第14話テンプレイベント絡まれる新人




 テンプレイベントだって?


 だから何?

 そんなの関係ない。



 私はその5人の冒険者パーティーの前に立ち、その中の戦士風の男を睨みつける。

 それを見て他のパーティーメンバーは「ニヤニヤ」とそんな私を見ている。


「なんだァ、変な格好したガキぃ、俺たちに何か用かァ?」


「………………」


 大声で煽っておいて聴こえてるのもわかっているだろうに、

 それでも小馬鹿にしたように、そう口を開く。


 私はこの5人パーティーメンバーを見てみる。


『何?このパーティー。全員戦士系なの?』


 一人は大きな獲物(武器)を持ってない小柄な体躯だ。ナイフ系?

 その他の大柄な男たちは、大剣が二人に、斧、槍が一人ずつ。


 なんかバランス無視な組み合わせだなあ。

 遠距離系はいないっと。


 もしかしてナイフの男は投擲もでき、中距離もカバー出来るのかもしれない。


 私は激しい怒りを抑え、冷静に奴らを眺めてそう戦力を分析を終える。


 戦場では怒りや気合などの勢いも場合によっては大事だ。

 だがそれだけでは視野が狭まり、予想を超えた出来事に対処できない。


 怒りや苦しみといった感情を見せるのは、確かに効果的な場面もあるだろう。ただそれは表面だけに留めて、心は常に冷静に保つのが戦場では大事なことだ。



「おいおい、ビビッてんじゃねえかっ! こんなガキが俺たちの前に来たのに、他の奴らは動けやしねえ、ここにいる全員腰抜けの冒険者だっ! このガキが一番強いんじゃねえかァ?」


 私が分析していたのを、恐怖で口を開けなかったと勘違いしたのだろう。

 斧の男が更に煽って大声を上げる。


「ハハッ、違えねぇ! コイツらなんで冒険者やってんだっ! もうやめちまえよっ!」


 何も言えない冒険者たちを見て、今度は槍の男も続けて煽る。


『……イラ』


 よし、更にムカついたっ! 徹底的に潰してやる。


「アンタらねえ、いい加減にそのクサイ口閉じないと全員顔面陥没させ――」


「オゥ! お前らかッ! 俺のギルドの冒険者を馬鹿にしたやつはッ! 全員表出ろやッ! すぐさま半殺しにしてやらァッ!!」


「えっ!?」


 私が最後まで言い切る前に、怒りの形相のルーギルが声を荒げて現れた。


 見かねた職員がルーギルに報告したのだろう。

 登場と同時に怒っていたことから、そう判断する。


 てか俺のギルドって何?



「ルーギルさん、すいませんっ! コイツらに好き勝手言わせて…… コイツらこれでもCランク上位のパーティーなんですよ……」


 憤りながら何も言い返せなかった、この街の冒険者らしい男が申し訳なさそうに、ルーギルに話しかける。


「構わねぇ、その為に俺がいるんだろうッ? それでも大っぴらに喧嘩はできねぇから模擬戦って形でボコってやんよォ、お前らもよく我慢したなァッ!!」


「「「うおおぉぉぉっっ!!」」」


 ルーギルは周りの冒険者を見渡し、そう叫ぶように大声を張り上げた。

 そこかしこから大きな歓声が沸き上がる。


『………………ムカっ!』


 そうなると私の怒りの矛先は一体どこに向ければいいんだろう。

 私を置いて勝手に進む話に更に怒りが増す。



『むむむっ…………』


 取り敢えず、私は隣のルーギルを睨みつける。


「うおぁッ!」


 そんな私の怒気を感じたのか肩先がビクッと動いた。



※※



「こんな辺境にも威勢がいいのがいるじゃねえかっ! ランクC上位の俺たちに盾突いた事を後悔するんだなっ! お前たち手を出すなよっ!」


 最初にギルド内で煽り始めた大剣の男が、模擬専用の刃の潰してある大剣を手に、ルーギルの前に立つ。コイツが最初の相手なのだろう。


 私たちがギルドを出ているここはギルド脇の模擬戦用の空き地らしい。

 冒険者たちの練習や、新人の教育などにも使われている。


 そんなルーギルと大剣の男を中心に、周りにはギャラリーの冒険者たちが大勢集まって一様に注目している。


 ルーギルは模擬戦用の通常の剣を、両手に持ち対峙している。

 そんな緊迫した状況でも、私は構わずルーギルに声を掛ける。


「ちょっとルーギルっ! 私が最初に半殺しにする予定だったんだけど邪魔しないでくれる?邪魔するならルーギルでも容赦しないよっ!!」


 ルーギルはそんな私の言葉に、少しビクッてして答えた。


「ス、スミカ嬢、なんとなく報告は聞いている。ユーアを馬鹿にされて頭にきてんだろう? 残りの4人はくれてやる、だからコイツは俺にやらしてくれねぇか? 俺も頭に来てんだァコイツらにはよォ」


「……まぁ事情は知っちゃったから仕方ない。けどあいつ等はランクCって事だけど勝てるの? 返り討ちに合うんじゃない?」


「……さァ、どうだろうなぁ? 俺のランクは5年以上前のだかんなァ。コイツらくらいなんとかなんだろッ」


 大して気にした風でもなく頭の後ろを掻きながらそう答えた。


「ふ~ん。ならいいけど」


 5年前?

 ルーギルの冒険者証は5年前のものだったって事。



「まァそこで黙って見ててくれやァ、スミカ嬢」

「まぁいいけど、さっさとしてよね。後が閊えてるんだから」


 ルーギルにそう言い残し、離れてギャラリーの一番前に陣取る。




「それでは模擬戦を開始するっ! 始めっ!」


 冒険者の一人が模擬戦の開始を合図する。



「早速死ねやァッ!!」


 ブォンッ!


 大剣の男が最初に動きルーギルに上段より大剣を振り落とす。

 図体の割には意外と速い。

 ルーギルは受け止めずに後ろに下がる。


「まだまだァッ!」


 更に大剣の男は前に踏み込み、大剣での突きを放つ。

 ルーギルはこれも横に躱すが、意外と大剣の男の攻撃は速い。

 避けきれないものは剣で受けてはいるが防戦一方に見える。


「スミカお姉ちゃんっ!」


 ユーアが私のところに駆け足で寄ってくる。

 依頼の報告はもう終わったのだろう。


「ル、ルーギルさんは、どうしたの? なんで戦ってるのっ!?」

「あいつらに、ここの冒険者が馬鹿にされたのよ。それで頭にきて戦ってるの」


 そう答えユーアを優しく撫でて、二人の戦いに視線を戻す。



 大剣での攻撃は重い。

 受け止めきれずにルーギルはたたらを踏む。

 ランクCだけあって、大剣の男は強い。

 口先だけではないようだ。


 何度目になるか、ルーギルは今度は体勢を崩す。

 それを格好の隙と見たのか、大剣の男は踏み込み横薙に振り切る。


「引っ掛かったみたいね」

「え?」


 ルーギルは横からくる大剣を両手の剣を振り下ろし、地面に叩きつけて動きを止める。その衝撃で武器を離した大剣の男に、ルーギルは両手剣で何度も打ちこんでいく。


「オラッ、オラッ、オラッ、オラァッ――!!」


 ザシュッザシュッザシュッザシュッ!!


「があぁぁっっ!!」


 大剣の男はルーギルの攻撃に堪らず絶叫をあげる。


 いくら刃の潰した模擬戦の剣であっても、これではただの打撲では済まされない。きっと骨までそのダメージは届いているだろう。


「ぐふっ! あぁぁ…………」


 ズズゥ――ンッ


 大剣の男は両膝を付き、そのまま前のめりに倒れる。

 倒れ方からして、もう男に意識はない。


 この瞬間ルーギルの勝利が確定した。


「なんだァ、Cランクも大した事ねぇなぁっ! お前こそ冒険者辞めちまえよォッ! これに懲りたら俺のギルド冒険者にちょっかい出すんじゃねえぞォッ――!!」


 気絶した大剣の男を踏みつけて、ルーギルは勝鬨を上げた。



 私はそれを見て胸の前で組んでいた腕を崩す。


「さて、それじゃ――――」



 約束通り次は私の番だね。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る