第4話チート装備と少女の存在
ユーアちゃんを隣に手を繋いで森を進んでいく。
もちろん警戒も忘れない。
「ふんふんっ、ふ~~んっ♪ふっふふ~~♪♪っ」
『ふふっ』
私と手を繋ぐ隣のユーアちゃんはなんだか楽しそうだ。
よくわからないメロディーを笑顔で口ずさんでいる。
この世界の童謡とかそんな感じの音楽なんだろうか?
音痴って訳じゃないけど、なんか独特の音程とメロディーだった。
それと私はメニュー画面が使える事がわかったので『MAP表示と索敵モード』に切り替え歩いている。
この世界のMAPデータはないので、オートマッピングで地図が埋まっていく。
あと、このモードは動くものと大きさを指定して索敵できる。
ただしなんでも索敵してしまうと、昆虫や小動物まで感知してしまうので30センチ以上で設定して今は様子をみている。
ユーアちゃんの話によると、このビワの森は魔物が非常に少なくその代わり採取の依頼に必要な素材が多く取れるそうだ。
それと新人冒険者たちや、低ランクの冒険者たちの人気の腕試し的な場所になっていると教えてくれた。
『冒険者、やっぱりいるよね…………』
ふと、話を聞いて考える。
この世界は私のプレイしていたゲームの世界観とは真逆なのだと。
恐らくこの世界は、剣や魔法・ギルド・魔物・ダンジョンなどといった中世風のファンタジーに近い世界なのだろう。
それに対し、私のいたゲームはSFチックの近未来ファンタジーだった。
そしてその
ギルドに近いものはあった、けど、剣や魔法の代わりに実弾系のハンドガンやマシンガン、グレネード。エネルギー系武器のレーザーガンや、レーザーカノン、フォトン系の武器が主になっていた。
私の装備している服は個人ランキング優勝の報酬であり最新のものでもあった。
けれども、防具に付いているスキルレベルを上げれずに、この世界にきてしまったのには些か懸念が残る。
なんてたって、この装備は癖が強いから。
防御力は皆無に近いけど、破れたり汚れたりはしない。
背中の羽の鱗粉効果で状態異常も軽減できるし、防具スキルが強力。
それに『透明壁』を展開できる。
武器が装備できない代わりに絶対障壁で防御できて、スキルが上がるとそれが武器にもなるし、他にもあり得ないくらい応用が利くチート装備だと思う。
それに私の名前『透水
これでもかってくらい姓にも名前にも『透明の意味合い』の漢字が使われている私の名前に。それにスキルも透明だし。
それと私のゲーム内HNも『クリア・フレーバー』「澄香」になぞって命名した。
こっちは透明(クリア)って意味合いと、香(フレーバー)を付けてみた感じ。
因みに現在の装備能力の効果は。
――――――――――
【防具スキルLV.1】
最大数 1
距離 0-2メートル(射程内のみ操作可)
大きさ 2メートル
形状 正方体
色 無色
重量 0t
――――――――――
となっている。
チート性能防具だけあって、レベル上げの難易度が非常に高いと思う。
それを見越して、現状の使い方としては――
1.の立方体の壁を使って自身を含む半径2メートルを防御する。
2.の立方体の壁を操作して、鈍器のように至近距離で殴る。
かでしか戦闘方法がない。
まあ、スキルで作成以外の武器が装備不可なので、
現状ではこれでなんとかするしかない。
早くレベルあげたい。
『はぁ、でもなんでスキルレベルがLV.1に戻ってんだろう? LV.3にするのに徹夜で5日も掛かったというのに…………』
何て、今更ながらに愚痴ってしまう。
『…………まぁ、世界が変わったからか理由はなんだかよくわからないけど、今はそれで対応するしかないよね?』
ただ問題なのはここが別世界で、私のスキルが異分子にみられる可能性もあり、あらぬトラブルや、いざこざに巻き込まれてもおかしくない。
だから色々気を付けないといけないとは思う。
とりあえず、この世界で私のスキルがどう思われるかがわからないうちは、なるべく目立つ事は控えようと思う。
ただし身の危険や
私にだって守りたいものもあるし、譲れないものだってあるからだ。
※
森の出口はまだ見えない。
森を抜ける様子もないので、私はユーアちゃんに色々尋ねようと口を開く。
「そういえば、ユーアちゃんて、なんであんな危ないところでキノコ取ってたの?」
「あ、それはね? ――――」
その話をまとめると、
なんでもユーアちゃんはこの年で冒険者らしく
その依頼でビワの森に採取にきたらしい。
家族はいなく、最近なったばかりの冒険者でなんとか生活している事、冒険者の前は孤児院にお世話になっていた事、孤児も増えて迷惑がかかるから孤児院をでて冒険者になった事。
など、日本では考えられないような生活をしていたらしい。
この世界では如実に貧富の差がありそうで、ユーアちゃんみたいな子供のこういった生活も、もしかしたら見慣れた事なんだろうか?
元いた現代の世界は嫌いだった。
けどそれを聞くと、余程恵まれていたんだと思う。
子供の頃に苦労も不自由もした記憶がなかったから。
それに私を守ってくれる温もりと、心から安心できる存在があったから。
「ユーアちゃんはまだ子供なのにすごいね」
「えっ?」
今の話を聞いて素直に口から出た。
私がそんな状況だったら色々諦めてとっくに引きこもってる。
あ、元々引きこもっていたんだった。
私は思わず空いた方の手で、ユーアちゃんのほわほわとした頭を撫でてしまう。
うん、やっぱり手触りが気持ちいい。
「お姉ちゃんも子供ですよね? それとボクのことはユーアでいいです」
撫でられるのが気持ちいいのか、目を細めながら聞いてくる。
「そう? それじゃユーアちゃんはそう呼ぶねユーアってね。 で、私は子供じゃないよ。30歳だから立派な大人だよ?」
ちょっとだけ胸を逸らして大人をアピールする。
けど、最後の?マークは正直自分が大人だったか自信がない。
特に立派ってとこに色々と疑問を感じてしまう。
「それと、私の事はスミカでいいよ」
ついでにそう付け足す。
「30歳? ご、ごめんなさいお姉……じゃなく、スミカお姉ちゃん、ボクには何を言ってるのかわからないです……」
コテンと小首を傾けながら、不思議そうに私を見ている。
「――――――」
まぁ、それはそうだよね。
私だってこの姿に慣れてなくて忘れていたよ。
このゲーム内アバターの年齢は15歳。
身長設定は若干低くしてある。
それは索敵には映っちゃうけど、視認された時に小さい方が、
ユーアはそれ以上は何も聞いてこない。それはそれで助かる。
どうして私は崖下にいたのか、どうやって助けたのか、
レーションの事やら、おかしな蝶の恰好とか――――
私だって何が何だかわからないし、聞かれても答えられない。
言い訳も考える時間もなかったし、だから今は正直ホッとしている。
『でも、もしかして気を使ってくれてるのかな?』
この子を見ているとそんな気がする。
この年齢で自分で生活してるし、しっかりしていると思う。
この世界では幼い体でも大人のようにならないと生き辛いのだろう。
そして私は思う。
もしこの世界で初めて会ったのがユーア以外の人物だったら、
もしここじゃない場所に現れていたら――――
そう考えると少し身震いがする。
「…………………」
その未知の恐怖に。
私がこの世界で何ができるか全くわからない。けど、
この手に温もりを与えてくれるこの少女は守ってあげたい。
私に懐いてくれていた妹と別れた時、私は何も出来ず何も知らなかった。
そんな私は自分を嫌悪し、外の世界を見限り、内の世界に逃げ込んだ。
それがゲーム内のソロプレイヤーの私だった。
傍らに手を繋ぎ、ニコニコと屈託のない笑顔をむけてくる少女。
小さく幼い少女のユーアを見ながら、
私は――――――――
この世界で、この少女を
この
『…………妹の代わりって訳じゃないけど、それでも――――』
「――――これからよろしくね。ユーアっ!」
「え? は、はいっ! スミカお姉ちゃんっ!」
無邪気な笑顔のユーアを見ながら自然と口を開いた。
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