第122話スミカの悩みとおかしな領主




「ラブナちゃんは昨日冒険者になったんだよね? お家はどうするの?」


 一通りラブナの接待が終わった後、ユーアがラブナにそう聞いていた。



「う~ん、そうね、本当は直ぐに出たい所だけど、まだ資金もないし、暫くはみんなの面倒を見ながら孤児院に住まわせてもらおうと思ってるのよ」


「そうなんだぁ…………」


「あっ、それならユーアちゃん、ラブナは私たち姉妹と一緒にここに住んでもらうのでお気になさらずに。私たち姉妹にラブナを任された以上、シスターズの活動以外でも一緒にいられる方が都合も良いので。よろしいでしょうか?お姉さまっ」


「へっ!?」


「うん、それでいいよ。ここはもう姉妹たちの家なんだから、好きに使ってもらっていいからね。って事でラブナは今日からここに住んでいいってさ」


「はっ? えっ!」


「良かったねラブナちゃんっ! でも小さい子の顔も面倒も見たいから、孤児院にはちょこちょこ見に行こうねっラブナちゃんっ!!」


「ええっ! ア、アタシの意志はどうなってるのよっ! なんで勝手に決めてるのよっ! アタシいいって言ってないわよっ!」


「ラブナさぁ、これはお前の師匠になったナゴ姉ちゃんとアタシの意志だぞっ! それにもっと強くなりたいんだよなっ?」


「う、うん、それはまあ、そうだけど、アタシは守れる力と強くなってみんなに認めてもらいたいとは思うけど、スミ姉にも――――」


「なら、決まりだなっ! それじゃ荷物を取って来ようよっ。孤児院にまだ置いてあるんだろう? 荷物持ち手伝ってあげるからなっ!」


「あ、ならボクがラブナちゃんを乗せてハラミと行ってきます。ちょっと孤児院にも顔を出したいので。ね、それでいいでしょ? ラブナちゃん」


「ああっ! もうどうでもいいわよっ! もう好きにしていいわよっ! アタシの意見なんか最初からなかったんだから! さあ、ユーア、早速取りに行くわよっ!」


「うん、ハラミ孤児院までお願いねっ!」

『わうっ!』



 ユーアに心配されて、姉妹の二人に許され諭されてユーアとラブナ、二人と一匹は森の中に消えて行った。ラブナはハラミの背の上で何か騒いでいたけど。




「ねえ、二人とも。ここの街の領主って誰か知ってる?」


 私はそれを見送った後、ナゴタとゴナタ気になっていた事を聞いてみた。


「いえ、私たちは殆どこの街にはいなかったもので」

「うんっうん」


「う~んそうだよね、尚更、孤児院の事なんかわからないよね」


「はい申し訳ございませんが………… ところで、今の話の孤児院ってユーアちゃんとラブナが向かった孤児院の事なんですか?」


「うん、そうなんだ、その孤児院なんだよ」


 ため息交じりにそう答える。


「何かあるんですよね? その孤児院とこの街の領主の事で問題が」

「うん、うん」


 さすが聡明なナゴタだろう、今のやり取りで私の考えを読んだようで、そう問いかけてくる。ゴナタは相変わらずだけど。


「うん、ふたりにもちょっと聞いて欲しいんだけど――――」

「はいお姉さま」

「うん、お姉ぇ」


 私はずっと心に引っ掛かっていた悩みを姉妹の二人に話した。



「なるほどそれは色々怪しいですね? 孤児院に働く者と適当そうなその領主は」

「うんっそれとユーアちゃんが、それでも孤児院に寄付をしていたなんて尚更だ」


 私の話を聞いた姉妹は、それぞれに感想を漏らす。

 二人とも少し憤慨しているようだ。

 その孤児院と領主の現状に。



「だよね、私もユーアの事だから、何とかしたいと思っているんだけど、ただの冒険者が領主に文句なんて言えないし、孤児院に殴り込みに行くわけにもいかないしで。それにユーアの事を考えると、なるべく平和的に解決して欲しいと思ってるんだよ」


 続けて姉妹の二人にずっとため込んでいた心情もそう告げる。

 この二人は信用しているから尚更だ。



「ただの冒険者? ………………」

「適当な領主? ……………………」


「?」


 姉妹の二人は私の独白を聞いた後で、下を向き何やら考え込んでいる。


 ナゴタは本来の言動からも雰囲気からも知的に見え似合って見えるが、ゴナタは正反対に、あまり考えていないように見える。

 もしかして「振り」をしているんじゃないかと、なんてね。



「ああっ!」

「はっ!」


 そんな姉妹の二人を見て若干失礼なことを考えてると、姉妹の二人が揃えて短い声を上げる。何かの考えが纏まったのだろうか?


「お姉さまっ! もしかしたらここの領主に話は出来るかもしれませんよ?」

「お姉ぇもしかしたら、ここの領主って」


「ん、なになに? 二人とも。話を聞かせてくれる?」


 私は姉妹の話に耳を傾けながら、ナゴタの持ってきた紅茶を淹れ直す。



※※



「なるほどね、なおさら今日のギルドではアピールしなくちゃならないわけか」

「そうですね、そうなりますね。お姉さま」


「それとゴナタもよく覚えていたね? この街に殆どいないのに」

「うん、たまたまだよっ! ワタシが気になってた催しの優勝者だったし、それにその適当さは絶対にその領主だってねっ!」


「二人ともありがとうね。これで何とかなる算段ができそうだよ」


「いいえ、お姉さま、私たちが受けた恩から比べれば全然ですっ!」

「うん、うんっ!」


「それでも本当にありがとうねっ !ナゴタ、ゴナタ助かるよっ!」

「は、はいっ!嬉しいですっ!お姉さまに褒められてっ!」

「うっ!なんか照れちゃうなっ!お姉ぇに褒められるとっ!」


「そう? ならユーアにやってるようにもっと褒めてあげるよ」


 二人の頭を軽く撫でて上げる。サワサワ。


「~~~~~ッ!」

「~~~~~っ!」



 二人が私に教えてくれた内容はこんな感じ。





――――――――――――




 まずナゴタの話は、


 私が領主と直接話をするのには、ある程度の地位や名声がないと難しいらしい。

 そこで私の今回の冒険者としての活動が生きてくる話だ。


 この街に危険を及ぼす恐れの、大量のオークやトロールを討伐した件での。


 私は今日の夕方に、ルーギルやクレハンの協力で私はこの街の『英雄』に仕立て上げる話になっている。というか、より多くの冒険者に知って貰ってそこから広めていく算段ではないかと思う。


 まぁ、これは姉妹を私の傘下に入れるって意味でも重要な事なんだけど。


 そこで私のこの街の『英雄』って名声が付くことになる。


 そのこの街を救った名声で、恐らくこの街の領主から感謝と謝礼を受け取る為に会うことが許される事だろうと。そして、その話も聞いてくれるだろうと。



『なるほどね。私が考えていた形ではなかったけど、あの討伐が色々繋がってるのは面白いねっ! 姉妹を仲間に迎えられたり、ハラミとも会ったし。それとうまくいけば今回の事も』



 次はゴナタの話だけど、


 仕事でこの大陸の王都や街を多数行き来していたゴナタたちは、その全てではないが、ある程度その街の領主の話は耳に入ってきてたらしい。

 そこでこの街の領主の訪問が少ない事や、余りにも粗が目立つその仕事ぶりは、他の街では聞かなかったらしい。


 そこで、そんな悪目立ちする領主に心当たりがあったのが、以前に姉妹の二人にトロール討伐に向かう森の中で聞いた「競技大会」の優勝賞品の中の一つの「領主」なるものだ。



 因みに私がその時に、賞品が「領主」と聞いて思った事が、



 領主に就けるってのも、なんかおかしな話だ。

 強ければ領主になれるなんて、なんか変だよ。

 脳筋の領主なんて、絶対に碌なもんじゃない。



 だった。

 正にその通りになってたわけだ。



 そしてこの大会で領主の地位を手に入れた、ある意味本物の初心者脳筋領主は、ある程度他の街では噂になっているらしい。それもあまりいい噂ではない。



 それが、



1.冒険者から領主になったため、領主に必要な知識も経験もなかった事。

 

 それはそうだろう。

 いきなり教育も受けずに領地を与えられたって、元々のノウハウがないんだから無理だろう。というか仕方ない。



2.領主になっても冒険ばっかりしていて、領地に顔も出さない。


 はっ? だってこの人はもう冒険者じゃないでしょ?

 なんでまだ冒険してるのよ? ってかなんで領主になったのよ?



3.子供のように小さくて、そもそも領主としての自覚がない。


 い、いや、だからなんで、誰か領主の何たるかを教育する人はいないの? 賞品にすること自体がおかしいんだよっ!



4.方向音痴


 いや、これがなんで領主としての噂になってんのよっ!

 関係ないでしょっ、もうわけわかんないよっ!



5.変な格好


 ……………………

 ああ、今度は殆ど悪口になってない?

 服装の趣味までは別にいいんじゃない?領主の仕事には。

 私も似たようなもんだし、服装に関しては。



6.よく食べる


 きっと育ちざかりなんだよ!

 子供みたいって噂だし!



7.領地の田植えや開墾が得意


 これがよくわからない。

 領主が手伝ってくれるって事? 得意って何?

 だって元冒険者でしょ? 高ランクの。



 ゴナタからの話はこんな感じだった。


 その色々と変な噂が広まっているのが、この街の領主のようだった。



「………………………」


「お、お姉さま?」

「お姉ぇ?」


 ゴナタの話を聞いて、無言になってしまった私に声を掛けてくれる姉妹。


「う、うん、ものすごく貴重な情報ありがとうね、ゴナタ」

「う、うん」


 ゴナタには悪いが、正直いらない情報だったような気がしないでもない。

 ただ単に碌でもない噂ばかりだし、領主に対して更に怒りを覚えただけだった。



「もし、この街にその領主が来たら、トロールみたいに潰してやろうかな」


 「ボソ」とつい本音が出てしまう。そのポンコツ領主に。 


「お、お姉さま、そ、それは――――――」

「お、お、お、お、お姉ぇ…………………」


 その私の呟きを聞いた姉妹は、ちょっと顔が引き攣っている。

きっとあの巨大トロールの最後を思い出したんだろう。


 そんな二人に私は、

「冗談だよ。それじゃこの街にも、国にもいられなくなっちゃうし」


「そ、そうですよねっ! お、お姉さまっ!」

「あ、あああああっ!!」


「ん、どうしたのゴナタ? 今のは冗談だって聞こえなかった?」


 私の冗談を聞いた姉のナゴタは、胸を撫で下ろした様子だったのに対して、妹のゴナタは、冗談に対してなぜか大声をだして答える。


「ち、違うよっ! そのお姉ぇに潰される領主が、もしかしたらこの街にやって来るんだよっ! な、ナゴ姉ちゃんっ!」


「え? あ、ああっ! 確かにそういう時期ね、ゴナちゃんの言う通り」


「え、どういう事?」


 私は姉妹のやり取りを聞いて、即座に聞き返した。

 この街の領主に早くも会えるかもしれない可能性を聞いて。


 てか、領主はさすがに私でも潰さないよ、ゴナタ。


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