第539話セーラー少女の想いとみんなの願い




「いやいやいやっ! なんでそんな話になるの? いきなり過ぎるってっ!」


 ジーアをクロの村に送って早々、村のみんなの話を聞いて驚愕する。


 本当にこの村の住人たちは、ナジメ同様、色々と予想外過ぎる。

 もうワザとなんじゃないかって、疑うくらいに。


 その詳細は――――



「いいえ、そんないきなりな話ではなく、私たちも思うところはあったんです」

「思うところ?」


 説明役を任されたであろう、エルフっぽい女性に向かって聞き返す。

 


「はい。知っての通りジーアは、クロ様を誰よりも尊敬し、崇拝し、心酔し、狂信しています。この中で一番、クロ様と一緒の時を過ごしてきましたから。この村がまだ数人の集落だった頃からです」


「は、はぁ、それで?」


 なんか危ない宗教みたいだな、と思いながら先を促す。

 なんだよ狂信してるって。   


「そんなジーアだからこそ、本当はクロ様に付いていきたかったんです。それでもそれを我慢して、この村の為に残ってくれているんです。私たちが不甲斐ないばかりに……」


「ああ、そう言えばジーアは、この村一番の実力者だもんね? かなり危なっかしいけど、確かに強力な魔法を使っていたしね」


 そこは私も認めるところだ。

 この村に来た時も、ジェムの魔物の時もそうだった。


 ナジメには劣るが、それでもかなりの部類だと思う。

 ラブナが魔力酔いで覚醒した、あの時くらいには凄かった。



「は、はい、その通りです。ジーアは強力な魔法を使えます。今までこの村の特化戦力として、みんなと村を守ってきました。それでもクロ様には、遠く及びませんが」


「あ、そこは認めるんだ。でも私から見れば、ナジメもジーアもそんなに差を感じないんだけど。さっきもジーアの魔法に巻き込まれて、その凄さを体験したから」


「え? 巻き込まれたっ!?」


「「「は、はあっ!?」」」


 唐突に出た私の暴露話に、みんな揃って勢いよくジーアに振り向く。



『そ、それは内緒って約束だったのに、酷いでしゅっ!』


 が、その当の本人は、マヤメのマフラーで顔を隠し、背中で何か叫んでいる。

 そんなマヤメは我関せずと、無表情でみんなを眺めていた。



「ま、済んだ話はもういいよ。で、実際に体験したから、そこまで差を感じなかったってだけの話だしね。遠く及ばないって言うのは、少し言い過ぎだなって思っただけ。ジーアも頑張れば追いつけるかもって」


「そ、それはありがとうございます。でもクロ様は、ハイエルフとドワーフの混血。ですから、そもそもの素質に差があるんですよ」


 未だマヤメの後ろに隠れている、ジーアに視線を向けてそう答える。


「ハイエルフ?」

「ん、エルフの上位種。魔力も段違いで、寿命は永遠に近い」

「そんな種族もいるんだ。寿命が永遠って凄いね」

「ん、でもナジメはハーフ。だから不明」


 釣られてジーアに視線を向けると、前にいるマヤメが教えてくれた。

 かなり端折ってそうだけど、それでも優秀な種族なのは伝わった。



「ふ~ん、何となくわかったけど、でもみんなはそう言いながら、ジーアには期待してるんでしょう? だから私にナジメの元に欲しいと思ってるんでしょう? もっと強くなって、大好きなナジメの傍にいて欲しいって思ってたんでしょう?」


 これがみんなの願い。

 そしてここからが本題だ。


 クロの村の村人たちは、ナジメの元にジーアを居させたいと思っている。

 もちろんそれは、ナジメを尊敬するジーアも同じだ。 


 だけど、村を守る事とナジメを天秤にかけた結果、ジーアは村を選んだ。

 それはきっと、ナジメが造った村やみんなを守りたいからだろう。



『で、そんな村のみんなが、ジーアの願いを優先する切っ掛けとなったのが、蝶の魔物との戦闘が自信に繋がったんだろうね。ジーアに頼らなくても大丈夫って、気付いたんだろうね』


 これはいい傾向だと思う。

 ジーアの為にもなるし、みんなもジーアの依存から脱却できるから。


 ただ一つ問題がある。

 

 私的には連れて行ってもいいと思っている。

 ナジメも喜ぶかもだし、ジーアの今後の為にもなるから。


 だけど、私一人では決められない。

 一番肝心で、最も大事な事があるから。



「ジーアはどうしたいの?」


 この話が出た時から、どこか浮かない顔のジーアに問いかける。

 一番肝心なのは、先ず本人の意思だ。



「わ、わたしは、クロ様が大切にしているこの村を守るんでしゅ。クロ様とも約束しましたから……」


 マヤメの背中から顔を出し、小さな声でそう告げた。

 ただし、その目はわずかに伏せられていて、地面を見つめていた。



「なら、ナジメと一緒にいたくないの?」

「い、いたいでしゅっ! でも、約束が……」

 

 そう言って、ジーアはまた地面を見つめて黙りこむ。

 その様子から、本心を言ってないのはわかる。だから、



「はあ~、さっきから約束約束って、それはジーアの一番の望みを我慢してまで守るものなの? そもそもジーアはナジメと一緒にいたいって、打ち明けた事あるの?」


 今までの流れで、ここが一番気になっていた。

 なのでストレートに聞いてみる。 


 そもそも私の知っているナジメは、相手の気持ちを蔑ろにはしない。 

 面倒見だっていいし、私が留守中は、ユーアたちや孤児院を見てくれている。



「で、どうなの?」


 なぜか、口を半開きのまま固まっているジーアに再度聞く。


「そ、それは言ってないでしゅ…… だって、わたしがいたら足手纏いでしゅし、お忙しいのに傍にいたら、きっと邪魔でしゅし……」


 そう口にした後で、また自信なさげに俯いてしまう。



『はぁ~ なんだ、やっぱり伝えてないじゃん……』


 あのナジメがジーアの願いを突っぱねて、村に残れと強制するわけがない。

 何も伝えてなければ、一番の実力者のジーアに頼るのは、ごく自然の流れだろう。


 そんな村のみんなは、あの受動的なナジメの教えから解放された。

 けど、ジーアだけは、未だに囚われたままだ。


 それだけナジメの事を心酔しているのはわかる。

 いや、これは妄信と言った方が合っている。


 だけどその想いはいつ届くのだろう。

 長寿命の種族同士だから、数十年はこのままかもしれない。

 

 

『きっと体感時間が違うかもだけど、でも私は違う。知ってしまった以上、このまま知らぬ存ぜぬはしたくないんだよね』 


 知らねば仏、見ぬが秘事。

 なんて言葉があるけど、知ってしまえば放ってはおけない。


 だから私は動くことを決めた。



「あのさ、足手纏いは別として、ナジメが忙しくなかったら、ジーアがいても邪魔にはならないよね? それでその本人が良いって言ったら、ジーアもかまわないよね?」


「うえっ!? で、でもクロ様はきっと忙しいでしゅっ! そんなところにわたしが行ったら、きっと迷惑でしゅっ!」


「いや、忙しいってなんで決め付けるのっ! ジーアは知らないよねっ!」


「う、うひぃ~っ!?」


 これは重症だ。

 勝手に決めつけて、勝手に迷惑だと思っている。


 私が知ってる限り、ナジメはいつもプラプラしている筈だけど。

 孤児院と自分の屋敷を行ったり来たりと。



「ん? ナジメは忙しい。澄香に頼まれた孤児院の工事と、それとスラムにも大豆の工房の増築と改築に行ってる。他にも牛の様子を見に行ってる。みんな澄香からの要望。あとロアジムのとこにも顔出してる。領主について色々教わってるらしい」


「………………」 

「………………」

   

 なんだけど、思いがけないマヤメの話で、ジーアと二人顔を見合わせる。



「ちょ、忙しいのは、殆どスミカしゃんのせい――――」

「ちょっと待ってっ! 今、本人に聞いてみるからっ!」


 ジーアが癇癪を起こしそうになったので、あるものを取り出し、直接ナジメに確認することにした。


 カチャ


「…………も、もしもし? 聞こえる?」


 ヘッドセットを装着し、向こうの相手に話しかける。

 この世界で使うのは初めてだから、自然と小声になってしまったけど。


 すると、直ぐに返事が返ってきた。



《な、なんじゃっ!? この声はねぇねかっ!?》


「うん、そうだよ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 かなり驚いてるみたいだけど、この声と話し方はナジメだ。

 そんなナジメの声に、なんか久し振りだと感じながら、早速本題に移ることにした。 


 これでようやく話を進める事が出来るよ。

 

  

   












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