第155話泳ぐ!スク水幼女




「スミカお姉ちゃん大丈夫ケガはない? それとナジメちゃ、さまもっ!」

「スミ姉凄かったわっ!」

『わうっ!!』

「お姉さまっ! さすがですっ!」

「お姉ぇはやっぱり最高だぁっ!!」



 シスターズのみんなが、未だ鳴りやまない歓声を受けている私たちに駆け寄ってくる。ユーアとラブナはハラミに乗って、姉妹の二人はその傍らを走ってきた。



「うん、私は大丈夫。ナジメはあんな状態だけどハリボテみたいなもので、そこまで重くないから安心して。それに回復してあるから」


 ユーアのほわほわした頭を撫でながら、ナジメを見てそう答える。


「うぬ、スミカの言う通りじゃ。重さはほとんど感じないのじゃ。それにわしは人より頑丈だしのう。これくらいは何ともないのじゃっ! わははっ!」


 「だから心配無用じゃっ」とスキルの壁に挟まれたままドヤ顔でそう言った。

 地面から1メートル弱程の高さで、ぷらんと手を下げ、顔だけ上げての態勢で。



「「「………………??」」」

『……わふ?』


 そんなナジメを見て、首を傾げる面々。


 さっきも言った通り、重さは減らしてあるので簡単にどかせるだろう。

 なら何故この幼女はそこから出て来ないのだろう?



「ナジメもうそこから出てきていいよ? 一応打ち合わせ通りだったし」


 足をプラプラさせて、なんだか居心地のよさそうなナジメに声を掛ける。


 因みに、透明壁を解いて姿を現したナジメの敗北宣言は演技である。

 裏取引みたいなもので、わざわざナジメに演じて貰った訳だ。



「う、うぬぅ。わしはまだここに…… それよりもユーアすまなかったのじゃ。未遂とは言え、わしの勝手な事情でお主を攻撃したことは謝るのじゃ。本当にすまなかったのじゃ」


 「コテン」と頭を下げて、真摯な表情で謝罪するナジメ。


「う、うんっ! ボクは何ともないから気にしていないよ、ですっ! だから謝ら…… じゃなくて、しゃざい?はいらないですっ! はいっ!」


 ハラミから降りて、使い慣れない言葉で返事をするユーア。

 きっとナジメが領主だと知って、今までの体裁を取り繕うと必死なのだろう。



「そうか? それでも謝罪は受け取ってくれ。でないとわしも――――」

「は、はいっ! りょうしゅしゃまが、そう言う、お、おっしゃる?にゃら――――」


『ふふっ。ユーアがあわあわしてる。そんなユーアも可愛いよねっ』


 そんな二人を眺めながら、ナジメを挟んでいる上下のスキルを透明にする。



 すると、そこには――――



「ぷっ! クスクスっ……」


「ちょ、スミ姉ってばっ! くすくすっ」

『わふふっ』

「お姉さまそれは …… うふふ」

「お姉ぇっ! それは何だい? わははっ!」



 そこには、空中に浮いて、両手両足をプラプラさせている幼女がいた。

 スキルを透明にしたせいで、おかしな状況になっていた。



「ス、スミカお姉ちゃんっ! ボクは偉い人とお話してるのにっ! ぷくくっ……」

「? なぜ、お主たちはわしとユーアを見て、苦しそうな顔をしておるのじゃ?」


 ユーアもナジメのそんな姿を見て、必死に笑いを耐えている。


 その当のナジメは、自分の状態にも気付かずに、苦し気に笑いを堪えている私たちを、不思議そうに見上げている。



「オ、オイッ! スミカ嬢ッ…… って何だそれッ! グフフ……」

「ナ、ナジメさん?…… うふふふっ」


『何だあれ? って、わははっ!』

『はぁ? 浮いて? アハハっ!』

『お母さんあれ見てっ! 面白いよっ!』

『どれ? ってダメよっ! 笑っちゃ…… ぷっ』


 そんな私たちにルーギルたちも、そして大勢の冒険者や街の人たちも気付いたのだろう。

 そこかしこから「クスクス」と小さな笑いが聞こえる。



「な、何なのじゃっ! わしとユーアの事だと思ってみていたら、わしを見て笑いを我慢しておるのかっ!? 何がそんなに面白いのじゃっ! わ、わしはこの街の領主じゃぞぉっ! この街で一番偉いのじゃっ!」


 ナジメは両手両足をジタバタさせながら、プンプンと怒鳴り声を上げる。

 見方によっては空中で泳いでいるようにも見えない事もない。


 いや、溺れてる?



「ぷっ、あ、あのさ、ナジメこれ持ってくれない? そして両手を前に伸ばして、足を上下に動かしてみて?」


 私は、ナジメの肩幅と同じくらいの、長方形の板を渡す。

 その正体は、水色に視覚化した透明壁だ。



「う、うむ。よくわからぬが、スミカがそういうなら意味があるのじゃろうな」

「う、うん、まあ、あるかな? ある意味……」


 パタパタパタッ


 それを受け取ったナジメは、私の言う通りに足を上下に動かしている。

 それはプールでビート板を持って、バタ足の練習をする幼女そのものだった。


 パタパタパタッ――――


「これでいいのじゃろ? 一体これに何の意味があるのじゃ?」


 顔を上げ周りを見渡し、目を丸くしてナジメが疑問符を浮かべる。


「ぷっ!?」


 こ、今度は息継ぎの練習になってるよっ!



『――――ぷっくくっ、も、もうダメだっ! あ、そうだっ! こういう時は素数を数えて気を紛らわして我慢しようっ! 2.3.5.7――――』


 自分でやっておいてなんだけど、笑いに耐えようと意識を切り替える。

 冗談半分でやってみたけど、反則的に面白すぎる。


 これで黄色いキャップまであったら完璧だった。



「ナ、ナジメちゃまっ、それとスミカお姉ちゃん…… も、もうボクはっ――」


「「「~~~~っっぷぷぷっ!」」


「オイッ! 嬢ちゃんいい加減に――――」

「ス、スミカさんっ! そ、それ以上は――――」


 だけど、そんな私の努力を知る由もないシスターズとルーギルたち、そして未だ集まっている大勢の観客たちは――――――



「「「「わははははははっっっっ!!!!」」」


「ひいひいっ、な、何だよあれっ? 何で空中で泳いでるんだよぉ!」

「一体どうやって浮いてっ? ってかあの動きっ、わははっ!」

「ナ、ナジメ領主さま、面白い方だったんだなぁっ! うはははっ!」

「あの板の意味は良く分からねえけどよぉっ、なんかこうっ! がははっ!」



 そんなナジメの滑稽な姿を見て、大盛り上がりしていた。


 そうして訓練場は和やかな空気のまま、私たちの模擬戦は終わりを告げた。



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