第15話私の出番が回ってきた
「「「うおおおぉぉぉっっっ!!!!」」」
勝鬨をあげるルーギルは冒険者たちの喝采を受けている。
ルーギルに半殺しにされた大剣の男は、パーティーメンバーによって広場脇に寝かされていて、メンバーは血走った目でそんなルーギルを睨みつけている。
「残り4人も俺が相手してやってもいいが、もう一人俺より怒り心頭の奴がいるッ!お前ら残り4人でそいつに勝てたら今回の事は水に流してやるし、その男の治療費も払ってやるッ!どうだァッ?」
ルーギルが残り4人に向かってそう叫ぶ。
もう一人とは約束通り私の事だろう。
他の冒険者たちは「誰だ?」なんて一様に見渡している。
私はそれを眺めながらユーアに
「ちょっと行って来るねっ」
「えっ!? ス、スミカお姉ちゃん!どうしてっ!?」
ユーアが心配そうに叫んでいる。
ちょっと涙目だ。
「私もあいつらに馬鹿にされたんだよ、だから仕返しにね」
優しくユーアを撫でながらそう話す。
「ばかにされたの?」
「そう。ルーギルと同じで馬鹿にされたの。だから行ってくるね」
まだ何か言いたげなユーアを置いて広場中央に歩いていく。
そうアイツらは馬鹿にした。
だから許せない。
私の
※※
私が前にでた事によって、周りが騒ぎ出す。
「まさか、あの子供が戦うのか?」
子供じゃないよ。多分あなたより年上だよ。
「あの子は最初に奴らに向かっていった子だろう?」
そうだよ、私以外皆んな動かなかったし。
「あいつ殺されるぞ!」
あんただったらね。
「なんであんな変な格好をしているんだ。蝶か?」
これでもランキング1位の賞品なんだけど。
「ルーギルさんが知っているんだ、只者じゃないかも」
まあ、ルーギルは一度ボコした事あるし。
「でもあんな小さな子だぞ、無理だろう。他にも色々小さいし」
…………お前の顔は覚えた。
そんな冒険者たちの嘲笑を聞きながら、4人の男たちの前に立つ。
「どうすんの!やるの?やらないの? そっちは4人でも構わないって言ってんのに、それでもまだハンデが足りないの?あなたたちこそ冒険者辞めたら?私の様な子供より向いてないよ」
私は若干固まっているランクCの男たちにそう挑発する。
まさか、私が出てくるとは思ってもみなかったのだろう。
「ああんっ! ふざけた事抜かすなっ!てめえは最初俺たちにビビッて突っ立ってただけだろうがっ!相手してやんよぉっ!その代わり約束わすれんなよなぁ!!」
『よし』
ふぅ危ない危ない。
私が出て固まっているから挑発に乗ってこないかと心配した。
乗ってこなかったら色々と面倒になるところだった。
「それじゃァ、お前たちもそれでいいんだなッ? お前たち
『……なるほどね』
私はルーギルのやり方に心の中で関心する。
最初から考えていたんだろう。
相手が勝っても負けても逃げ道がないように。
※
そして各々が得意の武器を持って中央に集まる。
「それじゃ、模擬戦を始め――――」
「おうっちょっと待ったっ!そっちのガキは武器もって無ぇじゃねえかっ!!」
「………………」
いちいち細かいな図体の割にっ!!
こっちはルーギルに一人取られてストレスがたまりっぱなし何だよっ!
さっさと始めてよっ!!
「素手で充分だよお前たちなんか。一体何さまのつもりなの? 私に武器持たせてそれで勝てると思うの?最初から見てハンデだって何で分からないの?。見た目通りの単細胞なの? だからこのままで戦ってやるよ。さっさとまとめて掛かってきなよ」
私は我慢できずに奴らを挑発する。
乗ってくるのはさっきのやり取りでわかった。
まぁ、武器うんぬん言われても、そもそも持てないし。
「いやっ、お前ぇが何様なんだよォ……」
ルーギルより呟きが聞こえるが、それは無視する。
私は奴らに向かって手の平を上に向け
クイクイっと曲げて更に挑発する。
「「「こ、このガキがぁ――っ!!」」」 ×4
奴らは私の挑発に余程頭に来たのだろう。
言葉にならない奇声を上げて突っ込んできた。
私はそれを見て舌なめずりをする。
「ふふっ」
相手は4人。
それぞれが私を囲んで一斉に攻撃をしてきた。
長柄の武器、槍の男が突きを放つ。
これは体を捻って躱す。
「ああっ!?」
次は大剣の袈裟懸けの攻撃。
後方にステップでして躱す。
「ちっ!」
今度は後方から斧の振り下ろし攻撃。
体を横に回転して躱す。
「は、速いっ!?」
最後はナイフの投擲。
首を捻ってこれも躱す。
「み、見えてるのかっ!?」
初撃を全て躱された男たちが驚愕の表情を浮かべる。
そんな攻撃私にしてみれば――
『……遅いし何のひねりもない攻撃ばかりだね、どれも』
銃弾の雨の中での戦闘が主だった私にはこんな攻撃が当たるはずがない。
そのどれもがスローモーションに見える。
透明壁など使わずに動体視力と身体能力
そしてプレイヤースキルだけで充分制圧できる。
そもそも今回は透明壁を使うつもりもない。
私のスキルは、まだどんな影響になるかわからないからこのままで戦う。
私は槍の男に狙いを付ける。
懐に入ってくる私を慌てて突いてくるが反応が遅い。
私を槍を握り返しそのまま押し込み、男の脇腹を突き刺す。
そして、そのまま男の体を持ち上げて地面に叩きつける。
ブンッ!
ドゴォオッ!!
「がはぁっ!!」 まず一人。
槍の男を地面に叩きつけた衝撃で埃が舞う。
その中をナイフが飛んでくる。
シュンッ
パシッ
これも難なく受け止め、隣にいる斧の男に投擲する。
「うおっ!!」
ガギィンッ!
それを咄嗟に武器でガードしていた。
中々にいい反応だった。
だが大型武器によりその視線は遮られる。
私は斧の男を脇を通り過ぎて後ろの大剣の男に狙いを付ける。
大剣の男は見えていたのか、頭上より大剣を振り下ろしてくる。
私はこれを大剣の腹の部分に拳を打ち付けて軌道を逸らす。
ガァンッ!
「は、はあっ!す、素手で武器をッ!?」
驚いている男の顔面を「ガッ」とジャンプして掴み
そのまま倒れるように――
ドオォンッ!
後方の地面に強く叩きつける。
「がぁっ!!」 二人目。
シュン
また埃の中をナイフが飛んでくる。ワンパターン過ぎ。
今度は躱してナイフの男に一気に近づき、ガラ空きのボディーに拳を打ち付け、九の字に曲がり顔が突き出た横っ面に右フックを振りぬき地面に叩きつける。
ゴオンッッ!!
「うぐぅっ!!」 三人目。
「…………」
残りは斧の男一人。
最後の男は驚愕の表情で私を見ている。
「う、うっ な、なっ……」
「…………」
きっと信じたくないのだろう。
仲間三人が侮っていたとは言えこんな子供に
ものの数分で戦闘不能にさせられているのだから。
しかも素手で圧倒されている。
「ち、ちくしょうがぁっ!!」
半ばやけくそ気味で振り上げた斧を、私めがけて振り下ろす。
そんな状況でもかなり鋭く重みのある攻撃だ。
ドゴオォォ――ン!
男の一撃が衝撃とともに地面を穿って大穴をあける。
それ程強烈な一撃だった。
それでも当たることは決してない。
だってそこに私はいない。
私の体は男の頭上にあるのだから。
「――――――」
バサバサと空中でスカートが暴れる。
それを無視して真下の男に狙いをつける。
全体重と落下の重力。
ギュルンッ
そして回転での遠心力。
「んんんっ!」
それを全て乗せた踵落としを男の脳天に叩きこんだ。
ドゴォ――ンッ!
「がはぁっ!!」 四人目。
男は顔面より地面に叩きつけられ気絶している。
戦闘不能だ。
トンッ
「ふぅ!――――」
私は地面に降り立って息を吐き出す。
体力的には疲れていないが精神的にはやはり疲労する。
「スミカお姉ちゃ~~んっ!!」
「お待たせユーアっ」
ユーアは戦いが終わりホッとしたのか、笑顔で私を呼んでいる。
私はそれに手を振って答える。
さあ、お姫さまの所に凱旋しますか。
私を待っている笑顔のユーアに向かって歩きだした。
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