第123話領主の視察時期とパーティーバランス
「そのお姉ぇに潰される領主が、もしかしたらこの街にやって来るんだよっ! な、そうだよなっ、ナゴ姉ちゃんっ!」
「え? あ、ああっ! 確かにそういう時期ね、ゴナちゃんの言う通り」
「どういう事? なんでそのサボり気味で変な格好の、方向音痴で育ち盛りの領主がタイミングよくこの時期に街に来るの?」
そう疑問に思い聞いてしまう。
まあ、そもそも領主の来賓頻度とか時期なんてわからないから尚更だ。
「ええ、時期というか、今がその季節なんですよ。その領主が噂の領主だった場合の視察する予定ですが」
「時期?じゃなくて季節なんだ? え~と今は、春くらい?」
何となく、元住んでいた気候の感じ方で聞いてみる。
私は外ではこの防具の効果で寒暖差は殆ど感じない。
唯一レストエリア内では脱いで入るが、あのスペースの中では自動的に快適な温度になっている。
ただ街の人やユーアの着ている服装や、日中の日差しや木々の茂り具合などで、なんとなく推測していた。寒くも暑くもない季節なんだろな、みたいなフワッとしたものだったけど。
『……………………そう言えば』
この世界の暦についても何も知らなかった。
今の季節の話で思ってしまった。
しかしこれは姉妹に聞いてみてもいいのだろうか?
季節や暦も知らないリーダーってどうなんだろうか?
そんな子供でも知ってそうな常識をきいたら、もしかしたら
バタフライシスターズのリーダーを……………
『降ろされるかもしれない…………』
さっき何となく「春くらい」てナゴタに言っちゃったけど、もし間違ってたらどうしよう?そもそも季節で「春夏秋冬」がこの世界にあるのかもわからないし―――― ドキドキッ。
「そうですね、もうすぐ「春」ですね。なので今の時期は、田植えや開墾の季節に近いので、ここの領主が視察に来る可能性があるのですよ。それを手伝いに」
「あっ!? なるほどっ!」
春が合っていた事の安心と、言われた内容にポンと手を叩く。
確かにゴナタの話だと『領地の田植えや開墾が得意』との話を聞いたし、以前にニスマジにも視察に来るのは年に1回とも聞いていた。
その1回がもしかしたらこのタイミングの可能性が高いって事だ。
「さすが、ナゴタとゴナタだね頼りになるよっ! バタフライシスターズのリーダーは二人でやった方がいいんじゃないの? 私よりも相応しいよっ!」
二人を持ち上げながら、何気なく振ってみる。
リーダーがこんな無知ではこれから大変だろうし。
「いいえ、リーダーはお姉さま以外認めません。これは絶対ですっ!」
「うんっ、ワタシもナゴ姉ちゃんと同じ意見だなっ!」
「そ、そうだよねっ! せっかくみんなが推薦してくれたんだもんねっ」
ちょっと冗談のつもりだったのに、なんか姉妹の目が怖かった。
※※
シュタタタタタタッ
「スミカお姉ちゃ――――んっ! 戻りましたっ!」
『わうっ!』
「ふ、ふんっ、戻ったわよっ! スミ姉とナゴ師匠とゴナ師匠」
「はい。おかえりユーア。それとハラミもありがとうねっ」
孤児院にラブナの荷物を取りに行っていたユーア達が帰って来た。
「それじゃ、ラブナは家の中に荷物置いてきたら。全部持ってきたんでしょ? ユーアのマジックポーチもあるし」
「ふんっ、元々荷物なんか殆ど無かったわよっ! それでも取りに行けって言うから行っただけだからっ」
「え? ラブナちゃんのお荷物結構あったよ? ボクの時よりも多かったし。ほら、この大きなウサギさんのぬいぐるみだって」
ヌルッとマジックポーチよりユーアぐらいの大きさのぬいぐるみを出す。
「えっ!? ユ、ユーアちょっとっ!」
確かに大きいウサギのぬいぐるみだ。リアル系の。
ただあちこち、綻びを直した後もあるから大事なものなのだろうか?
『まあ、ぬいぐるみだったら、ニスマジのお店にも売ってたし。そこまで珍しい物ではないのかな?ただここまでの大きさはなかったから、結構高価な物っぽいけど。ユーアにも買って上げようかな?』
「ほらラブナ、荷物を家の中に置きに行くぞっ! ユーアちゃん家の中に出してくれるかい? それとそのぬいぐるみ可愛いなっ!」
ユーアとラブナを連れてゴナタが、荷物の下ろしにレストエリアに案内していく。
その際にラブナの抱えていたぬいぐるみを褒めていた。
「なっ!? こ、これはっ、そ、そうあれなのよっ! アタシのじゃなくて元々は孤児院に置いてあったのよっ! それを餞別に貰ってきたのよっ! だからアタシに持ち物って訳じゃなく――――」
「え、ラブナちゃん、孤児院に来た時からその大きなぬいぐるみ持ってたよ?」
「んなっ! ユ、ユーアは余計な事は言わないでっ! アタシにもイメージがあるのよっ! 強く気高く見せる為のっ!」
「えっ!? そうなの?」
「そうよっ!!」
「えっ? ラブナはそんな風に見て貰いたかったのか?」
「わ、悪いっ!」
三人はキャッキャしながらレストエリアに入っていった。
『そんなイメージ最初からなかったと思うけど』
私は三人が話していることを聞いてそう思った。
ただただ煩くて気の強い、でもユーア想いのいい娘だったと思うけど。
ああ、それとあれだ、
『それと面倒臭い「リアルツンデレ」だったんだ』
※
それから私たちはラブナの荷物の片付けを待って、天気もいいし、昼食をせっかくだからと外で食べた。
例の大型コンロを出してお野菜中心にバーベキューをし、ラブナに簡単ながらもみんなから自己紹介をした。
それによると、ラブナが元貴族の三女だったっていう事と、そのお家が他の貴族の妬みで、辺境の地へ送られ、その結果に没落してしまいお家を取り壊され、両親とも兄弟とも生き別れになってしまった事などを教えてくれた。
そしてお父さんが孤児院に送ってくれた事など。
それを話す等の本人は特に気にした様子ではなく、でも随分と重い過去を背負って生きてきたのだと私はそう不憫にも思ったが、それはこの今のラブナからは想像できなかったし、それを語るラブナもそんな表情は見せなかった。
『それと、自分自身を守る為に、相手を威嚇して自分の優位性を示したかった』
ラブナの母親は他の兄弟たちとは違い、父親が妾の女性に産ませた子供だ。
それに劣等感を感じてしまい、自分が見下される前に、先に相手を見下してそれで自分を守って来た。
『それが今のラブナの人格を形成した要素だったんだよね。あの強気な態度も口調も、他人から自分を守る為、自分が傷付けられる前に他人を傷付けて自分を守ってきた。暫くはそんな生き方で、孤立していって、孤児院でも前と同じように孤立した――――』
そしてそんなラブナをユーアが救ってくれたと。
その恩返しをしたくてラブナはユーアの後を追って冒険者になった。
それとラブナの能力の話も本人から聞けた。
何でも4つの属性を扱えるらしい。
確かに私との戦いの時に「炎弾」とか「風切」とか「氷槍」とか、色々用途に合わせて使っていたなぁって感覚だったけど、ナゴタの話によるとそうではないらしい。
それによると、
魔法を実践レベルで使えるだけでも希少なのに、更に4つの異なる属性を扱えるというのは、希少を通り越して、神の奇跡とでも言える存在だろうと。
相反対する属性が使える時点でもあり得ないと。
これはもう魔法云々の相性とか実力とか、そういったものではなく、持って生まれた特殊な能力だと結論付けた。ナゴタとゴナタの、あの体が光る能力アップみたいな感じなんだろう。ユーアも持っているし。
とまあ、ラブナの生い立ちと現在までの話はこんな感じだった。
「結構私たちのパーティーってバランスいいのかな?」
「ん、何? スミカお姉ちゃん」
私はここまでのラブナの話も聞いてそう思った。
「そうですね、お姉さま。前衛はお姉さまとゴナちゃんがいますし。後衛はユーアちゃんとラブナで、私はその間って感じですかね?どちらにも駆け付けられますから」
と私の話を聞いたナゴタがそう答えた。
「あ、でもハラミもいるからユーアちゃんとラブナを乗せて牽制もできるぞっ!」
「アタシだったら、この魔法で一気にっ! ――――――」
と、これはゴナタ。
確かにあのハラミの速度で牽制しながらも攻撃出来るし、ハラミ自身も戦闘能力は高いだろう。でもどっちかっていうとユーアとラブナの守りに専念して欲しい気持ちもある。
「う~ん、それを聞くと尚更いいパーティーだなって思うけど、ナゴタにも前衛で攪乱してもらって、守りは私の魔法でいいんだけど、それでも手数が足りなかったら私の魔法は使えないし、うん。やっぱりもう一人守り主体の能力が欲しいかも。でもそれなりに攻撃もできるそんな人物が」
二人の話を聞いてそう答える。
「なるほどそうですね、後衛は守りも含めて、攻撃力も確かに欲しいですね、それか後衛に危険があった場合に、私達が駆け付けられるまで堪えられる者も」
「はっ!そんなのアタシの魔法で――――――」
「スミカお姉ちゃん、ボクじゃまだお役に立てない?」
私と姉妹の話を聞いて、また不安になってしまっただろうユーアが、上目遣いでキュッと私の腕を掴みそう言ってくる。
「ううん、違うよユーア。ユーアが頼りないとかの話じゃなくて、戦闘で起こりうる最悪での話をしているの。そうやって今から考えておけば、近い状況になったら直ぐに動けるでしょ?そんな話。それに、私が倒されたらって想定しての話もしないといけないしね」
私の腕を掴んで不安がっているユーアにそう告げる。
パーティーの話をしているのに、途中から話が変わってきてしまったけど。
「えっ! それはないよ、スミカお姉ちゃん」
「はいっ? そんな事想定する必要ありますか? お姉さま」
「うん、全くその話は無駄だなっ!」
「ふんっ! スミ姉が誰かに負けるなんてそんなの事考える意味ないわよっ!」
「……………………うん、まあ、みんなの気持ちもわかるけど、私もそのつもりだけど、それでもね、私の想像の範疇を超えた敵とかね、そんな感じのも―――――」
私が倒されるって話にだけ反応してしまったみんなに何となくそう答える。
「えっ! それは絶対にないよ、スミカお姉ちゃん」
「はい? お姉さまを超える存在などいませんよ、この世界には」
「そんな敵なんかいたってお姉ぇに敵うわけないだろっ!」
「はあ、無駄な時間取らせないでよねっ! 全く」
「そ、そうだよね、なんかごめんねっ」
私は謝る必要もないのに何故か頭を下げていた。
多分最後のラブナの一言にショックを受けたせいだ。
『無駄って言われたよ。結構大事な話だったのに……』
そんなこんなで夕暮れ間近になり、私たちは新メンバーのラブナも連れて冒険者ギルドに向かうのだった。
ナゴタとゴナタの姉妹の行く末を左右する事になるであろう、私たちの戦場に。
そして近々防御主体の仲間が入るであろうその場所に。
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