第141話不遇な戦いと ねくすとバトル
「それじゃ、一から説明するぜッ。まず最初のナゴタとの戦いからだッ」
ルーギルの神妙な表情に、私たちは耳を傾ける。
『見えなかった』とは、一体どういう事なのだろうと。
「うん。話してよ」
「途中までは良かったんだッ、見えないナゴタの攻撃を見事に防ぎ続けてる嬢ちゃんに、皆んなも称賛してたかんなッ。もちろんナゴタの速い攻撃も凄ぇと喜んでいたッ」
「うん、うん。それで?」
「それで、だ。それ以降、スミカ嬢が消えて、ナゴタが吹っ飛んでそれを受け止めて終わったッ。誰もスミカ嬢がナゴタを攻撃したところを見てねえッ、ってか誰にも見えなかったんだよッ。気付いたらナゴタがスミカ嬢に抱きかかえられてた」
「そ、それって――――」
つまり、私が今回の主役なのに、主役の一番盛り上がる最後の攻撃が早過ぎて見えなかったから、それが不満だって言うの? きっとそういう事だよね?
それは何となくわかる気がするかも……
一番最後の盛り上がるシーンで、気付いたらボスが倒れていた。
そんな感覚なんだろうと。
そして、そのあっけない終わり方に、最後の最後で白けてしまったんだろうと。
でもそれって――――
「ちょっとっ! そんな事言われたら私たちは冒険者も含めて、街の人のレベルで戦わなきゃダメって言うのっ! そんな事出来るわけないよっ! 私たちはあくまでも強さを見せる戦いをしてたんだからっ!」
さすがに私も我慢できなくなり、早口で捲し立てる。
そもそもそんな戦いができるできない以前に、手を抜いたとも言える戦いで、街の人たちだけならともかく、冒険者たちにはイカサマに映るだろう。
ナゴタの強さも、私の強さの一端も知られているんだから。
「ま、まあ待てよォッ! まだ続きがあるんだからよォ! それと2戦目のゴナタの試合だが、これも途中までは良かったんだッ! でもこれも最後は見えなかったんだッ! これはわかるだろッ?」
「………………壁。だよね?」
そう。ゴナタの攻撃を防いでくれたあの壁の出現だ。
あの壁のお陰で誰もケガ人が出なく感謝している。
ただそれと同時に、ゴナタとの戦いを遮ってしまった。
真っ黒な巨大パーテーションで、訓練場と観客席を寸断してしまった。
「ああ、その通りだァッ。突然現れた巨大な壁のせいで肝心の所が見えなかったッ。何故嬢ちゃんがゴナタに肩を貸していたのか? どうやってゴナタを倒したのかもなッ!」
「だってそれは私が原因じゃないし、あれがなかったらここにいた人たちも危なかったんだよっ! 仕方ないと思わないっ!?」
そう、あれは仕方ない。って言うか最速で最善の処置だった。
ただ思うところもあるにはある。
あの時、私が透明スキルを躊躇せずに使っていたら見えなくなることはなく、今のこの状況は生まれなかった。誰しも納得できる決着を迎えただろう。
ただ今更後悔しても意味ないし、ナジメに泥を塗ることになるから口には出せないが。
「まあ、そうなんだがよォ、でも実際は悪い方に傾いちまったァ。あの壁が無くなったら試合が終わっていたッ…… でだなあァ、俺から提案が――――」
ガシガシと頭を掻きながら、どこか含みのある笑顔になるルーギル。
ただその内容に我慢できない二人が食って掛かる。
「ル、ルーギルさんっ! それは酷いですっ! スミカお姉ちゃんとゴナタさんはいっぱい戦ったのに、見えなかったから信じてくれないなんて、あんまりだよっ!」
「そうよっルーギルっ! ナゴ師匠もゴナ師匠も全力で戦ったっ! スミ姉はよくわからないけど………… でもね、アタシの師匠があんな恥ずかしい目にあって、何にも無しじゃおかしいわよっ! ルーギル、あんたが何とかしなさいよねっ!」
「ユーアちゃん………………」
「ラブナ………………」
ルーギルの説明に怒りの声をあげるユーアとラブナ。
ナゴタとゴナタはそれを大人しく見ている。
悔しくもルーギルの言う通りだと思ってるようだ。
「うおッ! ってまあ聞けッ! 話は途中だったろうがよォッ!」
子供二人に詰め寄られたルーギルは怯みながら、
「いいか、良く聞けよォ、その為に俺がいるんじゃねえかッ! 俺はお前たちに協力すると言った筈だッ! だからこんなこともあろうかとよォ…………」
ここでルーギルは一旦言葉を止めて、私たちを見渡す。
気のせいかさっきよりも口元が緩んでいるような?
「この街の領主で、元Aランクの冒険者と今すぐにでも戦える許可は取ってあるッ! 一戦目のナゴタの試合を見てからそいつと話し合ってなッ!」
もう隠すつもりもないのか、満面の笑みを浮かべたままでそう告げた。
それを聞いた私たちは…………
「………………誰それ?」
「え、誰ですか? その人って。しかもAランクなんて……………」
「はん、そんなのがいるならさっさと連れてきなさいよっ!」
「A、Aランクですかっ!? ま、まさか? やっぱりここの領主さまはっ!」
「うん、うんっ! でもどこにいるんだいっ!」
ルーギルの話を聞いて一様に驚く私たち。
この街の領主が冒険者だった事もだが、今この街に来ているという事実に。
そしてそのタイミングの良さに。
「アアッ、どこって? そこに突っ立ってんだろうよッ!」
笑顔のままのルーギルが、指を差すその先には――――
「んぐんぐっ、英雄に貰ったこの飲み物はうまいのじゃっ! もう少しもらいたいくらいじゃっ! それとも売ってくれんかのう? うぐうぐっ! ぷはぁっ! 美味しいのじゃっ!」
それは訓練所の真ん中で、何かを美味しそうに飲んでいる幼女だった。
ってか、それ私が上げたドリンクレーションだよね?
「は、はああっ! あの子供が領主なのっ! しかもAランクってっ!?」
「ナ、ナジメちゃんがっ!」
「えええっ! ナジメが領主っ! って冗談だよねっ!?」
「あ、あの方が領主で元Aランクっ!?」
「あああ、ワタシ結構失礼しちゃったかもぉっ!」
私を含め、シスターズの面々は誰もがその事実に驚愕した。
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