第271話ど忘れシスターズ




「それじゃ、都合が付いたらギルドに顔を出してよ。私からもルーギルたちに説明しておくから。じゃ、今日はありがとうね」


「お邪魔しましたっ! おじちゃんっ!」

「バサっ! 今度はアタシ一人で勝ってやるんだから、覚えておきなさいっ!」


 私、ユーア、ラブナの順でロアジムたち、貴族のおじ様たちに挨拶をする。



 お礼の挨拶も、手土産も渡し終えたし、それにムツアカさんや、おじ様たちにも出会えることができた。


 元々、貴族って人種には苦手意識があった。

 けど、それは私個人の偏見や被害妄想だったのだろう。


  だって、みんな良い人たちだったから。


 冒険者の件もみんな協力してくれるし、私たちの秘め事も口外しないと約束してくれた。それと、回復アイテムのレーションの事も。


 そんな訳で、別れの挨拶をしているところだった。


「おおっ! わかったぞスミカちゃんっ! それとユーアちゃんもラブナちゃんもまた来てくれよなっ! もちろんハラミも歓迎するぞっ!」


 笑顔で手を振る、この屋敷の主のロアジム。


「スミカ嬢っ! 今日の手合わせは楽しかったぞっ! また機会があったらお願いしたいぞっ! それと空の旅もありがとうなっ!」


 同じ笑顔で大声を上げる、ムツアカ。 


「スミカ姉ちゃん、ユーア姉ちゃん、ラブナ姉ちゃんっ! ハラミも、みんなまた来てくれよなっ! 今度は屋敷の中で遊んでくれよなっ!」


 両手を上げて「ブンブン」振っているのは、ゴマチ。


「スミカとその妹たちよ。ここには好きな時に来るがいい。歓迎する」


 無表情で答えるのはアマジ。


「それじゃぁ、少しは期待して待ってるわぁ、ツンツンちゃぁん」


 バサが、ラブナの煽りに対してウィンクで返す。



 その他にもいた、おじ様たちからも見送りの言葉をもらった。



 そうして、みんなに笑顔で見送られながら、ロアジムの屋敷を後にした。



※※



「帰ったら、シャワーでさっぱりしたいね? ユーア」


 ハラミとラブナと並んで歩いているユーアに声を掛ける。

 もう少しで、初めての貴族街も抜ける。



「そうですね、スミカお姉ちゃんっ!」

「そうね、何だかんだでアタシも汗かいちゃったし、スミ姉の家で入ろうかしら?」

『がうっ!』


「それがいいよ。二人ともバサとの試合頑張ったんでしょ? だったらゆっくりしていきなよ。それにしても、あのバサに一泡吹かせるなんて、大したもんだよっ! 二人とも」


 実際に見れなかったのが悔やまれる。

 ロアジムに挨拶してたら終わってたし。


「だ、だってね、バサさんがスミカお姉ちゃんの悪口言うんだもんっ! ボクそれが許せなくて、ハラミにも『こまんど』使っちゃったんだよぉっ!」


「そうなのよっ! アイツよりにもよってアタシたちだけじゃなく、スミ姉の文句を言ったのよっ! だから…… あっ! べ、別にアタシはそれぐらいじゃ何とも思わないんだけど、ユーアが怒っちゃったから、アタシも許せなくて『2種混合合成魔法』を使っちゃったのよぉっ!」


 二人とも何かのスイッチが入ったようで、捲し立てる様に話し出した。

 それを聞いて、少なからず私の為に戦ってくれたんだと察した。

 ラブナは正直わかりづらいけど。


 それにしても、気になる単語が……



「『コマンド』? 『2種混合合成魔法』? て何?」


 まだ幾分興奮気味の二人に聞いてみる。



「『こまんど』はハラミに強いお願いする時に使うんだよ?」

「うん?」 


 ユーアはハラミを撫でながらそう答える。


『強いお願い? でもコマンドって事は「命令」てことだよね? 普段はお願いだけど、それよりも強制力が働くって事?』


 でもそんな事をいつ覚えたのだろう?


 ユーアは職業『魔物使い』として登録している。

 その理由はハラミを街に入れる為だけに、再登録したからだ。


 なので、ユーアは魔物使いとしての実績も知識も皆無。

 だというのに『コマンド』を知っている。


『ロアジムとか、ギルドとかで教わったのかな? それにしてもコマンドって』


 犬に「おすわり」とか「お手」とかを教えるしつけの事じゃなかった?

 ハラミってやっぱり犬の種類なの? 鳴き声も犬っぽいし。

 「忠犬ハラミ」みたいな?



「スミ姉。アタシの2種混合合成魔法ってのはねっ!」


 ユーアとハラミの事で思考を割いてたところに、ラブナが話を始める。


「うん、それで?」


 何やら得意げな表情のラブナに聞き返す。

 気のせいか僅かに胸を張っている。


「アタシって、特殊能力で4属性の魔法を使えるじゃない」

「うん、かなり珍しいらしいね」

「ま、まぁ、アタシって昔から色々器用だからねっ!」

「うん、そうなんだ」


 それは知らないけど。


 そもそも器用だと、4属性って使える物なの?

 私もちょっと習ってみようかな。



「で、違う属性の魔法同士合わせるのが混合魔法。これの呼び方はアタシが適当に呼んでるだけだわ。正式に魔法を学んだ訳じゃないし」


「うん、うん」


「そして、その混合魔法同士を更に合わせるのが『2種混合合成魔法』だわっ! 要は、2種類の魔法と魔法がぶつかって起こす反応みたいなものよっ!」


 「ふんす」と鼻息の擬音が聞こえる程の、ドヤ顔を披露するラブナ。


「へ~、凄いんだねラブナは。もしかしたら魔法使いの革命児かもね?」


 正直魔法はあまり詳しくない。けど何か凄い雰囲気は伝わる。

 なので何となしに一応褒めて置く。

 

「え? そ、そんな大したことじゃないわよっ! アタシ自身、まだ未熟だって知ってるからっ! スミ姉にもバサにも全く敵わないんだからっ!」


 そう、腕を組みながら、口端は「ヒクヒク」としている。

 多分だけど、ニヤけたいのを我慢している。


 



「さあ、やっと帰ってきたね。色々あって疲れたよ」


「そうですね、スミカお姉ちゃん。それとお腹も空きましたっ!」

「何かスミ姉のアイテムで回復したけど、頭は疲れてるわねっ」


 そんなこんなでレストエリアの前まで帰ったきた。

 

 言うほど疲労しているわけではないが、何となく口に出てしまった。

 ひと仕事終わったって感じだからね。


 ユーアとラブナは私と違い、本当に疲れているようだった。

 帰り道は途中からハラミの上で、うつらうつら舟を漕いでいたし。 



『まぁ、そうだよね。ユーアにしても、ラブナにしても慣れない模擬戦をしてきたんだし。相手がいくら攻撃しないって言っても精神的には疲弊するよね。 ましてナジメとそこそこいい勝負した…… ナジメ?――――』


 レストエリアの扉に手を掛けたまま固まる事、数秒。


 今、何かを思い出したような? 

 そして忘れていたような――――



「スミカお姉ちゃん、どうしたんですか?」

「スミ姉、早く中に入れてよねっ。後がつかえてるんだからっ!」

『がうっ!』


 固まったままの私に二人が急かしてくる。


「あのさ、私たち何で貴族街に行ったの?」


 クルっと後ろを向き二人に聞いてみる。


「? おじちゃんに挨拶するんでしたよね? スミカお姉ちゃん」

「そうよ、スミ姉。用事は終わったんだから、もういいでしょう?」


「うん、それはわかってる。で、その後は?」


「その後ですか? …………あ、あああああっ!!」

「何よ、ユーア。大きな声出して。元々他に用事なんて…… あっ!?」


 どうやら二人とも私の言いたい事が分かったみたいだ。

 お互い顔を見合わせて固まっている。「あわわっ」って感じで。



「ふぅ、それじゃ急いで戻ろうか。私は走っていくから二人はハラミに乗って先導して。その後をついていくから」


「わわわっ! ハラミっ! ナジメちゃんのお家まで行ってっ!」

「もうっ! 余計な模擬戦なんかしてたから忘れたのよっ!」

『わうっ!』


 私たちは急いで来た道を逆走していく。



 ロアジムのところで、要らぬイベントが起きたせいで肝心な事を忘れていた。


 今日のメーンの予定は孤児院の子供たちを連れてくる事だった。

 それをド忘れしてしまっていた……




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る