第13話アバター姿と絡まれる
ルーギルを先頭に私たち三人は冒険者ギルドを目指す。
コムケの街は意外と大きかった。
私たちが今歩いているのは、この街の繁華街。
通りの左右には大小様々な大きさの建物があり、飲食店や屋台なども多くある。
元の世界の商店街みたいなものだろう。非常に人通りも多く活気がある。
商店街の先には、武器屋や雑貨屋、宿屋などが並び、
冒険者ギルドとか商人ギルド、鍛冶ギルドなどがある。
そういった商業地区を抜けると教会や孤児院、一般地区などがあり、
更に奥には貧民街などがあるらしい。
繁華街を歩きながらあちこちから、視線とひそひそ声が聞こえる。
「お母さん! ちょうちょ!」
「羽根が生えてる!?」
「あちこちひらひらしてる」
「蝶なのか?」
「蝶?」
「蝶だ」
「蝶だな」
「色々小さいな」
「………………」
「………………」
「………………」
やっぱりこの
幸い絡まれていないのは強面のルーギルがいるからだろう。
ガタイもいいし背も高いから余計だろう。初めてルーギルに感謝した。
それと最後の奴、何見て言った! 背中の羽根だよね!?
「……スミカ嬢、その恰好何とか――」
「ユーアが可愛いから、なんか目立っちゃってるね?」
私は頭を撫でながら隣のユーアにそう声を掛ける。
「スミカお姉ちゃんボクは違うと思います……」
「あっ」
何度目だろう。
ジト目のユーア顔を見るのは。
「お前なぁ……」ルーギルもちょっと呆れ顔だ。
「うっ」
だってしょうがないでしょう?何があるかわからないし。
それにこの装備は色々と高性能なんだよ。
スキルの『透明壁』に、毒やスタンなどの状態異常軽減
それとある程度の寒暖差は大丈夫。
しかも使い方によっては非常に強力な鱗粉の散布による『透明化』もできる。
それと、自身以外にも掛けることができるのも大きい。
ただ激しい動きはできない、鱗粉が剥がれてしまうからだ。
それと気配は消すことができない。
あと、身体の能力はゲーム内の基礎能力だ。
防具による効果ではない。
私がプレイしていたゲーム内では、武器や防具も装備品も色々あったが、身体能力を上げるそんなアイテムはなかった。
同じ様な装備がありふれていた世界で一番大事なのは『プレイヤースキル』だ。
まあ、その他にも強さに必要なのはものはあるが、顕著に強さの差がでるのは個人のスキルだった。要は経験や熟練度。
この世界に来て、森の出口でルーギル率いる野盗もどきと出会った時に、私は「多分大丈夫」と思っていた。
それは防具の効果もそうだが、元引きこもりの私が、足元の悪い森を抜け、出口まで辿り着いた時に全く疲労を感じていなかったからだ。
多分ゲーム内固定のパラメータなのだろう。
それでも現実世界とは段違いに身体能力は上だ。
ただこの世界の高ランク冒険者が、どのレベルかわからないから油断はできない。
もしかしたら、身体能力は上の冒険者がいるかもしれない。
ただそんな冒険者がいたとしても、私は全く負ける気がしない。
自身の強さを裏付ける『戦闘経験』が私にはある。
それこそ五年間。PvP(対人戦闘)や戦車などの装甲車、また武装ヘリなどの対空戦闘もあり、それこそ何万何十万と経験している。
この世界の住人には人生で決して経験出来ないほどの戦闘を、だ。
そのゲーム内で私はトップランカーだったのだから。
だから私は自分に絶対の自信を持っている。
それ程の経験が自信を裏付ける
※
ふとそんなことを考えているうちに冒険者ギルドに着いた。
ルーギルを先頭に入っていく。
「スミカ嬢、冒険者は結構荒っぽいやつが多いが、俺が戻るまで絡まれても我慢してくれやッ。まぁそんな恰好している嬢ちゃんも悪いと思うが」
「うん。わかった」
え、それってフラグ立ててない?
「ボクはスミカお姉ちゃん(の衣装)好きですよっ!」
「私もユーアの事大好きっ!!」
私はユーアをギュッと抱きしめる。
「え!?え!?」
何故かユーアは目を白黒させている。
「あれ?」 私の事好きって言っていたよね?
「全く、お前たちは……、まぁいい、俺は先に行くからよ。また後でな」
呆れ顔でそう言い、受付に挨拶してその裏の階段から2階に上がっていった。
「じゃあ、スミカお姉ちゃんは登録するんですよね? ボクが案内したいけど、先にボクの依頼を完了させちゃうので、ちょっと待っててくださいねっ!」
ユーアは嬉しそうにそう言って、何か所かある受付の列に並ぶ。
そういえばユーアも冒険者だったんだよね。
なりたてって言ってたし。
私はギルド内を見渡してみる。
「………………へぇ」
結構広いし、整然としている。
学校の教室の凡そ2倍くらいだろうか。
フロアには何組かのテーブルや椅子などがある。
そこで簡単な休憩や軽食を注文できるらしい。
冒険者のパーティー達が寛いでいる。
そんな事を考えながらユーアが来るのを待っていると――
「なんだァ、あの格好と子供はよォ!」
なんて声が聞こえてきた。
『はぁ~』
これってお決まりの新人冒険者が絡まれるパターンだよね。
面倒くさいから無視しよう。
とりあえず無視無視。
てか、私まだ冒険者になってないんだけど。
私は視線を合わせずにユーアの姿を探す。
ユーアは大の男たちに混ざって並んでいるのが見えた。
『あ、いたいたっ!やっぱりユーアは小っちゃくて可愛いねっ!!』
そんなことを考えつつ、無理やりあいつらから意識を外す。
「この街の冒険者は質が低いんじゃねぇかァー、あんな変な格好の子供と、ガキンちょができるくらいだからなァ、やっぱりここは辺境だけあって魔物も弱ぇし、ダンジョンも無ぇ、子供でも稼げるくらいな簡単な依頼しか無ぇとこなんだろうよォッ!」
5人パーティーの中の戦士らしい恰好の男が、周りに聞こえるくらいの声量で言う。て、いうか絶対わざと言っている。
「「~~~~~~~~ッッッッ!!!!」」
それを聞いていた周りの冒険者たちがいきり立っているのが雰囲気でわかる。
アイツらは、この辺りの冒険者じゃないのだろう。好き勝手言っているし。
それよりも――――
『子供でも簡単に稼げるっ!?』
私はその言葉だけは聞き流すわけにはいかなかった。
私はユーアが危険を冒してまで依頼品を獲得したのを知っている。
あんな小さい子供が、満足に食べる事もできず服も買えず働いている。
私が同じ時期には、親からなんでも好きなものを与えられていた。
食べ物も、服も、愛情も満足する程の寵愛を受けてきた。
そんな私と違い、ユーアはあの年で生きるのに必死に頑張っている。
年齢の割にしっかりしているところ、周りに気を使うところ、
それでも他人を心配する優しい心も持っている。
それでも私の事だけならば我慢できる。
ただユーアがあの年で必死に頑張っているのを、何も知らずに話すあの男は許さない。ユーアを馬鹿にする奴は誰であろうと許しはしない。
「………………っ!」
私はユーアも守ると決めている。
それは肉体的なことだけではない。
それに、これを聞いた私が行動を起こさなかったならば後からそんな自分を後悔する。守ると決めたのに守れなかった私自身を軽蔑する。
だからその後の私の行動は決まっている。
コツコツコツ
私はその男たちを視界に映しながら歩を進める。
そして私はユーアの『名誉』と私の『誇り』を守る為に
男たちの前に立ち塞がった。
「ちょっとアンタたちっ!!」
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