第221話SSラブナの歓迎会1 と姉妹喧嘩


 ※このお話は本編より少し離れたお話になってます。

  なので時間軸とかあまり気にしないでください。






「で、ラブナはそろそろ来るんだよね?」


 私はハラミをブラッシングしているユーアに声を掛ける。

 今夜はラブナのシスターズ加入のお祝いの予定だからだ。


「はいそうです。ナゴタさんたちとの訓練が暗くなるまでって言ってたから、もう来ると思います。ボク楽しみですっ!」


 と、いう訳で今はユーアと二人ラブナが来るのを待っている状況。


 因みにラブナと同居の姉妹の二人は、加入したその日に軽く済ませたらしいので、今夜はラブナ一人だけ呼んで行うことにした。


 そしてラブナには食べた事のない私のアイテムボックス内の数々のレーションをご馳走する予定だ。この世界の住人には評判いいからね。



「そうだね、ナゴタたちには結構ご馳走してたけど、ラブナには殆ど食べてもらってないもんね?ケーキぐらいだったかな?会ったその日に食べたのは」


「うんそうです。その時にボクがケーキを食べさせてあげたんです。なのでスミカお姉ちゃんが持ってるご馳走で食べたのはケーキだけですね?ラブナちゃんが食べたことあるのは」


「なら、奮発して今夜はユーアも食べた事ないもの出してあげるよ」

「へ、それってお肉ですか?」


 そう言ってユーアがキラキラした目で私を見てくる。

 

「ううん、どっちかっていうとデザートに近いかな?甘いものだから」

「え、そうなんですか?甘いものですか?」

「う、うん、そう甘いもの」

「や、やった―っ あ、甘いものだ~~」


 お肉じゃないと知って若干トーンダウンするユーア。

 キラキラした目は既に輝きを失っていた。


 それでも私に気を使って喜んでいる姿がちょっとだけ愛らしい。


『…………』


 う~ん、仕方ないなぁ。

 だったらあれ出してあげようか?

 私も食べた事ないし。


「あ、ならトロールはまだ食べた事ないでしょ?それも出すからユーア調理してくれる? 私は他に飲み物とかレーションとかお皿に盛り付けしておくから」


「えっ!ト、トロールですか……」

「う、うん、トロールなんだけど」


 あ、あれ?もしかしてトロールのお肉は嫌い?


 ユーアが喜んでくれるかと思ったら下を向いてぶつぶつ何か言っている。


『………………』

 ん、何々?


 私はこっそり耳を近づける。



(ど、どうしよう、ボク幸せ過ぎて気を失っちゃうかも……だってトロールってすんごい美味しいんだよ、ちょっとだけログマさんに貰った事あるけど。 で、でもラブナちゃんが来るよりも、お肉の方が嬉しいなんてバレちゃったらきっと悲しむよね?ボク我慢できるかな?スミカお姉ちゃんやラブナちゃんの前でも――――)



『………………』

 うん、どうやら嫌いではないらしい。

 寧ろ大好物の部類だ。食べたら気を失うほどの。


「ね、ねぇ、ユーア」

「は、はひぃっ!」

「あのさ、トロール出していいんだよね?それともやめ――」

「うん、出してもいいと思うんだぁ!ラブナちゃんも喜ぶと思います!」


 ユーアは私の言葉を即座に遮って言い訳っぽくそう返答する。


「あ、それならそれでいいんだ。ならキッチンに出しておくからね?」

「は、はいっ!ボ、ボクに任せてくださいっ!」


 そうして腕まくりをして跳ねる様にキッチンに向かっていく。


 そんなユーアの顔をチラリと見たけど、


『ふふ……………』


 頬も上気して赤みが差し、口元も[~~~にま~]になっていた。

 要は、嬉し恥ずかしな、にんまり顔ってやつだ。


 どうしようもなく嬉しくて叫びたくても、口端に力を入れて口元が緩むのを我慢している。きっとそんな感じ。


『~~~~~~っ!』

 ヤ、ヤバい、超絶可愛いんだけどっ!


 大好きなお肉にこんなに我慢するユーアが。


 こ、これは――


『わ、私の方が我慢できないかも♪』



 私はキッチンでトロールを待っているユーアに近づく。


「ふんふんっ、ふ~~んっ♪ふっふふ~~♪♪っ」


 そんなユーアはエプロンを着けて、まな板やら、包丁などを鼻歌交じりに用意している。久し振りに聞いた、あの独特のメロディーに乗せて。


「あっ!トロールのお肉がっ!?」

 私はユーアに聞こえる様に、ちょっと大袈裟に声を上げる。


「ど、どうしたの?スミカお姉ちゃん」

 準備の手を止めて不安気な顔で私を見てくる。


 きっとトロールの部分で過剰に反応したのだろう。


「あ、あのさ、トロールのお肉、全部ログマさんに解体頼んでたんだ。だから今は持ってないんだよ……」


「あ、そ、そうですか、ボク、じゃなかった。ラブナちゃんが悲しむけど仕方ない。よね? だってないんだもんね――――」


 さっきのにんまり顔から一転、視線を下げて分かりやすく落ち込むユーア。

 ユーアに犬耳があったなら「シュン」と垂れ下がってる事だろう。 


 にしても、ラブナが悲しむって何?

 ラブナはトロールのお肉の事知らないよね?

 出すのは今決めたんだもん。


「あ、ごめんごめんっ!渡したつもりがお肉持ってたよ」

「えっ!?本当スミカお姉ちゃんっ!!」


 それを聞いて「バッ」と顔を上げるユーア。

 また瞳がキラキラとしていた。

 尻尾があったら扇風機の様に振られている事だろう。


「あ、違った、これオークのお肉だった」

「は?へ? そ、そうですか間違いですか……」

「あれ、これがトロールのお肉だったかな?」

「えっ!?あったのですか?やったぁ――!!」

「あ、やっぱり違う、これは元々持ってたやつだ」

「はへっ?な、ないの?……ううう――――」

「あっ!?」


 ヤ、ヤバい、ちょっと悪ノリし過ぎたかもっ。


「あ、やっぱりあったよっ!ご、ごめんねユーア、中々見つけられなくて」


 私は下を向いて肩を震わせているユーアに声を掛ける。

 ユーアの表情がコロコロ変わるのが可愛くて、つい、ね。


「ふへっ?」

「はい、そ、それじゃこれをお願いね」


 私はユーアの目の前に「ドン」とトロールの肉の塊を置く。


「あ、トロのお肉っ!?」


 因みに肉には紙と木杭で「トロール肉」て貼り付けてあった。


 ログマさんが私にも見分けがつくようにと貼ってくれたものだ。


「ううううううっ――――」

「え、ユ、ユーア?」


 出した肉を見ながらプルプルしているユーアに声を掛ける。

 その頬っぺたは限界まで「ぷくぅ」と膨らんでいた。


「よ、良かったねユーア。お肉が見つかって」

「ううう、スミカお姉ちゃんっ!!」

「はぃっ!?」

「これ名前書いてあるもんっ!間違えないもんっ!」

「う、そうだねっ!ユーアの言う通りだねっ!」

「スミカお姉ちゃんわざと間違ったでしょっ!!」

「え、わ、私そんな事しないよ?」

「だってたまにスミカお姉ちゃんいたずらするもんっ!」

「え、そうだっけ?」

「うん、ボクがお洋服抜ぐ時とか、お風呂入ってる時も、ボクが起きるのが遅い時も、いっつもいたずらするもんっ!お体さわさわしたり、頬っぺた突っついてきたりっ!」

「あ、あはは、あれはユーアの裸や寝顔が可愛くてやっちゃうんだよね」

「ほらっ、スミカお姉ちゃん認めたもんっ!」

「うえ?だってそれはユーアが可愛いのが悪いんだもん」

「も、もう、そうやってボクを――――」

「わ、わかったからユーア、もう降参するよっ」



 そんなこんなで、私のちょっとしたいたずら心で起きた姉妹喧嘩は、ラブナが家に到着してもしばらく続いていた。


 喧嘩するほど仲がいいって本当だよね。


 あとお肉をネタでユーアで遊ぶのは止めた方がいいね……。

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