第121話転んでもただでは起きないラブナ




「これからラブナには、ナゴタとゴナタの弟子になって貰うよ? 異論は認めない」

「へっ? えええええっっっ!!」

「だからラブナの事はよろしくね。二人とも」


「はい、お姉さまっ! 承知しました」

「うん、わかったぞお姉ぇっ!」



 今のラブナにとって、もっともいい選択だと思う事を私は伝えた。

 それにナゴタたちとはもう話はついてるし。



「な、なんでっ!? アタシは出来ればお姉さんに…… それとユーアとは離れ離れになっちゃうんじゃないのよっ!?」


「あ、私の名前は透水澄香ね。スミカでいいよ。なんでっていうのは、このナゴタとゴナタ姉妹が、あなたを指導するのには最適だと思ったから。それに姉のナゴタからそうしたいって言ってきたんだよ。あとユーアとは同じパーティーなんだから少し我慢して欲しい。冒険に行くのは一緒なんだから」


「ユ、ユーアとは今まで以上に会えるからいいとして、な、なんで、スミ姉はアタシに教えてくれないのっ!? アタシはスミ姉に色々教わりたいのよっ!」


「う~ん、さっきも言ったと思うけど、私はまだ冒険者になって日が浅いし、シスターズの中でも一番冒険者の事や、この大陸でのことは疎いと思う。どっちかっていうと私がユーアや姉妹の二人に教えて貰っている状況だしね」


「え? 本当に? そんな強いのに?」


 人差し指を立ててそう説明する。

 それに対して、また疑惑の眼差しに変わるラブナ。


 なので、さらに続けて、


「それに戦闘に関しても、私の戦い方は姉妹たちにも参考にならなかったみたいだし。なら冒険者の中でも屈指の実力のこの姉妹に指導して貰った方がいいと思ったんだよ。それが冒険者としても、強くなるにしても、一番の近道だと思ったからさ」


 

 私に少しでも懐いたり、認めてくれたのは嬉しいけど、私の能力とか知識はこの世界では相違なるものだ。どれ程為になるかわからない。


 正直私がラブナを指導したとしても、その効果は薄いだろう。


 ならこの世界での上位者に教わる方が最も効率もいいし、

 最終的にそれがラブナの為になる。


 そう思っての、今回の提案だった。



「う、うん、ス、スミ姉がそこまで言うならアタシはそれでいいわよ。スミ姉の言う事は信じられるし、これからも信じたいから。それじゃ、エ、エロいお姉さん、じゃなかったわっ! ナ、ナゴタさんゴナタさんっ! これからアタシに色々教えて…… 教えなさいよっ! スミ姉の指示なんだからねっ!」


 説明に納得してくれたラブナは、姉妹に対してそう言い放つ。


 その振る舞いは、会った時の強気のラブナに戻り、

 指差し仁王立ちの、上から目線の様相だった。



「はぁ~ ったく、このツンデレ娘は」

「ラブナちゃん………………」

「くっ」

「うう~っ!」


 私とユーアは呆れて、姉妹の二人はプルプルしている。


 そんな態度のラブナに業を煮やした姉妹は、


「ええ、そうですね。私から進言したこととはいえお姉さまからのお願いですからね。全身全霊を持って教えて差し上げますよ。まずは――――」


「うん、そうだなっ! お姉ぇからのお願いだもんなっ! アタシは教えるのは苦手だけど、全力で教えるよっ! そうだなまずは――――」


 鬼気迫る顔でラブナに迫り、


「「その舐めた口の利き方と、その不遜な態度から矯正してあげますよっ!(やるぞっ!)」」


 ヒョイ


「へっ!?」


 軽々とラブナを担ぎ上げて、レストエリアに向かって運んでいく。


「へっ? ってうわぁ~っ! な、なんでっ! た、助けてユーアっ!」


「………………それはラブナちゃんが悪いと思うよ? ボクは。だから今は大人しくナゴタさんとゴナタさんに教えて貰った方が良いと思うんだ」


「そ、そんな、アタシは何も悪い事言ってないじゃないのよぉ~っ!」


 バタンッ


 そうして、ユーアにも見放されたラブナは、ここからいなくなった。


 まぁ、自業自得ってよりかは、因果応報って感じだよね。



「…………それじゃ、待ってる間におやつの用意しちゃおうか?」

「そ、そうですね、スミカお姉ちゃん」


 姉妹に任せた以上は口も挟めないので、二人で軽食の準備を始める。

 

「今日もきっといい天気だね、ユーア」

「そうだねっ! スミカお姉ちゃん!」


 木々の隙間から覗く、眩しい太陽を見ながら何となく口を開いた。

 


『あとは姉妹の二人に任せておけば大丈夫。だよね?』



――――



「お待たせしました。お姉さま」

「おっ! ケーキ用意してくれたんだなっ! お姉ぇとユーアちゃんっ!」

「ううっ~………… ぐすっ」


 準備が終わった頃、レストエリアの中から、ナゴタとゴナタが出てくる。

 そして一番最後に、トボトボと肩を落とすラブナが出てくる。

 チラとこちらに向けた目は、薄っすらとだが赤くなっていた。



「あ、ケーキですねっ! ありがとうございます、お姉さまっ! あ、紅茶は持っているので、ご用意しますねっ!」 


「アタシはこの栗が乗ってるのがいいなっ!」


「…………ぐすっ」



『ああ、早速、ナゴタたちに指導されたみたいだね、これは』


 ケーキにはしゃぐ姉妹とは対照的に、目線を伏せたままのラブナ。


 そんな赤い少女は、下を向いたままで大人しい。

 さっきまでの威勢は鳴りを潜めていた。てかすすり泣いていた。



「ラ、ラブナちゃんっ! これ美味しいよっ! このイチゴが乗ってるのっ!」


 それを見てユーアが慰めるようにケーキを勧めていた。


「うん、ありがとうユーア、でも、アタシは――――――」

「た、食べてみてよラブナちゃん! とっても甘くて美味しいからっ! そ、それじゃ、ボクが食べさせてあげるね? は、はい、あ~~ん!」

「うん、あ~~ん」


 パクッ。


「ね、美味しいでしょ? スミカお姉ちゃんが出してくれたんだっ!」

「うん、美味しいけど、もう一口食べたいわね」

「う、うん、はい、あ~~ん」

「あ~~ん」


 パクッ。


「ど、どう? 美味しい?」

「うん、ちょっとそっちのイチゴも食べたいわ。ユーアお願い」

「う、うん、はい、あ~~ん」

「あ~~ん♪」


 パクッ。


「ど、どうかな? ラブナちゃん」

「そうね、今度は喉が渇いたわ。ユーア、お願い飲ませて」

「う、うん、はいラブナちゃん」

「『あ~~ん』が抜けてるわよ? ユーア」

「う、うん、はい、あ~~ん」

「あ~~んっ♪」


 ゴクゴクッ


「ふうっ、美味しかったわ。それじゃ今度は――――」

「う、うん」



「「「………………」」」


 何だこれは?



 落ち込んだラブナのお願いに、何も疑わずに献身的に尽くすユーア。


 それを私とナゴタとゴナタの三人で眺めていた。

 そして三人でお互いの顔を見渡す。


 きっとみんな同じことを考えているだろう。



『『『こいつっ! めっちゃネコ被ってるしっ!!!』』』


 そもそもが泣いて落ち込んでいたのかも怪しいし、今までの事は全て演技だったのではないかと愚推してしまう。


 それにこの娘は一度、そういったとこを見せていたし。



「ユーア、ありがとね。それじゃ今度はアタシが食べさせてあげるわよ」

「う、うん、でもボク一人で食べれるよ?」

「ほら、いいから口を開きなさい。落ちちゃうから。あ~~ん♪っ!」

「う、うん、あ、あ~~ん」


 パクリッ。


「どう美味しいでしょ? アタシが食べさせてあげたんだからっ!」

「う、うん、美味しかったよ? いつもと一緒だけど」

「でしょ? アタシが食べさせてあげたんだから当然よっ!」

「う、うん、そうだね、ラブナちゃん…………」



『う~ん、ユーアのお陰で元気になったはいいけど……』


 なんかユーアが気の毒になって来た。

 いつまでもラブナのいう事を聞かされているみたいで。


 それでも当事者のラブナも含め、ワガママな年上の面倒を見るユーアも、端から見ると本当に楽しそうで――――


「ユーアったらさっ! クスっ」

「でもラブナちゃんだってっ! あははっ!」


 そしてそんな二人は柔らかい笑顔を浮かべていた。



 姉妹の二人の躾で何を言われて落ち込んでいたのかはわからないけど、この娘はこれが自分なんだから、このままでもいいと思った。


『それに急に変わったら、ユーアがまた心配しちゃうしね』


 きゃっきゃっと楽しそうに、お互いに食べさせ合っている二人を見て私はそう思った。ラブナはこれでいいんだと。


『そうやって、誰かに言われて、肩肘張らずに私たちのペースでのんびりやっていく方が、その方が私の性にもあってるしね』


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