第390話最後の食材ゲットじゃっ!




 ギュルンッ! ――――――



「え? ナジメっ!?」


 が、飛んだ。

 遥か上空、凡そ私の位置より50メートルの空に。


 でも飛んだというか、飛ばされたようにしか見えない。

 しかもなぜかグルグル回って上昇してったし。


「も、もしかして魔法で飛んだっ!? 能力を使って、自分に攻撃魔法をかけて?」


 そうじゃないと、あんな珍妙な飛行魔法もないだろう。

 どうしても術者に負担がかかり過ぎる。絶対に酔う。



「って、今度はなに? その巨大な腕はっ!?」


 空中でバッと四肢を伸ばして、急停止した後、ナジメの腕がどんどん大きくなっていく。


「それって、もしかして――――」



 世の男性のロマン武器のあれだろうか?





「うぬ~、目が回ったのじゃ~っ! やはり真っ当な飛行魔法を覚えておけば良かったのじゃっ! うぇ、今朝食べたものが出てきそうなのじゃっ! うっぷ」


 何とか口元を抑え吐き気に耐える。


 こんなところで吐しゃ物を撒き散らしたら、きっと心配されてしまう。

 また子ども扱いされてしまう。



「じゃ、じゃからさっさと終わりにするのじゃっ! パルパウも立ち上がりそうじゃし、能力もいつまでも使えぬからのぉっ!」


 眼下を見ると、パルパウがよろよろと立ち上がろうとしているのが見える。

 今は頭を垂れて、踏ん張っているようだ。



「よし、そろそろ行くのじゃっ! 『土離流どりる』」


 十八番の土魔法のオリジナル魔法を唱える。

 すると徐々に、小型の山のようなものが両手に形成される。


「うぬ、このぐらいじゃろっ!」


 大きさはわしの5倍、これだけあれば問題ない。

 これ以上は食材が木っ端みじんになる。



「それと『旋風つむじかぜ』じゃっ!」


 パルパウに目標を定めて、自身にも魔法をかける。

 本来であれば、風の刃で敵を巻き込み吹っ飛ばす、その魔法を。



「とっつげき~っ! なのじゃ~っ!」


 ギュル、ドシュンッ! ――――


 狙いを定めて、高速回転で急降下していく。

 錐揉みしながら更に速度を上げて、風圧さえも切り裂いて。



 シュンッ ――――



 それは立ち上がり、己の敵の行方を探す、パルパウの頭部に接触し、


 ゴッ


『彡(`皿´)ミ< プギョッ?』


 ゴバアァ――――ンッ!!

 ドゴオォ――――ンッ!!


 そのまま胸部付近まで跡形もなく吹き飛ばし、わし自身は地面に派手に激突する。


「うぬっ! 着地まで考えてなかったのじゃっ! カッコ悪いのじゃ~っ!」


 パルパウのだったものの血飛沫や肉片が舞う中、スクと立ち上がり、己の詰めの甘さに愚痴をこぼす。これではまるでオチが付いてしまった感じで少々情けない。



「おおっ! ようやくこ奴を倒せたようじゃなっ! わしの食材確保の成功じゃっ!」


 振り返る眼前には、頭部を破壊されたパルパウの姿。

 その亡骸を見上げて両手を上げて喜ぶ。



「それにしても、さすがは主に相応しい強さじゃったな」


 うんうんと頷きながら、パルパウとの戦いを思い出し、賞賛する。

 中々の多彩な攻撃だったのと、地上でも十二分に強かったその姿に。



「ナジメ~っ!」

「ん?」


 ねぇねが魔法壁から飛び降りて、わしの近くに落下してくる。


「ねぇね~っ! わしも食材ゲットしたのじゃ~っ! 主を倒したのじゃ~っ!」


 タタタッ


「うん、見てたよっ! でもそれ以上は近付かないで」

「え?」


 ねぇねに撫でてもらおうと近寄ると、そんな辛辣な事を言われる。


「な、何故じゃっ!?」

「いや、倒すのは元々信じてたけど、だって、その格好は…… ね?」

「うぬ?」


 わしはねぇねの物言いに、自分の姿を見下ろしてみる。


「ああ――――」


 確かにそうじゃな。

 こんな返り血だらけのわしなんて、撫でる以前に近寄りたくはないじゃろな。


「『水風船』(特大)」

「え?」


 ドパンッ!


 なので、水の魔法を自分にぶっかけ汚れを落とし、信じてくれたねぇねに飛び込む。


「ねぇね、最後の魔法はのぉ――――」


 これならきっと、ねぇねも褒めてくれるじゃろっ!



――



「えっ!? ナジメの両手がドリルになっちゃったよっ!」


 意味も解らずに飛んでいって、そしたら次は手が巨大なドリルになってる。


「まさかあれで突撃するつもり?」


 ギュルンッと回転しながら、もの凄い速さでパルパウに向かうナジメ。

 まさかも何も、今の状況ではそれ以外ない。


「いや、いや、あんな大きいもので貫いたら、パルパウ爆散しちゃうってっ! だってあの回転の速さだって異常だよっ!」


 あたかも流星の様に獲物に向かうナジメドリル。

 そこには色々なエネルギーが加わっていて、その威力が想像できない。



「そ、それに着地だってどうするの? あんなの止まれっこないじゃんっ!」


 そうは言いながらも、内心では心配はしていない。

 あそこまでの魔法を唱えられるのだから、何かしらの対策は取ってあるはず。


 なんて、安心して見ていたんだけど……



 ドゴオォ――――ンッ!!


 そのままの勢いで、地面に豪快に激突していた。



「…………まぁ、きっと『小さな守護者』の能力で無事だよね?」


 私はトンっとスキルから飛び降り、両手を上げて喜ぶナジメの元へ駆けていった。



――



「ナジメ~っ!」


 頭のないパルパウの前で、勝鬨を挙げているナジメに声を掛ける。


「ねぇね、わしはこ奴を倒したのじゃっ! 食材ゲットじゃ~っ!」

「いや、それ以上は近づかないで」


 喜び勇んで、私にダイブしそうなナジメを止める。

 だって、返り血やら、肉片やらのグロイものまみれなんだもん。


 こんなスプラッターな幼女、何処の世界にもいないよ。



「ちょっと待って、今タオルと――――」


 ドパンッ!


 何か拭くものを探していると、水を頭から被って汚れを洗い落としたナジメ。

 きっと水の魔法か何かを使ったんだろう。



「ねぇね、わしの最後の魔法は見てくれたかのぉ~っ!」

「うん、見てたよ。凄い威力だったねっ!」


 きれいになって駆け寄ってきた、無邪気な笑顔を浮かべるナジメ。


「じゃろぅ?」

「うん、でも、なんでパルパウは全身吹き飛ばなかったの? あれはそれぐらいの威力はあったよね?」


 ニカと微笑むナジメを撫でながら、気になった事を聞いてみる。


「ああ、あれは頭を吹き飛ばした瞬間に、逆噴射と逆回転にしたのじゃよ。新たな魔法を唱えてのぉ。それでも勢いが止まらずに、あ奴の胸までは届いてしまったがのぉ」


「へ~、あの勢いの中でそんなことまでしてたんだ」


 ナジメの説明を聞いて素直に感心する。

 あの局面でそこまで周到に考えていたのかと。


 なので、着地に失敗した事を聞くのをやめる。

 きっと自分よりも、あの時は食材を優先したかったのだから。


 待っているみんなに、喜んでもらえるように。



「それじゃ、みんなのところに戻ろうか? パルパウは私が収納してあげるから」

「それじゃお願いするのじゃっ! さすがにあれはわしのバッグには入らないからの」

「うん」


 こうしてナジメもみんなと同じように食材を手に入れることが出来た。


 正直味には不安が残るけど、それは私からしたら些細な事。


 だってこんなに頑張ってナジメが手に入れたんだもん。

 味うんぬんよりも、私はそれだけでお腹も心も満たされたよ。


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