第142話スミカの無〇宣言!!
『あの幼女がこの街の領主で、元Aランク冒険者…… そして孤児院の管理を疎かにし、ユーアやラブナを含めた、子供たちを苦しめたその元凶の人物…………』
どれも重大で見逃せない事なんだけど、一つ気になることがある。
それは――――
「一体歳はいくつなのっ! あの領主はっ!」
未だに美味しそうにドリンクレーションを飲んでいる幼女を指差す。
どこからどう見ても子供だし、あのスク水が似合い過ぎてる。
まあ、確かにさっきの巨大な壁を一瞬で出し入れさせた能力と、そのお年寄りみたいな話し方が妙に慣れてるっていうか、どこか自然な感じだとは思ってた。
もちろん見た目とのギャップを比べなければの話だけど。
「アアッ、見た目はああだかんなァ。でもよォ、年齢は本人に聞いてくれッ。少なくともここにいる誰よりも長く生きてるって事だけしか言えねえッ」
驚愕する私にルーギルが曖昧な説明をする。
「はぁ、年齢の件はわかったよ。で、何であの子供…… じゃなかった。あのナジメと戦うことが、今の状況の解決につながるの? そもそもあの子供が強いって誰も知らないでしょ?」
「それは嬢ちゃんの言う通りだァ。いくら元Aランクつってもよォ、一般人にはその強さはわからねえ。でもよォ、そんなものはアイツと戦えば誰だって気付くんだよォ。アイツの強さによォッ」
鼻を鳴らし、鋭い視線をナジメに向ける。
「ふ~ん、そんなに強いんだ? あの子供」
私もルーギルの視線を追って、ナジメを視界に移す。
そんなナジメは独りで待つのは飽きたのか、今度は地面にお絵かきを始めている。
その片手には串焼きが握られており、鼻歌交じりに何かを描いている。
『ふ~ん、そんな強者の雰囲気は全く感じなかったけど、多くの冒険者を見てきたルーギルが言うんだから、かなりの実力者なのかな? それでもそうは見えないところが逆に恐ろしいかも。それで結局は――――』
ここまでの話を簡潔にまとめると、ルーギルは最初のナゴタとの高レベルな戦闘を目の当たりにした時、その観客の反応を見てマズいと思ったらしい。
このままだと2戦目も微妙な反応になると危惧して、ナジメとの対戦を裏で進めていたとの事。
要は観客が戦闘のレベルについて来れないでいるのだと。
その為に冒険者時代に、何度かパーティーを組んだことのあるナジメが視察で来ていたのに気付き、声を掛けたようだ。
確かに、2戦目の開始の号令はクレハンに任せてルーギルはいなかった。
その時にこの案を話して決めたそうだ。
『…………ふ~ん、ルーギルも色々考えてたって訳かぁ、なるほど』
腕を組み、横目でルーギルを見て称賛する。
確かにその案がうまくいけば、観客のみんなに実力を示す事が出来ると。
「あ、あのお姉さま、本当にあの領主と戦われるのですか?」
「お姉ぇ……」
ナゴタとゴナタが声を掛けて来る。
その声は私を心配してだろうか、両手を胸の前で祈るように組まれている。
そして二人ともいくらか表情が暗い。
「うん、もちろん戦うよ。だってナゴタとゴナタの為…… って言うのもあるけど、それと孤児院の話は覚えてるよね? 何ならそれも聞きたいんだよ」
そんな二人には素直に胸中を話すが、ある程度理由を濁して話した。
あまり姉妹の為とかを強調すると、二人は畏まっちゃうからね。
だから孤児院の件も含めて、二つの理由を話した。
「お、お姉さまっ! でも相手は元Aランクですよっ! お姉さまが負けるとは思わないですが、無事ですむとは思いませんっ! だったら私たち姉妹がっ!――――」
「お姉ぇっ! 相手は国の所有物とまで言われるほどの強さなんだぞっ! たった一人でもいれば戦局が逆転すると言われるほどの強さなんだぞっ! お姉ぇだって無事って訳には――――」
そんな私の想いとは裏腹に、声を荒げて詰め寄る姉妹。
二人ともその目は真剣で、そして私の身を本気で心配してくれていた。
更に、そんな姉妹に続いて、
「スミカお姉ちゃんっ! ボクも戦いたいですっ! ボクも力になりたいです!」
「ユーアが行くんなら、アタシだって戦うからねっ! それにアタシの師匠の事なんだからっ!」
『がうっ!!』
ユーア、そしてラブナとハラミも、戦う私の事を心配してくれた。
でもみんなの言うことは聞けないし、そうなっては意味がない。
「ふふっ、みんなありがとうね、心配してくれて。 でもここは私一人で戦わないとダメみたいだから、今回は我慢してね。そうだよね? ルーギル」
「ああそうだッ! それこそ嬢ちゃん一人じゃなきゃ意味がねえ。嬢ちゃんが一人で戦って、そしてその強さを見せつけるんだろ? ナゴタとゴナタの為に。そもそもそれが目的だったはずだァ。だからスミカ嬢の言う通りだァ」
説明の足りない私の話に注釈を入れるルーギル。
「そ、そんなっ! スミカお姉ちゃんっ!」
「スミ姉…………」
「お姉さま、そして皆さん、私たちの為に…………」
「うううっ、ワタシはなにもできないのかっ!」
『がう…………』
ルーギルの話を聞いて、一様に肩を落とすみんな。
私を一人で戦わせる事と、力になれない事が悔しいらしい。
だったら、
「ねえ、みんな。みんなが私を心配してくれて、それで一緒に戦いたいって言うのは出来ないけど、なら一つ約束をするよ。私は無傷で戦いを終わらせて、みんなを納得させて笑顔で帰ってくるから」
「えっ?」
「はえっ?」
「む、無傷…… ですか?」
「そ、それは……」
私はみんなの顔を見渡してそう宣言する。
これで少しは安心して、私に任せてくれるだろうと思って。
そんな意図があって話したんだけど、それを台無しにする愚か者がいた。
「ちょ、ちょっと待て、スミカ嬢ッ! いくら何でもその約束は無理だッ! 相手は元とは言えAランクだッ! 今までの相手とはまるで違うッ! もしかしたらナゴナタ姉妹が2人でも、恐らくキズ一つも付けられねえ、そんな存在なんだぞッ!」
「ちょっと、ルーギルっ! 余計な事をっ!」
「えっ!?」
「っ!?」
「……………」
「……………」
みんなを安心させるために言った約束に、ルーギルがいち早く反応していた。
それを聞いて更に委縮してしまうみんな。
更に余計な不安が増しただけだった。
「…………それじゃそういう事だから、ちょっと行ってくるよみんな。さっきの約束は守るから、あまり心配しなくても大丈夫だよ。それに私が
暗い表情を並べるシスターズのみんなにそう告げる。
これ以上は逆に不安を煽るだけ。だったら態度でその自信を示そう。
私がビクビクしてたら逆に悪化しそうだからね。
「うん、スミカお姉ちゃんは誰にも負けないですっ! ボクは知ってますっ! だから約束も守ってくれるって信じていますっ!」
「ふんっ! アタシが信じて、ユーアが信じるスミ姉ならば簡単に勝ってきてくれるって思ってるわよっ! だからさっさと終わらせて来なさいよねっ!」
「お姉さまが誰かに負けるなんて、全く想像できませんっ! なので約束通りに無傷で帰って来るのが当たり前なんですっ! それがお姉さまですからっ!」
「お姉ぇに勝てる奴なんて絶対にいないよっ! だからワタシは安心して見てられるよっ! だってそれがワタシたちのリーダーだからなっ!」
暗い雰囲気から一転、みんなに笑顔が戻る。
私が負けるって単語に、全力で反発していた。
「うん、みんなわかってるじゃんっ! 私は誰にも負けないし、約束は絶対に破らない。だからおやつでも食べながら、のんびり観戦してなよ。その方が私も変に気を張らなくていいしさ。それじゃ、みんな行ってくるねっ!」
笑顔でみんなにそう伝えて、訓練場のナジメに向かい歩を進める。
これでなんの気負いもなく戦うことが出来る。
「オウッ、それじゃこれで最後だかんなッ! これが終わったら全部解決するさッ! それでこの騒動ももう終わりって訳だッ。姉妹もこれからは街を大手を振って歩けるさッ!」
ルーギルなりに激励し、私の隣に並んで歩く。
『さあ、色々と聞きたい事と。それと鬱憤を晴らさせてもらおうかっ!』
こうして元Aランクとの最終戦が開始される事となった。
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