第9蝶 妹の想いと幼女の願い1

第157話盗み聞きと駆けこむ体操服




 私たち6人と1匹は、ギルドのある商業地区を抜け、一般地区、そして遠くにうっすらと見える、貴族街の建物の影を眺めながら帰路についている。


 この街にも夜の帳が降り、家々の生活の灯りが所々に見られる。


 あの後、私たちバタフライシスターズとギルド長のルーギルと副ギルド長のクレハン。そして、冒険者の纏め役の年長者のギョウソと、数名の冒険者たちを引き連れて、ルーギルのお勧めのお店で食事兼、打ち上げをした。


 私たちは今その帰りといったところだ。


「美味しかったねっ! スミカお姉ちゃん!」

「そうだねユーア」


 ユーアはニコニコしながら私の隣を手を繋ぎ歩いている。

 何故かその前方には、ユーアを先導するように手を引くラブナ。


 なのでユーアの両手は私とラブナで塞がっている状態だ。



『それにしても……』


 私たちの後ろに付いてきている、ハラミをチラっと見る。

 というか、ハラミじゃなくてその背に乗ってるものだけど。


「……にしても、よく寝るよね?この領主は」


 ハラミのふかふかの背の上で「クカ~」と寝ているナジメを見る。



「え? だって仕方ないよ。ナジメちゃんは偉いけど、まだ子供だもん」

「そうね。寝るのは子供の仕事なのよっ」


 私の呟きにも似た独り言に、ユーアとラブナが答えてくれる。


 ナジメが途中で寝てしまったせいで、早めに打ち上げは切り上げてきた。

 さすがにこの街の領主をほったらかしにする訳にもいかないということで。


 因みにナジメの正体と、年齢についてはシスターズはまだ知らない。



『このまま私以外知らない方が面白いんだけど、明日になったらナジメの口から話すって事だし。私からは何も言わないでおこう……』


 そんな訳で、ハラミを取られたユーアとラブナは私と手を繋ぎ歩いている。


 そしてその後ろには、双子姉妹のナゴタとゴナタが何か話しながら歩いている。

 私は何となく気になって耳を傾けてみる。


 ていうか、会話の節々に、私の事が聞こえてきたからだ。



「ねえ、ナゴ姉ちゃん。お姉ぇとのお風呂いつにしようか?」

「そうね、私はいつでもいいけど、まずはお姉さまに確認しないとね」


『いっ!?』


「うん、そうだなっ! ワタシ買い物も行きたいんだっ! お姉ぇとお風呂入るなら、可愛い下着も見せたいしな。ナゴ姉ちゃん、明日付き合ってくれないかい?」


「ふふっ、大丈夫よ。元々お姉さまから借りている家の足りないものを買いに行くから、その時に一緒に見に行きましょう?」


「うんっよろしくなっ! ナゴ姉ちゃん」


「了解よゴナちゃん。でも、私の下着もあるんだから、わざわざ買わなくてもゴナちゃんに貸してあげるわよ?」


「え? ナゴ姉ちゃんのはワタシには合わないと思うな」


「なぜ? 私たちは殆ど体形は同じでしょう? なら問題ないと思うけど」


「う、うん、そうじゃなくてワタシ紐のはちょっとなぁ」


「そう? あれはあれで動きやすいのよ? それか他にも種類あるけど」


「う、ううん。いいよっ! ワタシは可愛いのが欲しいんだ。お姉ぇみたいなの」


「ふふふっ、なら私もお姉さまと同じ物にしようかしらね?」


 なんて会話をしながら、姉妹仲よろしく、ナゴタとゴナタは着いてきていた。



『お風呂って言うか、もう混浴だよね? そういえばそんな約束を……』


 してたんだっけ。

 まあ、覚えていたけど、思い出したくはなかった。

 胸囲的な格差を、思い知らされるだけだから。 

 


「どうしたんですか? スミカお姉ちゃん」

「どうしたのよっ! スミ姉。魂が抜けたような顔して」


 姉妹の会話を盗み聞きして、後悔している私に二人が声を掛けてくれる。


「だ、大丈夫っ! 準備はもう出来てるからっ! 後は心の問題だからっ!」


「へ? 何のことですかスミカお姉ちゃん?」

「ちょっと意味がわからないわよ? スミ姉」


「は?…… な、何でもないよ。ちょっとだけ覚悟を決めようと思ってねっ!」

 

 慌てながらも、若干しどろもどろになりながら返事する。


「そうなの?」

「覚悟? 余計意味がわからないわよ?」


「ま、まあ、これは私の中の問題だから気にしないでねっ!」



 そんなこんなで、私たちは家の前に到着して、今日一日を終えた。



 ユーアとハラミの上のナジメは、私のレストエリアに。

 ナゴタとゴナタ姉妹とラブナは、森の奥のレストエリアにそれぞれ帰っていった。


 明日も色々と忙しくなりそうだ。




※※※※




「おはようございます。お姉さまとユーアちゃん」

「おはようっ! お姉ぇとユーアちゃんっ!」

「お、おはっ! スミ姉とユーア」



 日が昇り、数時間が経過したころ、ナゴタとゴナタとラブナがやって来た。



 昨夜の帰路の途中で、私たちのレストエリアに来て欲しいと伝えていたからだ。

 ナジメの事と、今後の事を話し合いたいと思ったから。


 後は出来れば今日の予定の話も。



『まぁ今日のこれからの事は、別に焦んなくてもいいんだけどね』


 ただ姉妹の二人にはニスマジのお店を紹介する約束だし、それにアイテムボックスに入っている魔物の引き取りや、特に期日は言われてないが、討伐依頼の報奨金の件もある。


 全部消化するとなると、かなり忙しくなるのは明らかだった。


 そして、朝まで一緒にいたナジメは、実は、朝早く孤児院に行っている。

 ナジメが帰ってきたら良い報告が聞けるだろうと期待している。



「おはよう三人とも。それじゃ早速上がってよ。ナジメはそろそろ帰って来るとは思うからさ」


「おはようございます。ナゴタさんゴナタさんっ! ラブナちゃんもっ!」


 そうして私とユーアはシスターズを迎え入れた。

 ハラミは朝食を食べた後、ユーアのブラッシングの最中で寝ていたけど。



「ユーア、ちょっと手伝ってくれる? みんなに軽食と飲み物だしたいから」

「はい、わかりました。スミカお姉ちゃんっ!」


 ユーアをキッチンに呼んで、二人でおもてなしの準備を進める。

 先ずはお茶とかお茶請けだよね?



「って、何も入ってないよね? やっぱり」


 そりゃそうだろう。

 何も入れた記憶がないんだから。


 そもそもアイテムボックスがあるから、実際いらないんじゃないかと思うし。

 本当に無用の長物だよね? かといって消せるわけでもないし。


『……まぁ、元々ゲーム内では、ただのインテリアだったから仕方ないんだけどね』


 なら出来る事はいつものように、



「ユーア、このレーションをお皿に盛り付けてちょうだい。私は飲み物をコップに移すから」


 ユーアにお手伝いしてもらい、


「はい、このお皿でいいんですよね? 人数分ですか?」

「ううん、後でナジメも来るだろうから、大皿2枚に分けてくれる?」

「わかりました、スミカお姉ちゃんっ!」

「あ、ケーキは小皿で人数分で。ナジメのは来てからで」

「うんっ!」


 アイテムボックス内のレーションを、ただお皿に並べるだけだった。



 タタタタッ――――



「うん?」


 何やらレストエリアの廊下を、駆けてくる音がする。

 きっとナジメが帰ってきたんだろう。


 ナジメもレストエリアの入場許可登録したので、現在入れるのはこのシスターズ以外だと後は大豆工房サリューのメルウちゃんくらいだ。

 メルウちゃんが朝早くに来たことはないので、必然的にナジメだとわかる。


 バンッ


 と勢いよく扉が開かれ、



「ス、スミカーっ! ぶっ壊してくれんかのうーっ!」


 血相を変えたナジメが、物騒な事を言って入って来た。



「はぁっ!? ぶっ壊すってなに? それよりその恰好は何なのっ!」


 私はナジメの物騒な物言いよりも、いつもと違う姿に驚いた。



 だってそれは、いつもの旧型スクール水着ではなく、



『な、なんだって体操着とブルマに、赤のランドセルなんだよっ!』



 これもあの全身鎧の商人から買っていたのだろうか?






 ここは、スミカたちのいる大陸より、南方に遠く離れた孤島。

 その地下施設の一室では、黒の少女と桃色の女が、何やら話し合っていた。 



「マヤメちゃん、今度は○○大陸に行くのよねぇ? 消えた魔戒兵の信号の後を追って。それと、また離れ離れになるから淋しくなあぃ?」


「ん? でもマヤは別に淋しくない。慣れてるし」


 感情豊かな、桃色の女とは正反対に、無表情で答えるマヤメと呼ばれる少女。



「違うわよぉ~! ワタシが淋しいって意味よぉ! またいなくなっちゃうしぃ」


「ん? そのつもりで言ったんだけど。マヤは別に淋しくないって。それじゃ」


「あ」


 背を向け手を挙げながら、マヤメと呼ばれた少女がこの場から消える。



「あらぁ? 相変わらずねえ凄いわねぇっ! その能力は」


 誰もいない空間に向かって、感嘆の声を上げ、桃色の女もこの場を離れた。 



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