第391話巨〇組の料理と想い




 ナジメと手を繋ぎ、土の橋を渡りみんなの元に帰ってくる。


 『ケロロ』『ケロロ』『ケロロ』

 『ケロロ』『ケロロ』『ケロロ』


 道中、パルパウとの戦いの最中で逃げて行ったキューちゃんたちも水面より顔を出し、無事を教えてくれる。


 ナジメvsパルパウの戦いの時はスキルで覆っていて安全だったけど、それでも警戒心の高いキューちゃんたちには刺激が強かったのだろう。

 あの時は一目散に潜っていったから。


 そんなか弱くも可愛いキューちゃんに微笑みながら、ようやく地面に足が付いた。



「さっきからドタバタ煩かったわよっ! ナジメ。一体スミ姉と何してたのよ?」


 着いた矢先、開口一番で突っかかってくるラブナ。


「ああ、すまんかったのじゃ。ちぃと、この湖の主を退治してきただけじゃよ」


 片目だけを開け、余裕しゃくしゃくといった様相で答えるナジメ。


 ただそれを何でもない風に装ってはいるが、チラチラとラブナ以外にも視線を送っている。口端も少しだけ緩んでいる。


 何かを期待しているのは明白だった。



「あっそ。まぁ、スミ姉が一緒だったんだから簡単な事よね。で、食材はキチンと確保できたのよね? その調子だと」


 そんなラブナもナジメと同じように、何でもない事の様に答える。


「う、うむ。それは問題ないのじゃ。だが実際には、味は食べてみなくてはわからぬが…… で、それよりも、ここの巨大主を倒したのは――――」


「なら早く調理しちゃいなよ。もうアタシたちは終わってるわよ」

「そうですよ、ナジメ。みんなもお腹を空かせているんですから」

「もう、ナジメを待ってたらお腹と背中がくっついちゃうぞっ!」


 スタスタスタ


「あ」


 ナジメが言いかけたのを遮って、後ろを向きテーブルに向かう3人。

 それを見て、小さく手を伸ばしたままプルプルと肩を震わす。


 きっと私以外にも、みんなにも褒めてもらいたかったのだろう。



「さ、さてそれじゃ、ねぇね。わしも調理に取り掛かるのじゃ……」


 私を見上げて告げた後、トボトボと肩を落とし調理テーブルに向かうナジメ。

 何だかその背中が寂しそうだ。


「ナジメ?」

「なんじゃ? ねぇね」


 いつもより小さく見える背中に声を掛ける。



「あのさ、私がみんなを魔法壁を囲ってたのは知ってたでしょう?」

「うむ、わしが何を食材にするか、みなに見れないように秘密にしてくれたのじゃろ? 気を遣ってくれてな」

「うん、その通りだね」


 ナジメの答えに軽く頷く。


 確かにその答えの様に、私はみんなを視覚化した透明壁スキルで覆っていた。

 ナジメが用意した食材に驚いてもらおうと思って。


 でもそれは――――



「ナジメちゃんっ! あんな大きいの倒しちゃうなんて凄いねっ!」

『がう~っ!』


「え?」


 それは、


「もう、いつまでそんな暗い顔してんのさっ!」

「そうですよ、ナジメ。私たちも調理手伝いますから、あの白い魔物を出してください」

「うわ~、さすがは元Aランクだなっ! やっぱ強いなナジメはっ!」


「えええっ?」


 ――それは、ナジメが最後の攻撃を仕掛けた時には解除していた。



『だって、食材の獲得よりも、あんな魔物と戦ってまで用意したかった、ナジメの雄姿を見せた方が、みんなも喜びそうだったからね』


 今はみんなに囲まれて、その自慢話を笑顔で語っているナジメ見てそう思った。



――――



「さて、みんなも用意は出来たね?」


 各々が飲み物が入っているグラスを持ったのを確認して、そう切り出す。


「はいっ! スミカお姉ちゃんっ!」

『わうっ!』


「私も準備は大丈夫です、お姉さまっ!」

「ワタシもだっ! お姉ぇっ!」

「わしもじゃぞっ! ねぇねっ!」


「うん、わかったっ! せ~の――――」


「「「かんぱ~~~~いっ!!」」」


 

 色々とひと悶着あったけれども、ようやく食事の準備も終わり、テーブル一杯に並べられた料理を前に、みんなで乾杯をする。


 キューちゃん行方不明事件から始まって、メヤと名乗る少女との出会い。最後はナジメとウトヤの湖の主とのバトル。


 それが全て終わって、こうしてみんなが揃えた食材で、みんなが頑張って調理した料理が食べられる。


 正面には、きれいなキューちゃんの花が咲き乱れる大きな湖。

 緑が豊かで、鳥のさえずりが微かに響く、広大なウトヤの森。

 そして澄み渡る青空と、肌を撫でる暖かい風。


 その自然のどれもが、この最高のロケーションを演出していた。



「さて、どれから食べようかなぁ?」


 テーブル一面に広がった、見た事のない料理の数々。

 それを前にして、どこから箸を付けていいか悩んでしまう。


 まぁ、持ってるのはフォークだけど。



「おっ! これは何かな?」


 前菜とばかりに、湯気の立つ透明なスープを見付ける。

 見た感じは、半透明なゼラチン状のものがスープの中に入っている。



「あ、それは私たちが用意した食材で作った物です」

「ワタシとラブナも頑張ったんだよなっ!」

「ま、まぁ、アタシはそこそこ本気出しただけだけど」


 お皿ごと手に取ろうとすると、ナゴタとゴナタとラブナが反応する。


「へ~、これはナゴタたちで作った料理なんだ。確かビワの森に行ったんだっけ?」


 何やらそわそわしだした3人に目を向ける。


「は、はい、そうです。他にもサラダや、デザートも作りましたっ!」

「スープはナゴ姉ちゃんで、サラダはワタシなんだっ!」

「甘くて頬っぺたが落ちそうな、白いデザートはアタシだけどっ!」


 ビワの森の師弟組3人が、それぞれに自分の作った料理を教えてくれる。

 ラブナだけが異様にアピールしてたけど。


「そうなんだ、でもこれって何の素材なの? そもそも魔物じゃないよね?」


 見た目は半透明に近い何か。

 それぞれの料理にそれがあるから、きっとこれが目玉の素材なんだろう。



「あ、それは『レインバード』ってれっきとした鳥の魔物なんだよっ!」


 ゴナタがいの一番に教えてくれる。


「え? これが魔物なんだ。名前から鳥って事はわかるけど」


 にしても、何処にも魔物の形跡が見当たらない。

 もしかして内臓とかの部位だろうか?


「それはレインバードの唾液です。お姉さま」

「唾液?」

「そうです、それはレインバードが唾液から作った巣が元なんです」

 

 次いで、ナゴタが教えてくれる。


「そうよっ! しかもその鳥は数が少なく、しかも断崖絶壁にしか巣を作らないから、す~んごく、貴重な食材なのよっ!」


 最後の補足として、ラブナが食材の入手場所を教えてくれる。

 貴重の部分を強調してた事から、かなり入手難易度が高いものと思われる。



「断崖絶壁って…… あまり危険な事はしないでって言ったつもりなんだけど」


 チラと、ナゴタたち3人を見る。


「あっ! ラブナが余計な事言うからだぞっ!」

「えっ? アタシが悪いの? ゴナ師匠っ!?」

「お、お姉さま、私たちはたまたまレインバードを見つけて、元々は危険な事なんか……」


 何か勘違いをしたのか、慌ててい言い争いと言い訳を始める3人。

 珍しく、ナゴタもわたわたしている。


 もぐもぐ――――


「ん、あまり味はないけど。食感は少しコリコリしてて、噛んでいるとほんのりと甘い味が染み出てくるんだね。どの料理にも合うみたいだし。あ、何だろう? お腹の中から体が暖かくなってくる?」


「あれ? お姉さま?」

「あっ!」

「スミ姉?」


 3人が盛り上がってるうちに、作ってくれた3品を食べて、感想を口に出してみる。


「うん、どれも美味しいねっ! しかも体がポカポカしてきたよっ! これって――――」


「は、はいっ! レインバードの巣は美容や健康に効くって言われてますっ!」

「そうなんだよっ! お姉ぇはいつもワタシたちの為に頑張っているからさっ!」

「ア、アタシたちなりにスミ姉を気遣って、それにしたのよっ!」


「ああ」


 やっぱりそうだ。

 これって現代だと、ツバメの巣みたいなものだろう。  

 ほんのちょっとの量でも数万と値が付けられている、他国での高級食材だ。


 それを惜しげもなくキャンプの料理に使い、みんなの健康にも気を遣ってくれた。 


「満点」


「「「えっ?」」」


「じゃないね、こんなに素敵な料理に点数なんか野暮だね。だから――――」


 ガタッ


 私は席を立って、料理を振舞ってくれた3人の後ろに立つ。


「ありがとうね、3人とも。こんな素敵な料理をご馳走してくれて。体もそうだけど、私の心も暖かくなったよ。本当に感謝してるよ」


 そして3人をギュッと後ろから抱きしめてお礼を言う。


「え? あ、わわっ! お、お姉さまっ!」

「お、お、お、お姉ぇっ! う~~っ!」

「ちょ、スミ姉っ! あ、あ、あっ!」


 そんな3人は、私の突飛な行動で驚いてるようだけど、それぞれが顔を見合わせて笑顔で頷いている。ラブナも含めて、本当の姉妹に見えた。


 さぁ、次はどれを食べようかな?


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