第220話アマジの猛攻と守る剣
今回のお話は、
※前半 澄香とアマジの最終戦のお話。
後半 アマジの過去のお話。となっています。
※※※
「ではこちらからいくっ!」
その一言と同時にアマジが地を蹴り走る。
その武器は小回りの利く小剣と
超接近戦向けの鉄甲。
それに対し、私は無手のまま。
「って、さっきより出たらめに速くなってるしっ!」
一瞬で私の間合いに入ってきたその動きに驚く。
「シッ!」
短い息吹と共に、左手からジャブのような鋭い攻撃が放たれる。
「くっ」
私は鼻先に向かってきた拳を辛うじて右に首を傾けて躱す。
左に躱すと右手のアマジの小剣が来ると予想したからだ。
だがそんな私の予想とは反して、次にアマジは裏拳のようにその場でギュンと回転して、私の首元目掛けて小剣を振り回す。
私はそれを頭を下げてギリギリやり過ごす。
「んくっ!」
「ちっ!これも躱すかっ、ならっ!」
ギュルンッ
ブンッ!
アマジは更に回転して、上体を落とし硬直した私の脇腹にケリを放つ。
ガッ
と、その鋭い蹴りは的確に私の体を捉えて、
「っとっ!」
そのまますり抜ける。
そして私は後方に跳躍して距離を離す。
「うわ、危ない危ないっ!もう少しで衣装が傷物になるとこだったよ」
「ちぃっ!回って逃げたかっ!」
そんな軽口を叩く私を見て歯軋りをするアマジ。
「いや、正直予想以上に速くなって焦ったよ」
「次は当てるっ!」
今のは何とかギリギリで直撃を受けずにすんだ。
それでも脇腹には蹴りの感触が残っている。
ヒュンッ
「危なっ! って、次は投げナイフっ!?」
距離を離してホッとしたのも束の間。
今度は短剣を投擲するアマジ。
それも寸でのところで回避するが、
その怒涛の攻撃にこちらから仕掛ける時機が掴めない。
超高速での接近戦。
離れれば飛び道具。
そしてまた、
シュッ!
「うわっ!」
「ちぃ、まだ避けるかぁっ!」
一瞬で距離を詰められ小剣での鋭い突きが放たれる。
「そんな奇異な格好で存外によく避けるっ!」
「い、いや格好は関係ないでしょっ!」
ブンッ サッ
「関係なくはないだろうっ!雰囲気や風貌はそれ自体で相手をコントロールできる。威圧して戦意を下げたり、逆に敵意を持たせることもなっ!」
ギュンッ ババッ
「そ、それはそうだけど私は好きでこれを着てるわけじゃないんだよ?それに格好は強さには直接関係ないでしょっ!ナジメだってあんなマニアックな衣装でもかなり強いしっ!!」
グンッ ザザッ
「マニアック?なんだまた訳の分からん事を言いやがってっ! ち、くそっ!お前はいつまで俺の攻撃を避け続けるっ!?」
「さ、さあね?あなたの攻撃が単調だからじゃないっ!」
私はアマジの連撃を軽口を交えて全て躱していく。
『蹴り!次は裏拳!小剣を囮にして、下からの前蹴りっ!』
上下左右、前後。そして距離を取ってからのムチや投げナイフ。
私はアマジのあらゆる攻撃を見極め間一髪で躱していく。
『まだ集中もっと集中だ。アマジはまだ全部を見せてないっ!』
アマジはこれでも多分本気じゃない。
『投影幻視』て言ってた濃密な気配や殺気をバラ撒くやつも見せてないし、アイテムポーチにもまだ見てない武器もあるだろうし、身体能力をもっと上げられるかも知れない。
確定なものや予想も含めて、
わかる範囲でこれだけ手の内を隠している。
それとロアジムが言っていた
『大切なものの想いが強い程、アマジとは相性が悪いのだよ』
これもきっと何かの能力の可能性があるだろう。
もしかしたらアマジの切り札的な。
私はそれを含めて全部引き出してやる。
そして今度こそは
『さっきはお腹にケリが触っちゃったけど、今度は――』
二度と私の体に触れさせない戦いで方でアマジを制する。
◆◆◆◆
※ここからはアマジの過去のお話になります。
本編の約10年前のお話です。
ガダン、ガダダダダッ――――
馬が魔物の襲来で興奮し街道を逸れ、深い草原を猛スピードで暴走する。
見えない路面の大小の凹凸を乗り越え車体が大きく揺れる。
どうやら深い草むらの中にも石や岩などが紛れているようだ。
ゴツゴツとした感触が足元からも感じられる。
「あ、あなたっ!」
「分かっているっ!俺は馬を何とか宥めてくるっ!それまでゴマチをしっかり抱いていろっ!それにしても護衛の冒険者たちは――――」
俺はゴマチをイータに任せて御者台に向かう。
魔物の襲来もそうだが、護衛は一体どうなってる?
なぜ情報と違う、なざ外から何も声が聞こえてこない?
『チッ、だから冒険者たちは信用ならんのだっ!』
などど舌打ちをしながら立ち上がる。
今はそれに意識を割いてる場合でもない。
「おい、どうなって何故誰もっ!――いない?」
俺は御者台見て唖然とする。
雇った冒険者どころか、馬車の周りには誰もいなかったのだ。
「あいつらぁっ!!」
ガゴンッ
グラリッ
「うわっ!」
「きゃあっ!?」
ズザザザザザ――――
途端、馬車の車体が大きく跳ね上がり、両足が体ごと宙に浮いた。
その直後、馬車は横倒しとなって草原の中で停止する。
「ぐあっ!」
俺はその衝撃で御者台から前方の草原に強く投げ出される。
柔らかい草むらだけではなく大小の石や岩の中に叩きつけられる。
「ぐ、ぐぅぁっ、こ、ここは?」
俺は頭を押さえ視界がぼやける中前方を見る。。
その先には深い森も見える。
どうやら寸でのところで森の前で倒れたようだ。
「う、腕がっ!そ、それよりもっ!!」
俺は激痛の走る右腕を抑えながら即座に立ち上がり、左手で護身用の短剣を抜きなんとか構える。戦闘用の武器は横たわった馬車の中だ。
『はあはぁ、だ、だが今はこれで凌ぐしかない』
俺は短剣を片手に、急いで倒れている馬車に向かう。
あの中には最愛の家族がまだ取り残されているからだ。
それに、
『『グギャギャッ!』』
『『グギャギャッ!』』
と馬車に追いついたゴブリンがその中を覗き込んでいる。
その数は10体。
先ずはこいつらを倒さないと家族は救えない。
「く、ぐぅ、足も折れている!?」
腕の激痛と眩暈で気付くのが遅れてただろう右足が言う事を聞かない。
踏み出す毎にさらなる激痛が俺を襲う。
「こ、こんなもの、痛みへの覚悟を決めればっ!!」
俺は馬車から一番後方にいたゴブリンに短剣を突き立てる。
もちろん狙うは短剣でも致命傷を与えられそうな首筋だ。
『ギャッ!』
「あ、浅いっ!」
背後から首筋に突き刺したゴブリンが悲鳴と共に振り返る。
僅かながら力が入り切らなかったようだ。
「う、ぐぅ、ならっ!」
それは腕や足の痛みの影響か、はたまた投げ出された時の頭の鈍い痛みのせいか分からない。額から流れるどろりとした液体のせいかも分からない。
それでも俺は全力で短剣を振るう。
傷の痛みなど知った事ではない。
最愛の妻イータと愛娘のゴマチを守るために
「がああああああっっっっ!!!!」
今はガムシャラに剣を振るう。
ただそれだけだ。
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