第158話ぶっ壊してなのじゃっ!




「スミカっ! ぶっ壊してくれなのじゃっ!」

「はぁっ!? 何をぶっ壊すって? って、なんて格好してんのぉっ!」


 私はナジメの物騒なセリフよりも、その姿に驚愕の声を上げる。



 朝は、私たちが起きる前にいなくなるって言ってたから、ナジメの出掛けの服装はみていなかった。


 けれど、何故いつものスク水ではなく、またマニアックな「体操着&ブルマに赤いランドセル」何だろう? ってか、また何処から仕入れてきたんだろう?



「格好? ああこれか。これはわしの正装なのじゃっ! それよりも――」

「いや、ちょっと待って! 格好の方が先に聞きたいっ! 一体どうしたのそれ?」


 ナジメは一度だけ自分の格好を見下ろしたが、すぐさま自分の言いたい事を思い出し先に進めようとする。それを私は遮って詳しく聞いてみる。



「う、うむ、これはじゃな――――」

「これも、あの全身鎧の男から買ったの?」

「全身鎧? い、いや、すくーるみずきとは違う奴じゃな」

「へ? 違うの。どんな人だったの?」

「うむ、それが半分人ではなかったのじゃ。獣人だったのじゃ」

「獣人って?」

「人間と獣族の間に生まれた種族じゃな。今回会ったのは狼の特徴じゃったが」

「ふ~ん。それで何処にいるかは……」

「それは分からぬのじゃ、また街道で会ったからのう」

「…………そう分かった。ありがとうナジメ」

「うむ。それよりもお主はやっぱりわしの衣装を欲し……」

「それはない。あと正装って言ってなかった? あれは何で?」


 ナジメの全身を見ながら聞いてみる。


「あれは売ってくれた獣人がそう言ってたのじゃよ。それと他にも売って貰ったものがあるのじゃが、見るかの?」

「あ、うん、それは後でお願いするよ」


 それは丁重にお断りする。



『うーん、今回も手掛かりなしかぁ。そもそも何でそんなマニアックな物を売り歩いてるの? そこも一切謎だよね……』


 なんて悩んでみるが、そもそも答えなんて出る訳が無い。

 今のところ、情報がナジメからしか入らないのだから。



「で、私に何を壊して欲しいって?」


 一旦最初の話に戻す。

 衣装の事は急ぎでもないし、今は孤児院の結果が気になる。


 そもそも孤児院に行ってた筈なのに、何を破壊するというんだろう?



「もちろん孤児院じゃっ!」

「…………孤児院っ!? それって何でっ!」


「ナ、ナジメちゃんっ! それってどういう事なのっ!?」

「ナ、ナジメ壊すって何よっ! アタシたちが住んでたところよっ!?」


 ナジメの思いがけない答えに、元お世話になっていたユーアとラブナの二人が揃って食って掛かる。


 因みにユーアの口調が普通に戻っているのは、昨夜ナジメにそれでいいと言われたからだ。私たちとはあまり距離感を感じたくない、と。

 まぁ、ラブナはナジメが領主と知っても何も変わらなかったけど。



「ちょ、落ち着くのじゃ二人ともっ! わしはぶっ壊してくれと言っただけで、孤児院自体を無くすとは言っておらぬだろう? ただ単に建て替えたいと言っただけじゃよっ!?」


「えっ? そうなのっ! ナジメちゃんっ?」

「はぁっ!? 建て替えるの? ならいいっ! のかな?」


「そ、そうなのじゃっ! だから安心してくれっ!」


 ナジメは二人の剣幕に押されながらも、何とか二人を落ち着かせる。



 それにしても――――



「……建て替える? ってなんでそんな話になってんの?」


 そもそも私はナジメに孤児院の事を調べてって頼んだ筈なのに、何をすっ飛ばしたらいきなりそんな話になるのだろう?


 ユーアもラブナも心配するから、なるべく水面下で解決しようと思ってたのに。



「それはだな、あ奴らがスミカの言う通り――――」

「あ、ちょっと待ってっ! ナゴタ、ナジメを外に連れてってっ!」

「え? は、はいっ! お姉さまっ!」


 ガシッ

 シュン ――――


「あっ! 何をするのじゃあぁぁぁっ――――――」


 ナゴタは俊敏の特殊能力を使い、ナジメを抱えて外に出て行く。

 私の心配をすぐさま感じ取ってくれたようだ。


 さすが聡明なナゴタだ。察しが早くて助かるよ。

 


「ユーアとラブナ。外で大事な話してくるから留守番よろしくね。ゴナタはユーアたちとお茶して待ってて。あんまり時間掛からないと思うから」


「へっ? う、うん分かったぞ、お姉ぇ」

「あ、ボクもっと孤児院のお話を――――」

「あっ! スミ姉ぇっ!」


「それじゃっ!」


 私は急いでナゴタの後を追いかけて外に出る。

 流石に二人の前では聞かせられない話になるからだ。





「あ、お姉さま」

「どうしたのじゃ? いきなり」


「お待たせ。うん? 何でナジメはナゴタに肩車して貰ってんの?」


 レストエリアの外で待っている二人に合流する。

 そこには抱きかかえられてた筈のナジメが、ナゴタの肩の上にいた。


 何やらニコニコして、随分とご機嫌に見える。

 時折足をパタパタさせて、ナゴタの胸をグニグニしてるけど。


『…………』


 こう見ると、本当に幼女にしか見えない。


 これで100歳超えてるんだから、異世界の住人の年齢は見かけでは判断できないな。何て思ってみたり。


「ああ、それはじゃな。わしは高い所が好きなんじゃよ」

「と、いう事らしいですよ? お姉さま」


「ふーん」


 そう言えば、自分で作った巨大壁の上にいたり、土の龍の頭の上にいてみたり、透明壁に挟まれてた時も最後まで降りようとはしなかった。



『う~ん、低身長の女子が、背の高い男子に憧れる感じなのかな? 私はそういった憧れはないけど。そもそも本来の私は女子にしては高い方だったしね』


 まあ、人それぞれだしね?趣味趣向は。



「で、じゃな。スミカの言う通り、院長とその雇われている者たちはクロじゃった。本人たちが認めおったぞ」


 指を立ててそう話すナジメ。


「……へえ、今まで隠し通せてたのに、よくも本人たちが白状したもんだね?」

「う、うむそれは色々と方法があるのじゃ。わしは一応元冒険者じゃからな」

「ふ~~ん、力ずくで喋らせたんだ。手荒な真似しないでって言ってたよね?」

「んなっ!? ちょっとわしの『ベティ』を見せたら勝手に白状しおったんだっ!」

「ベティって何? そもそも何でそんな状況になったの? ナジメは領主だよね? 脅迫まがいの事しなくても良くない?」

「べ、ベティはわしの『土龍』の名前じゃな。た、確かにわしはこの街の領主じゃが、何故かあ奴らが知らぬと言い出しおった。こんな子供が領主なんて信じなかったのじゃ。それでベティをじゃな……」


 突っ込めば突っ込む程、段々と声量が小さくなるナジメ。


「ふ~~ん、それだけじゃないよね? 何かやったよね?」


 そんなナジメを薄目で睨みつける。


「し、仕方なかろうっ! わしだって力ずくは嫌じゃったんじゃ! だからと証明書を見せたら、今度は更に証明書を疑いだしたんじゃっ! 本物か偽物かわからぬとなっ!」



 そうしてナジメはナゴタの上で、わたわたしながら話し始めた。



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