第286話蝶の英雄VS巨大虫




『ギギギギギ』『ギギギギギ』『ギギギギギ』

『ギギギギギ』『ギギギギギ』『ギ、ギギ、ギ、』


「うるさいなぁ」


 私を囲んで威嚇する巨大ハサミ虫の魔物。

 尻尾のハサミを持ち上げ、不気味な音を発している。


「うげぇ、さっきバラバラにしたのもまだ生きてるよっ」


 ボウの妹のホウを襲っていた、私が三等分した魔物も動いている。

 さすがに尻尾で威嚇はしてこないけど。



「普通の虫と同じで、痛覚がやっぱりないのかな?」


「蝶のお姉ちゃんっ!」


 ガンガンとスキルを叩いてボウが私を呼ぶ。


「なに?」


 虫の魔物に注意を払いながら返事する。


「も、もし、危なくなったら、わたしたちをおいて逃げてくれよっ!」

「お、ボウお姉ちゃんっ! このままじゃ、あの蝶のお姉ちゃんもっ!」


 二人は透明壁に手を当てて、声高に叫んでいる。

 出会ったばかりなのに、随分と心配してくれた。


『まぁ、普通はそうだよね』


 清楚可憐なだけの蝶の妖精と、巨大なハサミ虫との対決だもんね。



「大丈夫だよ二人とも。さっき逃げる必要はないって言ったでしょ? それはあなたたち姉妹だけじゃなく、そこには私が含まれているから。その証拠に――――」


 タンッ


「えっ!?」

「へっ!?」


 私は虫の魔物の中心に突っ込む。


「先ずは頑丈さから――――」


 両手のスキルを偽短剣から、4機を使いトンファー形態に変化させる。


 すぐさま踏み込んだ私に向かって、虫たちは巨大なハサミを振り下ろす。


 ブンッ


「よっと」


 ガガガガガンッ


 それを回転しながら全てを弾く。


『ギギギッ!』


 そして1匹に狙いを定め、胴体に偽トンファーを叩きつける。


 ガガギィンッ


 が、それは頑強な甲殻に容易く弾かれる。


「っとと、やっぱり見た目通り固いねっ、なら次は――」


 細い投げ槍のような円錐を真上に展開し、その1匹に射出する。


 シュン―

 ガギィンッ


「打撃も刺突もダメっと。なら次は荷重だよねっ」


 迫りくる巨大なハサミを躱し、弾き、避けながら偽ハンマーを装備する。


「先ずは1tっ!」


 ガゴンッ!


 攻撃を縫いながら、1匹の胴体に直撃させる。


『ギギギッ!』


 動きは一瞬止まったけど、すぐに活動を再開する。

 それでも、打ち付けたところに小さい亀裂が見える。


「なら、3tっ!」


 ブンッ


 グジャァッ――


『ギッ』


「と、大体はわかった」


 胴体を潰され、暴れまわる虫を見て納得する。

 これぐらいなら私も含めて、脅威ではない事に。


「後は、攻撃力とか知りたいけど、それはやめておこう」


 だって、触られるの気持ち悪いんだもん。


「あ、あとまだ忘れてた。どれぐらい細切れにしたら活動停止するのか」


 私は最初に装備した、偽短剣に変化させて両手に握る。

 そして、他のダメージのない虫の魔物を切り刻む。

 胴体と胴体の節の間を狙って。


 シュシャシャシャ―― ンッ!


『ギ、ギ、ギギ、――――』 


「よし、10片以上にバラバラにすれば大丈夫だね」


 ボトボトと分解されて落ちた魔物は、すぐさま動かなくなる。


「はっ!?」

「へ?」


「これぐらいで分析はいいかな? あとはさっさと片付けよう」


 これで終わりとばかりに、全ての虫の魔物を細切れにして殲滅した。



※※



「…………………」

「…………………」


「うう、気持ち悪いけど、この虫持って帰ろう」


 バラバラになった虫の破片を、次々にアイテムボックスに収納していく。

 誰かに見せれば正体がわかるかも。と、それと素材は使えそうだからね。


「ふぅ、これで全部かな。それにしても、この虫ってどっから出てきたの?」


 抱き合ったままの、双子の姉妹のボウとホウに聞いてみる。

 こんな巨大なの見逃すわけないから。


「ボウ、とホウ?」


 二人に近付きもう一度聞いてみる。


「ちょ、蝶が――――」

「でっかい虫を――――」


「うん?」


「「食べちゃったぁっ――――!!」


「いや、食べてないからっ!」


 ビシッ! ×2


 ハモっておかしな事を言う、姉妹の脳天にチョップをする。


「「あ、痛いぃ――っ!」」


「変な事言うから自業自得だかんね、あれは魔法で収納しただけだから」


 頭を押さえてしゃがみ込む姉妹に説明する。

 あまり気持ち悪い事言わないで欲しい。食べるって何よ。



「それでこいつらが出てきた詳細を教えて? さっきまでいなかったよね」


 落ち着いた姉妹にもう一度聞いてみる。


「ホウ、どうしてか知ってるかい?」

「わ、わたしがあそこに座ってたら、どこからか出てきたんです……」

「うん?」


 妹のホウは、私と麻袋の山を交互に見ながら説明してくれる。


「どれ?」


 ホウが見る、麻袋の山の後ろを覗いてみる。


「…………ああ、こっから出てきたんだ」


 虫の魔物が通れるぐらいの穴を地面に見つける。

 そして念のため、スキルの1機を使ってこの辺りを蓋する。



『う~ん、もしかしてあちこちに穴を開けてるの? 人間を襲う為に。それと気になるのが、直ぐに捕食しなかったのと、ボウの話も気になるんだよね』


 ボウの妹のホウは、襲われてはいたが、見たところ捕獲されてるだけのように見えた。一斉に襲い掛かって捕食する動きはなかった。

 それとボウの話でも魔物は人間を連れ去ってる風に言っていた。


『まぁ、そうは言っても私には攻撃してきたんだけど、あれは仲間がやられたのと、それを脅威に感じたって事かな?』


 今までの事を、簡単に脳内で整理していると、

 後ろから二人が声を掛けてくる。

 

「あ、あのぉ、た、助けていただいて、ありがとうございます……」

「蝶のお姉ちゃんっ! 本当に英雄さまだったんだなっ!」


 小さい声と伏見がちな目で、たどたどしく話す妹のホウ。

 それとは逆に、キラキラとした目で快活に話す姉のボウ。

 

 そんな両極端の姉妹の頭を撫でながら、


「うん、間に合ってよかったよ。あなたが妹のホウだね。それとボウ。英雄って言っても、この街だけの話だから、そんな大したことないよ」


「だって、誰もあの虫を退治できなかったんだっ! それを一人でだぞっ!」

「そ、そうですっ! た、大したことありますよっ!」


 私の答えに、二人とも納得できないようで身を乗り出し抗議してくる。


「う~ん、それでも私のパーティーだったら、3人ぐらい余裕そうなのいるけど」


 巨乳双子姉妹と、フラット幼女を頭の中で思い浮かべる。

 あの3人なら間違いなく、てこずる事はない。



「そ、そうなのか? 蝶のお姉ちゃんっ!」

「そ、そんな強い方がたくさんいるなんて……」


 それを聞いた姉妹は何やらショックを受けている。


「それはいいからさ、残りの街の人がいるところに案内してくれない? 先にみんなの安全を確保したいからさ。あ、それと私の名前は『透水澄香』ね。澄香でいいからね」


 二人を促すついでに、今更ながら自己紹介する。

 蝶、蝶って言われるのに慣れてきて、忘れてたよ。


「あ、はい、こっちですっ! スミカお姉さんっ!」

「こっちだぞっ! スミカ姉ちゃんっ!」


 慌てたように返事をして、トコトコと歩き出す。


「離れると危ないから私の隣に来てもらえる? その方が守りやすいから」


「は、はいっ!」

「お、おうっ!」


 そうして、私たちはこの場を離れ、

 街の人が隠れている場所を目指すのであった。



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