第139話耳年増と無効試合?




 私はなし崩し的に、ナゴタとゴナタのお願いを聞き入れた。

 いつになるかわからないけど、双子の姉妹との混浴に……



『そ、それよりも』


 ていうか、今はそれどころではないよね? 何か忘れてない?

 私たちが何の為にここに来て戦ったのかを。



※※



 私とナゴタとゴナタの模擬戦は終わった。


 街の人たちは何だかんだで盛大に盛り上がってたように見えた。


 もちろん懸案の冒険者たちも同じように見えた。

 少なからず私たちにはそんな風に映った。



 だったら、


『…………終わったんだよね? なんで、ルーギルもクレハンも終わりにしないの? 終了を宣言しないの?』


 訓練場の真ん中で、何やら話し合っている3人に視線を向ける。

 ルーギルとクレハン、そして一人加わった冒険者のまとめ役のギュウソに。



『あれ? なんであの幼女もあそこにいるの?』


 最初は小さくてその姿が見えなかったが、ナジメがルーギルたちの足元にいた。

 そして何やら話し合いに混じっている。



「あっ、スミカお姉ちゃん」

「うん、どうしたの?ユーア」


 隣にいるユーアに顔を向ける。


「羽根が少し大きくなってないかな?」

「へ? 羽根が」

「うん、いつもより大きくなってるよ」

「う~~ん、そう言われてみれば、少し大きくなってるかも」


 ユーアに言われて首を回して見てみたが、確かに視界に映る部分が多く見える。

 形や色は全く変わらず、大きさだけが変化したようだ。



「そうだよねっ! 前よりも蝶ちょみたいになったよスミカお姉ちゃんっ! もしかしたら飛べるのかなっ! いいなぁっ!」


 キラキラした目で背中の羽根を見つめる。


「う~ん。それは無理みたいだね。ユーア」

「え? それは残念です…… スミカお姉ちゃんが飛ぶの見たかったです」


 ヒラヒラと動かしてみたけど、飛ぶどころか全く浮かなかった。

 そもそもそんなに高速で動かせないし、大きさも足りない。


『てか、そもそもなんで大きくなったの?―――― ああ、なるほどね』


 そっとステータス画面を見て一人納得する。

 これでは飛べるわけがないと。




「本当ですね、お姉さまっ! 前よりも魅力的ですよっ!」

「なら、ワタシの『蜜』吸ってくれよっ! 蝶だけに。なんてなっ!」


「「「えっ!?」」」


「え?」


 ナゴタは良いとして、ゴナタの言葉に一瞬硬直する。

 冗談なのか本気なのか知らないけど、そこはかとなくセンシティブなセリフに。


「ゴナちゃんっ! あなた自分が何を言ってるかわかってるのっ!?」

「ゴ、ゴナタ、そ、そう言う冗談はやめてよねっ!」

「ゴナ師匠の変態っ! 痴女っ! 露出狂っ!!」


「え?」


 そんなハレンチともとれる台詞に、私とナゴタと何故かラブナが反応していた。

 大人の私とナゴタはいいとして、なんでラブナが反応してるのだろう。

 確かユーアの1歳年上なだけだよね?



「へっ? なんでそんなに怒ってるんだい? 顔を赤くしてさ。ってかラブナ、お前は師匠に向かってなんてことを言ってるんだよっ! ちじょって何だっ!」


「へっ? う、わああああ――――っ!」


「……………」

「……………」


 ゴナタは意味も分からずにラブナを追いかけ始めた。

 そんな二人他所に、いの一番に反応した姉のナゴタを覗き込む。


「~~~~っ!!」


 視線が合ったナゴタは「カァ~~ッ」と真っ赤になって下を向いてしまった。

 ずっと一緒だったこの姉妹の、なぜか姉だけが耳年増だった。


 まあ、それを言ったらラブナが一番だけどね。あの年齢でさ。

 それと私のユーアに変な事教えてないよね?


 えっ!? 私? 

 私はほら、精神年齢的には一番年上だからね。色々とね。




※※※※




(いやっ―――――――?))

(だから―――――――っ!?))

(うん―――――――?))

((はあっ! ―――――かっ!))

((――まあ ―――――だろう?))



 私たち以外のたくさんの声が聞こえる。

 街の人たちも冒険者も一緒になって、ガヤガヤと何かを話し合ってる。


 ただそれは、野次や文句と言った、誰かを乏しめるものではなく、

 どちらかと言うと――――――



『――――困惑している?』


 そうそんな感じ。


 隣同士や顔見知り同士で首を傾げ話している様子は、何か困ってると言うか、なんか納得できてないって言うか、何やらハッキリしないといったそんな表情だ。


 正直、あまりいい雰囲気だとは思わない。

 私たちの全ての試合が終わった後で、この様子はどこか不安になる。



「う~ん」


「お姉さま、これは一体? もしかして今回の件、私たちは失敗…………」

「お姉ぇ…………」


「ナゴタさん、ゴナタさん……」

「師匠たち、まさかっ!」


 街の人たち、そして冒険者たちの表情を見て何となく察する。

 それに合わせるかのように、シスターズの面々の表情にも影が差す。



「ちょっとルーギルっ! 一体どうなってんのっ!」


 中央に集まって、未だ話し合っている4人に大声を上げる。

 少しの殺気と、ちょっとの怒気を含んで、鋭く睨む。



 ここまでやって収穫無しじゃ、割に合わないし、やりきれない。

 二人とも全力で戦ったんだから、それに見合う結果が欲しい。 


 一番の目的は、この姉妹のこれからの事なんだから。


 この街を出ていくか、私たちと一緒に街で暮らせるかの。



「オ、オウッ! 待たせて悪りいなッ! 今ようやく話が纏まったからそっち行くぜッ! それじゃ、俺はスミカ嬢たちに説明してくるッ。お前たちは街のやつらと冒険者をたのむッ!」


 私の呼びかけに気付いたルーギルは、話し合ってた他の3人に何かの指示を出し、こちらに小走りで駆けてくる。

 因みにナジメだけには声を掛けず、その場に残ってはいたけど。



「アア~、なんだァッ、かなり言いづらいんだけどよォ――――」


 ルーギルは何やら苦虫を嚙み潰したような表情で話し出す。

 この顔から察するに、あまりいい話ではなさそうだ。



「それはいいから、一体どうなったの?」


 それでも聞かないと話が進まないので、ルーギルに問いかける。

 シスターズの面々は、一様に口を閉ざし話に注視している。



「ア~~、今のお前たちの模擬戦の話なんだかよォ、どうやら良く分からなかったんだよォ。って言えばわかるかァ?」


 頭の後ろをガシガシ搔きながら、私たち全員に視線を送る。


「全然」


「「「………………」」」


「まァ、そうだよなッ。ならハッキリ言うぜッ? さっきのお前たちの、ナゴタとゴナタの模擬戦は『見えなかった』んだよッ!」


「はぁっ!? いきなり何言ってんの? 見えなかったって何? 私とナゴタとゴナタはキチンと戦ったよねっ! みんな何見てたの?」


 意味の分からない、ルーギルの答えに心外だと詰め寄る。


 見えなかったってどういう事? 

 私みたいに消える訳じゃないし。



「それじゃ、一から説明するぜッ? まず最初のナゴタとの戦いからだッ」


 こうして、誰も納得できない私たちに、ルーギルの説明が始まった。


 その『見えなかった』と言っている、内容とは……



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