第156話大団円だよっ!!




 模擬戦が終わった頃から、辺りは薄暗く色を変えていた。

 もうじき夜の帳が降りる頃だろう。


 街の人たちや、多くの屋台も、いつもの生活に戻って行った。

 残ったのは訓練場を所有している、冒険者ギルドの面々と私たち。


 こうして、ルーギル達やワナイ警備兵たちにも協力して貰った、姉妹の為の私たちの作戦は終わりを告げた。


 ただ作戦は終わってはいるが、それが成功したかはまた別の話だ。



『……後は、この街の冒険者次第なんだよね?』


 そう。


 元々は、冒険者たちに、ナゴタとゴナタ姉妹との確執を解いて欲しい事。

 そして、できればナゴタとゴナタをこの街で住まわせたい。


 全てを許してくれなんて都合のいい事は言えないが、せめて多少でもわだかまりを解したい。少しでも心を許して欲しい。


 そんな願いを掲げての、模擬戦だったのだから。



――



「…………スミカの嬢ちゃん。そしてナゴタとゴナタ」


 冒険者を代表してか、一歩前に出てきたのは、冒険者たちを纏めているギョウソ。

 その表情と言葉からは何も読み取れない。


 それと、後ろの冒険者たちの口元も横一文字に結ばれていて、これだけでは成功か否かは判断できない。



『うん? これは―――― 悪くはないのかな?』


 一様に黙り込んで、ギョウソに任せている冒険者たちの顔を見てそう思う。


 なぜなら、


『みんな黙り込んではいるけど、姉妹を見る目が…… ね?』


 冒険者たちの雰囲気と態度は、確かに険しくは見える。

 それでも、それぞれの目元が、僅かに緩んでいるようにも見える。


 目は口程に物を言うとはこの事なんだろう。



『……まあ、それでもさすがに全員ってわけじゃないけど、そこまで嫌悪しているわけではないかな? ならこれで大丈夫?』


 少しだけ安堵し、人知れず胸を撫で下ろす。



「英雄のスミカとナゴタゴナタ。最後にナジメさんの戦いを見させてもらった」


「うん。それで?」

「はい…………」

「うん…………」

「………………」


 そう切り出し、冒険者たちを背にギョウソは話を始める。


 そんな中、何故かナジメだけはウトウトしていた。

 しかもまだスキルに挟まれたままだと言うのに。



『……別に透明壁スキルは温かいわけでもないんだけど。あ、もしかして居心地いいの? さっきから妙に出たがらないし。って、それよりも今は――――』


 目元を擦っている、ナジメから視線を離し、ギョウソの話に集中する。

 今は、姉妹と私たちの大事な話だ。



「…………スミカの嬢ちゃんはナゴタゴナタ姉妹より圧倒的に強い。姉妹が得意とする戦い方にわざわざ持ち込んでそれでも倒していた。それは、十二分に姉妹を諫める実力があるとわかった――――」


「うん」

「…………」

「…………」

「…………zzz」


「――――それに、元Aランクの実力者のナジメさんとの戦いも、姉妹よりも高レベルで驚いた。しかもルーギルさんに聞いたが、スミカの嬢ちゃんは無傷での勝利を宣言して、その通りに戦いを終わらせたんだろう?」


 そう言ってギョウソは一旦話を止め、確認するように私たちを見る。


「うん、まあ、何処かの脳筋ギルド長が、私のメンバーに心配かけるような事を言うからそれでだよ。だから成り行きで、安心させる意味で言ったんだよ」


「オ、オイッ! それは当たり前だろ? ナジメは元Aランクだッ――――」


「お、お姉さま、そう言った想いがあったのですね?」

「お姉ぇはやっぱり凄い……」

「くかぁ………………」


 ルーギルの言い訳を遮り、私の説明に感極まる姉妹たち。

 さっきから寝ている幼女は、もう放置でいいだろう。


 

「それで、だ。それ以外にも、ルーギルさんたちの話と、ナゴタとゴナタの過去の話。それと戦い最中と、その後の姉妹を見ていて、俺たちはそれぞれだが話し合った。その結論は――――」


「うん」

「ゴク…………」

「どきどき…………」

「ムニャムニャ…………」



 ギョウソは碧眼の片目だけで、私たち、そして冒険者たちを見渡し、



「この街でナゴタとゴナタは過ごしても構わない。だが…………」



「「「やったぁ――――――っ!!!!」」」


「ナゴタさんゴナタさんも良かったですっ!!」

「ア、アタシは最初から信じてたから驚かないわよっ!!」

『わふっ――――!!』


「んなっ! な、なんじゃっ!もう朝かっ!?」


 シスターズたちは手を取り喜び合い「キャッキャ」と歓喜の声を上げる。

 ハラミは珍しく遠吠えで喜びを表現していた。

 その騒ぎで目を覚ます幼女もいた。



「ううっ、ありがとうございます皆さん。それと冒険者の方々も……」

「ワ、ワタシたちもうダメかと思ったよぉ、みんなありがとうなっ! グス……」


 そんな祝福の言葉と雰囲気に、姉妹の二人は目尻を濡らす。

 余程の不安と重圧だったんだろう、その心中を理解できる。


 二人とも頬を濡らして、みんなに涙声で答えていた。

 何だかんだで大変だったけど、それもこの結果なら報われたと思う。



「二人とも。これからもちょっとは大変だと思うけど、何があっても私が―――― ううん。私たちがいるから安心していいよ。それから、許してくれた冒険者の人たちにも何かで恩返ししようか? もちろん私たちも一緒にね。それと――――」


「オウッ! それなんだがよォ !姉妹の二人には空いた時にでもこの街の冒険者に色々と教えてやってくれやッ! そうだろギョウソ。さっき何か言い掛けてたのはよォ」


 ここで、今まで空気だったルーギルが話に加わる。


「はい、ルーギルさん。だからナゴタとゴナタ。さっき言いそびれてしまったが、姉妹の二人から指導して欲しいって奴が結構いるんだ。お前たちは若い時分から実力があったからな。それに、以前より強くなってるしな」


「はい、それはいいですねっ! Bランクでも屈指の実力者から直々に指導してもらえる機会なんて中々ないですからねっ! こちらからもお願いします、ナゴタさんとゴナタさんっ! あ、勿論ギルドからの依頼として、依頼料はキチンと支払いますのでっ!」


 それを聴いた、副ギルドのクレハンが、妙案だとばかりに話に加わる。



『う~ん、クレハンは予想以上に食いついていたけど、冒険者の底上げが目的だよね? この街の冒険者は正直頼りなさそうだし…… でもいいかも』


 なんて、ちょっとだけ愚察してしまうが、その考えには賛同だ。


 冒険者と触れ合う機会が増えれば、色々とわだかまりも溶けていくだろうし、姉妹の存在も徐々に受け入れられていくだろう。



「どうする? 二人とも。私はいい話だと思うけど」

 

 当の本人に一応確認する。

 良いことづくめだが、決めるのは私じゃない。



「は、はいっ! 喜んでお受けいたしますっ! お姉さまっ!」

「ワ、ワタシも教えるのは苦手だけど、これから頑張るよっ!」


 目尻を拭いながら笑顔で答えるナゴタとゴナタ。

 後ろの冒険者たちも微笑みながら、姉妹の二人に頷いている。


 どうやら反対意見は出なかったようだ。



「ああっ! アタシの師匠が取られたっ! まだ何も教えて貰ってないのにっ!」


「ラ、ラブナちゃん…………」


 ――――まぁ一人だけ残念な子もいるけど……


 

「あ~、私もさっき、ルーギルのせいで言いそびれたんだけど……」


 そんな笑顔の二人に近づいて、そっと頭に手を置く。


「本当に良かったね。ナゴタとゴナタ。これからも私たちと冒険しようっ! もっと楽しんで行こうっ! じゃないと損しちゃうって、前に話したもんね? それとね――――」


 優しく二人の頭を胸に抱き寄せる。


「お、お姉さまっ!?」

「お、お姉ぇっ!?」


「――――それと、今までお疲れさま。もう昔の苦労も悲しみも思い出さなくていいよ。これからは好きな事だけやって行こう? 何があっても私たちがいるから、バタフライシスターズが守るからね」


 少しだけ赤くなっている、二人の耳元でそう告げた。



「う、ううう、お、お姉さまっ! 私たちは辛かったんですっ! きっと何処かで気付いてたんですっ、ずっと間違ってたってっ! だから本当にありがとうございましたっ!」


「うわ~~~~んっ! ワタシたちを何度も救ってくれて、本当にありがとうっ! ワタシとナゴ姉ちゃんは、一生お姉ぇに付いて行くって決めたっ! だから守られるだけじゃなく、守れるように強くなるよっ! うわ~~んっ!」


「よしよし、ずっと辛かったんだね。でももう大丈夫だからね」


 堰を切った様に、胸の中で激しく嗚咽を漏らす、ナゴタとゴナタ。

 たくさんのきれいな大粒の涙が、地面を薄っすらと濡らしていた。



「よ、良かったよぉ~っ! ナゴタさんゴナタさんっ! グスっ」

「し、師匠っ! これからもよろしくねっ! うううっ」


 それを見てユーア、ラブナも私たちに抱き着いてくる。

 私はそんなみんなを纏めて優しく抱きしめる。



『ふふっ、これでもう万事解決だね。ルーギルたちにも本当に感謝だよ』


 この姉妹は、両親がいなくなってからずっと無理してきた。

 色々と犠牲にしながら生きてきた。


 それがやっと今解放された。

 これからは、何も縛られる事なく生きて行けるだろう。



『ふぅ。本当に良かった。これで全てのわだかまりが無くなるわけじゃないけど、それは時間とこれからの二人で取り返せる。もうこれで安心できるよ』



 私はフッと全身から力が抜ける感覚を覚えながら、それが心地いいと思った。



『それに今回は結構無茶しちゃったけど、私のアバターはまだ――』


 ズキンッ


 こめかみを抑え、メニュー画面を見ながら「まだ大丈夫」と心の中で呟く。

 私にはまだやりたい事が山ほどあるんだから。



『うんっ! 私はまだまだユーアと楽しみたいっ! ううん、今はユーア達とかな?』 


 腕の中のみんなの温もりを感じてそう心の中で呟いた。



※※



 カチ カチ カチ――――――――



 所持者以外には見えない、装備メニュー画面の中で、何かが時を刻んでいた。

 その数字は、刻々と時を巻き戻すように、規則的に時を減らしていく……



 『カウントダウン』



 それは、スキルレベルのアップと同時に表示されていた。

 その意味は、トッププレイヤーの私も知らないものだった。



 だけど、私の予想が正しければ、きっと、新たな――――




   

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