第3話メニュー画面とアバター姿
指先が震えないように意識して、視界の中のアイコンに触れてみる。
先ずは左上をタッチしてみる。
ステータス画面が出た。
『―――――やっぱり……』
私は早速、視界の表面に映しだされる内容を確認してみる。
=名前 クリア・フレーバー 人族
年齢 15
性別 女
スキル 透明壁LV.1 詳細確認(●)
武器 装備不可 スキル武器可
防具 M.Swallowtail butterfly(ゴスロリ風)
状態異常軽減
特殊 羽根の鱗粉効果 透明化
|
|
|
「………………うん」
どうやら現実の姿じゃなくて、寝落ちしてまでやっていた、とあるゲーム内のアバターでこの世界にきてしまったようだ。
やはりこの世界は異世界、もしくは他のゲームの世界なんだろう。
でなければ「ボンキュボン」の私がこんなにストレートな訳がない。
それはもうなんとなくわかっていた事だが、まさか姿が変わっているとは思っていなかった。
それでは、現実の私はどうなっているんだろう?
だいたいこの場合は、死…………?
『――――――――あっ!?』
メニュー画面より慌てて、通常視界に戻す。
「じ~~~~~~」
「うっ!?」
それは、突然黙り込んで中空を見つめている私に、ユーアちゃんが心配そうに視線を向けていたからだ。
『な、何か声かけなきゃ、不安にさせちゃってたよね? こんな小さい女の子に』
なるべく動揺を抑えてユーアちゃんに声を掛ける。
「ご、ごめんね? ちょっと気になる事があってボーっとしてたんだ。それでユーアちゃんはキノコを探してて魔物から逃げようと崖から落ちちゃったんだよね、体は大丈夫? どこか痛くない? キノコはどうしたの? ここは何処? 年はいくつ?」
不安げな表情のユーアちゃんに、矢継ぎ早に質問を浴びせかけてしまう。
「ちょっ、お、お姉ちゃん落ち着いてよぉっ! ボ、ボクそんなにいっぱい聞かれても答えられないですっ!!」
「そ、そうだよねっ? ごめんなさいっ!」
そんなユーアちゃんは手のひらをぶんぶんさせて、あたふたしていた。
私はそれを見てすぐさま謝る。
『あ~、やっちゃったよ…… ちょっと慌てすぎたぁ――』
私もこの状況のせいで、自分が思った以上に混乱していたようだ。
それはそうだ。起きたら異世界だし、人が浮いてるしで。
それと、元々人付き合いも苦手で、引きこもり気味。会話も家族と別れてからは、テレビとパソコン画面と、週に3回は来る宅配便の人くらいだった。
でも幸いにも、ユーアちゃんは別れた妹と年齢が近く、妹の世話と遊び相手にしていた事もあって、かなり話しやすい部類に入ると思う。
年の離れた妹だけあって、私は溺愛していたし、いつも私にちょこちょこついてきた。
そんな清美に、両親も高齢の出産だけあってかなりの猫可愛がり振りだった。
「お、驚かせちゃってごめんなさい…… さ、先を続けてくれるかな?」
「えーっとボクは体は大丈夫です。ちょっと
慌てながらもしっかりと、私の質問に答えてくれた。
ただし、
『おでこ…………』
の、痛みの事は心当たりがあるけど、黙っていよう。
犯人は私だし、それにきっと怒られるし。
「あ、キノコは採取してから落ちちゃったから、大丈夫ですっ!」
ユーアちゃんは腰に下げていた布袋の中味を出して見せてくれる。
「それとここはビワって言う森で、ボクが住んでいる街が近くにあります。歳は12歳です」
「え? じゅうにさい?」
ユーアちゃんの年齢を聞いて少し驚く。
12歳。
年齢的には、妹の清美と一緒。
だけど体つきを見ると、10歳未満に見えてもおかしくはない。
それでもきちんと応答できるし、言葉遣いも見た目以上にしっかりしていると思う。
なので、年相応なんだとは思う。
でもちゃんと食べてるの?
見た感じは食べれてないよね?
「………………」
なんて、ユーアちゃんの全身を見て懸念してしまう。
見える手足は色白く、細々としてるし、頬も少しコケている……
この世界ではこんな清美と同じ小さな子供が、危険な場所で働いている。
しかも命を失いそうなほどの目に合っているというのに、着る服や、食事もままならないままに…………。
「あっ」
短い声を上げてポンと両手を鳴らす。
私はユーアちゃんの話を聞きながら、メニュー画面でアイテムボックスを確認してあるものを取り出して、ユーアちゃんに手渡しをする。
「…………じゃ~んっ! スティック型コンバットレーション(イチゴ味) はい、ユーアちゃんにこれあげるっ!」
「えっ? 何ですか? これ」
――――
『コンバットレーション』
戦闘食で現代だと『ミリタリー飯』と呼ばれる軍隊の配給食である。
――――
今回出したのは、見た目はカロリーメ〇ト。
味は色々あるけど、私は色がピンク色のイチゴ味が好みだ。
その他にも、オレンジ、メロン、グレープ、チョコ、レモン、グロ物だと、梅、イカ墨、納豆、塩辛……
などあるが、効果はどれも変わらずで『体力回復(小)』になる。
このアイテムはログインボーナスで日々獲得していたので、かなりの量をストックしてあったし、色々なところで獲得できるお手軽なアイテムだった。
ただゲーム内では味覚がなかったので、正直、味があるのかわからない。
「私も食べるからユーアちゃんも食べてみて?」
「は、はいっ!」
ユーアちゃんに渡すと同時に、自分も一本口に入れてみる。
それを見てユーアちゃんも恐る恐るといった様子で小さい口に運ぶ。
『うん、思った通りに味はあるね。ただちょっと薄いかな味は』
日本のお菓子に慣れている私にとっては、若干薄味に感じる。
それでもほのかな甘みを感じる。
「お姉ちゃん………… 何これ? 甘くておいしいですっ!」
でもユーアちゃんにはかなり好評のようだ。
「まだあるけど、食べる?」
「いいんですか?………… その、食べたいですっ!」
「はい、どうぞ」
今度はオレンジ味を渡してあげる。
「さっきのと色が違うんですね? こっちはちょっと酸っぱいけどおいしいですっ!」
「そう? 喜んでくれて良かったよ」
ニコニコと笑みを浮かべながら、ユーアちゃんは小さい口でモグモグと両手で持って食べている。
まるでハムスターか、仔リスみたいで可愛い。
「ふふっ」
そんなユーアちゃんを見ながら、私は頬が緩んでいる事に気づいた。
『やっぱり子供はこうじゃなくっちゃねっ!』
今度は美味しそうにモゴモグしているユーアちゃんの頭を撫でてみる。
「――――――♪」
少し汚れているけど、毛並みは、ほわほわとしていて気持ちがよかった。
見た目は汚れて灰色っぽいけど、キレイになったら白色なのかな?
「ん、どうしたのお姉ちゃん?」
撫でられながら上目使いに「何?」て私を見てくる。
「ううん、何でもないよ。ユーアちゃんの髪が気持ちよかっただけ」
ユーアちゃんはレーション(オレンジ味)を食べながら「そうなの?」っと不思議そうに私を見ていた。
※※
ひとまず私たちは、おやつも食べて、お腹も膨れたので、少し気分が落ち着いた。
それに何となくだけど、今の状況も知れたし。
なので、いつまでも魔物が出る森にいるのは危険なので、ユーアちゃんの住む街に案内してもらう事になった。
「それじゃ、ユーアちゃん案内お願いするねっ!」
「はいっ! お姉ちゃん」
「うん。よろしくね」
まだ、色々と聞きたい事があったけど、道すがらに聞いてみればいいかと思う。食べ終わったユーアちゃんの手を取って、私たちはユーアちゃんの住む街コムケに向けて歩き出した。
道中で喉も乾いたのでアイテムボックスから出したドリンクタイプのレーション(イチゴ味)を飲みながら森を進む。
ユーアちゃんはまたレーションに驚いていたけどおいしそうに飲んでいた。
「はぁ~~~~」
森を抜ける道中。
私は知らず知らず、長い溜息が口から漏れてしまう。
ユーアちゃんと一緒に街に行く。それはいい。
それはいいんだけど――――さ。
『絶対に、変な目で見られるんじゃ…………』
そう。
今の私の格好はゲーム内装備のアバターのままなのだから。
この世界にゴスロリ衣装があるかどうかわからないけど、さすがに『蝶』の羽根が生えている奇異な衣装なんてないだろう。
しかも全身フリフリが付いてるなんてものが。
こんな世界と
「どうしたの、お姉ちゃん?」
また黙り込んだ私を、心配して見上げてくるユーアちゃん。
「大丈夫、なんでもないよ。あ、まだ聞きたいことがあるんだけどいい? 歩きながらでいいからさ」
ユーアちゃんと二人、姉妹の様に手を繋ぎながら木漏れ日ある森の中を進んでいく。私たちの頬を撫でる澄んだ風が心地よかった。
『まあ、なんとかなるよね?』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます