第140話SS 澄香のゲームオーバー その1



簡単なあらすじ


今回のお話は、ゲーム時代の澄香のお話です。

大切な何かを失った直後と、失う前が混在します。

澄香の強さの原点ともなったそんなお話です。


※不定期に差し込んで行きますが何卒宜しくお願い致します。




 ザッザッザッ


『――――――――』


 私は見慣れたフィールドを宛てもなくただ独り探し歩く。


『――――――――』


 そこはいつもの見慣れた景色のはずなのに、

 初見のように何処に行っていいかもわからない。


『――――――――』


 あんなに守ったのに、こんなに強くなったのに

 今はそれがどうでもいいとさえ思える。


 ザッザッザッ


『――――――――』


 ――――がいなくなったあの日から、


 私の目には色を映さなくなった。

 なにも感じなくなった。

 考える意味もなくなった。

 強くなる意味を失った。



 それでも。



 ザッザッザッ


 ただ宛てもなく探し続ける。


 無意味な行為だと頭ではわかっていても。

 

『――――――――』


 だって探しているものはこの世界どころか、


 ザッザッザッ


『――――――――』



 この世にはもう存在しないのだから―――――――




 それでも宛てもなく探し続ける。


 ザッザッザッ


 宛てもなく。

 宛てがある。


 どちらがいいのだろう?



 宛がある方が良いに決まっている。

 だってそこには希望があるから。


 でも今の私には…………


 宛がない方を探すことに意味がある。

 それが現実を知る事になる。


『――――――』


 もう存在しない妹を探す事こそが

 今を踏み出す一歩に繋がると信じている。



 そしてこの世界を探し終えたら――――



 全てを受け入れる覚悟ができるはずだと信じて。



 だってそうでなければ私は前に進めないから。




※※※




 ズザザッ



 警戒無しに歩く私に、3機の武装兵が姿を現す。

 

 トンッ


 スパッ


 1機目を一足飛びで背後に周り、ナイフで首を切り裂く。


 バシュッ 


 2機目を片手に持っていたハンドレーザーガンで眉間を撃ち抜く。


 シュンッ


 ズガンッ!


 3機目は接近して拳で頭を吹き飛ばす。


 そして全ての武装兵は粒子となってこの場から消えて行く。


『――――――』


 ザッザッザッ


 そして私はまた独り歩を進める。

 この世界にもう存在しない、妹の清美を探す為に。



 絶望を知る為に、ただただ孤独に歩いて行く。



■□■□■□■





『お姉ちゃんっ! ボク今日新しい武器をゲットしたんだよっ!』


 妹の清美はそう言って、私に自慢してくる。


『うん、どんな武器なの? ってまたボーガン系なの?』

『それと、新しい種類のエネパックもっ!』


 清美から見せて貰った武器とエネルギーパックを見てみる。


『へえ? 「フィンガーボウガン」とエネパックは「チェーンアローW」だね。でもそんなに新しくないよ? それ出たの先週だから。私は持ってないけど』


 清美に説明しながら、武器を返す。


『うう~、だってボクはお姉ちゃんみたいに毎日ログインできないもん。ボクから見たら新しい武器なんだからこれでもぉ!』


『うふふ、そうだよね。先週までは修学旅行だったり、家庭教師とお勉強だったりで忙しかったもんね』


 そう言って、ちょっと拗ねた表情の清美の頭を撫でる。


『でも、そんなにボウガン系の武器ばっかりで火力が心配じゃない? ボウガンは種類が多いけど、殺傷力が高いエネパックはまだあまり実装されてないし。どっちかっていうとフォロー系に近いのが多いしね』


『うん、そうなんだけど、ボクはお姉ちゃんの手助けをしたいんだもんっ! それに火力がなくてもお姉ちゃんが守ってくれるから、いいかなって思うしっ!!』


 そう笑顔で話す清美は、私の手に自分の手を重ねる。



『いや、まあ昔にそう言ったけどね? でも清美ももう少し火力か、せめて爆裂系か、それか移動系の――――』


 ここまで言い掛けた時に「ガバッ」と清美が抱き着いてくる。



『ちょ、ちょっと清美っ! 私は真剣に心配して――――』


『うん、わかってるよ、お姉ちゃんっ! でもボクはお姉ちゃんが守ってくれるから安心なんだよっ! だってお姉ちゃんは強いんだもんっ!』


 胸に顔をうずめたままニコと微笑み見上げて来る。

 いつもの見慣れた無邪気な笑顔で、心底嬉しそうに。



『――――そうだね。だから清美は安心してていいよ。清美に害成す存在は片っ端から、私が処分してあげるから。それには私ももっと強くならないとねっ』


 そんな表情の清美に、注意も出来るはずもなく笑顔で返す。



『えええっ! お姉ちゃんこれ以上強くなるのぉっ!? 今だってランキングトップでしょうっ! それ以上なんてないよっ! ボクが知らないだけなのっ!?』


『清美。それはランキングの話だよね? 私が言いたいのはそんな強さじゃなくて、私そのものを強く? う~ん、説明が難しいな。要はライオンみたいな存在感が欲しいっていうのかな? うん? これもちょっとズレてるような…………』


『らいおんさん?』


 話を聞いて、コテンと首を傾げる清美。

 そんな話をしておいて、私も良く分かっていなかった。


 強いって何だろう?


 そして私はどんな強さが欲しいのかが。





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