第222話攻守交替と不撓不屈
今回のお話は、
※前半 澄香とアマジの最終戦のお話。
後半 アマジの過去のお話。となっています。
※※※
「っ!また躱すかっ!?今までこれ程手応えの伝わってこない戦いは初めてだっ!何故に当たらない、それに何故攻撃してこないっ!」
「攻撃?そうだねっ!そろそろこっちからも仕掛けるよ」
私は三桁を超えるアマジの攻撃を躱し続けていた。
衣装はもちろん、髪の毛1本さえ触れさずに戦いを続けていた。
ただアマジの攻撃はどれも一撃が鋭く早く。そして重い。
その攻撃を百を超えて、空振りを繰り返してなお、
その体力にはまだ余裕があるように見える。
さすがに魔力で体力回復は出来ないだろうから、
それはアマジ本人の厳しい鍛錬と努力の賜物だろう。
体力だけなら、きっとナゴタたちをも超えているだろう。
「それじゃこっちから行くけど魔法はもちろん使うよ?」
「ああ、勝手にするがいい。それごと打ち砕いてやるっ」
私は腕をダラりと脱力してゆっくりとアマジに近づいていく。
「……………」
そしてトンっと軽くアマジに向かい跳躍する。
「っと」
「っ予備動作が見えない!?」
目の前に驚くアマジの顔が見える。
「それじゃ――」
もうここはお互いの間合いの中だ。
アマジも警戒して構えを取る。
「先ずはこれを避けて見てよ」
私は右手を上げて、
それでもアマジが鉄甲で見せたジャブの様に鋭い攻撃だ。
「こ、この程度の速度など軽くかわ――――」
アマジは顔面に迫る私の拳を見切り首を捻る。
それは私の拳を完璧に躱しているように見えるが、
「甘いね?それだけでは避けられないよっ」
私は避けられる直前に円柱の視覚化したスキルを拳の中に展開する。
ボゴォッ
「ぐあっ!!」
アマジは突如目の前に現れたスキルを避けられずにモロに直撃する。
そして苦痛の声を上げる。
「まだまだっ!」
私はクルりとその場で回転し、胴回し蹴りを放つ。
顔面を抑え硬直しているアマジは、それでも体を捻り躱し、
尚且つ伸びきった私の足を破壊しようと鉄甲を振り下ろす。
「それも甘いってっ!」
私は膝を曲げてそこから視覚化した角柱のスキルを展開する。
ギュン
「ぐはぁっ!?」
それはアマジの顎を的確に打ち付け後方にたたらを踏ませる。
私はさらに追撃をする為に、更にアマジに近づく。
「だから言ったでしょ?魔法を使う、ってっ!」
私はしゃがみ込むと同時に足払いを放つ。
「ち、今度はどこに現れるんだっ!」
アマジは警戒して足払いを宙に避けながら左右の守りを固める。
「残念だね?今度は普通に蹴るだけだよ」
私は蹴りから意識を割いたアマジの鳩尾に蹴りを入れる。
低空の足払いと見せかけて、立ち上がり軌道を変化させて。
「ぐふぁっ!こ、小癪な真似をっ!!はぁはぁ」
アマジは後ろに下がりながらも堪えている。
というか、下がって威力を幾分か逃がされたみたいだ。
『ふう、さすがに決めきれないね。今まで戦った中では一番体術に優れているし、勘も鋭いし、戦術も豊富っぽい。扱える武器も多いから余計にそう感じるね』
これだけでもアマジは十分に強い。
それでもまだ何かを隠している。
「ねぇ、アマジあなたって何で強くなろうとしてるんだっけ?」
私はようやく疲れが見え始めたアマジに声を掛ける。
「なんだ唐突にっ?」
それでも武器を構え油断なく私を見ている。
「だって結構強いんだもん。それだけあればどこ行っても通用しそうだよね?まだ全力出してもいないっぽいし」
「ちっ……………」
私はここまでの戦いで素直に思った事を伝えた。
「はんっ、今のお前に言われても皮肉にしか聞こえないが、俺はあらゆる武勲を上げてこの腕でのし上がる。ただそれだけだ」
「ふーん、それは何のため?」
「お前は俺の話を――」
「だってそれは目的であって、切っ掛けじゃないでしょう?そもそも武勲で偉くなるとかって何か抽象的じゃない?何で強さを求めるって事が分からないじゃない?」
「そ、それは――――」
アマジの言う事はただ単に。
俺は王様になりたい。
ってだけの話。
何で王様になりたいの?その切っ掛けは?
それと王様になって何したいの?
その最後と過程が抜けている。
強くなる本来の理由が分からない。
「それはお前に言う必要がない。だったら最初の約束通りに俺を倒して全勝を手に入れて見せろっ!そしたら聞かれることを話してやるっ!」
そう言って武器を持ち換え鋭く私を睨む。
ウィップと投げナイフ。
「うん、わかった当初の予定通りにそうさせてもらうよ。それに土下座もしてもらう約束もあったしね。それじゃさっさとかかってきなよ?先手は譲ってあげるから」
私は手のひらを上に向けクイクイっと挑発してそう答えた。
◆◆◆◆
※ここからはアマジの過去のお話になります。
本編の約10年前のお話です。
「うがあああああっっっっ!!!!」
俺は馬車を囲むゴブリンたちに咆哮する。
片腕や片足が鈍く視界も意識もハッキリしない。
「おらぁっ!こっちだっ!!」
絶叫で喚き散らし己を鼓舞しないとそのまま目を閉じてしまいそうだ。
それ程に瞼が重くそれが鬱陶しく思う。
――それでもやるべき事は分かっている。
「お前らの敵はこっちだっ!かかってこいっ!」
俺は馬車に群がるゴブリンに再度雄たけびを上げる。
『『グギャギャッ!』』
『『グギャギャッ!』』
ゴブリン数体は俺の声に気付き振り返る。
俺は足を引きずりながら短剣を持つ手に力を籠める。
――俺がやるべき事は守る事。
「そうだ俺がお前らの仲間の1匹を倒したっ!だから俺に向かってこいっ!俺がお前らの敵だっ!だから――――」
その馬車から離れて俺を襲ってこい。
そうすれば守ることが出来るんだ。
『ぐう、も、もう意識と体がいう事を……』
俺は懇願するようにゴブリンに向かって叫ぶ。
祈るようにゴブリンを睨みつける。
『グギャギャッ?』
だが注意を引けたのは一瞬だけ。
すぐさま俺より視線を外す。
「くっ!」
そして横転している馬車に群がりよじ登り始める。
危険性を含んでいる生きのいい獲物より弱った女子供を選んだようだった。
「こうなったらっ!はぁはぁ」
ザシュッ
俺は痛めた足に短剣を突き刺し、無理やり意識を覚醒させる。
「うぐぅっ!!はぁはぁはぁ。よし、これならっ」
短剣が血糊で滑らないように強く握り直し、
馬車に群がるゴブリンの背後に迫りよる。
「はぁはぁ」
『『グギャギャッ?』』
ゆっくり近づく俺に気付いた数匹が振り返る。
よし、それでいい。
今は俺を見るんだっ!
「このぉっ!」
俺は一番最初に振り返ったゴブリンの右目に短剣を突き刺す。
『グギャァッ!!』
片手ながらも体重を乗せた一撃はゴブリンの右目に根元まで突き刺さり絶命させる。どうやら一撃で致命傷を与えることが出来たようだ。
「はぁはぁはぁ、あ、後8体だ」
俺は倒れたゴブリンの手から小剣を奪い取る。
ところどころ刃が欠けており錆びてもいる。
それでも手持ちの短剣よりは頼もしく見えた。
「はぁはぁはぁ――――」
手持ちの短剣を口に咥え、その粗末な小剣を構える。
『こ、これ以上時間をかけると中のイータとゴマチがっ!!』
見るとゴブリンは数体馬車の中に入り込んでいる。
こいつらを全滅させて早くっ!
「う、うおおぉぉぉっっ!!」
空に向かって咆哮しゴブリンに向かい剣を振り下ろす。
俺は家族を守る為に死力を尽くし戦うだけだ。
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