第120話Bシスターズに新たな蝶が舞い降りる?
「ううっ、もうアタシはユーアと一緒にいれないわっ! きっとあなたはそう命令するんでしょっ! 勝負に惨敗したアタシに…… うううっ」
「………………」
胸の中の小さく震えるラブナの頭を撫でる。
『この子はなぜ、ここまでユーアを守ろうとするのだろう。ただの孤児院の友達って訳じゃないよね? きっとユーアがこの子を変えたんだと思う。だってこの子の性格や気性は、誰かを守るには相応しくないから』
私がラブナに教えたかったことは、誰かを守る為に必要な事とその覚悟。
この世界と現代での、守る事の意味はその質が違う。
現代。
私が元いた世界、私が住んでいた国は、正直誰かを守るなんて、普通に働いて普通の生活をしていれば、それだけで誰かを守れる。そこに確固とした意志があればだけど。
現在。
ただ私が今いるこの世界には、命を脅かす魔物や、明確な敵意を持った人間もいるだろうし、意志だけではどうにもならない。
そこには肉体的な強さそして、敵を見極める目も必要だろう。
そして守る為には、自身が傷付く覚悟も、得体の知れない敵から逃げる覚悟も。
それが、この子「ラブナ」には何もかもが足りなかった。
その気性の激しい性格故に、要らぬ敵を作り。今回のように、相手の実力も図れずにケンカを売って返り討ちに合う。その実力に見合わない敵を相手にして。
これが今回私たちであったのは僥倖だともいえる。
もし、私たちじゃなく、ラブナより実力が上の人間や、魔物を相手にしていたならば間違いなくユーアとラブナは助かってはいなかっただろう。自分の能力にかまけているだけで、経験も知識も何もかも足りていないのだから。
だから私は今回の勝者の権限に「敗者は勝者のいう事を聞く」に変更したのだから。
「うううっ、お姉さんっ! アタシからユーアを取らないでよっ! ユーアから離さないでよっ! アタシはユーアの為に頑張って来たんだからっ! 冒険したいんだから、だからお願いします、お姉さんっ!…… ううっグス――――」
未だ私の胸の中で、ユーアとの事を泣いて懇願するラブナ。
「大丈夫だよ、ラブナ。私はユーアから離れろとも命令しないし、冒険するなとも言わない。だけど、あなたには強くなってもらうよ? それはラブナも、もうわかったよね? だからもう泣きやみなよ。これ以上はユーアも心配しちゃうよ?」
そんなラブナをきゅっと抱きしめて耳元で優しく話しかけた。
それを聞いた途端。
「えっ!?」
ガバッ! と胸から顔を上げて、タタタッとユーアの前まで駆けていく。
「あははっ! やったわっ! しかとこの耳で聞いたわよっ! ユーアをアタシから離さないってっ! 今回の勝負には負けたけど、何もアタシは失っていないのだから、実質、この勝負はアタシの勝ちみたいなものよっ! やったよ、ユーアっ! アタシ負けなかったわっ!!」
ユーアの手を取り「ぴょんぴょん」と飛び跳ねて歓喜の声を上げる。
「ラ、ラブナちゃんっ!?」
それを見て、目を丸くするユーア。
「あははははっ! これから一緒よユーアっ! あのお姉さんは強かったけど、最後が甘すぎたのよっ! こんなアタシに優し過ぎたのよっ! だから――――――」
そう言って、突然歓喜の声を止め、ユーアを見つめる。
「だから、ユーアは素敵なお姉さんに出会えて良かったわね。きっとあのお姉さんならユーアを守ってくれる。そしてアタシのお姉さんにもなってもらうから。そしたらアタシはユーアのお姉さんだわ。どう完璧でしょ? アタシの作戦は」
歓喜の表情から一変、真摯な態度でユーアに伝える。
そして今度は、ゆっくりと後ろを振り向き、
「ねえ、お姉さんいいわよね? アタシも妹に混ぜて貰っても」
ちょっとはにかんだ笑顔に変わり、そう続きを話す。
ただその目尻には、まだ光るものが残っていた。
『ふふっ、随分と強かな子だね。でもこの強かさはきっと色んな所で役立つ一種の特技みたいなもんだね。実力が伴えば戦闘にも生かされるだろうしね』
内心でラブナの事をそう認めて、更に口を開く。
「う~~ん、正直妹はユーア一人で充分かな? ユーアも私以外のお姉ちゃんが増えても嫌だろうから。だから妹には出来ないけど『バタフライシスターズ』には入れてあげるよ。その代わり条件はあるけど」
「え、条件あるの? それに『バタフライシスターズ』って何よっ?」
「そりゃ条件もそうだけど、その前に私の勝者の権限はまだ使ってないんだけど? その勝者の…… まあ私の言う事なんだけど、それを聞いてくれたら入れてあげるよ」
「で? バタフライシスターズって?」
「ああ、バタフライシスターズは、私とユーアとナゴタゴナタ姉妹で組んでいる、冒険者パーティーの名前だよ」
「えっ? このナゴタゴナタの姉妹までパーティーに入ってるのっ!? この姉妹を纏めるって一体………… だ、誰がリーダーなのよっ! やっぱり一番ランクの高い姉妹なんだよね?」
ラブナは姉妹たちもパーティーの一員だと知って驚き、私とユーア、そして姉妹の順で見渡して、最後の姉妹の所で視線が止まる。それを見てナゴタが口を開く。
「リーダーですか? あなたはそんな事聞かないとわからないのですか? もちろん、少女のように可愛く可憐、そして娼婦のように艶めかしい、そして慈悲深く聡明で、それでいてこの中で最も強いスミカお姉さまに決まっているでしょう? あなたの目は節穴ですか?」
「はあ、やっぱりお前は見る目がないなぁ? そんなの一目見ただけでわかるだろ? 誰に聞いたってスミカ姉に決まってるだろ? こんなに強くて優しいんだぞっ!」
「え、ボク最初からスミカお姉ちゃんだと思ってたよ。そうだよね? スミカお姉ちゃん」
「えっ? このお姉さん?」
ナゴタに続き、妹のゴナタもユーアも私を見てそう口々にそう話す。
ラブナは私の名前が一同に挙がったことに更に驚く。
その説明によって、みんなの視線が私に集まる。
「う~~ん、皆がそう言ってくれるのは嬉しいんだけど、私って、まだ初心者の冒険者だよ? 何も知らないよ? 冒険者の仕事なんて、殆どした事ないし。それでもいいの? 後から困らない?」
念のために、みんなの顔を見て確認する。
私はこの世界でも戦闘に関しては自信を持って強いと言えるし、敗北する事はまずないと思っている。
だけど今はソロプレイでの話じゃないし、パーティーというくらいだから私個人がただ強いってだけでは、リーダーには相応しくない。
それに冒険者としての知識も姉妹たちはもちろん、ユーアにも遠く及ばないし、この世界自体の常識にも欠けている。だから私は言葉を濁して返答した。
「いえ、そういう事ではないのですよ? お姉さま」
「お姉ぇっ! 冒険者の実力とかの話じゃないんだよっ!」
「え、それじゃ 何で私をリーダーになんて言ったの?」
姉妹の返答を聞いて困惑する。
それでは私の何処に何を感じて、そう言ったのかがわからない。
私的には、姉妹の、特にナゴタの方が向いていると思っている。
実力もそうだが、知識も豊富で視野も広いし、この中では一番の常識人に見える。
暴れてた過去の話はもう過ぎた事だし。
『う~ん、なら何だって?…………』
クイクイ
「あのね、スミカお姉ちゃん」
「ん? なに、ユーア」
悩む私の羽根を引っ張る妹の顔を見る。
「あのね、それはね、だってスミカお姉ちゃんは、なんだって出来るでしょ? 誰だって助けてくれるでしょ? 誰にも負けないでしょ? だからねっ! それにね―――――」
私の腕を抱いて、たどたどしく話すユーア。
それでも言いたい事は良く分かる。
「まあ、ちょっと持ち上げ過ぎだとは思うけど、負けないってとこだけは否定しないかな。私自身もそう思ってるから。でもねユーア、リーダーってそういう事じゃ――――」
「スミカお姉ちゃん聞いてっ! それにねボクたちは、スミカお姉ちゃんといると安心するんだよ。何でも出来そうな気がするんだよ。スミカお姉ちゃんの決めた事なら、なんだってそれが正しいって思えるんだよ。だからボクたちのリーダーなんだっ!」
「そうですよお姉さま、ユーアちゃんの言う通りです。強さも知識ももちろん大事ですが、それだけではお姉さまをリーダーになんて決めません。私たちはスミカお姉さまの事を信じているのですから」
「そうだぞっ! お姉ぇっ! ワタシたちはお姉ぇの言うことなら全部信じられるし、お姉ぇの命令なら悪事に手を染めても構わない。もしそんな命令されても、きっとお姉ぇのやる事には意味があると信じているからっ! それにワタシもナゴ姉ちゃんもお姉ぇに救われたんだから、そんなお姉ぇに心底惚れているんだからなっ! だからリーダーはお姉ぇしかいないんだっ!」
「―――――――――」
ユーアに続き、ナゴタとゴナタの想いを聞いて、息を飲む。
私はみんなの想いを聞いて、胸が熱くなった。
みんなは私の事をそんな風に思っていてくれてたんだって。
『ああ、私がこの世界でやって来た事にはちゃんと意味があったんだ。伝わっていたんだ。みんなに、私の想いが――――』
ならそれに答えるのは当然の事。
「ラブナ。今まで決まってなかったんだけど、私がこのパーティーのリーダーだから『バタフライシスターズ』の」
ラブナを見て、そしてみんなに向き合って胸を張る。
ユーアを含めナゴタとゴナタも私の事を信じてくれている。
私が相応しいと、私しかできないと。
そうしたら後は、全力でリーダーを務めるだけだ。
「ちょ、ちょっと、お姉さんは本当に何者なのよっ! ナゴタゴナタ姉妹って、Bランクの冒険者でしょっ! なんで新人のあなたの下につくのよっ! あなたは本当に新人冒険者なの? またアタシに嘘ついてない? ど、どうなのよっ!」
「あ、ごめん、嘘は言ってないけど冒険者のランクはCね、これは言ってなかった。ただなり立てって言うのは本当の事だけど」
ここでネタばらしをする。
「はあっ!? 何それっ? なり立てでCランクっ! そ、そんなの聞いたことないわよっ! またアタシを騙そうとっ!」
それを聞き、更に疑心暗鬼になる赤い少女。
「ねえ、ラブナだっけ? あなた。あなたもお姉さまと戦って、お姉さまに諭されて、本当は分かっているんでしょ? お姉さまが私たちとは一線を画す存在だって事を。お姉さまは私たちとは違うって事を」
色々と混乱するラブナに、ナゴタが諭すようにそう話す。
「そ、それは…… そうなんだけど、でも」
「ねえ、ラブナちゃん。ボクはスミカお姉ちゃんに出会って救われたんだよ。ラブナちゃんはどうだったの?」
困惑するラブナに、今度はユーアが声を掛ける。
「ア、アタシももしかしたら救って貰ったんだと思う。このお姉さんの言う通り、アタシはユーアと冒険をしていたら、遠からずユーアを危険な目に合わせてたかもしれない、守れなかったかもしれない。アタシは誰かを守る、その意味も覚悟も知らなかったから…… あ、そうか、アタシも救って貰ったんだっ! このお姉さんに……」
「そうだよっ! ラブナちゃんっ! だからスミカお姉ちゃんの事を信じて上げて? ボクの大好きなお姉ちゃんだからっ!」
「うん、わかってるわよユーア。このお姉さんはきっと、こんなアタシの事も見捨てずに最後まで導いてくれる、そんな人なんじゃないかって事を。きっとアタシは抱きしめられたときに気付いてた。だからアタシもこのお姉さんの事を信じる。ユーアを信じるみたいにねっ!」
どうやら、一番信用している、ユーアの話で考えがまとまったみたいだ。
「うんっ! ありがとうラブナちゃんっ!」
ギュッ
「こ、こらっ! ユーアいちいち抱き着かないでよっ!」
クイ
ユーアの感謝のハグに抵抗するラブナ。
ただ引き離そうと手を掛けるが、その顔はにやけていて、引き離す腕にも力が籠っているようには見えなかった。
「で、でっ! お姉さんっ! 結局アタシに、なんの言うことを聞かせたいのよ? ユ、ユーア離してよっ! もうっ!」
抱き着かれたまま「ニヤニヤ」と締まらない顔のラブナ。
そういえばリーダー云々の話で中断したままだった。
「そうだったね、まだ話してなかった。これからラブナには、ナゴタとゴナタの弟子になって貰うよ? もちろん異論は認めない」
そんなツンデレ娘に、端的にそう告げた。
「へっ? えええええっっっ!!!!」
だって、これが一番の最善だと思ったから。
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