに軌跡を描き、私に飛びかかってくる。
「っと、そうだった。そうだった。その腕伸びるんだったね? だったら悪さしないように、キチンと躾しておかないとね?」
ガンッ ×2
「んあっ!? な、なんだ、腕が重いじゃんよっ!?」
伸びたきたメーサの両腕を、透明スキルで抑え込む。
その重さは約10t。テトラポッドの約半分の重量だ。
「お、お前はさっきから何をやってるじゃんよっ!」
「はい? さっきから説明してるでしょ? 10倍返しするって」
見上げるだけのメーサに、近づきながら答える。
「ち、違うじゃんっ! お前のそれはなんの能力かって聞いてるじゃんよ!」
「だからそれも言ったよね? これも私の魔法だって? よっと!」
「んなっ!?」
ゆっくりと歩きながら、新たにスキルを展開する。
黒に視覚化した、直径約10メートル、重さ約5tの巨大な鉄球を。
「それじゃ、こっちの準備も終わったから、これからは楽しい楽しい10倍返しの始まりだねっ! きゃははははっ!」
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