第571話嫉妬と決着と撤退と
※白スミカ視点
「お、おま、それ、どっから――――」
照り付ける太陽を覆う様に、現れた物を見てメーサは言葉を失くす。
直径約10メートル、重さ約5tの、巨大な鉄球を見上げて。
「だーかーらー、いい加減しつこいっていうの。これも魔法だって、普通、今の流れでわかるでしょ? それじゃ、10倍返しの一発目いっくよーっ!」
ドゴオォ――――ンッ!
「んぎゃっ!」
両腕を抑えられて、身動きが出来ない背中に、重量5tでの一撃を浴びせる。
「きゃははっ! それじゃ2発目いくよ~っ!」
ドガンッ!
「ぐふっ!」
「3発目~。ん~、あまり痛くなさそうだから、次から威力倍にするね?」
「っ!?」
ドゴオォォ――――ンッ!!
「んぎゃ――――っ!?」
「きゃははっ! いいねいいね~っ! これでも耐えるし、まだ生きてるんだーっ! んじゃ、次は更に倍の倍で――――」
相変わらずのタフさに驚嘆しながら、重さを20tにし、振り被った直後、
「うが――――――っ!!」
メーサが絶叫を上げると共に、グッと腰を上げ、
ブチィッ ×2
「うえっ!? 腕切ったっ!?」
あろうことか、自分の腕を引き千切り、透明壁から脱出した。
「はぁ、はぁ、そうじゃんよ。アタイの腕は便利だけど、その弱点も理解してるじゃんよ。だから自切できるように、魔改造してもらってたじゃんよ」
肩から先を失くし、苦痛に顔を歪めながら答える。
「魔、改造っ?…… それじゃ、直ぐに?」
生えてくるって事だろうか。
魔改造って言うからには、それだけ人知を超えた改造だろうし。
「――――48時間後じゃん」
「え?」
「アタイの腕は、明後日には元通りじゃんよっ!」
誇らしげに胸を張り、堂々とそう言い切ったメーサ。
腕のない両袖が、寂し気にヒラヒラと風に揺らいでいた。
「………………」
「どうじゃんっ! 流石のお前も驚いて声も出ないじゃんねっ! これがアタイとお前たちとの差じゃんよっ! でもここは一旦引くじゃんねっ!」
呆気に取られる私をよそに、捨て台詞を吐きながら、宙に身を投げる。
「はっ!? 逃げたっ! いやいや、それは驚くってっ! そんなに時間かかるなら、自切した意味あったのかってねっ! きゃはは――――」
タンッ
両腕を犠牲にしてまで、逃げたメーサを追って、私も飛び降りるが、
「っと、このままじゃ追いつかないやっ!」
ギュン――――
既に小さくなった姿を見て、Gホッパーを使い、再に加速する。
「も、もう追いついてきたじゃんかっ!」
後ろを見上げ、接近する私に気付き、慌てるメーサ。
逃げる様に必死に脚をバタつかせるが、距離は縮まるだけだった。
ヒュンッ
「きゃははっー! これで最後じゃんっ!」
「うわっ!」
自由落下を続ける、メーサに追いついた私は、Gホッパーの勢いそのままに、20tの一撃を浴びせる。
ドゴオォ――――――ンッ!
「うぎゃ――――――っ!」
鉄球での一撃を、まともに受けたメーサは、絶叫を上げながら、そのまま地上に向かい、錐揉みしながら落下していった。
恐らくあの勢いだと、地面に激突して即死だろう。
如何に砂地と言えど、あの速度でぶつかれば、その硬度は岩と大差ない。
だが、そんなメーサは、ある意味では貴重な存在だ。
このまま見届けるのは簡単だが、それは出来れば避けたかった。
「きゃは、ちょっとやり過ぎちゃった。このままミンチでもいいんだけど、もっと情報を聞き出さなきゃだよね?」
ギュン――――
再度Gホッパーを使い、急いで後を追いかける。
そもそも今までの相手とは、意思の疎通どころか、会話もままならなかった。
だがこのメーサは、エニグマの主力部隊の一人だ。
それなりに価値のある、有用な情報を持っているだろう。
だからこのまま死なせる訳にはいかなかった。
私たち、いや、この世界の敵とは言えど、今は貴重な情報源だ。
しかし、ここで予想外の出来事が私とメーサを襲う。
必要な情報を聞き出すまではと、スキルで救出しようとした、直後――――
ザッ!
『『!ッ――――タ、ッ、へ、カ、ナ、オ』』
突然、あの人型が地中から飛び出し、
「なっ! お前、生きてたじゃんかっ! うわ――――っ!」
バクンッ
落下してくるメーサを丸飲みし、そのまま地中に消えて行ってしまった。
『あの人型、やっぱり生きて…… それよりも、あれって、能力?…………』
メーサを喰ったその形態は、まるでメーサの『捕食』に酷似していた。
※
一方その頃。
トテラを連れ去った、メーサのサメ腕を追いかけていた、黒スミカは、
「ち、逃げられちゃったわ…… ふぅ、でも結果オーライだわ」
忌々し気に地面を眺めた後で、ホッと胸を撫でおろす。
タタンッ
「ん、澄香っ!」
「あ、マヤメも来てくれたんだっ!」
テンタクルマフラーを使い、追いついてきたマヤメに、笑顔で振り返る。
「ん、トテラ無事?」
「うん、見たところ他にケガもないわ、脚も問題ないみたい」
スキルの上で気を失っているトテラを見る。
「ん、でもメーサのサメは?」
「ここにトテラを置いて、一目散に砂の中に逃げて行ったわ」
「ん? トテラを置いて?」
「きっと本体がやられたからだと思う」
背後を振り返りそう答える。
「ん、それって、メーサが?」
「ああ、やられたわ。あっちの私が、あの人型に喰われたのを目撃したわ」
「ん、あの白いのがっ! 何故っ!?」
マヤメが驚くのも無理はない。
実際に私も驚いた。
神出鬼没なうえに、切断した四肢も再生していたからだ。
そうは言っても、マヤメはあの人型と、私が戦った事実を知らない。
単純に、仲間だと思ってた、人型にメーサが食われたことに驚いているんだろう。
『あの白い人型も気になるけど、本当にメーサは――――』
あのまま死んだのだろうか?
普通、本体がやられれば、あのサメも機能を停止するはず。
なのに、機能を停止することなく、トテラを手放し、砂の中に消えて行った。
まあ、単独で行動可能な、自立機能が備わっているかもだけど。
「ん、でもトテラ無事でよかった」
「…………うん、そうだね。でも、私の事ももっと心配して欲しいわ」
目鼻立ちの整った、色白なマヤメの横顔を見てポツリと呟く。
「ん? 澄香を心配?」
「そうよ。私も結構危なかったんだからっ! 一人では脱出できないし、あの人型が襲ってくるしっ! 外の様子もわからないしっ!」
ここぞとばかりにアピールする。
あの異空間で起きた、数々の出来事を。
「ん、でもマヤの知ってる澄香は、そんなのへっちゃ…………」
「だからトテラばかりじゃなく、私も見て欲しいのっ!」
まだ何か言いたげだった、マヤメの目を見て懇願する。
そんなマヤメの瞳の中には、胸の前で手を合わす自分が映っていた。
「ん、さっきから澄香おかしい。口調も違う。それと肌と服の色も違う」
一歩下がりながら、そっと視線を逸らされる。
まるで他人だと言わんばかりに、自然と距離を取られる。
「ち、違うわっ! おかしいのはマヤメよっ!」
「ん、マヤが?」
「そうよっ! 私も死にそうだったのに、マヤメはトテラの事ばっかりっ!」
「ん、でも、マヤは――――」
ギュッ
「んっ!? 澄、香?」
急に抱き着いてきた、私の行動に困惑するマヤメ。
「いい、それ以上言わなくていいわ。これ以上聞いたら、私はトテラへの『嫉妬』でなにするかわからないもの。でも、これだけは言わせて――――」
「ん?」
「私はマヤメが誰を好きになろうとも、ずっとマヤメの事をまも――――」
「やっといなくなった――――っ!」
バッ
「きゃっ!?」
「…………」
突然、気を失っていた筈の、トテラが起き出し、私の耳元で可愛い悲鳴を上げるマヤメ。私は
「いや~、サメちゃんのサメに、いきなり誘拐された時は、かなり焦ったよっ!」
「んっ! トテラなんでっ! もしかしてずっと起きてた?」
私の傍から離れ、トテラの元に駆け寄るマヤメ。
「うん、ずっとって言うか、目が覚めたら、サメがアタシを運んでたんだよね。それでいなくなるまで、気絶してる振りしてたんだ」
「ん、良かった。これも澄香のおかげ。トテラの脚もそう」
「アタシの、脚? あああ――――っ! 生えてるっ! もしかして、これもスミカちゃんが?」
自分の姿を見下ろし、脚が治っている事に驚く。
「ん、そう」
「そうか、スミカちゃん、あのサメちゃんの中から脱出できたんだねっ! でもなんでアタシを睨んでるの? 色も真っ黒になってるし、ちょっと雰囲気怖いし」
長耳をシュンとさせ、恐る恐る見上げてくる。
「なんでって、それは、マヤメがトテラの事ばかり―――― って、あ、もう5分?」
「んっ!?」
「あっ! 戻ったっ!」
実体分身の時間切れで、元の私に戻ったことに驚く二人。
「ふぅ、やっぱりまだ慣れないから疲れるね。それよりもありがとうね、二人とも」
そんな二人の目を見て、笑顔で頭を下げる。
あのままだったら、永久に出られなかったかもだし。
「ん…………」
「………………」
それに対し、無言で顔を合わせるマヤメとトテラ。
どうやらまだ混乱しているようだ。
『はぁ、説明は後ですることにして、ひと先ずは休憩かな? その時にマヤメたちの話も聞きたいし、こっちの報告も済ませたいし』
冷えたドリンクレーションを取り出し、そわそわしている二人に手渡した。
これで後はマヤメのマスターの回収を残すだけだ。
※
一方その頃、
スミカたちより数百メートル離れた、砂漠の中では……
『はぁ、はぁ、まじあぶなかったじゃんよっ! こさめにかくをうつしておいてせいかいだったじゃんよっ!』
子サメの1体に乗り移り、慌てて撤退するメーサがいた。
『それにしてもあいつ、なんであたいをたべたじゃんよっ! かえったらまかすにほうこくするじゃんよっ! 【ひとがたいちごう】は、しっぱいさくだったじゃんってっ!』
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