第540話クロ様(ナジメ)となりすまし




《こ、これは一体どうなっておるのじゃっ! ねぇねから貰った、りふれくと何とかから声が聞こえてくるのじゃっ!》


 通話先のナジメに繋がったのはいいが、かなり興奮している様子だった。

 

 それはそうだ。

 何せ、シスターズの懇親会で渡したアイテムから、私の声が聞こえているんだから。 



 実は、元々みんなに渡した装備アイテムには『VC』(ボイスチャット)の機能が付いているのものを渡していた。後々にその機能が解禁されると思っていたから。


 ただ今までは、リレーユニット(中継器)がなく、その機能が使えなかった。


 だけど、装備内のカウントダウンが進んだおかげで、ストレージボックス内の、リレーユニット『ヘッドセット』が取り出せるようになった。


 なのでそれを介して、みんなと通話が出来るようになった。 

 だからナジメとだけではなく、今後はみんなとも話すことが可能だ。

 

 因みに、装備アイテムのこの機能は、あくまでも補佐的なものなので、装備アイテム同士では通話が不可能だったりする。

 

 だからマヤメの件と依頼が解決したら、ヘッドセットをシスターズのみんなにも渡す予定だ。そうすれば何処にいても、全員と会話が出来るようになるから。




「あー、りふれくと何とかじゃなく『リフレクトMソーサラー』ね? で、それでいきなりなんだけど、今、忙しい?」 


 ヘッドセットの音声出力を、スピーカーに変更しながら聞いてみる。

 これで私だけではなく、ここにいるみんなにも聞こえるようになった。



《う、う~む、そうじゃな。忙しいと言えば、ちと忙しいやも知れぬ…… それでこれは一体どうなっておるのじゃ? 通信魔道具には見えなんだが》 


「その説明は後でするよ。それよりも忙しいってホント? 現在の話じゃなく、長期的にって意味で聞いてるんだけど?」


《うむ? 長期的とな?》


 ナジメに聞きながら、チラとみんなを見てみる。

 大尊敬する領主さまの声を聴いて、どんなに歓喜してるのかと思って。


 ところが、ここでもまた予想を裏切られる。



「ううう、ひっく、クロしゃま…………」

「「「………………」」」


 みんなは大騒ぎするどころか、地面に両膝を付いて、お祈りポーズをとっていた。

 しかもジーアなんか感動し過ぎて、泣いちゃってるし。



「…………うん、そう。数か月先っていうか、十数年先って意味で」


 そんなみんなから、スッと視線を逸らして話を進める。

 なんか見たらいけないものを見た気分だし。



《十数年っ? そ、それはわからぬが、そもそもなんでじゃ?》


「私は今、クロの村ってとこにいるんだけど、その村のジーアって子が―――― あ、ちょっと待っててっ! マヤメ、ジーアを押さえといてっ!」


《な、なぬっ! ねぇねはクロの村にいるのかっ!? それとマヤメと一緒にいるのかっ?》


「あ、ごめんね。なんかジーアの名前出したら、逃げ出そうとしたからマヤメに捕まえてもらったんだよ。で、どう? 忙しいなら忙しいで、付き人とか欲しくない?」


《…………ちと情報が多過ぎて、頭の整理が追い付かないんじゃが、今のねぇねの話からすると、ジーアをわしの付き人にしたい、とそういう事じゃな?》


「おおーっ! 察しが早くて助かるよ。で、ついでに聞きたいんだけど、ジーアに村に残れって言ったの? それとナジメと一緒に行きたいって、ジーアの口から聞いたことある?」


《ぬ? わしはそのような事ジーアには言っておらぬぞ? ただ村を任せたとは伝えたのじゃが。わしと一緒に来たいと聞いたのも初耳じゃな》


「ああ、やっぱりそうなんだ」


 モロ的中だ。

 ジーアの性格上、自分の主張や意見を伝えるのは苦手だろう。

 それが心から崇拝するなら尚更だ。



「で、話は戻るけど、ちょっと忙しいってのはなに?」


 やっぱり私のせいかなと、一応確認してみる。



《うむ、なにかおかしな輩が街に来ておってのぉ》


「おかしな輩? って、もしかしてジェム魔物っ!? だったら――――」


 直ぐに駆け付けなければならない。


 あの白い人型や、今回のような強力な魔物だったら、みんなが無事でも、コムケの街が大変なことになる。


 幸いにも今の私には、そのがあるし。



《いや、違うのじゃ。冒険者なんじゃが、何やら英雄と名乗っておるのじゃ》


「英雄? なんの?」


 ってか、英雄って自ら名乗るものなの?

 自分は正義の味方って名乗るくらい、怪しさ満点なんだけど。



《ねぇねと同じ『蝶の英雄』だと言い張るのじゃ。どこぞでねぇねの名声を聞いて、この街で幅を利かせようとでも思っておるのじゃろう。この街がその英雄の街と知らずにの》


「あはは、それは間抜けだね。で、その輩ってどんな女冒険者なの?」


 なんか続きが気になって、話の先を聞いてしまう。

 私の真似って事は、かなりのボンキュッボンな美少女だろうし。



《ん? 女じゃないのじゃ》


「………………はい?」


 どういう事?


《それがみんな男なのじゃ。Cランクの冒険者の5人パーティーなのじゃ》


「………………」


《どうやら碌に調べもせずに、英雄の名の恩恵を受けようと画策しておるようじゃの。この街が辺境にあるが故に、誰も蝶の英雄の素性や背格好を知らぬとでも、思っておるのじゃろうて》


「あ――――」


 それは嫌だなぁ。


 蝶の英雄って名に固執はしてないけど、他でやられたらちょっと迷惑かも。

 男でもまだイケメンで品行方正なら許せるけど。

 

 なんて、そこまで大した事でもないと思っていたが、次のナジメの説明で気が変わった。



《しかも全員が全員、半裸でムキムキで、蝶の要素は目元に着けている蝶のマスクだけなのじゃ。そんな輩が我が物顔で、街中を闊歩しているのじゃから、みなはかなり迷惑に思っておるようじゃの。特にシスターズ達など――――》 


「――――――って、いいよ」


《うぬ? 今なんと言ったのじゃ?》


「そんなのやっちゃっていいよっ! その5人組は絶対そのままコムケの街から出さないでっ! 出る時は英雄の名を語ったことを後悔させてからにしてっ!」


《うわっ! って、ねぇねいきなりどうしたのじゃっ!》


  

 どうもこうもない。

 現代なら名誉毀損もいいところだ。


 仮に、そんな輩を野放しにしたら、私は何処に行っても厄介者&変態扱いされるだろう。


 私だけなら我慢できる。

 けど、ユーアやBシスターズのみんなが、そんな目で見られるのは嫌だ。


 だからこの機会に駆除し、見せしめにしなくてはいけない。

 蝶の英雄(私)になりすます事は、身を亡ぼす愚かな行為なんだと。



「相手は冒険者なんでしょ? だったら公然と出来るよね?」


《う、うむ、それは模擬戦って事じゃな? じゃが相手は曲がりなりにもCランクじゃ。わしは冒険者ではないから参加できぬぞ? 実害も報告されておらぬし》


「うん、それはわかってる。でもユーアたちは怒ってるんでしょ?」


《そうじゃな。ユーアは顔には出さぬが、かなりピリピリしておるのじゃ。ラブナはそんなユーアを見て、奴らに対して憤慨しておるし、ナゴタ達は他の冒険者を使って、奴らの素行を監視しておるようじゃな》


「ユーアがピリピリっ!? な、ならルーギルとクレハンにも話して協力してもらってっ! それと私が渡した回復薬まだあるよね?」


《あるのじゃ。で、わしはちょうどその件で冒険者ギルドに向かうところなのじゃ。あ、でもねぇねよ、回復薬は模擬戦で使用禁止なのじゃが、どう使うのじゃ?》


「どうって? そんなの相手に使うに決まってるじゃん」


《む? 相手、とな?………… あっ! ぬふふ》 


 私の返答を聞いて、少しの間沈黙するナジメ。

 けど、その意味を理解したのか、直ぐに含み笑いが聞こえてきた。



「ま、そんな訳だから、模擬戦のルールってのはルーギルに相談してみてよ。それかクレハンだったら、何か良い案考えてくれそうだから」


《わかったのじゃ。しかしねぇねはよくそんな非道な事を思いつくのぉ? あんな効果の高い回復薬を、あ奴らに使うのには、ちと勿体ないと思うのじゃが……》


「そんなの気にしないでいいよ。それでユーアやみんなの溜飲が下がるなら、その方がいいしね。私が帰った時に、みんながピリピリしてるのも嫌だからね」


《そうじゃな、依頼を終えて帰ってきたら、みながそんな調子じゃねぇねも気を遣うしの。ならわしもねぇねの為にルーギル達を説得するのじゃ。して、もう話は終わりかの?》


「うん、任せたよナジメ。で、これで話は終わりなんだけど、ナジメと話をしたことは内緒にしておいて? 後で連絡した時にみんなを驚かせたいから」


 特にユーアの反応が楽しみだったりする。

 いや、違うかな? 驚いたユーアの声を聴きたいだけかも。



《うむ、了解したのじゃ。それでは全てが片付いたら、ねぇねに報告すればいいかの?》


「あ、それはそのアイテムだけでは出来ないんだ。今はまだこっちからしか連絡できないから、何処かのタイミングで私が連絡するよ」


《うむ、わかったのじゃ。ではよろしく頼むぞ》


「はーい、そっちもよろしくね。じゃーね」


 プツン



『ふぅ、これで余計に増えた心配事が解決しそうだよ。ギルド長のルーギルもいるし、もしかしたらロアジムも顔を突っ込んできそうだしね』


 ナジメとの通話を終えて、少しだけ安堵する。

 頼もしい仲間がいるんだと、ちょっとだけ嬉しくなりながら。


 なんて、そんなみんなの出会いに感謝し、これらの人間関係を築いた自分も満更じゃないなって、独り悦に浸っていると、


 グイ   


「あ、あにょ~」

「ん? 何ジーア?」


 羽根を後ろからジーアに引っ張られる。

 そんなジーアは何故か、半泣きになってるけど。



「あ、あにょぉ~、わたしとクロ様との話は一体…………」 

「あ」


 忘れてた。

 ってか、私のなりすましの話が衝撃的過ぎて、スッポリと抜けてた。

 そもそもジーアの件で連絡してたのに。



「ご、ごめんね、もう一度連絡するからっ! でもさっき逃げだそうとしたよね?」

「う、そ、それは照れ隠しでしゅっ! なのでもう一度お願いしますっ!」

「はぁ~ なんかわかりずらいな。でも忘れてた私が悪いから直ぐに連絡するよ」

「よろしくお願いしましゅっ!」


 ピッと背筋を伸ばして、声高に返事をするジーア。

 曇天だった表情も、一気に晴天のような笑顔に変わる。



「あ~、もしもしナジメ? 何度もゴメンね? あのさ――――」 


 さっきのジーアの泣きべそは、実は演技だったんじゃないかとチラ見しながら、もう一度ナジメに連絡をした。


  



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