第124話いざ、お披露目会会場へ(予想外)





 私たち5人と1匹は、孤児院裏の雑木林から出て冒険者ギルドに向かう。


 この後冒険者ギルドで、街を救ったであろう私たちのお披露目と事実の確認。

 その為にルーギルやクレハンは、多くの冒険者をギルドに集めているだろう。


 そして集まった冒険者たちに、私がナゴタとゴナタを配下、そしてパーティーに入れて何も問題はないか? 姉妹が何か騒動を起こした時に、私に諫められるか? 姉妹を止められる実力が私にあるか?


 それを模擬戦で証明し、認めてもらう事。


 その戦い如何によっては姉妹の行く先が決定する。

 私の傘下に入って一緒に街に残れるか? それともこの街を出て行くかの。


 だったら、姉妹はわざと私に負けて、私に屈服しているフリをすればいいんじゃない? その方が簡単じゃない?


 なんて思わない事もないけど、過去には姉妹が相手した者もいるのだから、おいそれとイカサマは出来ない。もし見破られたら姉妹も含め、それに加担した私もこの街へはいられなく恐れがあるから。


 なので模擬戦では姉妹にも手加減は無しでと、話し合って決めてある。

 それがあと腐れもないし、リスクも背負わない方法だと思って。



※※




 私たちは冒険者ギルドへ向かう為、この街の人々が多く住む一般地区を抜けて、大通りのある商業地区を目指して歩いている。

 そのエリアには色々なギルドが集中し、その一角に冒険者ギルドもあるからだ。



「ねえ、スミカお姉ちゃん。何かいつもより人が少なくないですか?」


 ハラミの背に乗ったままのユーアが私に聞いてくる。


 因みにユーアの後ろには、ちゃっかりラブナが乗っていた。

 そしてその表情は、何故か蕩けるような顔だった。

 しかも何気にユーアの頭の後ろに寄りかかってるし。



「えっ、そう?――――――だね。なんだろう?」


 ユーアの言葉で周りを見渡すが、確かに街の人の姿が少ない。

いつもなら夕方のこの時間だと、仕事帰りの人々や、外で遊んでいる子供たち。そして夕飯の用意をするそのかぐわしい匂いも少なかった。



「あの、お姉さま。ギルドに向かう程人が増えてきていませんか?」

「お姉ぇ、しかも何か、だんだんいい匂いもしてくるんだけど」


 今度は私の後ろを歩いていた姉妹もその違和感に気付く。


「えっ、そう?――――――だね。なんだろう?」


 周囲を見渡しながら、空返事する。



 確かに姉妹の言う通り、大通りに近付くにつれ人が多くなってきている。

 しかも普段は街門に近い、繁華街の屋台が所々に出店している。



「ねえ、ユーア。今日はお祭りとかやる日なの?」


 私はその屋台と人々で賑わっている様子を見て聞いてみる。


「ううん、今日はお祭りはないですよ? それに昨日は普通だったし」

「う~~ん、そうだよね、昨日の午後は何も準備してなかったよね……」


 私たちはそう疑問に思いながらも、通りに増えてくる人たちを尻目に街中を歩いて行った。


 あちらこちらから「蝶」がどうとか、魔物に子供がっ! とか、そんな人々の嘲笑にも驚愕にも似た囁きを聞きながら。



※※



「なっ、何なのよっ! この人だかりはっ!」


 ラブナがハラミに乗ったユーアの後ろから絶叫を上げる。 


「な、なんでこんなに人が多いのっ!」


 私も堪らずに、その人だかりを前にして驚く。


「スミカお姉ちゃんっ! お肉の屋台もたくさんあるよっ!!」 

『わうっ!』


「な、何なのでしょう? まるでさっきお姉さまがユーアちゃんに聞いたお祭りみたいな様相ですよ。これはっ!」


「んなっ! なんだこの人だかりっ! なんで屋台がギルドの周りにっ!? そっちも凄いけど、ギルドの練習場の周りが特に大変な事になってるぞっ!!」


 姉妹の二人もその光景に思わず大声を張り上げる。



 私も含め、みんなも驚いている。

 広い大通りを埋め尽くすほどの人だかりが出来ているからだ。



 正直、これでは今日の目的地のギルドまで行くのにも、この人混みをかき分けなければ行けないし、かき分けた先がこんな状況では、姉妹との模擬戦に影響が出そうだ。


「何なの? 一体……」


 その人だかりを見て、内心で溜息を吐く。


「お、おうっ! スミカ達も姉妹も着いたんだなっ!」

「え?」


 そう混乱する私に声を掛けてきたのは、この街の警備兵のワナイだった。

 この人混みの中でよく私たちを見付けられたな、と変なとこで感心する。


 まあ、よく見ると、人混みを抜けてきたせいで髪や服装が乱れてはいたけど。



「こんにちはっ! ワナイさんっ!」

「おう、こんにちはユーア。ハラミもなっ! と、この赤い子供は?」

『わうっ』


 それに気付いてユーアがワナイに挨拶をしていた。

 私の妹は、姉に似て礼儀正しい。



「ふんっ!」

「ワナイ?ああ、昨日門番をしていた人ですね? こんにちは」

「うん、こんにちはだなっ!ワナイっ」


 それに続いて、ラブナと姉妹が頭を下げる。

 ラブナは相変わらずのスタンスだけど。


「ああ、こっちは今日からシスターズのメンバーになった、新人冒険者の『ラブナ』だよ。実践でも戦える、貴重な魔法使いなんだ。ほらキチンと自己紹介しなよ、ラブナ」


「そうだよっ、ラブナちゃん。ワナイさんはこの街を守るのをお仕事にしてる凄い人なんだよ? だからちゃんと挨拶しようね?」


 そんなラブナにユーアがお姉さんのように言い聞かせる。

 一体どっちが妹役か分からなくなってきた。


「そうか、ラブナだっけか? お前もスミカのパーティーの一員なんだな。それは凄く誇らしく光栄な事だぞ。良かったなスミカのパーティーに認められて」


「ふ、ふんっ! あ、ありがと、ア、アタシはFランク冒険者のラブナよっ! スミ姉に認められたのは、アタシの実力のせいだから当たり前じゃない? それとあまりユーアに馴れ馴れしくしないでくれる? していいのは、スミ姉は勿論、あとはアタシの師匠だけだからっ!」


「お、おうっ、そ、そうかそれは悪かったなっ…… おい、スミカ、こいつは本当に新人なんだろうな? 何かやたら高圧的だぞ? お前見たいな容姿のくせに」


「う、うん、それは間違いな――――」


「ワナイさん、ラブナには師匠の私たち姉妹から注意いたしますので、ここはどうか大目に見て下さると助かります」


「うん、ナゴ姉ちゃんの言う通り、私たち姉妹できっちり教えていくからさ、今回は許してくれるとありがたいなっ! ワナイ」


 私がワナイにラブナの事を説明する矢先、

 ナゴタとゴナタが割って入り、ワナイに謝罪した。



「お、おう、そうか、まあ、俺はあまり気にしないが。それよりお前たち姉妹も随分丸くなったな? このユーアも含めて、お前たち姉妹もスミカと出会えて良かったかもな。表情もそうだが、瞳が生き生きしているとわかるぞ。以前とは別人のようだ。色々問題を起こしてた昔とな」


 ワナイは姉妹の謝罪を聞いて、そしてまた私の事に戻る。

 それを聞き、みんなの視線が私に集まる。



「ちょ、何か照れるからそういうのやめてよ。ユーアの事は私が好きで一緒にいるし、ラブナはその友人だから。でもナゴタとゴナタは元々はそういう性格だったと思うよ? それが少しずつ本来の二人に戻ってきてるだけだし。だから私だけのせいじゃないからね?」


 皆の視線を受けながら、一気に捲し立てる。

 ちょっとだけ恥ずかしいし、それに嘘偽りない本当の話だし。



「だが、それでも切っ掛けを作ったのはスミカだろう?」


「はいそうです。私たち姉妹はスミカお姉さまに救われましたっ!」

「うん、スミカ姉には本当感謝だなっ! お姉ぇ!」


「うんっ! ボクもスミカお姉ちゃんに会えて良かったですっ! お陰でハラミにも再開できたし、毎日おいしいご飯やきれいなお洋服も着れて、それに一緒のお布団で寝れるんだよっ! 暖かくて柔らかなお布団にっ!」


『わうっ、わうっ!』


「そ、そうねっ! スミ姉は特別だから、そんなスミ姉の事をアタシも認めてるから当たり前なんじゃないの? だってそれがスミ姉だからっ!」


「ほらなっスミカ。お前はここにいる皆を、切っ掛けはどうあれ救っているんだぞっ! そんなお前たちの為に、昨日から俺も頑張ったんだからな」


「頑張った? なにを」


 ここでワナイは周りの大勢の人だかりや、多くの屋台を見渡す。

 私はその話の内容と行動に首を傾げる。


 そんな私を見やり、更に話し続ける。


「お前たちの為に、最高の環境と舞台を用意した。これでお前たちも一度に多くの人たちに注目を集められるだろう? 一度に集まった方が手っ取り早いしなっ!」


 そう言い切った後で、ドヤ顔で振り向くワナイ。



「えっ、も、もしかして、こ、このお祭り騒ぎの原因って?―――――」


 若干しどろもどろになりながらも、そう尋ねずにはいられなかった。


 も、もしかして、この大勢の人たちの目的って……



「おう、俺が昨日の午後から、持ち場を若いのに任せて声かけまくって集めた。まあ半分以上は口伝だろうけどなっ!」


「そ、そうなんだ、で、何でこの人たちは集まったの?」

「はあ? 何ってそりゃ決まってるだろ?」

「な、何がっ?」


「そりゃ、お前と姉妹の戦いと、街を救った『英雄』と『バタフライシスターズ』を見に来たからに決まってるだろ? それ以外に何か理由があるか?」


 最後にわざとらしく胸を張って、得意げにそう告げた。



「へっ?――――― えっ? えええええ――――っ!」


 ワナイの爆弾発言を聞いて、周りの目も忘れて絶叫する私。

 決してワナイみたいにわざとではない。本当に驚いたから。



「ええっ! ワナイさんがこんなに集めてくれたのっ!?」

「へえ、中々やるじゃないっ! 少しはユーアと話してもアタシが許すわよっ!」

『わう~~~~んっ!!』

「ワナイさんありがとうございますっ! 確かに手っ取り早いですね」

「ワナイっ! お前は天才だなっ! まぁ、お姉ぇの次だけどなっ!」


「は、はぁ?」


 ただ、慌ててるのは私だけで、みんなは口々にワナイを褒めている。



『いや、いやっ!』


 ちょっと待って、こんな大勢の前で戦うのっ!?

 冒険者たちの前だけじゃないのっ!?


 いくら何でもやり過ぎでしょうっ! 

 この街の一大イベントみたくなってるよっ!


『うううっ…………最悪』


 なんて、ノリノリのワナイとみんなに言える訳でもなく、独り内心で毒を吐く。


 そして今こそ透明鱗粉を使って、ここから離脱したくなった。


 だって元引きこもりの私は、こんな大勢の視線に耐えられないからね。



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