第2話その少女の正体って?
「よし。それじゃ、正体を確かめてみようか? このまま見つめてても何もわからないし、まずはここから出ないとね」
一人呟き、浮遊している人物の下より、腹ばいになりながら、もぞもぞと出る。
見るにしたって、なんにしたって、さすがに距離が近すぎる。
殆ど目の前だったからね。
「うん? まだ子供かな?」
地面から這い出た後で、脇に座って、その人物の顔に耳を近づける。
性別はわからないが、背格好から子供だと判断する。
「すぴぃ~…… すぴぃ~……」
「…………良かったぁ、生きてるっ!」
ひとまずは安心し、ホッと胸を撫で下ろす。
だってその子供から、寝息らしき音が聞こえたから。
一瞬、最悪な状況を想像してしまった。
けど、生きているなら、これから目を覚ますはずだ
他には、性別も気になるけど、なんで目の前数十センチで浮いていたのかと、なぜスヤスヤ寝ていたのかも気になる。
ここがいつもの昼寝場所だったとは、到底思えないし。
「ん~、まずはなんで浮いているか、だよね?」
寝ている子供の下に、そっと手を伸ばしてみる。
見た目的には何もないが、何かあるとすればここが一番怪しい。
ガンッ!
「痛ぁっ! って、えっ!?」
すると、指先に固い何かが当たり、跳ね返された。
目には見えないが、やたら固い何かがあるようだ。
ペタペタ
「はあ? なんなのこれ? 透明な…… ベッド?」
しかも、その子供の大きさに合わせる様に、透明な箱があった。
どうやらその上で寝ていたようだ。
「もう考えても無駄かも…… なら――――」
なら、目の前の人に聞くのが一番手っ取り早い気がする。
って言うか、それが最善。
ただ、この子供を起こしたくない気持ちもあったりする。
私が悩んでいる間も、気持ちよさそうにスヤスヤ寝てるんだもん。
「それに、なんか小っちゃくて可愛い感じだね? この子」
可愛い寝顔と、横たわる小さい体を眺めてそう思った。
恐らく、小学生の低学年くらいの年齢だろう。
それと、まるで別れた妹みたいに、寝顔も天使の様だった……
「はっ!?」
いやいやっ、さすがに起きてもらわないと困る。色々と聞きたいこともあるし。
ここが何処なのか、あなたは何者なのかも含めて、確認しないとダメだ。
「ううう~ お、お腹が…………」
「え?」
暫く寝顔を見て悩んでいると、呻き声にも似た、苦しい寝言が聞こえてきた。
もしかして、何か悪い夢でも見てうなされているんだろうか。
それとも見えないだけで、どこかケガをしてしまったんだろうか?
「………………うん」
聞き逃さないように、もう一度、そっと耳を近づける。
すると、
「うう、もう、ボク――――」
「えっ?」
小さな手をお腹に乗せながら、一転して苦痛の表情に変わる。
「ちょ、ちょっと、大丈――――」
「――――もうボクお肉食べれないよーっ! お腹いっぱいなんだもんっ! あ、でもその部位は別腹だから、最後に食べるんだぁ~、むにゃむにゃ――――」
そう言い終えて、また寝息を立てて静かになってしまった。
どうやら苦痛ではなく、満腹からでた呻き声だったようだ。
まぁ、それも苦痛と言えば苦痛なんだろうけど……
「ムカっ!」
ゴンッ!
「痛いっ!」
「あっ!」
思わず無言で、目の前に浮いている子供に頭突きをしてしまった。
だって私が心配した意味がないんだもん。
「い、いたいっ、痛いっ! ごめんなさいっ! もうデザートの部位はいらないから、ボ、ボクを許して下さい~っ!」
「部位? あっ、ご、ごめんなさいっ!?」
頭突きをされた子は、転がり落ちて、草むらの上をゴロゴロ転げ回っている。
額を抑えてちょっと涙目なのは、思いのほかいいところに入ったようだ。
「いっ、痛いよっ! 許してぇ――――っ!」
「ほ、本当に、ごめんねっ! わざとじゃないんだよっ!」
予想以上に痛がり、転げ回る子に慌てて謝る。
この場合は確実に私が悪い。
でも、それよりも気になることが、
『……デザートが部位って、何?』
そう、この子はさっき寝言で言っていた。
今までそんなセリフ聞いたことないよ。
まぁ、お肉が好きそうなのは充分伝わったけど。
――――――――
ひとまず会話ができそうな状態まで待ちながら、転げ回っている子を観察してみる。
「う~ん…………」
身長は多分、私よりも頭一つくらい小さいと思う。
髪はボサボサの灰色の髪が、肩上まで伸びている。
全体的に色は白いけど、健康的は白さではない。
体型は、ボロボロの布切れ一枚を被って、腰ひもで止めている感じで、見るからに痩せている。手足、膝も汚れている。そしてこんな森の中で裸足のまま。
「外人の女の子? に見えるけど、ちょっとわからない。落ち着いたら聞いてみよう」
幸い、寝言と悲鳴が聞き取れたから、言葉は通じそう。
「う、ううん、ボク、どうしちゃったんだろう? あっ!」
「ご、ごめんねっ! 大丈夫だった?」
そう考えている内に、痛みが柔らいだのか、まだ額を抑えながらも、涙目にこちらをみてきた。
そして、一言――――――
「…………ボ、ボクの事を助けてくれてありがとうっ! お姉ちゃんっ!」
涙目から一転、笑顔になって、元気よくお礼を言ってくる小さな子供。
「えっ!? わ、私が助けたの?」
「うんっ! だって、ボク落ちるとき、お姉ちゃんの事見たもんっ!」
「そ、そうなんだ」
「うんっ!」
「…………」
予期しなかった返答に、思わず聞き返したけど、笑顔で肯定された。
『はぁ~ 今はもういいか。この子が無事だった事が何よりだし、それよりももっと状況を把握しないとね? なら当初の予定通りにこの子に聞くしかないね』
ニコニコと無邪気な笑顔を、私に向ける子供。
どこか懐かしさを感じながら、質問してみる。
「え~~と、私の名前は
「ボクはユーアって言いますっ! 女の子です」
私の問いかけに、シュピと手を挙げ、笑顔で答えてくれた。
『ユーア』て名前で、やっぱり女の子だった。
それと、問題なく言葉は通じるみたいで良かった。
そもそも、灰色っぽい髪の色だし、服装は貫頭衣のような服装で裸足だし、まず私の周りではそんな恰好の人は見たことがなくて心配したけど、どうやらそれは杞憂だったようだ。
「あのさ、最初に私を見て、助けてくれてありがとうって言ってたけど、ユーアちゃんはどうしてあそこにいたのかな?」
「ボクはあそこから足を滑らせて落ちちゃったんです。そしたら気を失う前にお姉ちゃんが見えたんです。おでこが痛くて起きたら、お姉ちゃんがいたので助けてくれたんだと思いました……」
「うん? が、崖から落ちたっ!? それと寝てたんじゃなくて気絶してたのっ!?」
「はい、あそこから落ちちゃいました」
私のいる後ろを指さして、落ちてきたであろう崖を見上げて「良かったぁ……ボク生きてたよぉ!」と小さな細い指で、目尻を拭いながらポツりと呟いた。
なんでも崖の上(20メートルくらい?)で解毒の素材となるキノコを採取しようとしたところ、オオカミの魔物に追いかけられて、足を滑らせて転落したらしい。
そして、落下先にいた私が受け止めて助けてくれたと思っているようだ。
『うん? それじゃこの子が浮いていたのは、この子とは関係ない?』
そもそもそんな力があったのなら、自分で助かっただろうし、私の上で気絶している理由もわからない。それとも本人が自覚していない未知なる力があるとか?
『ん、浮いてたって事は、透明な物の上に乗ってた可能性も? ――――ん?』
ふと、目の前に違和感を感じ、一度考えを中断する。
それはユーアちゃんの話を聞いている最中も気になっていた。
いや、この見慣れない世界に来た時から意識していた。
ただそれに気付かないようにしていたし、あまり信じたくはなかった。
それを認識するという事は、今以上に混乱する恐れがあったから。
だけど、ユーアちゃんを助けた正体と、その方法を推測した時に、否が応でも意識してしまった。助けた物の正体と、その能力に気付いてしまった。
眠る前にも、引きこもった後も、連日散々やりこんだ、某VRMMOの『メニュー呼び出しアイコン』が、私の視界の中に映っていたからだ。
『こ、これって、やっぱ「あれ」だよね?――――』
無意識に震えてる指を、恐る恐るアイコンに伸ばした。
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